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魔王様と勇者の共同生活

 魔王アンゴルモアは、すぅすぅと

子供のような寝息を立てていた。

 なんだかいい気分である。

なんとなく、美味しそうないい匂いが

漂って来る気がする。

 ここがどこなのかとか、それを作って

いるのが誰か、とかは寝ぼけているので

考え付かず、彼は眠り続けていた。

 と、かつかつと音を響かせながら、勇者

ユーリアが魔王に近づこうとしているが、

彼は気づいていないらしい。

「……魔王? 起きてください」

「うう、ん……」

「ご飯ですよ、起きてください」

「うるさい、もう少し寝させろ……」

「どつきますよ」

 半場本気でユーリアは告げた。

その顔は無表情だが、どことなく苛立ちを

感じさせる。

 びくっ、と魔王は飛び上がり、そして

起きた。目の前にいるのが、栗色の髪を

長く垂らしたユーリアだという事が分かり、

紫色の大きな目をぱちくりさせている。

「ふぇ!? ……あ、あれ? 勇者!?」

 ユーリアはそうですが?と無表情のままで

告げる。部下だとばかり思っていたので、

少し横柄な返事をしてしまった魔王は少し

罰が悪そうな顔になっていた。

「朝食が出来ました。早く食べて

ください。その後、ここを引き払い

ますから」

「引き払う? 何で?」

「さすがに、ずっとここにいる訳にもいき

ませんよ。ここは村からもそんなに離れて

ないですし、すぐイヴリスとやらに見つ

かります。その前に引き払いましょう」

 う、うん、と少し残念そうに魔王は頷いた。

ユーリアはそれには全く気付かず、たっぷりの

野菜と、切った干し肉を少しだけ入れた

スープを食べる事にした。

 堅めに焼かれた黒パンと、少しのチーズも

ある。ユーリアがパンをスープに浸して食べて

いたので、魔王も真似をして食べる事にする。

 久々に温かい食べ物を口に出来た魔王は、

それを美味しそうに平らげた。

 途中、急いで食べ過ぎてあつっ、と声を上げ、

ユーリアにくすくす笑われてしまったが――。



 チーズを齧りながらユーリアと魔王は

出発した。

 スープは本当に美味しかった、と魔王は

思う。お肉はよく煮込まれていたので、

たっぷり汁気を吸って柔らかった。

 野菜もトロトロとよく煮えていて苦みは

あまり感じられなくて最高の味だった。

「勇者って、料理出来るんだな」

「まあ人並みには出来ます。プロのような

物は何一つ作れませんが、母はもういませんし、

父と妹――シーナの手つきは危なかったしかった

ですし、私が作れないとまともな物が食べられ

なかったんです」

 だから一生懸命に練習したのだと、ユーリアは

意外そうな目をする魔王に語った。

 そういえば、この前飲んだホットチョコレートは

ユーリアが作っていたっけ、と魔王は思い出す。

「足、痛くありませんか? 持ち出せたのは貯蔵

してあったチーズなどの乳製品なので長くは持ち

ません。早々に食べてしまいましょう」

「そ、そうだな……」

 話が続かない、と魔王は心中で嘆く。

ユーリアは本人は無意識なのかもしれないが、

淡々とした口調が主流だ。

 妹のシーナとは違ってあんまりおしゃべりでは

ないために、魔王は次どう言ったら会話になるのかと

たまに考えさせられる事があった。

 自分と話すのが面倒なのじゃないのか、と思う

事すらある。

 どうしようどうしようと魔王が悩んでいると、

ユーリアは別の考えに思い至ったらしくぴたりと

足を止めた。

「……辛いですよね?」

「え?」

「部下に裏切られたんですよね、魔王は」

「あ、ああその事か。俺は、別に大丈夫だ。辛く

ないって訳でもないけどさ、イヴリスとはあんまり

親しくもなかったし」

「辛かったら、いつでも話聞きますからね?」

 最初は自分をどうでもいいかのように扱って

いたユーリア。でも、最近はいろいろな事を

気遣ってくれる。魔王はその事が嬉しかった。

 うん、と告げると、少しだけユーリアの

表情が綻んだように魔王には感じた――。



 その後も、ユーリアは魔王の足を気遣って

か度々休憩をはさみ、腐っては意味がないから

と、チーズを焚火で焼いたり、温めたミルクを

差し出したりしていた。

 しかし、勇者があのほのぼのとした平和な

生活を気に入っていたのを知っている魔王

としては、どこかその気の使われ方も気に

なってしまう。

 休憩しつつもどんどん歩いているので、

魔王とユーリアは村からはかなり離れた

場所に来てしまっていた。

 水で濡らしたタオルを足に巻いてくれた

ユーリアに、とうとう魔王はこらえ切れずに

謝ってしまう。

「ご、ごめん……」

「はい?」

「勇者は、あの生活を気に入ってたのに俺の

せいで壊れた……だから、ごめん」

「魔王のせいではありません。それはあの

イヴリスという方が……」

「だって、俺が勇者に接触したから勇者の

生活が……! 俺が、会いになんて行か

なければよかったのに! そうしたら、

イヴリスが勇者の村を襲う事なんて

なかったのに!」

 謝ったって自分の気が済むだけという事は

分かっていたけれど、魔王は今にも泣き

そうになって自分の心中をぶちまけた。

 ユーリアはそれを黙って聞いている。

しかし、その無表情だった彼女の眉がまるで

怒っているように吊り上った。

 ぺちっ、と軽く何かを叩く音が響いたのは

その直後だった。ユーリアが、魔王の頭を軽く

叩いたのだ。

 氷のように冷たい目が魔王を射抜いていた。

きっと、魔王が怪我をしていなければ本気で

引っぱたいただろう、と思わせるような

きつい眼差しである。

「――卑屈になっていたって、事態は解決

しません。うっとうしいので、謝らないで

いただけますか?」

 ユーリアは怒っていた。自分と会わなけ

れば、なんて考える魔王に深く怒っていた。

 彼女の怒りを敏感に感じ取り、魔王は

細い肩をびくっと竦ませる。

「だ、だって……」

「言い訳はいりません。私は、魔王と会えて

魔王と過ごせてよかったと思っていました。

でも、魔王は違うんですか?」

「違わない! でも、俺勇者に――ユーリアに

無理をさせてるのがやなんだよ。ユーリアは

ずっと自由で、誰に指示されようと自由で、

なのに、なのに……!」

「ええ、私は自由です。だから、ここでこう

して魔王と――アンゴルモアと旅をしている

のも、私が誰に指示された訳でもなく、私が

やりたいからやっているんです。それを、何

ですか。いつまでも卑屈にぐちぐちと」

 初めて、魔王はユーリアの事を勇者ではなく

「ユーリア」と呼んだ。それを受け、ユーリアも

魔王を「アンゴルモア」と呼ぶ。

「私は、あんな奴のために死んでなんてやれ

ません。あなたもそうでしょう? 生きてやり

ましょうよ。あんな奴に屈する事なんて

ないんです」

 ふわり、とユーリアの視線が優しくなった。

泣きそうになりながら魔王は頷く。

「う、ん……分かった。俺、生きるよ。卑屈

にももうなんない」

「――嫌だなんて言ったら、本気でぶっとば

してあげましたけどね」

 冗談交じりのその言葉に、魔王が本気でぞっ、

となったのは余談である。

 ようやく名前を呼びあった二人は少し絆を

深めたのだった――。


 自分のせいだとつい卑屈に

なってしまう魔王を、一括

する勇者。二人の旅路は、

まだ続いて行く。

 初名前呼び! なお話

です。ようやく続きが

書けました!

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