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第3話 美形神の寵愛

リゼットは着替えと金目の物をカバン2つに詰め込み、 夜陰に乗じて神殿を抜け出した。 市外へ向かう乗合馬車は営業時間外、利用できるのは辻馬車のみ。 リゼットは大型の辻馬車を捕まえた。


「カルドン帝国の最寄りの村まで行ってちょうだい」


御者は渋る。


「お嬢ちゃん、そいつは乗合馬車の領分だぜ」


しかしリゼットが腰に提げるポーチから金貨5枚を取り出して差し出すと、意見を変える。


「よしきた、任せとけ」


三日三晩の馬車の旅を経て、リゼットはカルドン帝国のツウェーベル村へ到着した。



          ✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩˖°⌖.꙳✩


ツウェーベル村に着いた日の夜、宿屋で眠るリゼットは夢を見た。 背後から涼しげな声がリゼットの名を呼ぶ。


「リゼット」


振り向いたリゼットの目に映るのは超絶美形の至高神エトゥワ。 長い銀髪、そして白のシルクシャツと黒のスラックスに包まれる8頭身のスタイル。 見慣れはしても、見飽きはしない。 月や星の輝きと同じだ。


「お久しぶりです、エトゥワ様」


睡眠と瞑想は近い関係にあるから、リゼットの夢にはときどきエトゥワが出てくる。


「無事にセザール王国を出たようだな」


「はい。 エトゥワ様のお陰をもちまして」


「1つ聞きたいことがある」


「はい、なんなりと」


「この3日間、どうして私に会いに来なかった?」


「それは...... 私はもう聖女ではございませんし――」


「聖女など肩書に過ぎない。 私はそう言ったはずだが?」


エトゥワの声が冷たさを増し、リゼットは謝罪を余儀なくされる。


「はい、申し訳ございません」


しかし納得がいかない。


(も~、どうして私が怒られるの? もう聖女じゃないのに。 後任がノエルかマリアンヌか知らないけど、ちゃんとお務めを果たしてるのかしら?)


エトゥワは容赦なくリゼットの思考を読んだ。


「お前の後任はマリアンヌ・ヴァランタンに決まった」


不機嫌な声だ。 見れば、エトゥワの眉間に皺が寄っている。 おかしなもので、眉間の皺がエトゥワの美貌を一層引き立てる。 並の女性であれば、エトゥワの美しい顔から目を離せない。 不敬と知りつつ、まじまじと見つめてしまう。 だが、リゼットは平然としたもの。 幼少の頃からのエトゥワとの接触により、美形耐性が(つちか)われている。


「左様でございますか。 よろしゅうございましたね」


エトゥワの眉間の皺が深まる。


「何が良いものか」


エトゥワは長く白い指先で銀髪をかき上げつつ、くどくどと愚痴を並べた。 (いわ)く、マリアンヌは瞑想が長続きせず、すぐに交信が途切れてしまう。 またリゼットほど聞き上手でも話し上手でもなく、神の話し相手に相応しくない。 あの娘は頭が悪い。


一通り鬱憤をぶちまけて、エトゥワはリゼットに腹積もりを打ち明ける。


「セザール王国が私を軽んじているのは明らか。 ()の国への加護の停止を検討中だ」


アイスブルーの瞳が宿す冷徹な光に、リゼットの顔は青ざめる。


(この御方、本気で加護を停止するつもりだ......)


神に加護を停止されるとセザール王国は、飢饉・疫病・災害に対しまるで無防備。 必ず滅亡してしまう。 リゼットは思わずセザール王国をかばう。


「マリアンヌも(つたな)いながらに一生懸命お役目を務めております」そのはずです。「どうか長い目で見てあげてください」


神は目を閉じて思案した末、優しい表情になった。


「よかろう。 今しばらく王国に猶予を与えるとしよう。 酷い仕打ちにも係わらず王国を気遣うお前の優しい心根に免じてな」


リゼットは、胸の前で手を組む "聖女のポーズ" で感謝を示す。


「ありがとうございます!」


「うむ。 それはさておき今後のお前の身の振り方だがな。 店をやるといい。 神殿が売るのと同じ品を売る店を」


「と言いますと、エトゥワ様の加護を受けたアクセサリーとポーション(飲み薬)ですね」


「うむ、お前の店の品には特段の加護を与えてやろう。 ――さて、それでは久しぶりに膝枕で耳掃除をしてもらうかな」


そう言ってエトゥワは、どこからか耳かきを取り出しリゼットの手に押し付けた。 リゼットは仕方なく耳かきを受け取る。


「承知いたしました」


神の耳掃除など、完全に聖女がするべき仕事。 リゼットがやらされる(いわ)れは無い。 でも、今しがたエトゥワにお願いを聞いてもらったばかり。 ギロチンから救ってもらった恩もある。 嫌だとは言えなかった。

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