01 - 01 変化の兆し
第1章 異変の兆し
■ 朝の教室
「りーん、おはよー」
「おは」
席に座るなり、凛はスマホを取り出した。
いつも通り。いつもと同じ朝。
――のはずだった。
(……ん)
ふと、顔を上げる。
(視線)
誰かと目が合った。
「……なに」
無表情でそう言うと、男子は一瞬固まって、
「いや別に」
すぐに目を逸らした。
「……?」
なんだ今の。
違和感はあった。でも、その時はそれだけだった。
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■ 休み時間
「ねぇりん」
「ん?」
「なんか今日、めっちゃ見られてない?」
「思った」
即答だった。
「絶対なんかあるって」
「知らないし」
スマホをいじりながら返す。
でも――
(……たしかに)
教室のあちこちから、ちらちらと視線を感じる。
理由はわからない。
でも、“なんか変”なのは確かだった。
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■ 廊下
「あ、工藤さん」
「……はい?」
別クラスの男子に呼び止められる。
知らない顔。
「ちょっといい?」
「なに」
少し間を置いて、男は言った。
「……あのさ」
「うん」
「彼氏いるの知ってるんだけど」
「うん」
「それでも、好きなんだけど」
「……は?」
一瞬、思考が止まる。
「一応、伝えときたくて」
それだけ言って、男は去っていった。
「……なにそれ」
廊下に取り残される。
意味がわからない。
というか、状況が理解できない。
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■ 教室(戻り)
「りん今のなに!?」
「知らない人に告られた」
「は!?急に!?」
「しかも彼氏いるの知ってるって」
「え、なにそれヤバ」
一気にざわつく教室。
さっきまでの“なんか変”が、少しずつ形を持ち始める。
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■ 昼休み
「りん告られたらしいよ」
「え、マジ?」
「しかも彼氏いるのに」
「えぐ」
噂は、想像以上のスピードで広がっていく。
教室の外へ。廊下へ。他クラスへ。
(……なんなのこれ)
ただの一件のはずだった。
なのに、やけに大きくなっていく。
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■ 放課後
「工藤さん」
「……また?」
今度は別の男子。
「ちょっといい?」
「……なに」
「俺も、好き」
「いや無理」
即答だった。
「……だよね」
男は苦笑して去っていく。
「……なにこれ」
さすがに、違和感が“異常”に変わり始める。
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■ 数日後
廊下を歩くだけで、視線を感じる。
明らかに増えている。
「りん今日3人目じゃない?」
「数えてんの?」
「いややばいって」
軽いノリで言われるけど、
(……いや、普通におかしい)
これはもう、“偶然”じゃない。
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■ 教室
「りん来たーーー!!」
「なに」
教室に入った瞬間、拍手が起きた。
「本日の告白予定者、現在2名でーす!」
「は?」
「朝イチで情報入ってるから笑」
「なんで知ってんの」
「ネットワークなめんな」
女子たちが爆笑する。
完全に“イベント”扱いだった。
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■ 休み時間
「はい注目〜」
「なに」
「今から2組の男子が廊下で様子見してます」
「やめろって」
「1組はサッカー部、もう1組は帰宅部のエース」
「帰宅部にエースあんの?」
教室がどっと笑いに包まれる。
「りん、どっち選ぶ?」
「選ばねーよ」
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■ 廊下
「……工藤さん」
「……はいはい」
もう驚きはない。
完全に“慣れ”が出てきていた。
「ちょっといい?」
「どうぞ」
遠くで女子たちがざわつく。
「来た来た来た」
「やば実況したい」
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■ 教室(報告)
「で!?どうだった!?」
「普通に断った」
「即!?」
「即」
「潔すぎ笑」
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■ 昼休み
「今日のハイライト」
「まとめんな」
「午前中で2件告白、1件未遂」
「未遂ってなに」
「ビビって逃げたやつ」
爆笑が起きる。
もう完全に“ショー”だった。
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■ 放課後
「今日さ、誰が一番よかった?」
「誰もよくない」
「顔でいいから」
「……強いて言うなら」
「きた!!」
「さっきのサッカー部」
「おおーーー!」
一瞬盛り上がって、
「でも付き合わないけどね」
すぐに終わる。
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■ 帰り道
「りんさ、これ伝説になるよ」
「なにが」
「彼氏持ちで全校から告られた女」
「やめろ」
そう言いながらも、
少しだけ、笑ってしまう自分がいる。
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■ 夜
「……今日もだるかったな……」
ベッドに寝転び、スマホを見ながら呟く。
通知は多い。
知らない名前。知らないアカウント。
でも、
もうそれすら、当たり前になり始めていた。
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これはまだ、
ただの“モテ期”だった。
誰もまだ知らない。
この違和感が、
やがて“神話”に変わることを。




