第四十七話 妖刀アコニート
「リリィ、君は生きるんだ。」
「……?」
「リリィ、貴女の事を、ずっと愛しているわ。どんな結末になったとしても、どんな未来になったとしても、ずっとずっと、愛しているわ。だからリリィ、生きてね。」
「……。」
「リリエル、僕は殺されたことについては何かを思っているわけじゃないよ、君が生きてくれて良かった、僕の標星、僕の連れ立ちの星、それを殺める事にならなくて良かった、そう思っているから。」
「……。」
夢を見た、気がする。
父と母、そしてシードルが、私に語り掛けてくる夢を。
「……?」
枕元に何かがある、寝起きで少し頭が動かないけれど、何かがある気がする。
何かはわからない、それに、何故だか体に違和感を感じる、何がどうして、毒でも盛られたのか?ならこんな違和感ではないはずだ、どちらかと言うと、力が漲ってくる、という奴だろう、そんな感覚がする。
「これは……。」
枕元にあったのは、かつて基地の資料で見かけた、刀と呼ばれる武器の柄、持ち手の部分だった。
鍔と呼ばれる部分がないそれは、ナイフにも似た形状をしていて、それを私は警戒しなかった、警戒しなくても良い物だ、と感じた。
「……。」
不思議な感覚だ、これの使い方を、私は知っている、知っているというと語弊があるだろうか、理解していた。
この武器の使い方、それを私は理解していた、頭のどこかではなく、本能で理解していた。
ならば、この体に巡っている力についても、理解が出来るはずだ。
「……。」
星、思いついた単語、星、私が、心を落ち着ける為に見ていた物、そして、幼少の折はそれを見るのが大好きだった星、それが、私の力の根源だと感じた。
師匠から教わった技、と言うのが「貪る流星」つまり星が関わってくるという事も、偶然ではないだろう、私はそう理解した。
星の力、私の肉体と精神を媒介として、チャンネルを合わせて効果を発揮する能力だ、私はそう「理解」した。
この刀で何が出来るか、この力が具体的に何が出来る力なのか、についてはまだ考察の余地があるけれど、しかし、私はそれを使わなければならないと感じた、私はこの力を使うべきで、私はこの力を使っていくべきだ、と感じた。
この力の根源は、私が見て来た星々から、そして、私はその媒介でありチャンネルであり、端末である事、それを理解した。
星々がそれを使って何を私にさせたいか、についてまではわからない、ただ、それだけは理解した、それだけはわかった、それで十分だと感じた。
「……。」
誰かが、私に何かを為せと言っているのだとしたら、それに従うつもりはない。
私は私の意思で生きていく、私は私の目的の為に生きていく、それだけだ、ただそれだけだ、復讐を遂げた後、の事を考える事もない、私の命がそこで行き止まりだったとしても、私の命がそこで尽きるのだったとしても、それでもいい。
私の命の終わり、それが復讐を果たした果てなのであれば、私はそれで満足だ、その為にも、この力についての理解を深めて、扱えるようにならないといけない。
全ては復讐の為、全ては、私から奪った者達から奪い返す為、それが間違った生き方だと言われたとしても、それが過ちだと言われたとしても、私はその為だけに生きていく、そう誓った、師匠に凌辱されていた頃、子宮摘出をした頃、私が私として、子孫を残せないと理解した頃、私が尊厳を奪われても、それでも成し遂げたい事、それが、私にとっての生きる意味だ。
「……。」
星の力、それを理解してから、四年の月日がたっただろうか、四年前、このアジトに来てすぐ、このベッドに寝ていて、そして起きた時、枕元にこの妖刀アコニートは置かれていた。
それをどうして扱えるのか、どうして「妖刀アコニート」という名前を付けるに至ったのか、それに関しては不明瞭な事が多い、ただ、私は星の力を扱える、そしてこの武器は、その力を前提に設計されている、私にしか扱えない、傍から見たら、ただの棒きれか何か、飾りか何かに見えなくもないだろうそれは、私にとっては生命線とも言える武器だ。
どうしてこれを使おうと思ったのか、ともすれば誰かからの罠である可能性、も考えられたはずのそれを、私が扱って、それを扱えた意味、については未だにわかっていない、星の力を媒介にしているということ自体、つまり機構は理解しているけれど、その発端である理由を知らないまま、私は四年間この武器を使い続けてきた。
この武器の特徴は幾つかある、まずは刀身を「気」で練り上げるという特性上、ある程度大きさを変えられる、コンバットナイフ程度の大きさから、刀という両手剣の大きさまで、自在にその大きさを変えられる。
二つ目、その刃、気で練られた刃には、毒を付与する事が出来る、それが私がアコニートという名前を付けた理由でもある、アコニートという毒を持った花、致死性のある毒草、と同じかそれ以上毒性、致死毒を簡単に生成できる。
三つ、その気で練られた刃は、遠距離攻撃として射出する事が出来る、羽ばたく彗星、と私がなずけた技は、気を刃としたこの武器の、刃の延長線上と言えば良いのだろうか、刃の先を飛ばして攻撃に用いる事が出来る。
つまり、銃を使わずとも遠距離攻撃が出来る、毒による致命傷、軽く掠っただけでも致死毒を注入できる、という特徴を持った武器、それがこのアコニートだ。
「……。」
この事は師匠も知らない、普段から、私は毒を使って暗殺をしているけれど、師匠からしたら、ナイフに毒を塗って暗殺をしている、程度の認識だろう、私が気を練って刃を出すところを見られていない限り、その事が外部に漏れる事もない。
「今日も雪がやんでいるのね。」
今は夜、星を眺める為にベランダに出て、雪豆のコーヒーを片手に、星を眺めている。
シードルとしていた様に、ゴランやアルビアとしていた様に、私は星を独りで眺める、それを誰かと共有することはもうない、誰かと共に星を眺める事はしない、それをした相手は、須らく不幸に陥っているのだから、それは呪いにもなっているのかもしれない、所謂ジンクスというやつだ。
星を共に眺めた相手、両親とゴラン、アルビアにシードル、皆須らく不幸になっている、アルビアが今どうしているかについては知らないけれど、しかし、それ以外の四人に関しては死んでいる、だから、それをした相手がという認識になる。
「……。」
星を眺めながら、星の力の根源について考察する。
私が星の力と呼称しているこの力の根源は、いまだにわかっていない、情報屋にベンを握らせて、星の力という眉唾な話があるのかどうか、について調べてもらった事もあったけれど、結果は知らない、そんな力を持っていた存在がいた痕跡も、そんな力自体の認識自体もなかった、という話だった、その情報屋はもう死んでいる、私が殺したわけではないけれど、少し口が軽かった、という理由で粛清された、という話を、Mから聞いた覚えがある。
情報屋はベン次第で動く人間、と言っても、信頼関係と言うのを構築する事は大切で、信頼を置いている人間、信頼を出来る人間、に対して、ベンを対価として情報を渡す、と言うのが、数いる情報屋達の共通認識だ、と言っていた、だから、口が軽いその情報屋は、粛清の対象になったのだと。
悲しむ事はなかった、憐れむ事もなかった、情報屋として、口が軽い事は致命的だという事は私も理解していた、だから、その情報屋が粛清されたと聞いた時、納得した。
彼は、口が軽かった、欲しい情報以上の情報をもたらして、私を混乱させた事もあった、いらないおしゃべりをして、口が滑ったという事をかねがね言っていた、だから、そう言った対象になるのも、納得と言えば納得だ。
私達と情報屋達は、信頼関係の元に、ベンを約定として情報を得たり離したりしている、それが事実で、私達の関係値は、そう言った事柄だ。
「……。」
このアジトの場所、が政府側にばれていないのも、偏に情報屋達の口が固いから、情報屋が、軍や政府側ではなく、私達反政府側についているから、だ。
もしも情報屋達が心変わりをして、政府側についたとしたら、私達は軍に殺されてお終いだろう、それは重々理解している、それ位わかって覚悟をしていないと、暗殺者などやっていられない。
だから、今は味方でも、いつかは敵になるかもしれない。
それは師匠も同じ、いつの日か敵対する日が来るのかもしれない、来ないのかもしれない、そんな関係でしかない、自分の身は自分で守れ、それが当たり前だ。




