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聖獣達の鎮魂歌外伝~復讐者の物語~  作者: 悠介
一人前

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第四十六話 独りで

「K、これでお前は一人前って事になるな、ダミーカンパニーを用意しておいた、これからはそこで金を稼げ、暗殺の報酬に関する事は、お前はもう知ってるだろう。」

「はい。……。それで、ここを出たらどうすればいいですか?」

「俺のアジトの一つをやろう、東の都市ミルギールの路地裏の一軒家、地図は渡す。そこに行け、情報屋の居場所に関しては、これも地図を渡すのが早いか。ま、お前も一人前として勝手にやっていけ、ただ、みかじめ料に関しては払ってもらうがな。」

「はい。……。ありがとうございました、私を育ててくれて。」

「ふん、俺の都合だ、お前が礼を言う事じゃない。」

 十五歳の誕生日を迎える頃、シードルを殺してから半年間、師匠は私が一人前になる為の事務処理をしていた、銀行口座の開設、偽造身分証の作成、情報屋への私との顔出し、そう言った「独りでやっていける為」の行動を、この何か月かはしていた。

 東の都市ミルギールへは、ここから車で半日程だった、という記憶がある、ただ、ここが何処の街にあって、この街が何という街で、と言う情報に関しては知らない、師匠が教えてくれなかったというのもあるし、知ってしまったら師匠にとっては粛清対象になりかねない、という話を聞いていたから、聞かなかった。

「それじゃ、お前を送っていって、俺達の関係値はいったんお終いだ。これから先、お前は独りで生きていけ、独りで生きて、暗殺って言う仕事をして行け、ただ、くれぐれも俺の邪魔をしてくれるなよ?情報屋連中は、俺達がブッキングしない様に調整してるって言っても、それは完璧じゃない、そこに関して、俺の邪魔をしてくれるなよ。そうなった場合、お前だったとしても殺すしかなくなるからな。」

「はい。」

「車に乗れ。」

「はい。」

 地下のアジトから離れる事になる、これからは独りで生きていく事になる、その選別として、師匠が誂えた洋服に着替えて、私はアジトを出て、目隠しをされて車に乗る。

 何年間、六年間過ごしたアジト、六年間過ごした地下の部屋、それと別れの時が来た、すえた匂いも、古びたベッドも、虫穴の開いた洋服も、これでお別れだ。

 さようなら、私の過ごしたアジト、さようなら、私のこれまで。


「ここからはひとりで行け、鍵は渡しておく。」

「……。ありがとうございました。」

「だから、俺の都合だといっただろ?お前の人生をぐちゃぐちゃにした張本人に礼を言う馬鹿がどこにいる。」

「それでも、お礼が言いたいんです。」

「なら好きにしろ。」

 ミルギールの端、についた私達は、目隠しを外されて、師匠に車をおろされて、そして師匠は車で西の方へと去っていった、ここからは私は独りでアジトに辿りついて、独りで生活する為の行動をしなければならない。

 ダミーカンパニーを用意してくれている、と言っていたけれど、その土地と建物と、権利書に関する譲渡を行ってもらっただけだ、表向きは貿易商として生きていく事を選んだ私は、まずは貿易商として活動する為の社員と、会社が必要だ。

 会社の登録自体は師匠が手を回していると言っていた、だから、自力でしなければならいのは、社員集めと貿易先の確保だろう。

「こっちね。」

 地図を眺めながら、ミルギールという都市の様子を眺める。

 今は雪がやんでいる、冬にしては珍しいが、私の住んでいた村が夏でも雪解けがあったとしても雪が残っているのと違って、この都市は夏になったら雪解けがあって、路面が見えるという話だった。

 村と違って、路面もコンクリートを使っている、村から基地に行った時には、まだここまでの交通網の整備はされていなかった、そして、私は村がどの方角にあって、どの場所にあって、という事を知らない、その情報を得ていたとして、何かをするわけでもないけれど、それは師匠ですら知らない事、知っていたら、師匠は私の村に残った村人達を虐殺していただろう、それをしなかったという事は、村の場所はばれていない、という事にある。

 コンクリートで建てられたビル群、と言うのが印象的なこの都市ミルギールは、私の住んでいた村とは大違いで、発展した街という印象だ。

「……。」

 地図を眺めて、現在地とマップをリンクさせる、幸いな事に師匠が私を下したのは、アジトになる一軒家からそう離れた場所ではなかった、裏路地にあるアジト、一軒家だと言っていたけれど、どれくらいの大きさで、どれくらいの家財が揃っていて、という話はきかなかった、最悪、師匠から渡されたベンを切り崩して、最初の暗殺までに揃えないといけないかもしれない、それに、暗殺に赴くにあたって、師匠から教えられた保存食である牛肉の干し肉、の為の肉を仕入れる場所も確認しなければ、と考えると、やる事は多い、ゆっくりとしている時間はないだろう。

「ここね。」

 通りから少し入った裏路地、ともすれば少し治安が悪そうにも見える裏路地、にアジトはあった、ドアノブの鍵を捻って、あっている事を確認して、中に入る。

「……。」

 中は思った以上に綺麗で、家電類もある程度はそろっていた、ガスも電気も水道も通っている、こんなに恵まれた環境で生活しても良いのか?と疑問に思う程度には、整った場所だった。

 煙草の匂いが微かにする、という事は、師匠がミルギールの拠点として使っていたアジト、なのかもしれない、そこを私の名義にして、という話だから、こうして整った環境があるのかも知れない。

 ただ、それに関してはありがたく受け取ろう、師匠が気を利かせてやった事なのか、それとも師匠が生活していたからあったものなのか、については、どちらでも構わないのだから。


「アルミニア、アンドルの牧場主に送る書類なのだけれど。」

「はいはい、契約書ね?送っておくわよー!」

「ありがとう。」

 アンドルから帰ってきて一日が経ち、私は会社に顔を出して、貿易商としての仕事をしていた。

 と言っても、今回はアンドルの牧場主に契約書を送ってもらう手筈を整えるだけ、それが終わったら、今度はHの所に暗殺が完了した事を報告しに行かなければならない、それで、次の暗殺の依頼に関しても情報を仕入れなければならない、アルミニアに社員たち向けのお土産を預けて、私は一旦アジトに戻る。


「……。」

 一週間ぶりのアジトは、どことなく落ち着く、何かが置いてあるだとか、そう言う話でもないのだけれど、この場は誰かに侵される事がない場所、油断をして良い理由にはならないけれど、ある程度気を抜いていい場所、そう言う認識だ。

 冷蔵庫には何も残っていない、だからその買い出しにもいかなければ、肉屋に行って、肉を仕入れる事になったという話も報告しなければ、諸々のやるべきタスク、と言うのが頭の中をぐるぐると回っているけれど、今は少し落ち着きたい。

「あったかしら。」

 雪豆の残りがあったはずだ、それを挽いてコーヒーを淹れて、一服しよう、そう考えて、雪豆を棚から出して、ミルで挽いて、お湯を沸かしてコーヒーを淹れる。

「……。」

 冷えた体には、暖かいコーヒーはしみる、私は体を冷やす事にはなれているし、別段何か弊害があるわけでもないけれど、体を温めると落ち着く、それは感情としては持ち合わせていた。

 コーヒーを飲みながら、ラジオをつけて情報収集、アンドルの局に周波数を合わせて、暗殺の事が放送されているかどうかを確認する。

「……。」

 今の所はアンドル北の基地に関する殺人事件、に関しては報道がされていない、というよりは、軍や国家としては、軍関係者が暗殺され続けている、という事実は不都合なのだろう、私が一人前の暗殺者になってから四年、幾人もの軍関係者を殺めて来たけれど、一度も話になった事はない、号外が出たり、という事もなかった、ベイルに勝った、という話を号外で打ち出して、情報統制をしているのだから当たり前と言えば当たり前なのだろうけれど、軍関係者が殺されて回っている、という情報は、それだけ施政者にとって都合が悪い事、だろう。

 十年前、あの基地の大尉が殺されてから、以降師匠が殺して回っていた軍関係者、そして私が暗殺した軍幹部、確実に軍は弱体化をしていて、という話は情報屋から聞いていた、確実に軍は弱体化をしている、陸軍を私が主だって担当していて、師匠は空軍の幹部を殺して回っている、だっただろうか。

「……。」

 確殺のA、その面目薬所ではないけれど、師匠は私以上に暗殺の練度が高い、現状師匠の年齢は推定でしかない、情報がないのだから、推測するほかないのだけれど、師匠は年齢としては四十を超えているだろう、見た目年齢がという話でもあるけれど、それ以上に、投資家として一定数信頼を得ている年齢、と言うのは、それ位の年齢になってくるだろう、だから、師匠は四十代半ば程度だ、と私は推測していた。

 それが何の特になる情報か、と問われると、もし万が一師匠と敵対した場合、私が勝てるのは年齢による基礎体力、私が勝てる要素、について考察する事は私が生き残る為に必要な事柄だ。

 いつの日か、師匠と敵対して、どちらかが死ななければならない日が来たら。

 私は負けるつもりはない、躊躇をするつもりもない、友柄だったシードルを殺す事に躊躇いがなかったのだから、それが師匠に置き換わったとしても、何も変わらないのだから。

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