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【書籍化】入れかわり失敗から始まる、偽物聖女の愛され生活 ※ただし首輪付き  作者: さき


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番外編01:ステラと美味しい昔話

 


 その日の昼食のデザートは旬のフルーツを使ったパンケーキだった。

 それだけでも豪華に見える三段に積み重ねられたパンケーキの迫力はまさに圧巻。たっぷりと盛られたクリームは乗り切らずにトロリと一部が溶け落ちており、数種類の瑞々しいフルーツは宝石を散りばめたかのよう。

 その光景にステラは瞳を輝かせ、さっそくと言わんばかりにフォークに手を伸ばし……、ふと、目の前に座るレナードに視線をやった。彼が妙に嬉しそうにこちらを見ている。


「……なに?」

「いや、相変わらず甘い物を前にするとわかりやすく嬉しそうにするなと思ってな」

「……別に、そこまで嬉しそうにしてないけど」


 指摘された恥ずかしさから、ステラはツンとすまして他所を向いた。嬉しそうにしていた自覚はあるのだが、素直に認めるのは癪なのだ。

 だがレナードからしたらそんなステラの意地も愛でる要素でしかないのだろう、彼の笑みは強まるばかりである。対してステラは何を言っても彼を喜ばせるだけだと悟り、意識をパンケーキへと向けた。


 そうして一口食べ、その美味しさに顔を綻ばせた。

「美味しい……」と思わず呟いてしまう。それを聞いたレナードが堪えきれなくなったようにふっと笑みを零し、挙げ句に顔を背けた。彼の露骨な態度に、ステラがじろりと睨みつけて咎める。


「さすがに笑いすぎだと思うけど」

「悪い、確かに笑いすぎた。だけど前と同じ反応されたからつい」

「前と同じ反応?」


 どういうことかと問いながらステラが首を傾げる。

 それを見たレナードが懐かしむように目を細めて話し出した。



 ◆◆◆



 ステラがレナード達の前に現れ『聖女の妹』としての生活を始めた頃。

 妹だと言い出したアマネはもちろん、サイラスまでもが早々にステラに絆されすっかりと受け入れていた事にレナードは呆れさえ抱いていた。

 第一王子としての懐の広さと言えば聞こえはいいが、どちらかと言えばこれは油断だ。同時にアマネに対しての贔屓と甘さもある。――もっとも、しばらく経つとレナードも絆され、ステラのことを可愛いと思いアプローチし始めるのだが――



 そんな、まだ警戒心が残っていた頃のとある昼下がり。

 仕事を終えたレナードは気分転換がてらに王宮の敷地内を散歩していた。

 特に目的があって歩いているわけではない。ただふらふらと歩き、時折は警備をしている騎士達と情報を交わし、通り掛かった給仕やメイドと他愛もない会話をする。


 そんな気ままな散歩の最中、ふと調理場の前を通りがかった。


「……あれは」


 と呟いて足を止める。

 調理場の一角に座っているのは黒髪の少女。

 聖女アマネ、……ではなく、その妹――という事になっている――ステラだ。


「ステラ、何やってるんだ」


 窓から身を乗り出して問えば、椅子に座って本を読んでいたステラがパッと顔を上げた。

 次いでレナードに気付いて近付いてくる。


「何って本を読んでたんだけど」

「どうして調理場で読んでるんだ」

「調理場は本を読む場所じゃないけど、本を読んじゃいけない場所でもない」

「……減らず口め」


 反論に対してレナードが睨みつければ、ステラが肩を竦めた。


「私の食の好みが知りたいんだって」

「食の好み? ……そうか、聖女の妹だもんな」


 ステラの正体は、記憶も何も分からない謎でしかない少女だが、ここでは『聖女の妹』として通っている。その地位はアマネやレナード達と同等。

 ゆえに料理人達はステラの食の好みを知り、彼女の希望する料理を提供せねばと考えたのだろう。

 それは納得である。……だが、


「食の好みって言われても、私、そういうの無いんだけど」


 周囲の者達には聞かれないよう、ステラがポツリと呟いた。

 眉根を寄せた表情。好みを知りたいと言われて応じて来たが、いま一つピンときていないのだろう。


「私の好みは『お姉ちゃん(アマネ)の好み』だから、それが通じない今、私個人の好みって言われても……」

「お前自信が好きな料理とかは無いのか?」

「無いよ。あったかもしれないけど、覚えてない」


 はっきりと断言するステラに、レナードは何と返して良いのか分からず言葉を詰まらせてしまった。

 ステラに対して警戒心はまだ残っている。……のだが、彼女の境遇を考えるとなんとも言えない気持ちになる。


「そうか……。まぁ色々と食べて好みを知っていくのも悪くないんじゃないか」


 レナードが告げればステラがコクリと頷いた。

 そんなやりとりに声が掛かった。シェフが一人、トレイの上に皿を二つ乗せている。

 どうやらステラの好みを知るためにデザート用の品を作っていたらしい。


「パンケーキです。よろしければレナード様もいかがですか?」

「俺もいいのか?」

「もちろんです。こちらにいらっしゃいますか、それとも外にお持ち致しましょうか」

「ここで貰おうか」


 窓の近くには棚もあり、皿を置いて立って食べるには十分だ。

 王宮内、それも王族という立場からしたらはしたない食事ではあるが誰も咎めはしないだろう。

 そう考えて窓越しに皿を受け取れば、どうやらステラも一緒に食べる気なのか、椅子には戻らずに皿を受け取った。じっと更に乗ったパンケーキを凝視している。


「……パンケーキ」


 真剣な顔でステラがパンケーキを見つめて呟く。

 つられてレナードもパンケーキに視線を落とした。


 よくあるデザートだ。

 焼かれたパンケーキにクリームが乗っている。シンプルではあるがさすが王宮勤めのシェフが焼いただけあり、シンプルさが逆に食欲をそそる逸品だ。

 一口食べればクリームの甘さが口の中に広がる。


「うん、美味いな」

「ステラ様の好みがわからず、生地もクリームも普段のものより甘めに作っておりますがいかがでしょうか?」

「俺としてはもう少し甘さを控えて貰った方が良いが、こればっかりはひとの好みだからな。ステラはどうだ?」


 レナードが視線をやれば、ステラはいまだじっとパンケーキを見つめている。

 きっと初めて食べるのだろう。慎重に一口サイズに切り、パクと口に入れた。

 そうして咀嚼し……、


 次第にステラの瞳が輝いていった。


「……おいしい」


 呟かれた言葉は小声ながらも感動に満ちており、心の内から漏れ出たのが伝わってくる。

 それを聞いたシェフが満足そうに頷き「紅茶をご用意します」と持ち場に戻っていった。


 残されたのはレナードと、そしていまだ瞳を輝かせているステラ。

 もう一口食べても彼女の瞳の輝きは変わらず、むしろ増している。


「気に入ったのか?」

「甘くて柔らかくて美味しい」

「そうか……。き、気に入ったなら……、よかったな……」

「レナード?」


 疑問に思ったのだろう、ステラが名前を呼んで尋ねてくる。

 そんな彼女にレナードは返事が出来ず、口元を手で隠しながら顔を背けた。

 自分の口元が緩んでいるのが分かる。気を抜くと笑ってしまう……。だがここで笑ったらステラは怒るだろうし、調理場の者達も疑問に思うはずだ。


 なにより、笑っているところを見せるのはステラに油断していると思われそうな気もする。


 だからこそ耐えたというのに、再び食べ始めたステラが瞳を輝かせて「おいしい……」と感動の声を漏らすのを聞いて、堪えきれずに声をあげて笑ってしまった。



 ◆◆◆



「懐かしいな」


 かつての事を話し終え、レナードが穏やかに微笑む。

 そんな彼に対して、ステラは手元のパンケーキと彼を交互に見た。


「急に笑い出したと思ったけどそんなことを考えてたんだ」

「あの時は俺だけは警戒心を解くまいと考えてたからな。でも目を輝かせてパンケーキに感動してる姿を見たら耐え切れなかった」

「……失礼な」


 ひとの食事姿に対してなんという言い草だろうか。

 そうステラが非難の視線を送れば、レナードも己に非があるのは自覚しているのだろう詫びてきた。といっても苦笑しながらの詫びの言葉なので心からの謝罪というよりは愛でているに近いのだが。

 なにせ詫びはするものの相変わらずステラをじっと見つめてくるのだ。愛おしそうに目を細めて、そのうえ「食べないのか?」と催促までしてくる。自分だって食べていないのに。


「面白がられるのが分かってると食べ難いんだけど」

「面白がったって程じゃ無いだろ」

「あんなに笑ったくせに」

「あれは……、確かに面白かったが、それだけじゃない」

「それだけって、他に何が?」


 ステラが問えば、レナードが笑みを強めた。

 濃い色合いの瞳を細めて、形の良い唇が柔らかく弧を描く。そうして彼はゆっくりと口を開いた。


「今なら分かる、あの時既に俺は『面白くて可愛い』って思ってたんだよ」


 はっきりと告げてくる好意の言葉。

 これに対してステラはじっと彼を見つめて返し……、


お姉ちゃん(アマネ)とサイラスの警戒心がどうのって言ってたけど、レナードも警戒心は薄い方だと思うよ」

「そうだな。あの時から絆されてたんだから、俺も兄貴達の事は言えないな」


 レナードが楽しそうに笑う。

 そんな彼に、ステラは少し考えを巡らせ……、ガタと立ち上がった。


「どうした?」

「真正面から見られながら食べるのは気まずいから嫌。……だから」


 テーブルの上でスッと皿を移動させる。レナードの分のパンケーキが盛られた皿の隣に。

 それに合わせるようにステラもまた席を移動した。もちろん彼の隣に。


「真正面から見られるのは嫌だから隣で食べる」


 そう告げてパンケーキを一口食べ、その美味しさに顔を綻ばせた。つい「美味しい」と言葉が漏れてしまう。


 その瞬間、隣に座っていたレナードが耐え切れないと言いたげに笑い出した。



…end…



「ステラ、どうした?」

「首輪がさっきから微振動して、しててててて」

「なるほど、自分まで振動してるのか。舌噛むなよ」

「だいじょっ……」

「噛んだか……」




「それで、なんで振動してるんだ?」

「私にもわからな……、か、輝き出した!?」

「うわ、眩しい。なんだよその光、止められないのか?」

「止められな、なななな、光るし振動するしししし」

「最悪だな……。待て、首輪からの光が壁に映って何か文字が……」



【『入れかわり失敗から始まる、偽者聖女の愛され生活 ※ただし首輪付き』

 フェアリーキスより6/27発売!】



「これは……、告知か?」

「眩しい、首元が光るの凄い不快……。小さくジーーーーって音するのも凄い嫌……」

「とりあえず告知が終わるまで我慢しておけ。ほら、続きが出るぞ」



【本編加筆修正に加え、巻末には書き下ろし短編もついております。

また、カバーと挿絵にはShabon先生の素敵なイラストが!私とステラちゃんの姉妹愛が伝わるイラスト!】



「犯人が絞れてきたな。いや、元々首輪に細工出来るやつなんてあいつしか居ないが」

おねえちゃん(アマネ)め……。あ、待って、後書き(ここ)ってルビ機能使えるの? 使えてる?」

「多分大丈夫だろう、使えてるはずだ。お、次の画面に映るぞ」



【また、初回特典SSペーパーや、各店舗にてSS特典・有償特典グッズ付き等があります。詳しくは後書き下記またはフェアリーキス公式サイトをご確認ください。

なお、このメッセージは五秒後に自動的に消滅します】



「消滅!? お、おい、ステラ、大丈夫なのか?」

「ジーって音が大きくなってきた……。あ、待って、なんか大きな振動がっ……!」



ポンッ☆



……。


「……紙吹雪と垂れ幕か」

「【祝 姉妹愛のファンタジー物語書籍化】だって。まだ微振動してるし、これ引きちぎって良い?」

「とりあえず告知が終わるまでは待っておけ。下手に引きちぎったらまた光りだすかもしれないだろ」

「絶対にいつか首輪を外させっ……!」

「また舌噛んだのか」



◆◆◆◆



本作『入れかわり失敗から始まる、偽者聖女の愛され生活 ※ただし首輪付き』が書籍として発売される事になりました。

(書籍化にあたり、タイトルの『偽物』を『偽者』に変更しました)

フェアリーキスより6/27発売です!

告知が遅れて、直前でのお知らせとなってしまい申し訳ありません…!


本編加筆・巻末書き下ろし短編に加えて、

Shabon先生に可愛らしく華やかなカバーと挿絵を描いて頂きました!もちろん首輪もしっかり描かれております。


また初回限定SSペーパーに加え、下記店舗にて特典が付きます!

BOOTH様:クリアしおり

書泉様 有償特典:アクリルコースター&限定SSペーパー

書泉様 通常:限定SSペーパー

電子:著者サイン&コメント、イラストレーター様描きおろしイラスト収録

フェアリーキス協力書店さま一覧:著者サイン入り限定イラストカード


上記、詳細はフェアリーキス公式サイトをご確認ください。



ステラ達のラブあり騒動ありの賑やかな物語、本としてお届け出来るのがとても嬉しいです。

皆様、どうぞよろしくお願いいたします!


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― 新着の感想 ―
[一言] 番外編ありがとうございます。 そして、書籍化おめでとうございます。
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