20
結局、一人一人部屋を訪ねたが、誰一人として自分が狩人だとは言ってくれなかった。
それよりも、やはり今日どこから吊るのか、その事ばかりを気にしているようで、最初に尋ねた剛のように、メタな情報なども全く手に入らない。
もちろん、何となく怪しいなどの情報はあったが、皆根拠は無くて直感だとか、何となく怪しいとかそんな感じで、とても議論の場でそれを言い出せることでは無かったので、とりあえず卓哉に言っておこう、という感じだった。
修一と洋文の部屋も回ってから、最後に玲の部屋へとたどり着いた時には、もう時間は昼を過ぎていた。
「もう~時間かかったんだねえ。」玲が、部屋でベッドに横になって肘をついていたが、起き上がって座った。「で、収穫はあった?ゴシップばっかじゃないの~?」
卓哉は、どうして分かるんだと疲れ切って不貞腐れていたのだが、今度は茫然と玲を見た。
「え、なんで分かるんだ?」
玲は、苦笑した。
「だって、皆に出せるような立派な意見だったら、自分の白目をあげるために絶対議論で発言するものー。でも、役職者は必死に話すけど、他はあんまりな村じゃないか。ってことは、分かってないって事だものねー。潜伏してる人狼と狐も、それに合わせて分かってないふりをしてたらいいんだから、楽って言えば楽だと思うねえ。」
卓哉は、確かに、と思った。今回、部屋を回って来た時にも、吊り先はあとで話し合うから、とにかく何か情報を、と言うと、みんな分からないと言う事が多くて、メタな方向からの意見しか出せないと言って、上げ足を取るような、発言の言葉尻だけを取って怪しいとか、そんな形が多かったのだ。
「…村だったらちょっとでも頑張って考察して話してくれないと、視点が見えないから白だって思えないのに。もっと村人が努力してくれないと、これから人がどんどん減っていくかもしれないのになあ…。」
卓哉がため息混じりにそう言うと、玲は、椅子を示した。
「座りなよ。それで、狩人は?」
卓哉は、トボトボと椅子へと歩くと、ハアと崩れるように座った。
「みんなオレを信用してないのか、狩人じゃないって言うんだ。だから、昨日どこを守ったのかも聞けなかったよ。」
玲は、顔をしかめた。
「君を信用してないっていうか、君が村なのは分かってるけど、君に話したことを誰かに気取られるんじゃないかって心配してるんだろうね。結構素直に顔に出てしまうタイプだし…何が有っても生き残ってもう一回グッジョブ出してもらわないといけないからねえ。吊り縄増やすために。」
卓哉は、分かっていたが、それでも誰が狩人なのか知っておきたかった。そこに黒を打ったらすぐに偽の占い師だと分かるし、守ろうと思ったからだ。
しかし、狩人からしたら、卓哉が守ろうとすることで、自分の役職が透けるのが嫌だったのだろう。
卓哉は、玲を見上げた。
「どうしたらいいと思う?この意見を出してくれた和也さんには悪いけど、狩人に信用されなかった訳だから守り先は分からないよね。…占い先は、やっぱり占い師たちに決めさせた方がいいよね?」
玲は、微笑んだ。
「どっちでもいいよ。ただ、誰を占うかは公言させておかないと呪殺が起こった時困るから、そこはきっちりしておいてね。呪殺が出てからだったら、どこでも好きな所を占ってもらったらいいんだけどさ。狩人の事は、気にすることないよー。雅也だって潜伏してるんだからー。僕もでしょ?狩人は、自分の身は自分で守れるってことだよー。」
卓哉は、またため息をついた。それはそうなんだけど。
「じゃあ、とりあえず部屋に帰るね。パンでも食べながら考えて来るよ。」
そうして、卓哉は立ち上がった。玲は、そんな卓哉に手を振った。
「そんなに悩むことないってー。大丈夫だから。」
何を持って大丈夫だと思っているのか疑問だったが、それでも卓哉を元気付けてくれようとしているのだと卓哉は頷いた。
そして、玲の部屋を出て自分の部屋へと戻った。
部屋へ戻って急に力が抜けた卓哉は、ベッドへと倒れ込むと、考え込んだ。
狩人は、いったい誰なんだろう。これを提案してくれた、和也はまずないだろう。だとしたら、今のところ白いという印象の剛、信吾、それとも、少し回りと違った意見でも臆せず言う太一か。
そのせいで初日は玲には黒く見えたみたいだったが、噛まれるのを避けるために疑われるぐらいがちょうど良いのは、狩人の保身の動きだった。わざとちょっと疑われるように持って行き、狼に噛まれないように回りを守り、最後にCOしたら狩人はすごく強いのだ。
ただ怯えているように見える真里は、吊られ先ばかりを気にしていた。もし狩人なら、真っ先に卓哉に言っただろうし考えられなかった。
「…剛の感じも狩人っぽくないしなあ…。」
卓哉は、息をついた。考えても仕方ない。
何か食べるか、と寝返りをうつと、ベッドのサイドテーブルのランプの下に、何かの紙が置いて有るのが見えた。
「…?」
卓哉は、それを摘まんで開いた。
『昨日の守り先は14修一』
そう、小さな字で書かれてあった。
「玲さん!」
卓哉は、玲の部屋へ飛び込んだ。玲は、立ち上がっていたので恐らく外へ出て来ようとしていたようだったが、驚いたようにこちらを見た。
「なに?確かに防音完璧だけど、驚くだろ。」
卓哉は、手に握りしめたさっきの紙を振り回した。
「狩人が!守り先を知らせてくれた!昨日は修一さんだって!」
玲は、目を丸くした。そして、興奮ぎみの卓哉からその紙を受けとると、中を見て、言った。
「…正体は明かさないけど守り先は知らせようと思ったんだね。そうか、修ちゃんか…洋くんかなと思ってたんだけどなあ。違ったんだ。」
卓哉は、何度も頷いた。
「ってことは、修一さんは少なくても狼じゃないよね。洋文さんの偽が分かったから他の二人から噛もうとしたってことかな。」
玲は、うーんと首をひねった。
「どうかなあ。洋くんには護衛が入るかもと思って、適当に真っぽい所を噛んだのかも知れないけどね。それに、狐を噛んだかもしれないし。まだそれだけじゃ決められないけど…だったら狼は、狐に吊りたくて仕方ないだろうね。」
卓哉は、考えた。狼がグレーを噛むだろうか。数を減らしたいし、噛むかもしれないが、昨日の場合は…。
「…霊能に、狐が居る?昨日は霊能を噛んだんじゃ。」
玲は、眉を寄せた。
「どうかなぁ…だとしたら、真っぽいところで有栖ちゃんになるけど…僕には護衛が入ってそうだったでしょ?だから、次に誰かって言うと、有栖ちゃんだもん。でも、狐が霊能に出るかなあ…。」
あの時点でのみんなの意見は、玲が真霊能だった。狼としては、真霊能が噛めないなら、占い師の方に目が行ったはず。とすると、やはり修一で護衛成功が出たということなのか。
「…分からない。」卓哉は、すがるような目で玲を見た。「みんなで話し合うしかないね。」
玲も、それには頷いた。
「そうだね。僕にもよく分からないよー。というか、情報が少なすぎるんだって。狼も筋書き通りには噛んで来てないと思う。僕がいろいろ初日に段取り着けようとし過ぎたんだよね…だから、あっちもセオリー通りにしてたら僕に読まれてしまうって思ったんじゃないかな。多分、普通に考えてたら狼に噛まれてアウトだと思うよー。狼に都合が良いように思考してたら生かしてはくれるだろうけど勝てないだろうね。」
卓哉は、背筋に冷たいものが走った。ということは、自分が噛まれていない間は狼に都合がいい存在だということで、気が付いたら負けていて、帰れないということだ。
「話し合い、早めにした方がいいよね。夕方、昨日と同じで6時頃って言ってあるんだけど。」
玲は、チラと時計を見た。時計は、昼の2時を指している。
「…そうだね。もうみんなお昼ご飯も食べただろうし…君は?食べたの?」
卓哉は、ハッとした。そういえば、まだ何も食べていない。
「いや、まだ…」
玲は、食べることも忘れていた事に戸惑う卓哉に、呆れたように微笑んで、言った。
「仕方ないなあ。じゃ、下で食べておいでよ。その間に、僕がみんなに3時から一度会議するよって言って回っておくから。君も3時に居間へ来て。」
卓哉は、バツが悪そうに頷いて、玲からあの護衛先が書かれてある紙を受け取ると、そそくさと部屋を出てキッチンへと向かったのだった。




