第14話 「俺、ラチされた」
外の空気も、冷えて来て
周りの人気も無くなってき、
音一つしないほどの静けさの夜。
┈ カジャン ┈
ドアの鍵が開かれる音がした。
その音がした瞬間、椅子に座って寝ていた
俺は覚醒する。……侵入者だな。それも数人。
この部屋の鍵は俺が持っているし、
わざわざ補助錠までかけたはずなのに、
この部屋に侵入を果たしている所、
相当の手慣れだろう。
「……」
どうするかな。
侵入者にバレないように、薄目で視線だけを動かして侵入者が何者かを確認する。
すると、昨日因縁を付けられたお嬢様風の女が
数人の野郎とともに立っていた。
……なるほど、“覚えてろ”とは言われたが
まさか本当に来るなんてな。
俺は心の中で笑った。
「お嬢……いくらなんでもこれはまずいんじゃないですか?」
「いいから。わたくしの面目をつぶした人にはお仕置きをしてやらなきゃね」
「そこまで言うなら……分かりましたよ。ちなみに女の方はどうします?」
「女性の方はいいわ。用があるのはそこの男よ」
よかった。女三人に手を出そうもんなら
いくら相手が女でもどうなるか分からなかった。……なんだかんだいって、俺は三人に対する愛情が芽生え始めていた。
「分かりましたよ」
一人の男が俺に向けて足音を立てないように
近づいてくる。
そして、いかにも頑丈なロープで俺の体を縛りにかかってくる。その際にもう一人の野郎が
声を上げられないように、布で口を押さえにかかってくる。そして残った野郎は布で目を隠しにかかってくる。
……へえ、随分と手際が良いじゃないか。
もちろんこの場ですぐに反撃して
叩き潰すなど容易だった。
だが、それでは面白くない。
だから、あえてされるがままにしてみる。
運が良ければコイツらのアジトまで
たどり着けるかも。
そう思い、俺はわざとらしく、軽く体を動かして反抗する素振りを見せる。
……軽く、といっても本当に軽くやってるのに
ロープが切れてしまいそうな感覚がした。
少し腕を動かすだけでもう紙のように
ビリリ…とロープが切れる音がした。
「まずいぞ……抑えろッ」
出来る限り、声を抑えて椅子ごと俺の体を
縛り……椅子ごと持ち上げて移動させる野郎ども。
そして、全員外に出て、運び出された際にお嬢様風な女の声が聞こえてきた。
「あなた。鍵、閉めておきなさい」
「え、でも……せっかく開けたんですし」
「いいから。わたくしはこの男にだけ用があるんですの。関係ない女性の方にまで迷惑をかける訳には行きません」
「は、はい! 仰せのままに」
意外にも、女性に優しいお嬢様風な女。
初めはただの嫌な奴だと思っていたが、
いい所もあってなんだか少し感服する。
…ごもっとも、俺を誘拐しようとしてる時点で
その感服は測り切れるものだが。
┈ ガシャン ┈
確かに鍵がかかった音が聞こえると、
野郎どもは、俺を何かに乗せて移動する。
この感じは……馬車か何かか?
「行きなさいッ」
女の声とともに、俺が乗っているものは動き始める。……馬の鳴き声がした辺り、馬車であるとわかった。
俺、どこに行くんだろ。
楽しみだなぁ、旅行みたいで。
俺自身、何より圧倒的な強さを持っていたため、恐怖心など微塵もなく、真っ暗な視界の中
ただこれから起きる出来事に、胸を躍らせていたのだった──────────────
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「うわっ」
そして、どこかの場所に放り出される俺。
俺がいる場所は、なんだか地下っぽい匂いがした。ほら……地下の駐車場みたいな匂いだ。
それから想定すると、地下牢みたいなもんだろう。ごもっともここに駐車場なんてもんはないと思うが。
「ふふふ……ここで待ってなさい。後でたっぷりしつけてやりますからね」
そう言った女の声はやけに低かった。
つまりそれだけ本気だという事だ。
はぁ……
心の中でため息を吐いた。
全く……面倒臭い奴に絡まれたもんだ。
まあ、これはこれで面白いからいいんだけど。
┈ ガチャン ┈
そして鍵がかかる音が聞こえ、
パタパタと数人分の足音がどんどん小さくなっていく。
そろそろいいか?
「んー」
それから1,2分ぐらい過ぎた頃、俺は
体に少し力を込める。
すると、俺の体を巻き付いていた頑丈なロープは簡単に破れてしまい、地面に崩れ落ちる。
まるで細い人がいきなりマッチョになるような感じでなんだか気持ち良かった。
さて、と。
手足が自由になったことで、自分の目を隠している布を取る。ようやく機能し始める視界に飛んで来たのは、やはりどこかの地下牢だった。
アニメやゲームなんかでよく見る感じの地下牢。俺の目の前にはたくさんの柵がある。
ドアのように開閉できる部分には、いかにも頑丈そうな南京錠がかけられていた。
「よし」
普通なら、南京錠を壊すという選択肢はないだろう。だが俺はその選択肢を無理やり作ることが出来るわけで。
……柵から手を出して、そのまま南京錠に手をかける。
俺の力がどのぐらいのものか、無性に試したくなってきた。
遊び心を込めて
南京錠のロックをかける部分をぐるぐると巻き上げる。
「おお」
思わず声が出てしまった。
かなり頑丈なはずの南京錠はいかとも簡単に
パンの生地のようにグルッ、とねじれた。
なんだか面白おかしくて、調子に乗ってもっと
ぐるぐるする。
案の定、想定外の方に回る南京錠は簡単に壊れてしまい、柵のドアが開かれる。
……ふむ。
柵の外から出て周りを見渡す。
すると、右の方には上へとつづく階段があった。左の方も見てみたが、先ほど俺が入っていたのと同じ地下牢があるだけで、誰かがいるというわけではない。……ここで、俺は思った。
あまりにもチョロい。
地面に落ちた、ねじれすぎて壊れた南京錠に目を落とす。
あんな頑丈そうな南京錠を力づくで壊せるなんて、自分の力に酔ってしまいそうである。
「だめだ……」
自分の頬を叩いて、自分に喝を入れる。
……慢心は良くない。いつだって慢心を抱いたら必ず足をすくわれるんだ。アニメやゲームで得た知識の一つである。
こうして、俺は右側にある上への階段を上ったのだった──────────
つづく
次回予告
次回は残されたセミナ達の話です。
面白かったら幸いです。