第12話 「ウフフな本の現場」
俺の部屋のドア前まで移動する。
「ここが……ラロスの家か?」
「ああ、そうだ」
担いでいた“レイゾーコ”を地面に下ろして、
ドアノブを回す。
┈ ガチャガチャ ┈
「……」
自分の部屋なのに、ドアには鍵がかかっていた。まあ、それだけあの二人は警戒心が強いということだ。俺としても喜ばしい限りである。
「どうした?」
何かあったのか、とロエルが
顔を覗かせてくる。
「なに、これしきのこと」
“施錠解除”のスキルを使う。
[施錠解除]
消費MP:0
鍵を強制的に開けることが出来る。
鍵がかかっている物全般に有効。
┈ガチャ┈
よし、無事鍵は開いたようだ。
その様子を見た彼女は。
「なんだか、ろくな使い道がないスキルだな……」
ロエルの言うことはごもっともである。
だが、あえて何も言わないでおく。
“レイゾーコ”を担ぎ直して、ドアノブを回して
ドアを開ける。
「ただいま」
自分の部屋に入ってすぐ目にしたのは。
「えっ!?」
「あ……ラロスさん」
例の[ウフフな本]をベッドの上で女の子座りして仲良く読んでいた二人の姿があった。
……ついでに言うと、以前オヤジに案内させられて入ったもう一つの入口のドアは
何故か木の板で何重も厳重に打ち付けてあった。どこから持ってきたんだこれ?ま、木の板はともかく……
「その本、面白いか?」
セミナは俺に気づくや否やなんでもないような素振りを見せているが、興味津々だったのがバレバレである。
「はい……とっても」
そしてテレアは待ちわびていたように
体をもじもじさせて嬌笑を浮かべる。
……一体彼女は俺に何を期待してると言うのだろうか。
「そうか……おい、セミナ」
「な、何よ」
「その本、面白いか?」
テレアに発した質問を同じく彼女にもする。
「まぁ……つまらなくは、ないわね」
そして澄まし顔をして髪をかきあげる。
なんでもないような素振りを見せるが、
もう一度言おう。バレバレである。
なぜなら、頬を赤く染められているからだ、
今も。
「それよりも、アンタどうやって入ったのよ? 2つも鍵かけてたのに」
鍵かけたはずなのに……と何故か悔しそうな表情を浮かべるセミナ。
補助錠までかけてたんかい。
そう思うと、“施錠解除”のスキルは
なかなか使えると思った。
使い道はろくなもんじゃねえけど。
「いや、スキルで開けたんだよ。ついでに言うとスキルでトイレの鍵も開けれるけどな」
「なッ……!!」
セミナはさらに顔を赤に染めながら睨んでくる。
「まあ……そこまでするほどデリカシーのないやつじゃないからな、俺は」
デリカシーのないやつじゃない、という部分だけ少し強めに言う。
「ぐっ……わかったわよ」
流石のセミナも、これには逆らえないのか
悔しそうにそう返事した。
「おい、ラロス」
そんな中、まだ“気配隠蔽”をかけたままの
ロエルが少々不機嫌な様子のようだ。
「この女どもは……何だ?」
「ああ、今紹介するよ」
何故不機嫌かはともかく、まだ二人には
見えていないことを忘れていた。
“レイゾーコ”は、床 ミルクはテーブルの上と言ったように置いて、俺達が入ってきたドアを閉め鍵を閉めておく。
「お前ら。喜べ」
「はぁ? 何がよ」
「あっ、もしかして……」
彼女の驚く表情を見ると、どうやら
テレアは察したようだ。
「約束守れよ、セミナ」
「ちょ……ほ、ホントに連れてきたの?」
約束守れ、と聞いて血の気が引くような顔を見せるセミナ。
やっぱり……主語の確認しておいてよかったぜ。どうだ、セミナ! 俺はやると言ったらやるやつなんだよ。
「じゃ、行くぞ」
隣にいるロエルにかかっている“気配隠蔽”を解く。解いた瞬間、彼女はまばゆい光を放ち
心地良い風を吹かせて、やがて二人の前に姿を見せる。
「「……」」
二人は目を点にしてロエルを見つめる。
「コイツは、ロエルだ。まあ……一応魔王でもある」
そんな俺の紹介の後に、彼女は声を低く発する。
「貴様らよく聞けよ」
そして、ロエルは二人を見下ろすかのような
目差しでこう言った。
「ラロスは我のものだからな、奪いでもしたら許さん」
……いや、待てロエル。
初対面のやつに言う言葉じゃねえだろそれ。
というか俺はいつからお前のものになった?
「あらまぁ、それはそれは……」
そして何故かテレアは、笑いながらロエルの前に立ち塞がる。……おっぱいとおっぱいが互いに押し付け合っていてつぶれている景色は天国モノだった。
「いくら魔王と言えど、ラロスさんは渡しません」
「ほう……憎まれ口もほどほどにしとけよ」
ゴゴゴゴ……と効果音が聞こえそうで、
二人の目と目の間には稲妻が走っているような
雰囲気だ。
「……はぁ」
二人の美少女が俺を取り合うのは
男なら嬉しい限りだが、あいにく今の俺には
それを感じさせるモノがなかった。
何故ならば。
「我はずっとラロスと一緒に暮らす。いかなる時でも。死んでもずっと一緒だ。だから諦めろ」
「重すぎですよ……そんなんじゃあラロスさんに嫌われますよ? 私なら毎夜添い寝するだけで充分なんです!」
うん、テレア。よく言った。
俺は重いの案外苦手なんだよ。ロエルはもっと気楽にする方がよっぽどいい。だがな、テレア。
添い寝も勘弁してくれ。寝る時ぐらい自由にさせろ。まあ、コイツらの自由を奪った時期があった俺が言う言葉じゃないが……
そういえば、なんでテレアはそんなに
俺の事好んでいるんだ?
「なあ、セミナ」
いがみ合っている二人を避けて、ベッドの上に座っていたセミナに近づく。
「な、何よ……胸のことなら、ナシだからね、ナシ!」
彼女は胸を守るように、腕をクロスさせて
それぞれの手を反対側の肩を掴む。
もちろん、ナシにするわけがない。
それはそうと、彼女にテレアのことを聞いてみる。
「胸のことはともかく、なんでテレアの奴俺と添い寝したいなんて言ったんだ」
「ああ」
アンタ知らなかったっけ、と小さな声を漏らした彼女はこう言った。
「なんでも、アンタから[ウフフな本]を貰ってからああなったの。ギャップに弱いのよ、テレア」
「それはつまり……」
「変態が好きな変態タイプ」
なるほど。
……なるほど。
…………なるほど。
なるほどしか言えない。
「変態はお前もだろ」
「はぁ? どこがよ」
言ってみなさいよ、と俺を挑発するセミナ。
「胸を見せるとか、[ウフフな本]を見て赤面するとかもう変態だろそれは」
「い……いや、私は変態じゃない。何言ってんの、アンタ?」
そうは言っても、
顔が引きつってるじゃないかお前。
「認めろ。お前は俺と同類なんだ」
認めよう。お前も俺も変態であると。
そんな彼女に、俺はトドメを刺した。
「アタシは認めないわ! 絶対に認めないんだから!!」
彼女は崩れた。
そしてバタッ、とベッドに仰向けに倒れた。
セミナの声にいがみ合う二人も気になったのか、こちらを見た……とさ。
つづく
次回予告
こうして、また一人女が増えて4人となった
ラロス達。次の目的はいかに────!?
面白かったら幸いです。