3-2-01 橋は掛けられた…邪魔なデブリは居ねが~? 22/9/5
20220905 加筆修正
3348文字 → 5805文字
世歴2004年12月1日
この日、(株)タウルスの宇宙開発部から驚きの公式発表がなされた。
なんと、プレアデス・アカデミーとの共同研究の成果として太平洋のド真ん中、赤道公海上に巨大建築物『軌道エレベータ』を設置するという発表だったのである。
一部の国から発せられた『眉唾だ』、『ハッタリだ』との酷評とは裏腹に主要国と一般民衆の評価はとても高いものだった。
これまで(株)タウルスの宇宙開発部から発表された情報や話題には、一度も嘘や偽りが無かった事から信頼度は絶大で、今回も人類の夢を現実にしてくれるだろうという期待の方が大きかったからである。
この発表が真実ならば、我々にも安価で安全に宇宙に出ることが可能になるかもしれないのだ。
最初は研究や実験が数年続くかもしれない、だが(株)タウルスの宇宙開発部の制作する施設であるならば軍事転用などがされる事はないだろう。
事実、中心人物であるあの少年は、武器は作らないと公言しているではないか。
まあ、実際には包丁や自動車だって凶器になり得るのは間違いないが要はそれを使用する人間の問題であるのだから仕方がないとも言える。
気狂いに刃物を握らせない様な努力は、後の人間がすることであって発明したり制作した人物の責任ではないだろう。
閑話休題
事の発端は、南極での人類対エイリアンの総力戦まで遡る。
人類軍が南極決戦に勝利した後、傷ついた総戦力を回収した仮設の南極フロート基地は、そのまま南極海を離れ、ユックリと2ヶ月をかけて太平洋上へと移動していた。
その間に武器弾薬以外の移動手段となっていた装備等は修理され、怪我した者達は手厚い治療が施されていた。
準備の整った兵士たちは、三々五々それぞれの国へと帰って行った。
中にはここに残りたいと駄々をこねる者も当然のように現れたが、取り敢えず一度国に帰れと放り出された。
南極海から移動してきたガーディアンズの仮設フロート基地が赤道上に居座って半年、その間もガーディアンズは活動を続けていた。
この仮説フロート基地についての概要などは、リフォーム中として外部への情報をすべてシャットアウトされていた。
しかし、一度ここを使ったことの有る人類軍に参加した軍関係者や当時情報を共有していた各国の政治家、特に国連がこのフロート基地を自由に使わせろと煩かったのには辟易とした。
仕方がないので次の公約を発表して黙らせることにしたのだが、逆効果だった様だ。
概ね良心的な国家などは、大人しく黙る事になったが反発する所も多数に上った。
《ここは私有地です。(株)タウルスの宇宙開発部が管理運営している施設であり軍事基地でも公共の施設でも有りません。ここ仮説フロートは、あくまでも施設の一部をガーディアンズに一時的に貸している物であります。ガーディアンズの武装等に関しては、全てUSAが責任をもって管理している物であり、人類に向けないという協定が有ってのことです。ちなみにこの協定には、ダブルスタンダードは通用しません。協定に少しでも違反した場合、全ての武装及び装備が自動的に凍結される様に最初に封印処置が成されます。これらに例外は、一切有りません。すべてを監視する監査AIが違反と決定したなら即座に凍結封印が実施されます。そして一度凍結された武装及び装備は再利用も出来ない形でカーボンシールが施されます。それでも良いというのであれば、租借地としての使用を認めるのも吝かでは有りませんが、当然家賃は高額になると認識してください》
この時、世界は少しだけ静かになった……と思ったのは俺の気の所為で……倍以上になって帰ってきた。
『横暴だ! 何様のつもりだ?』
『極東の猿は、黙って施設を差し出せ!』
『日本の帝国主義の復活だ! 賠償金を……』
『この守銭奴め!』
『馬~鹿、馬~鹿、お前の母ちゃん……』
……聞くに堪えない罵詈雑言の数々、etc.etc……。
余計に喧しくなったのは、絶対に俺のせいじゃないと思う。
コイツラ、イツカ、ドウニカシナイト……ダメダロウ……。
一々相手にすると同レベルに引きずり落とされるので、完全無視することにした。
弄ると図に乗るんだよね、コイツラ。
そして時は過ぎ、冒頭のとおり世界に向けて公式発表がされたのだ。
フロート基地のリフォーム工事の間、俺は一切の研究発表などの活動をしていなかった事から、大掛かりな計画が進行しているのではないかとの予想がされていた。
この発表に世界中の宇宙開発に携わる人々から、問い合わせが殺到した。
『一般へは、いつ頃開放されますか? 予定はありますか?』
完成しましたらそのうち、必ず開放しますのでもうしばらくお待ち下さい。
『ロケットと比べてどれくらいの大きさまでの衛星を上げられますか? 費用は?』
部品を高軌道ステーションで組上げれば良いので、打ち上げる人工衛星等に大きさの制限は特に設けておりません。
打ち上げロケットに使用されるであろう有害な燃料なども使用する必要はありません。
環境汚染の心配も無く、地球環境にクリーンな運用を予定しております。
従いまして、ロケット打ち上げの失敗などにより大切な衛星が灰に成る様なことも有りませんので非常にリスクの少ない運用が予想されています。
費用はロケット打ち上げ等と比べた場合、相対的に低下するものと予想されますがまだ基本の運用料金も決まっておりませんので現状ではまだ提示できません
『実験室を借りられますか? 住めますか? 家賃は?』
一時滞在用の宿泊施設は御用意しますが、基本的に居住は出来ません。
放射線などからの安全のためのシールドは施しますが健康にどんな影響が出るかまだ分かっておりませんので、長期滞在は推奨しません。
更に変なところに不法に潜り込まれても困るし危険ですので、無人区画は全て真空与圧されています。
研究や実験については、その規模や難易度により要相談とさせていただきます。
職員及び関係者は、センターピラーの存在するセンターアイランドに居住し通勤する予定です。
『軍事利用には、開放するのかよ?』
シねえよ!
『是非、共同開発を!』
一昨日、おいで下さい。
『完成したら売ってくれ!』
いくらで購入されるおつもりでしょうか?
大国の国家予算を数十年分積み上げられたとしてもお売りすることは出来ません。
どうせ支払えない様な事は言うだけ無駄でございます。
『俺達が使ってやるから黙って寄越せや!』
俺達とはどちらさまでしょうか? 警察に通報しました。
……マスター、こいつら消しても良いですか?……
……まーまー、そのうち掃除するから……
『人類の為に国連が管理するべきだ、そうだろう?』
妄想や願望の発言をおやめください。
碌な運用も管理も出来ないだろう組織に渡せる訳がありません。
それこそ人類の為にはならないと断言させて頂きます。
碌な国際調停も出来ない様な半端な組織が何を言っても信用できません。
現実が見えるようになったら話ぐらいは聞いてあげてもいいでしょう。
まあ、聞くだけ出すが……。
全く、世の中こんな奴らばっかかよ……無視だ、無視。
◆
軌道ステーションを配置するにあたっては、安全のために地球の周りを飛び回っているデブリなどを回収撤去または消去しなければならない。
同時に、高度400kmの低軌道に建設している国際宇宙ステーションをどうするか決めなければならない。
静止衛星軌道の通信衛星や気象衛星は、軌道がズレない限りはそのままで良いだろう。
ただし、動力を持ち攻撃力を持つ軍事衛星は、何時ぶつかって来るか分からないので消去対象である。
大体コントロールを渡せって云ったところで、聞く耳を持たないだろう。
全ての情報やその存在を隠しているスパイ衛星、それも軌道のコントロールも禄に出来ない様な半端者は、安全の為に一番最初に消えてもらうに越したことはない。
そう、俺達もこの件に関しては聞く耳を持たないのだ。
一応、予告という名の警告はしよう。
しかし、安全に係わることである限りこの件に関しての文句は一切受け付ける気はない。
多少強引で傲慢かもしれないが、文句が有るなら上まで上がってこいや!
話だけは聞いてやるよ、計画の中止はしないがな! と煽ってみた。
なんて事がガタガタと勃発しながら、時はガンガン進んでゆくのであった。
ちなみにこれらのやり取りは、全て実況付きでメディアにさらされる事になる。
一部の軍人や官僚に政治家などが、国民の税金を使って密かに設置したキラー衛星や監視衛星が白日の下にさらされる事となり、世の中は大騒ぎ。
関係していた政府関係者が少なからず責任を取らされたのは言うまでもない。
全長10万kmにも及ぶ軌道エレベータのほぼ真ん中に高軌道ステーションを置き、カウンターウエイトはアステロイドベルトから牽引してきた小惑星をバラスト代わりに設置する。
小惑星には重力コントローラーを設置し微妙なバランスをコントロールする予定だ。
極端な話だと、カウンターウエイトの小惑星を人工的に作っても良かったのだが、高重力を維持する為のエネルギーとメンテナンスをする時の利便性を考えて、アナログな部分を随所に導入する事で、コストカットと後の汎用性に余裕を持たせることにした。
今回、低軌道ステーションは設置を見送った。
その理由は、コストの割にリスクしか無いからだ。
低軌道での実験施設としての意見も出てはいたが、まず安全な施設を構築し、その後余裕を持って、追加設置するかの検討をする事に決まった。
低軌道の実験なんてものは、実験したい高度の位置に実験室を内蔵したリニアトレインを一時的に止めてやれば良いのであって、態々リスクを犯して常設のステーション建設なんてしないに越したことはないのだ。
そして、軌道エレベータの設置が発表されてからしばらく経ち、2005年9月12日(宇宙の日)の日本時間で12時丁度に、高軌道ステーションとのセンターケーブルの接続を行うと発表された。
そして、同時に注意事項として発表された内容はこの様な物だった……。
『逐一軌道エレベータの進捗状況はこちらから送信しますので、フロート基地から半径1000km以内には決して近寄らないで下さい! その瞬間、何が起きても当方は一切の責任を負いません! これは振りじゃありません。飛行機も船も潜水艦も況してやスパイ衛星なんて以ての外です』と、云っているのにもかかわらず見に来る野次馬と出歯亀たち。
今回、軌道ステーションから伸ばされた単分子ワイヤーは、高伝導性の物で一種の超電導物質である。
真空中は絶縁されているワイヤーが電離層を抜けて来る時には強烈に帯電しており、赤道基地のセンターピットに寸分違わず収まった時、それまでワイヤー全体に貯まりに貯まっていた静電気がこの時とばかりに電磁波となって放電されたのだ、これはお世辞抜きにチョッとしたECMである。
そして、忠告を無視して隠れて覗き見をしていたドローンカメラや潜水艦などもこの電磁波の影響を盛大に受ける事になった。
再三の呼びかけを無視して飛び回っていたヘリや違法船も例外ではない。
プカプカと海に浮かぶのは、動かなくなったスクラップ船、深海に沈んだ潜水艦の脱出ボート、ヘリや飛行機から脱出した救命胴衣を着た見知らぬ人々。
例外なく全ての機械が影響を受け海の藻屑と消え去った。
無線も壊れて救助も呼べない有様で漂流者続出である。
だから言わんこっちゃない、俺は知らないからな。
責任は取らないって云ってあるし……ご愁傷さまである。
しゃーない、米海軍と海上保安庁にだけは連絡しといてやるか~……。
お茶の間や街頭、職場や町の電気屋さんでは、皆んなが固唾を呑んで世紀の瞬間を見逃すまいとテレビに齧りついていた。
丁度、日本はお昼時。
この時の視聴率は、計測不能だったのは云うまでもない事実だろう。
だって全チャンネルが生放送で流していたのだ。
どうやってこの映像を取っているのか謎だが……高軌道ステーションの底部からワイヤーが放出され、画面にはどれだけの長さが繰り出たのかカウンターが刻まれていた。
別のアングルではワイヤーが空からスルスルと赤道基地にまで降りてゆく様子がリアルタイムで映されている。
やがて、ワイヤーの先端が赤道に位置するフロート基地の真ん中に空いた穴、センターピットに生き物のように入り込みガッチリと固定された瞬間『バシッ!』と、落雷のように放電現象が発生、強烈な光とその後の静寂のあと、テレビの画面には『接続成功です』の文字が浮かんでいたのだった。
その瞬間光とともに一瞬止まった時と、世界から消えた音が爆発的な歓声と共に動き出した。
至る所で万歳三唱がなされる中、踊りだす人々。
昼なのに酒を持ち出し、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎとなったのは、みなさんも予想できるだろう。
この日は、もとから『宇宙の日』(1992年国際宇宙年を記念して決められた)として日本の暦には載っていたが全世界的に『宇宙の日』としての記念日となったのは、もう少し後の話し。
◆
[カウンターウエイトの小惑星は、6つほど用意してあります]
「中央支柱の工事状況でバランスを取りながら、追加していってね。邪魔なデブリの方は、どんな状況?」
[メローペが団体で虫取りアミを振り回していますよ。大きな物はトラクタービームで捕まえてMMMトレーラー※が吸い込んでいます。あれも空を飛べたんですね]
「ワダツミを呼んでも良かったんだけど、あの子はチョとデカ過ぎるしね♪ でも、海洋ゴミの資材化が大幅に進んで随分と捗ったよ」
[肯定。海面下で見えませんが海底まで伸びるセンターピラーの基礎建設が捗ったのは、あの子のおかげでしょうね]
「取り敢えずこれで宇宙への足がかりは作ったからね、人類がこの後どんな方向に向かうのか……、高みの見物って訳にも行かないのかな~?」
[そうは問屋がおろさないってところじゃないですか? 大体こんな話をしてる段階でフラグが乱立しているのがマスタークオリティーですよね♪]
「なんじゃそりゃ~!」
[肯定。噂をすれば影と云いますが早速、ピオニーⅠ世から急報が入っております。急ぎ月のセントラル・スフィアへお集まり下さい]
「うおっ、云ってる側からなんか来た! あそこに集まれってことは、通信では済まない事態って事?」
[肯定。一大事です!]
(※MMMトレーラー = マレキュール・マテリアル・マシン・トレーラー)




