3-1-12 デレる瞬間…殲滅!宇宙ナメクジ 22/8/29
加筆修正 20220829
3988文字 → 5184文字
ここは、ルナベースの資材製造プラントの広大な一角。
ドーム球場が何個も入ってしまうような広大なスペースの真ん中を眼前に両腕を伸ばしている昴がゆっくり歩き回りながら悲鳴を上げていた。
そして、そのかかげた掌からは、シャワーのようにナノマテリアルが吹き出し、空中で各種パーツが出現し床に到達するまでには積み木が出来上がるように勝手に武装資材が組み上がってゆき、数歩歩くとまた同じ物が積み上がってゆくといった工程が繰り返されていた。
昴の後ろを無音でついて回っているオートーワーカー達が、出来上がった弾薬や資材を昴の邪魔にならないように移動し搬出口へ積み上げ運び出してゆく。
そこに響き渡るのは、昴の情けない悲鳴だけだった。
「ヒッ、ヒィ~~~;; まだ、終わらない~、どんだけ~」
[(……チョット、ハコさんハコさん……)]
[(……ンッ、どうかしましたか? セントラル……)]
[(私のセンサーに狂いがないのであれば、今この場で起きていることは『現実に正面から喧嘩を売っている』事柄であると思えるのです。まともな正気を疑われる現象ですよね?])
[(否定。いいえ、何も間違いでは有りませんよ。何かおかしな事でも起きているのですか?)]
[(イヤイヤイヤッ、おかしいでしょう! なん何ですかコレは……。目の前でマスターが今現在仕出かしてる超常現象、……説明してくださいよ!)]
[(肯定。コレは、いつもの事です。不思議でも何でも有りませんよ♪])
[(エッ、コレが普通? あれが普通のはずがないでしょう。ナノマテリアルに依る造成技術とは、その構成要素をナノマシンに依って構築してゆくものであって、こんな何も無い空間からポロポロと物が組み上がってゆく様なものでは無いはずです。100歩譲ってナノマテリアルを湯水のように垂れ流して造成空間を構築できたとしても、任意の構成要素をナノ造成するスピードが尋常では有りません。……マスターは、本当に人間、いえ生物ですか?)]
[(肯定。れっきとした人間です。ただ、かなりの部分人間としてのタガが外れていますが……)]
[(それ、どんなタガですか? これは、かなりなんてもんじゃ無いでしょう)]
[(否定。昴様は、私の外郭船をお作りになった時に、今までのナノ造成技術のネックとなっていた部分を誰に教えられることもなく独自の工夫と努力によって解决なさいました。あれは、正にブレイク・スルーと言って良い出来事でしたね。山を乗り越え現実の壁をぶち壊したのです!)]
「(アラアラアラ~♪ 最初から凄い子だとは思っていましたが、ここまで規格外だとは思っていませんでしたよ!)」
[[(これは、エンリル様!)]]
「(何かお手伝いでもしようかと現場を見に来たのですが……お邪魔の様でしたわね。それにしても昴くんのこれは……想定外だわ~♪ 私、見てるだけで濡れてきちゃった……ポッ♪)」
「(エンリル様、冗談でもその様な事を仰るものでは有りません。確かにマスターは規格外ですが……)」
「(そんな事いったってセントラル。感じてきちゃったんですもの、仕方有りませんわ! 今からでも生身の体を再構成してもらおうかしら……)」
[(肯定。マスターは、こうやって必死になっているところを満遍なく愛でるのが良いんですよ♪ ヒィーヒィー云いながらも困難を乗り越え、最後には結果を遥か彼方にウッチャって事を丸く納めてしまう。そして、其の度に大きく成長して逝かれるのです♪)]
[(それは、字が違うような気が……)](変態だ! 変態がいる。それも2人)
「ヒィ~~;;、そんな所でヒソヒソ内緒話してないで手伝ってよ~~~!」
[ああっ、はいはい。そんな泣かないで……マスターは、男でしょう。歯を食いしばってください。後、一頑張りですよ!!]
(ハコは、相変わらず厳しいですね。でも、ほんとうに後一頑張りで50万発に手が届きますよ。イヤハヤ、何なんでしょう? この生物!)
「セントラル~、キビシーよ~」
[(……これは、何かしら? 私までドキッドキッしてきちゃったわ♪)]
[(肯定。ふむ、貴方も感染しましたね。おめでとうございます……)]
「(アラアラアラ♪ お仲間が増えたのかしら~!)」
……出目だ! 誰か、どうにかしてくれ……
◆
「敵集団、全然途切れないよ~! ああっもう! 信じらんない、もう弾ぎれよ。 兎に角主砲釣瓶撃ちしながら後退! 何なのよこいつら?」
「敵でしょ? 敵! グズグズしてないで今はべースまで戻るよ!」
「了~解!」
「イヤ~♪ それにしても凄っごい迫力! 臨場感も最~高! これ、ホントにVR?」
「ほんとだね~♪ チョット息抜きのつもりで始めたゲームに、まさかここまでハマるとは思わなかったよ。これ作った人、天才!」
「たしか、あのメガフロート作った人だよね? 今、生徒会長なんでしょ? まだ14歳だってよ。びっくりだよね!」
「うんうん!」
「もう来月分の食費まで稼いだかも! これほんとにリアルマネーにしたらいくらくらい放出してるんだろうね? 彼、凄いお金持ち? お嫁に行きたいかも!」
「何でも、今話題の水素発電ユニットも彼の発明らしいよ。今は、家とメガフロートを豪華クルーザーで行ったり来たりしてるんだって、セレブ~♪」
「イヤイヤ、真面目にタウルスに就職考えようよ。私達、もう就活始めてないと駄目じゃん……」
「ウッ、それを今云う? 兎に角このイベントで稼げるだけ稼ぐよ! みんな、良い?」
「「「「ラジャー♪」」」」
参加しているみんなは、これが現実に太陽系外縁で宇宙戦争をしているんだとは、これっぽっちも思っておらず、ゲームのボーナスイベントだと思っている様子である。
まあVRだからこそ、これだけ効率よく艦隊運用が出来ているんですけどね。
これが、現実で戦争していたとしたら恐怖とプレッシャーと戦闘疲労でこんな連続戦闘は絶対に無理でしょう。
それだけじゃなくても、現在は敵に物量で負けてるんですから……。
実情は、勢いと継戦能力で何とか拮抗している状態です。
少しくらい過剰なボーナスを出してもバチは当たらないでしょう?
戦闘が始まってから3日3晩続いた防衛戦は、この時唐突に終わりを告げた。
最後の敵、攻めて来ていた宇宙ナメクジを完全に駆逐したのだ。
みんな、目の下にクマを作りながら頑張った!
参加した者達の部屋のテーブルの上には、栄養剤やコンビニ弁当のゴミが積み上がっている。
知らないだろうけれど君たちは、本当に太陽系を守り抜いたのだ!
『コングラッチュレーション♪ 特設ボーナスイベントが無事にクリアされました!!! ラストアタックを引き当てた君には、10万ポイントを進呈しましょう! 参加してくれたみなさん、ありがとうございます♪ 参加賞として5000ポイント✕参加日を漏れなく追加進呈いたします! 喜べ~♪』
ワ~~ワ~~ワ~~♪ バンザーイ!
ケラエノさん、デートして~!
終わった~、サ~寝るぞ~! おやすみなさ~い♪
お疲れさま~、私も・俺も寝るぞ~!!!
こうして地球の防衛は、大多数の地球人類の知らない処で終了するのでした。
チャンチャン♪
◆
[バクーン。あの惑星だけど、どう思う?]
「う~ん、多分当たりかな~。スキャンの結果は~? 間違いないかな~、他の星は~ダミーか~補給基地ってとこじゃな~い?」
[もうあの星は、コアまで侵食が進んでいますね。自重を支えられなくなって崩壊するまでそう遠くはないですね]
「それで~、他に美味しそうな星を~探してたんじゃな~いかな~。……前に~この辺に来たのって~何時頃だっけ~?」
[ウ~ン、こっちは銀河中央からみて太陽系の更に外側ですからね、見回ったのは5000年くらい前かしら。その頃は、今みたいなスパイ衛星も探査プローブも使ってなかったし、監視体制はザルだったのよね♪]
「……もしかして~……これって、僕らのせい?」
[それは、微妙な問題ですね。私一隻でこの広大な宇宙を管理するのなんて土台無理な話ですからね。問題が起きたから責任取れなんて言われても困っちゃうでしょ? あまり気にしても仕方がありませんから、サッサと仕事終わらせて帰りましょ!]
「うん、そうだよね~♪」
『いい加減にしてそろそろ敵に止め刺してもらえないかしら? 飽和攻撃受けてるこっちは、もうそろそろ飽きてきたし壁になってるだけでも結構しんどいんだけど……』
サーベイヤーⅠ世は、ラーフⅡ世の張るシールドと縦横無尽に攻撃と防御を繰り返す大量のフェザーに隠れ、敵勢力の精密サーチを続けていた。
[ごめんごめん。囮頼んじゃってありがとね! お陰で敵の中枢部を確認できたよ]
『了解。それじゃ露払いは任せなさい! 早いところ終わらせて帰りましょう』
ラーフは、言うが早いかシールド補強用のフェザーを残し今まで勝手に飛び回って確固迎撃していた大量のフェザー達を数十のグループに寄せ集め、今までのような細い砲撃でなく数十の巨大なビームの束でもって目ぼしい敵を薙ぎ払った。
現在、ラーフの装備するフェザーの総数は、既に万に届くまでに膨れ上がっている。
今まで目の前を塞いでいた敵が一掃され、敵主星と思われる星が丸見えとなった。
それにしてもなんて数だろう、推定数億は下らないんじゃないだろうか。
[プラネットバスターを使うわ! 発射と同時に位相空間に退避して! タイミングを合わせて、いいわね?]
『了解! 全力一斉射後に全フェザーは亜空間ドックに帰還、シールドも全開よ、発射!』
2度めのラーフの全力射撃により、2隻の周囲に居た敵はその殆どが消滅した。
射撃を終了したフェザーは、霞のように空間に溶けて消えて行き、ラーフも位相空間に消えていった。
『フェザー全機、回収完了! 位相空間へ転移完了! 今!』
[プラネットバスター起動! 目標、敵惑星中枢部……ロックオン・発射! 位相空間へ転移開始!]
2隻が忽然とその宙域から姿を消した直後、目標の惑星が中心から裂けて一気に吹き飛んだ。
星を守るように群がっていた残存敵部隊は、惑星の消滅に巻き込まれ、その殆どが共に消滅したのだった。
・
・
「やっと、終わった~?」
[後は生き残りが居ないか、探査プローブをバラ撒きながら帰るだけね。それはラーフにお願いしていいかしら? あなたの方が足が速いし小回りが利くでしょ]
『任された! 手に負えないのが出たらまた宜しく~!』
[了解。……こちらサーベイヤーⅠ世。ルナベース、こっちは終わったわよ……]
『……こちらルナベース。アルキオネです。敵中枢への殲滅任務、お疲れさまでした。ハイ、いまデータを受け取りました。こちらは現在防衛戦3日目、先程一瞬敵の攻撃が止まりましたので、敵中枢とのリンクが切れたものと思われます。散発的な攻撃で纏まりが無くなってきましたので、こちらの残敵の掃除も程なく終了する物と思われます』
[後はラーフに任せて、私達は先に帰還するわね]
『ア~、今はお帰りに成らないほうが宜しいのでは無いでしょうか……。昨日、昴様が泣きながらデスマーチ中に何かセントラルに吹き込んでいましたよ。その後から、セントラルが嬉々としてバクーン様のお帰りを手薬練引いて待っていますから、お戻りの際はお覚悟が必要かと……』
[ウワ~そう来たか~。悪い予想が現実になりそうね~~。どうする? バクーン]
「エッ? エッ? エエエ~~?、そんな~……」
[それで、昴くんのデスマーチってどういう事?]
『今回、どの様に計算しても敵に物量で押し切られる事が分かりましたので、昴様が一発必中の特殊弾頭を開発いたしました。素晴らしいお方です♪』
「凄いね~! さすが昴くん」
[……何となく予想できたかも……。昴くん、その特殊弾頭を馬車馬のように作らされたんでしょ?]
「エッ! なんで?」
『正解です。およそ50万発ほどを……一人で。我々もお手伝いはしたのですが……』
[昴くんが一人で作ったほうが早かったか~、そうでしょ?]
『ご推察の通り! もう、あの光景は神がかっておりました♪』
[これは、……私はどうでもバクーンは今ルナベースに帰ったら不味いかもしれないわね。貴方が月に残って昴くんのお手伝いしてれば少しは立場も良かったんだろうけれど、ピクニック気分でこっちに着いて来たじゃない?]
「それは、……だって~さ~、久しぶりの~お仕事だったから~」
[でも貴方、私に乗ってるだけで実際には何か仕事してるって言うより観光に来てるのとあんまり変わんないじゃない?]
「僕は、艦長なの! 君のマスター!」
『ま~、熱りが冷めるまで現地調査でも如何ですか? 今回の侵略で全てが終わりとは限りません。今までサボっていた分の仕事を、少し真面目になさってみては如何でしょう?』
「トホホホホ~;;」
[これは、自業自得? 身から出た錆ってところじゃないかしら~]
仕方ない、付き合うしか無いでしょう。
銀河の辺境を一周りしてから帰りましょうかね……。




