3-1-08 VR…その可能性 22/6/25
20220625加筆修正
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現在、プレアデスアークⅡ世の船長はキャプテンで、副船長はマギーさんである。
俺も15になったら船舶免許取ろうかな……。
と、いう事でVRで船の操船を習う事になったのですが、……これは違~う!
[前方に敵艦5、面舵いっぱい、左舷光子魚雷テェーィ!]<=タイゲタ
「面舵一杯、ヨーソロー!」<=俺
「光子魚雷、雷数5、発射……全弾命中」<=銀河
[左舷前方に敵集団、陽電子砲1番、2番撃ちカータ始め、両舷全速、当たるなよ!]
「両舷全速、ヨーソロー!」
「主砲発射なのじゃ! オラオラオラッなのじゃ~」<=シャシ姫
「天頂方向に敵艦7です」<=ラクシュ姫
[上部ミサイル・テェーィ!]
「1番から8番ミサイル発射します、……命中」<=聖
[艦載機順次発艦! 対空監視~怠るな~]
『こちら、サンダーバード 出るぞ~!』<=キャプテン
[雷鳥各機は、艦後方の敵機に当たれ~!]
『サンダーバード了解!』
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何で俺は、宇宙戦艦の操舵主をやらされてるんだろうか?
この前、戦闘機の操縦をキャプテンに習っていたら、タイゲタが乱入してきて全員あっという間に落とされた。
ここでキャプテンに火が付いてしまったのでした。
今では昔の勘が戻ってきたらしく、連日戦闘機のエースパイロットをしているのでした、VRだけどね。
何故か始まってしまった地球防衛軍というVRゲームに、ほぼ全員がハマってしまったのでした。
現在、VRに接続できる人員はおよそ7000人、ゲーム内のNPCは、全てシスターズとエクストラNOが務め、実際に使える艦船等の装備をデータ化した物が使われています。
これがどういった意味を持つのか、ハコ曰く、『戦うための人員が、近いうちに少なからず必要になります、今のうちに鍛えておきましょう』と、云うのです。
いま存在するハコ艦隊は、ハコ達管制AIにより制御された無人艦隊です。
でも承認を受けたVR接続したメンバーは、その制御を肩代わりすることが出来るというのです。
ただし、リアルタイムで接続出来るのはせいぜいが太陽系外縁のカイパーベルト周辺までで、それ以遠になる場合は、ハコ達に乗り込んでそこからの制御になるそうです。
そしてこれは、VRロボットによる遠隔操作作業の応用でも有ります。
危険な場所での遠隔作業を可能とし、事故現場での二次被害を減らし、戦場では実際の死傷者が居なくなります。
ある意味究極の兵器にもなりうる技術ですが、先に述べたメリットが大きな要因である以上一概に排除する事は、ただ単に選択肢を減らしているだけという結果に結びつきます。
使うのが人間で有る限り、便利な道具にも命を奪う兵器にもなりえるのです。
ハコ達には、ロボット三原則なんて有りません。
人殺しや人類抹殺なんて簡単に行なえてしまえる訳で、当然証拠を残すような事も多分無いでしょう。
基本的に俺が嫌がるからやらないのと、非効率だからだそうです。
ただし、あまりに敵対的だったり、それこそ生かしておくほうが非効率だった場合は、保証できません。
彼女達は、確かに作られた存在かも知れませんが、俺達が作ったわけでは有りませんから、人間の常識や都合で原則を押し付けるのは間違っていますし多分笑って無視するでしょう。
俺達だって過去に作られた存在だと言われ、その創造主から勝手な生殺与奪をされたら抵抗するでしょう。
俺は、確かに彼女達を作った種族の生き残りかも知れませんが、それが何の理由になるのでしょうか。
同じ存在のサーベイヤーやラーフ、それにロータスやピオニーに至ってはパートナーとその仲間、そして自分の存在を脅かす存在に対しては最悪、その抹殺や殲滅に踏み切る場合も有ると俺は思っています。
だからこそ、彼女達には速やかに逃げられるだけの足を用意しました。
彼女達には変なプライドがありませんから、何が一番効率的であり、面倒な場合は取り敢えず逃げ出す事が一番良い結果に繋がることを学んで居ると思っています。
伊達にコア同士のデータリンクを推奨している訳では有りません。
自分が生き残って情報を持ち帰ることが、如何に重要な事であるかをです。
彼女達が何を感じ、今を生きているのか俺には分からないけれど、どうも最近俺も戦艦乗りしてて毒されて来たような気がします。
最近はかなり過激な思考が当たり前になってるな~とは、我ながら思っていたんです。
俺がストッパーに成らないと……な~。
[中央突破、ぶつける気で突っ込め!]
「全速前進、ヨーソロー!」
[全武装解除、ぶっ放せ!!!]
「「「「「了解!」」」」」
……駄目だこりゃ……。
この時は、誰も気にせずにゲームを楽しんでいたのでした。
◆
VRの特色として最大のメリットは何だろう?
と、云えばそれは人種に差異に係わらず言葉が通じるということに尽きると思います。
特に、専門用語の多い化学技術や研究において、その恩恵は計り知れないのでした。
同じ実験一つにしても、卓上の数値データでは表現しきれない感触やニュアンスと云う物が必ずといって出てくるもので、これが国際的な学会や論文の発表ともなると顕著な差となって現れる場合があるのでした。
日本語に方言が有るように、英語にもフランス語にも方言やスラングがあるんだよね。
専門用語が共通だとしても、いざ会話となると知識と慣れが必要なのは当たり前の事だったりする訳で。
しかしこれがVR空間内では、自国語を話せば完全に翻訳されて相手に言葉が通じるんだよね。
バベルの塔が出来るまでは、人類の言葉は一つだったらしいじゃないですか。
マルドゥークがバベルの塔を作り、強力な洗脳波を使用したことで、人々は言葉が通じなく成り互いに相争うようになったと聞きます。
聖書には、バベルの塔を作った人類に神が怒り、人から言葉を奪ったとされているけど、真実は全くの逆だったんだよね。
神と名乗っていたマルドゥークに言葉が奪われたと云う事が真実で有ったとしてもです。
とにかくVRに依って言葉の垣根が取り払えると云う事に気付いた研究者たちは、独自のネットワークで情報を広げ始めたのでした。
最初は、親しい者達のやり取りから始まり、段々と同じ研究をする仲間へ、やがて留学などではないVRを使って国境を越えた学問の徒として広がっていく事になったのです。
いや、最初にハミルトン博士からこの話をされた時は、どうしようかと迷ったんだよね。
そう、彼のゼミの子達は、世界中から集まっていたから、アッと言う間にVRに馴染んだらしいんだよね。
これは、世界中の研究者へ広く知らしめ、やがて全人類で共有したほうが良いと云われちゃった訳ですよ。
確かに意味の通じない場合に『言葉の壁』という言い回しが有るくらいで、言葉が通じない事から殺し合いや戦争になる事も有ったくらいの事は俺にも分かります。
ただし、ここに政治や国が介入するとややこしい事になるんだよね。
文字通り『言葉の壁』は、民族の壁、国の壁、情報の壁であると云う事で、知られたくない事情や情報、他国の学問などを知られると不味い場合もあるはずなのです。
豊かな世界の情報など自国民には知らされず、自国に都合の良い情報で教育する事で、洗脳にも似た知識を植え付ける。
自分達に不利な情報は、国民には一切知らせる事のない独裁政権などなど。
世界には、必要な当たり前の筈の知識を与えられず、家畜のように暮らす人達もまだまだ残されています。
そういった独裁者や国家、一部の支配者層から見ると、これは害悪以外の何物でも無いでしょ。
そういった者達からはVRに依る意思の疎通という物は、絶対に妨害される事が目に見えているのです。
そこで、秘密裏に世界各地の高名な学者や研究者にコンタクトを取り、同士・仲間・友、呼び方は色々あるけれど、我らの意思に賛同頂ける方にブレスレットを密かにお渡しすることにしました。
ブレスレットでの通信やVR空間でのやり取りは、第三者や邪魔する奴らには察知されることが無いからです。
こうして、着々とハミルトン博士を筆頭に世界中の頭脳が集結する事になったのでした。
『何を云っているんだい、君が盟主になるんだよ! 当たり前だろう』
エ~、メンドク…サ……ィ……、ハイハイ分かりましたよ。
やればいいんでしょ。
◆
『リアルマネートレード』という言葉があるよね。
それはネット上の架空の情報や物品を現金に変える事であり、逆にネットゲーム内のお金やレアアイテムなどを現金でやり取りする場合に良く使用されて、ゲーム管理会社からは厳しく禁止されている場合が多いと思う。
しかし、VR地球防衛軍ではその功績や新戦略の開発、兵器のアイディアなどにUポイントと言う形で還元されるんだ。
このUポイント、メガフロートやルナベースは元より木星の反物質生成ステーションでも使える。
そして、(株)タウルスの化粧品シリーズのほか、これから販売される物の支払いにも使えるという優れモノで、最大の利点はメガフロートで消費されている保存食等の通信販売にも利用できる点だった。
この保存食、現金では買えない品物で、現在メガフロート内部と送迎のフェリー以外で利用されているのは、海上自衛隊・海上保安庁・アメリカ海軍ぐらいで、実はルナベースや木星の反物質生成ステーションでも使用している。
駐留している阿修羅族やデーヴァ族にも評判がよく、交代に訪れる艦隊が大量に購入していたりするんだ。
軍のレーションてどこもあんまりおいしくないみたいなんだよね。
保存性が第一だから仕方ないのかもしれないんだけど、もう少し気にしてもいいんじゃないだろうか。
さすが日本人というところか自衛隊の野戦食は美味しいらしい……。
メガフロートに一度でも行った事の有る者達は、皆またあの食事が取れないものかと再度のメガフロートツアーに申し込む者まで居る始末。
基本的にメガフロートで消費され購入できる物品は、このUポイントで購入できるのである。
Uポイントを使える者は、何処に居てもメガフロートのアイテムを利用消費出来る事になるのだ。
しかし当然の様に現れるのが、このUポイントを投資目的で運用しようとする者達だ。
ポイントのレートは、それぞれメガフロートアイテムの相場に依り上下するらしい。
このUポイント、結構な頻度で稼ぎ出している方達が居る。
うちの年寄りメカニック達だ。
ハコとアルキオネを中心に、トンデモ兵器やアイディアを湯水の様に垂れ流し、VR地球防衛軍で披露してはUポイントを稼ぎ出している……らしい。
本人たちは、知っているのだろうか?
それら数々の珍品や発明品が、実際にセバスチャンの所で密かに造られており実戦配備を待っている事に……。




