2-5-03 湧いて出たのは?…ヒュアデスの活躍 22/2/3
20220203 加筆修正
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エイリアンからの直接の手紙に世界が震撼する中、誰しもやらかすだろうと予想していたあの国よりもなんと先に主導権を取ったのはアメリカ合衆国だった。
2年前に起きたアメリカ同時多発テロ事件の傷跡はまだ深く残っており、国家を挙げての復興をも度外視してテロリストへの報復に舵が切られようとしていた、これはそんな矢先の出来事である。
副大統領並びに軍部の報復推進派は、寝耳に水でこれまでのお膳立てがすべて水泡と消えようとしていたのだった。
大統領は失墜したUSAの威信を取り戻すためにも、エイリアンに対してUSAが人類の先頭に立って対処する旨の発表をしたのである……そう、発表しちゃったのである!
この時まで、何処の国も団体も公式発表を差し控えていた極秘情報を、何処よりも早く公に認めちゃったのだ。
世の中はもう大混乱!
これまで牽制しあっていた国々は『なんだそりゃ?』と、この急展開に悲鳴をあげた。
人類の代表となるのは、我が民族こそが相応しいと阿鼻叫喚の外交合戦が勃発!
民間では待ってましたとばかりにエイリアン熱に拍車が掛かり、空前のUFOブームが起こった。
かたやあれだけ揉めに揉めてようやく纏まりかけていた国連主導のエイリアン対策会議も、このUSAの公式発表が原因で一気に吹っ飛んでしまったのだった。
各国外交部は影に隠れて行っていた事を公に晒し、スポークスマンは他国に対し我先にと賛同と協力、反発と主導権争いの宣伝合戦に血道を上げはじめた。
国連の言うことなんかどこ吹く風、勝手に色々と暴走を始める始末。
コレまで牽制しあって控えていた月探査ロケット計画を勝手に推進し、月に向けて電波を飛ばし通信を試み、挙句の果てに巨大な地上絵や夜空に向かって輝く巨大なネオンサインまで出現するに至った。
そして、ここで動き出したのは人類だけではなかった……。
◆
「イヤ~、地球人類って面白いよね~。見ててあきないっていうか、次に何を始めるか楽しみ~♪」
[バクーン、楽しいのは分かるけど見てるだけにして下さいね。いま地球に手を出すと折角みんなで用意しているお膳立てが台無しになりますからね。叱られても私は助けませんよ]
「エ~、そんな事言わないでよサーベイヤ~……。大丈夫! こう見えても僕は我慢出来る良い子だからね」
『どの口からそんな言葉が出てくるんですか? 今日のノルマはまだ終わっていませんよ。さあ、休憩は程々にして働きなさい!』
「セントラル~……」
[ハイハイ休憩終わり! 次の区画に行きますよ、バクーン]
『まったく、バクーンにも困ったものです。決められたノルマを果たせば好きな事をしても良いと言っているのにサボる事しか考えていないのですから。だいたいバクーンなら熟すのに2時間ほどのノルマしか与えていないというのに……』
[バクーンの怠け癖は、私とコンビを組んだ時からですからね。もう直しようが無いと思いますよ]
『サーベイヤー、あなたが甘やかすからいけないのですよ』
[うあっ、やぶ蛇だった!]
[黄龍様、少々宜しいでしょうか?]
『どうかしましたか? 青龍。急用ですか』
[はい、先程から受信しております地球からの電波の中に、銀河連合公式通信用のマイクロ波が紛れ込んでおります。如何対処いたしましょう?]
『フム……、それで通信の内容は?』
[どうも発信者は複数に及ぶようで要領を得ません。会談を申し込む者、出て行けと罵詈雑言を並べる者、先住権を主張している者、挙げ句に宣戦布告する者まで現れております……]
『ホウッ、宣戦布告ですか♪ 「受けて立つから月まで来い! byサーベイヤー」と返事してやりなさい。他の通信にも平文で「月にて会談の用意あり、訪ねて来られたし。by太陽系の管理人」と返事しておきなさい』
[ハッ、畏まりました]
[フ~ン、いつの間にか入り込んでいる者達が随分と居たみたいですね。8割方は我々の知らない連中だわ……海賊か他の惑星の難民かしら……。アラッ、こいつお尋ね者だわ! こんな所に潜り込んでいたのね]
『サーベイヤー、あなた達がキチンと管理していないからこういう事になっているんじゃないのかしら? 一応先住権を認められて移民した種族も居たはずだから、キッチリと区別して対処しなさい。面倒だからってまとめて灰にしたりしたらバクーンはともかく、マスター昴には泣かれるわよ……』
[へーい! 了解しました、姉さん。もう、しょうが無いな~。一仕事しますか~……]
このあと、サーベイヤーは単身(船だけど)月軌道上にデンっと居座って、喧嘩を売ってきた奴らを片っ端から殲滅した。
会談を求めてきた者達は、ルナベースのセントラルの所へ通すという事を繰り返していました。
そしてこの一連の遣り取りは、地球の天文台や軍でも確認されていたようで、調子に乗って手を出そうとしていた国々は自分達がやろうとしていた事に今更ながらに震え上がったのでした。
そして一斉にアメリカ合衆国に各国から連絡が入る事となり、全面的な賛同が表明されたのでした。
小心者が怖気づいて足並みが揃う辺り、地球人は良い性格をしているとこれらのやり取りを月から眺めるセントラルに苦笑されているとも知らずに……。
◆
時は、少しばかり遡る事に成る。
アメリカの公式発表の少し前にネバダ州のエリア51では、怪しげな物体が地表に出ようとしていた。
そしてそれを阻止しようと奮戦しているカラフルな格好の兵士達の姿がちらほらと目についていた……兵士にしては可笑しな格好だが。
ここは、ネバダ州グルーム・レイク空軍基地、一般的な通り名はエリア51。
ここでは、いま正にSF映画を地で征く光景が再現されようとしていたのだ。
皆さん、知っている方も多数居ると思うが、エリア51といったらグレイやUFOの特集記事には必ずと言っていいほど登場する名物基地であり、ある意味メジャーな場所である。
SF雑誌や空想映画にUFO番組などには風物詩のように話題には上る場所だが、誰も本気にしていない事でも有名で、実際に現大統領も本気にはしていなかった。
しかし、先日のエイリアンメールによって刺激された政府は、過去の資料や研究データを洗い直し、現在どうなっているのかを確認するに居たったのだった。
そうしたら、出てくる出てくる続々と……。
胡散臭い資料の山のオンパレードと来たもんだ。
ほんとに出てきた墜落したらしいUFOの残骸や未確認生物の標本、得体の知れない実験や研究論文。
そして未だにそこに篭もって研究を続けているマッドサイエンティストの存在に……気がついちゃったのである。
この事実に、早速動いたのはNSA(アメリカ国家安全保障局)の精鋭、7人のエージェント達が向かった。
急ぎペンタゴンの指示で現地に赴いたまでは良かった。
基地の地下に突入した5人は、連絡を断ったまま戻らなかったのである。
この異様な事態に、地上に待機していたエージェント2名は突入を断念、ヒュアデスに指示を仰いだのだ。
直ぐに出された命令は『離れて待機、刺激せず援軍を待て!』だった。
ヒュアデスは、急ぎメガフロート出向中のマック・ライオット中尉以下10名に連絡し救援を求めた。
テストパイロットとは名ばかりの、自称ヒーロー予備軍にである。
その後、消息を断っていた5名のエージェントと基地の兵士達が地上にぞろぞろと現れたのは、彼等が消息を断ってから36時間後の事だった。
その容姿は無残に変容していた、改造を施されらしい肌色は灰色がかったミドリ色に変わり手足の長さもチグハグ、其の目に白目の部分は無かった。
どう見ても人では無くなっている事が見て取れる。
そして滑走路の一部が轟音とともに開き、地下の格納庫から現れたのは巨大な生物的な何かだった。
這いずるように格納庫から姿を見せたその巨大な生物にも歪なUFOにも見える物体は、少し宙に浮き上がり今にも飛び立とうとしている様に見えた。
さほど遠くない丘の陰には、其の様子をテレスコープ備え付けのカメラで撮影しながら『増援は未だか? 奴ら逃げちまうぞ!』と無線に怒鳴りちらすエージェントAと横で青くなってガタガタと震えるエージェントBの姿があった。
突然、無線から聞こえた指令『目を瞑れ!』に、2人は頭を抱えて退避行動をとった。
ヒュンヒュンと頭上を飛んでゆく後方からのグレネードの雨が、今にも空へ飛び立とうとしていた生物的なUFOに突き刺さって炸裂した。
閃光と爆煙、轟く炸裂音を掻き消すように鳴り響くのはワーグナーの『ワルキューレの騎行』である。
派手な音楽のする方に目を向けると、武装した3台のトライクと2台の装甲車、そしてその後方から巨大なトレーラーがグレネードやミサイルを発射しながらこちらに爆走してくるではないか。
発射された弾薬はすべてエージェントABの頭上を越え、基地の滑走路上に存在する物体と周辺の基地施設に降り注いでいる。
程なく、エージェントABの目の前にトレーラーが停車、他の車輌は攻撃を続けながら走り去っていった。
プシューとエアーの抜ける音とともに、目の前のトレーラーから降りて来たのは、目にも鮮やかなピジョンブラッドのコスチュームを纏った女性だ……と思う。
ヘルメットで顔は見えないが体つきから女性だろうと分かる。
「あんた達は?」
『怪我は無いかしら? 騎兵隊の参上よ。とにかくこれに乗って!』
と、掛けられた鈴のような声とともに引きずられる様にトレーラーに乗ると、そこはスペースシャトルのコックピットにも見える狭い司令室だった。
そして何処からともなく……響く声……。
[2人は無事なようですね。遊ばせておくのも勿体無いですから、通信士とコパイの席に着きなさい!]
『ヒュアデス、この後は?』
[まだ敵性存在の殲滅が未確認です。攻撃を継続してください]
パイロットシートに飛び込みながらヒュアデスに確認をとる血のように赤い色の女性?
『イエス、マム! 隊長達は……絶賛バトル継続中ね』
会話の声から赤い女性の正体に気がついたエージェントBがたずねた。
「お前…アウラか? 日本にテストパイロット要員で出向したはずだよな……」
『そそ、皆んな来てるわよ! 隊長はマック・ライオット中尉だし♪』
『聞こえてるぞルビー! 作戦中はコードネームで呼べと言っているだろう』
『アイアイ、レッド。エージェント2人は保護完了! 未だ敵は生きている模様、攻撃を継続されたし。どうぞ~♪』
『レッド了解! 野郎~ども、聞いたな! 一匹も逃がすんじゃね~ぞ』
『『『『『『『『ラジャー!』』』』』』』』
次々と基地の地下から湧いて来る小型の兵士級生物を バッタバッタと倒しているレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ブラック、パープル、ホワイトの7人。
サファイヤとアメジストは装甲車から重火器を撃ちまくっている。
『こっちも援護するわよ』
[地下格納庫へのミサイル攻撃を推奨します。高エネルギー反応を探知しました。地下に親玉が存在すると予想されます。目標の座標を入力します、完了]
『誘導型バンカーバスター1番、2番発射!』
トレーラーの上部ミサイルサイトから発射された2発のミサイルは、一度大きく上空に飛び上がり反転、指定された座標へ誘導され地下格納庫に同時に突き刺さった。
途端に小規模な地震が発生し、地中から黄色い液体の様な物が噴き上げられた。
……ギィィィヤァァァァ~~!!!……
突然、頭に直接響き渡る悲鳴と頭痛に、其の場に居た全員が顔を顰め蹲った。
『なにこれ、洒落になんないyo-……』と悲鳴を上げるルビーに、
[苦し紛れの精神攻撃です。全員スーツのサイコシールドをオンにして戦闘を続行してください。ここが正念場ですよ]
『『『『『『『『『『ラジャー!』』』』』』』』』』
全員ヘルメットサイドをポンっと叩くと、再び戦い出すのだった。
「「あの~……俺たちは?」」
[あなた達はしばらく我慢してください、寝てても良いですよ]
「「そっ、そんな~……」」
涙目で止まぬ頭痛に頭を抱え悲鳴をあげるエージェントAとB。
10人の騎兵隊、彼等の奮戦により地上に出てきたモンスターはまもなく駆逐された。
そして、基地の地下深くに巣食っていたモンスターの親玉は、根を張り基地と一体化していた様だ。
トドメを刺された後、時を置かずに自壊を始めた。
ひどい腐敗臭と金属の錆びた匂いを撒き散らす残骸から出てきた物は、調査の結果から改造された人間と未確認生物のクローン体に依る乗っ取りだった事が判明した。
基地に残されていた研究ログから分かった事は、墜落したと見られるUFOを解析して研究していた事実だった。
研究者は、回収された死亡した未確認生物とその乗り物とおぼしき物体を研究する内、乗り物の動力がかろうじて生きていたらしく時間を掛ければ自己修復するらしい事までは分かった。
そして、マッドサイエンティストの行き着くところは一つ、「再びこれを動かしたい」という処へ行き着いてしまったらしい。
乗り物のシステムは有機的で現代科学ではほとんど理解できなかった。
詳しい事を死亡した未確認生物に聞くわけにも行かない。
研究するうちに、遺伝子的に人間と交配が可能なのではと考えた研究者が、未確認生物のクローンに手を出してしまった。
自動的に修復されようとしている機体の有機体部分の培養にまで手を出した時点で、この基地の人間は何かがオカシイと誰も思わなく成っていたらしいことが研究日誌と研究ログから判明した。
そう、この時点ですでに洗脳は始まっており、良いようにシステムの修復と培養、そして侵略者の養分にされて行ったと見られる。
幸いな事にエリア51の近傍に人家は無く、精神攻撃の直接被害を受けた者は確認されなかった。
しかし、この戦闘時に発生したサイコノイズは、地球圏全てに響く事になった。
これが後に重大な問題の切っ掛けとなる出来事だったことは、まだ誰も気がついていない。
僅かにでもテレパシー能力の有る者は、理由の分からない目眩や頭痛に吐き気を感じ、在る者は悪夢に目を覚まし、感受性の高い者には倒れる者も続出した。
症状はおよそ30分ほどの間、敵性存在が死に絶えるまで続いたのだが、これが後に別の問題を引き起こす事に成るとは、この時は誰も予想だにしなかったのだ。
◆
「それで、ネバダに現れたあれはいったい何だったの?」
[否定。まだ確認は出来ていません、けれど多分惑星開発用の自己修復型プローブの一種だと思われます。何処の星系の物かまでは、現在まだ分かりませんが 昔の天の川銀河連合には存在しなかったタイプです。ここがバクーンの縄張りだと知っている者ならば、あんな物は送り付けてこないと思われます。あのまま放置してたら後数年で、アメリカはナメクジみたいな物に蹂躙されていたでしょう]
[ゲッ~、想像もしたくない……]
[肯定。詳しく調べた処、残骸の中から希少元素の抽出をしていたらしい器官と電子頭脳とおぼしき器官の残骸が発見されていました。そこに記録されていたデータは読み取れませんでしたが、十中八九間違いないでしょう]
「姿なき侵略者か~、他にもまだ居そうだよね」
[肯定。……]
図らずも、我々がそうなりつつ有るのですがマスターはその事実に気がついていませんね。
◆
アメリカ大統領は、知らされた現実を最初は出来の悪いジョークだと苦笑し、それが真実だと認識するにつれて頭を抱える事になった。
グルーム・レイク空軍基地での出来事を記録したレポートとにらめっこをしながら、報告をあげてきたNSA長官に一字一句間違いはないのかと問いただした。
そのレポートの内容は、未確認生物に依る地球侵略の概要と予測される今後の被害、速やかな対策に言及したものであった。
当初、何かの事故で墜落して回収されたように見えるUFOだが、ワザと回収されるように仕組まれた巧妙な罠では無かったのか?
その報告書には最悪の予想が記されていたのだった。
「中将、このレポートは事実なのかね? 私には一昔前のサイエンスフィクションだと説明されたほうが説得力が有るように思うんだが?」
「大統領、残念ながら全て事実です。レポートを作成したヒュアデスのサインも有りますよ。彼女が今まで我々に嘘を吐いたことがありますか?(まあ、全てを語っているかどうかは定かではありませんがね……)」
「こんな事、どう国民に説明したらいいんだね。下手したらパニックが起きるぞ」
「有りの儘を公表してしまっては如何ですか? そして我らにはこれに対処する力が有ると!」
「だが今回使用された装備は借り物なのだろう、大丈夫なのかね?」
「借り物だろうと実際に使うのは我々であり、力は正しく使ってこそ力として示せるのです。ヒュアデスのレポートにも有りますが、今回だけで終息するとは考え難いと思われます。第2・第3のネバダの惨劇が発生するとも限りません。ここは国民からの不審情報を集める意味でも真実の公開に踏み切るべきと考えます。大体、こんな事を抱え込んでいても我々には不利益にしか成りませんよ、相手は人類ではないのですから……」
「う~~ん、そうは言うがね君、国民はこんな荒唐無稽な事を信じるだろうか?」
「信じる信じ無いは、受け取る側の勝手です。我々の関与する処では有りませんよ、大統領。それに、他国にも同じ様に秘匿され地下で増えているかも知れないじゃないですか。増殖にはかなりの時間が必要のようですから、駆除出来なくなるほど増える前に対処するべきです」
「そうは言うがね~」
「後で嘘つき呼ばわりされるより、ジョークの分かる愉快な大統領。やがては真実を語る正直者と言われた方が歴史に残ると思いますよ」
「……ふむっ分かった。アメリカ合衆国は有りの儘を公表することにしよう。それで広く一般から情報を集めればいいんだね?」
「そうです! それで良いんだね? ヒュアデス」
[イエスサー。序でに、エイリアンメールの事も発表してしまいましょう。アメリカが主導権を握るなら今ですよ。地球人類を代表してアメリカが力を示す事で世界中に証明してみせるのです]
「ふむっ、人類のトップとしての威信を示すと言うことかね?」
[世界の警察として、地球を守る盾と言ったところでしょうか]
「うんうん、いい響きだね~♪」
(よし、釣れた!)
◆
「本当にあれで良かったのかね~、混乱は目に見えている様だが……」
[多少の混乱は仕方が有りませんよ。知らないうちに人類が滅亡するよりかは幾分かマシではないですか? 要は最後まで生き残る努力を誰よりも早く始めましょうという事なんです]
「君のマスターは既に始めているんだね。こう立て続けに色々な事が起きると、彼があの年で各種の技術開発やメガフロートで宇宙開発を始めたのにも納得出来るというものだよ」
[私達AIは、そんなマスターをサポートするために生まれて来たのです。ハイスクールも出ていない子供の戯言など大人は誰も信用してくれないでしょう? 幸いな事にマスターの家族やご友人方に聡明な方達が揃っていましたのである程度カタチに成っては来ましたが、事を始めるのに早すぎるという事は有りません]
「しかしあれはどうなんだい? アーミーと言うよりは、コミックから抜け出してきたヒーローだね~。人気が出そうだ!」
[飽く迄も人類の盾と成る存在としてアピールするのが目的です。ヒーローは人類生存の為に尽力する存在でなければ成りません。行く行くは世界各地からメンバーを集め国境を越えた存在と成るのが理想です。其のためには国際的なレスキュー活動も視野に入れる必要が出てくると予想されます。医療や救助の専門家にも知恵を出させては如何でしょう。これまで夢や幻と諦めていた事もマスター昴でしたら現実の物にしてしまう知恵と技術力があります。事が人命救助であれば尚更です]
「たしかに彼は所信表明で、兵器開発には協力しないと言っていたね」
[人類が殺し合う現在の世界情勢には極力関わらないというスタンスです。強要された場合、身内だけ連れて人類を見捨てて地球から逃げ出すでしょうね。これは予想できる未来です。既にマスターは、閉鎖空間で自給自足出来るだけの技術があります。中将もご覧になっていますよね?]
「!メガフロートは其のための基礎という事だね。ウ~ン、彼なら直ぐにでも月に行けるんじゃないのかね?」
[其の辺はご想像に御任せするという事で……]
「否定はしないんだね、君は……」
この後直ぐにアメリカ合衆国大統領は、緊急会見を開いた。
公式発表としてエイリアンメールの友好的な内容と、人類に敵対的な勢力が存在することを認めると発表する事になった。
そして同時に人類の盾となる存在、通称ガーディアンズの存在を明らかにした。
結果、これまで国連の音頭取りで進められる筈だったエイリアンメール対策は、すべて白紙撤回され吹き飛ぶ事になる。
事実、具体的な対策をとることも出来ず、各国の調停位にしか機能していない国連に、人類の代表が務まる筈も無く。
予定調和のごとく消し飛んだ国連代表会議は、その後実働部隊の居ない形式と権威だけの存在へと成り果てることになる。
◆
大々的に発表されたガーディアンズの面々は、どうしているのかというと……。
メガフロートの巨大スパ施設で休養を楽しんでいた。
当初、テストパイロットと言う肩書で出向させられたのは良いが、何をさせられるのか戦々恐々としていた彼らNASAのアストロノーツ達。
ノリノリのマック・ライオット中尉に引率されてやってきた地のメガフロートは、一級のミッションスペシャリストの彼らから見てもオモチャ箱を引っ繰り返したような奇天烈な場所だった。
しかし水を得た魚のように各施設に散った彼らが見たメガフロートの実態は、このまま宇宙ステーションとして立派に通用する完全密閉型のコロニーだったのだ。
そう、自分たちが今まさに上空400kmに作っている国際宇宙ステーションの巨大な完成形、いや完成度でいったら比べ物にもならない代物に自分達が今触れている事実に、ある者は歓喜しある者は落胆し、そして立ち止まること無く知識の吸収を開始したのだった。
流石、それぞれがその道のトップを走ってきたスペシャリストだけに、馴染むのも早かった。
いや、染まったと言ったほうが良いだろう。
世界でも一目置かれるようなメカニックや技術者とふれあい、そして……汚染されて行ったのだった。
「ミスター芝、トライクの運動性をもう少し上げられないか? アレでは攻撃を避けられない」
「馬鹿野郎、何のためにシールド付けたんだよ。避けるんじゃなくて弾けヨ!」
「危険は避けるものだ、突っ込んでどうする?」
「避けられねえもんは、耐えるか弾くしか無エじゃねえか。そんな当たり前の事を言うんじゃねえよ」
「安全だと言われても突っ込む方の身にもなってくれ、痛いんだぞ!」
「痛みが有るのは生きてる証拠だ、死んでねえ。それにスーツを着てれば滅多なことじゃ死ねねえから安心しろ。手足の1本や2本吹き飛んでも大丈夫だ♪」
「それ、大丈夫じゃ無いYo~」
「おめえら、風呂入りながら何の話してやがんでい。大概にしやがれ……ゆっくり出来ねえじゃねえか」
「おやっさん、すんません。でもマックの奴が……」
「ミスター橘からも、何か一言言ってやってください」
ギャーギャー、ワーワー
「……おめえら………ほんと仲が良いよな」
そのやり取りを仕方のない奴らだと微笑ましく眺める橘十兵衛だった。
 




