2-2-05 月の魔改造…結局こうなるのかよ 21/9/13
20210913 加筆修正
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「それじゃ~言い訳を聞くとしようか……、どうしてこんな事になっているのかな?」
[[[[[マッマスター……]……]……]……]に、にゃ~~……]
9月も押し詰まって来週にはとうとう10月、メガフロートの通常運用が始まるというこの忙しい時に……。
ここは、月のルナベース・中枢コア制御区画、俺はセントラルと四神の名を持つAI達を睨みあげて問い詰めていた。
シャシ姫達を送り出し、木星の反物質燃料ステーションでのあれこれは、一先ず事なきを得た。
彼女達が帰るまでに色々とゴネて居たのを何とか説き伏せ、我々とラーフやロータスとの間にホットラインを整備させられたりと一言では説明できない事が沢山あった事だけは確かだ。
後日あらためて、そのへんは詳しくは説明するとしよう。
お客さんを丁重に送り出し、バクーンとサーベイヤーⅠ世をともなって地球に帰ってきたんだけど、バクーン達を地球に居させるのも気が休まらないという事で、ルナベースをサーベイヤーの基地としようということになった。
早速、セントラル達に詫びを入れさせに行ったんだけれど、どうも様子がおかしい……。
どこがおかしいのかと言うと、当初の計画予想より基底部が深く大きくなっているし、入り口のゲートも凄く豪華で厳重に作られている。
横には無数にチューブトレインが走り回り地中に消えていく……、なんじゃコリャ~!
「アルキオネ、ここってしばらく見ないうちに随分と広くなってないか?」
[そうですね~私が基礎を作ったときから見ても50%ほど規模が大きくなっていますね。それに当初の計画にないチューブトレインや見たことのないエネルギーラインが随所に見受けられます。……マスター、セントラルに問い合わせてみたところ玄武に要塞化と拡張を任せたとのことなんですが……]
「要塞化? 拡張? セントラル達は、月をいったい何にする気なんだ……」
[ウ~ン、どっかと戦争でもする気かな~。当たらずとも遠からずってところじゃないのかな~]
「サーベイヤーもそんな呑気な、ここは君達の家になるんだよ」
[私としては安心して停泊できる方が良いに決まっているじゃないか。要塞化? 大いに結構。逃げ出さなくて良いぐらいの頑丈なのにしてもらいたいもんだね]
「……俺は、セントラルに会ってくる……、どうすんだよこれ~……」
◆
俺は、セントラル達の前で月の3D透視画像を見ながら頭を抱えていた。
「どうして、コウナッタ?」
月を崩壊しないように支えられれば良いだけのはずが、完全に月に根を張りめぐらせており、その根はほぼ全域に及んでいる。
[……あ~御説明いたします。まず月に入った亀裂などを詳細に調べましたところ、力場だけで繋ぎ止めるには想定されている物よりも膨大なエネルギーが必要であると分かりました。ルナベースを中心に力場を発生させた場合、ルナベースには生物が長時間滞在することが出来ないほどの重力場が発生します。重力コントローラー装備の防護服を装備していれば然程問題ではありませんが、四六時中防護服を着ている訳にも行きませんし、生活区画をシールドすることも考えましたが、力場を維持するエネルギーが枯渇した場合には、又月の崩壊を心配しなければなりません。この際なので物理的に繋ぎ止めてしまうのが現実的ではないかと愚行いたしました]
《……マスター、月を丈夫にすれば壊れないし我々も安心……、ついでに住む所も広げればイザという時の砦にもなる……》
《地球防衛の盾とするために、月を中心にL2・L3・L4にそれぞれシールド発生装置をメインにしたステルス衛星を置く事を計画しております。地球圏をグルっとシールドで囲ってしまうのが理想ですな》
《外敵は、必ずやって参ります。宇宙海賊とは言わずともアウトローは何処にでもGの様に湧いてきます。情報は、一人歩きを始め、今後木星の反物質燃料ステーションが銀河辺境のオアシスになる事は必然です、無断で地球にまでやってくる者達も現れるでしょう。直ぐに対策し防備を固めなければ、地球圏は金の亡者たちに虫食いだらけにされてしまいますよ》
[私達が中央コロニーを任されていた時には、必然的に防衛任務も発生しました。住民の安全も大事ですが我らの主権を守るためには毅然とした態度を示し、外圧に負けないだけの盾と矛を準備して置かなければなりません。既に当時の元防衛隊に所属していたコア達が名乗りを上げております。ケレスにて新しい宇宙船をもらい駆けつけると息巻いておりますよ。文字通り月は、我らの盾と矛となるのです]
「君達の言い分は十分に分かった。でも勝手に月を改造しちゃいけないの! ここは僕の星じゃないんだよ~……」
[我々も馬鹿ではありません、地球の事も調べました。現在の月は、まだ誰のものでもないそうですね。地球の宇宙法に抵触するような愚は犯しませんよ我々は……フフフ。文句を言われたら熨斗を付けて返せるぐらいの論理武装も準備してあります………とは、ハコ様の受け売りですが、我々は国家ではなくボランティア団体ですので、より良い地球圏の発展に寄与すれば良いのです。武装をともなわない個人での宇宙開発は、法律で認められているそうですので、先にやってしまった者勝ちだとお聞きしています。幸いな事に我々には空間操作と位相変換のテクノロジーがありますので、火器や武装に挙げられる物は、その全てを別次元に置く事といたしました。これで有事の際、ア~この場合は地球外の脅威に対してですが抵抗し排除するための備えといたします。地球の軍隊程度では我らの標準装備のメイド服に埃も付けられませんので御心配には及びません]
「ああ、ウ~ン。君達、言い訳用意してたでしょ、ハコの入れ知恵? だよね? たぶん、Maybe?」
[《《《《………》》…》にゃ~》]
こうして月の要塞化と地球圏の防衛構想が勝手に進められることになる……らしい、俺はどうしたら良いの?
絶対に怒られるのは俺なんだよな!!!
◆
俺は、月の諸々に関してスルースキルを総動員して知らんぷりを決め込もうとしていた。
……だが速攻でバレた。
当たり前だこんな事、隠せる筈がない。
分かりきっていることだが逃げ出したくなるのは仕方がないと思うんだ。
『不可抗力だ~!』と、叫び出したいところを(株)タウルスの会議室へトボトボと向かっている。
……トン…トン…トン…トン……
「失礼しま~す……!?」
会議室へ入ると母さんと父さん、荒垣事務次官に冴島教授、権堂警部に鷺ノ宮校長、その他諸々勢揃いで頭を抱えていた。
荒垣さんがこの場の進行を買って出ているらしい……。
入室した時の雰囲気からは、予想に反して労いの言葉から会議が始まったのだった。
「……ようやく来たか、ま~座り給え。君には、色々と聞いて置かなければならない事も沢山有るからね。まずは、色々な事が連続して起こり大変な夏休みと9月だった、本当にご苦労さま。宇宙での事を昴君達に全て丸投げした状態で本当に申し訳なかった」
「イイエ、今回のゴタゴタは俺達にしか解決の手段がありませんでしたからね、仕方がありませんよ。まさか追加であんなお客さんまで来るとは誰も予想していませんでしたからね。今回、ハコ達が俺にも内緒で色々とやっていた事で何とか事態は解決しましたけど、今後の対策をしっかり練っておかないと地球圏の独立も維持できるかどうか……」
「そうなんだ、今後は宇宙からの圧力が大きくなっていくだろう事は、想像に難くない。だが、地球はまだ1つに纏まっている訳じゃないのはみんなも周知の事実だ。だからといってこの情報を公にして良いものか……、どう考えるね? みなさん」
まず、冴島教授が手を上げた。
「僕から良いかな? ……現状対処できるのが我々だけなんだから実質宇宙案件は、我々が独占することになると思う。事態が進めば進むほど絶対に情報を開示すればやっかみや嫉妬から雑音が発生する筈だ。対処する能力もないのに利権だけ寄越せって輩がぞろぞろと湧いてくるのは必然だ。だからこそ現実を最初にドンと突きつけてしまおうと思うんだ、『どうぞ、みなさんで頭を抱えてください』ってね。俺達だけが苦労するのは不公平だし、人類に少しは危機感と言う物を持ってもらわなければこの先どうなることか心配で俺は夜も眠れないよ」
「具体的にはどんな風に突き付ける気なんだ?」
「そうだな……、バクーンに一肌脱いでもらおうと思う。『月に引っ越してきたのでよろしくね♪』って、言うのはどうだい?」
「それって地球の外に第三者を置いて、仮想敵を創るって事?」
「そうさ、メンタリティーの違う生物が攻めてきた場合、地球人の常識なんて役に立たないし崩壊するだろう。戦争っていうのは同じ価値観が有って初めて勝負になるんであって、上位の生物から一方的に脅迫を迫られた場合、人類にまともな対処ができる者は少ないと思うね。殆どの政治家なんて前例に則って国を動かしているだけで、相手の顔色を伺って対処しているだけなんだからね。人間の習性を利用して1つにするなら外に敵を作ってやるのが一番手っ取り早いと思うんだ」
「それ、パニックにならないか?」
「少なからず混乱は起きるだろうな。民意の低い地域などは、更に治安が低下するかもしれない。だが本当に敵が攻めてきたらパニックどころでは無い話だぞ。数時間後には、人類滅亡の危機なんだ。バクーンが月に住み着いたが、直ぐには地球に手を出して来ないよって公表する事で、直ぐそこに危険な存在がいるんだと知らせるのさ。そして宇宙には、一瞬で惑星を消し飛ばせるだけの脅威がウヨウヨしているという事を教えるんだ。お隣のよしみって事で銀河で起きている事を少しずつリークしてもらう様にする」
「どんなやり方で全世界に情報を流す気なんだ?」
[それでしたら、いつでも電波や通信の同時ハッキングは可能ですが、無差別に行った場合に各種電波や通信を利用している監視装置などに支障をきたす恐れがあります。危険の伴う作業中に映像が途切れたり、医療機器の信号が途絶えたら命に関わりますでしょう]
「それならこんなのはどうかな? 空に直接映像を投影してテレパシーで呼びかけるのさ、空を見ろってね。テレパシーなら言葉の壁は障害にならないし情報機器を持たない人にも伝えられるでしょ」
「昴君、それが可能なら事前に何度か予告をしよう。ぶっつけ本番は、インパクトも強いが事故の発生する恐れも多分に有る」
[そうですね。それに既に地球に隠れ住んでいる他の知的存在に対してのアピールにもなります。ま~変なのが起きてこないと良いんですが……]
「エエッ、変なのって?」
[……この際です。面倒な事は、一気に終わらせましょう]
「ねえねえ、面倒な事ってどんな事?」
[取り敢えず一発カマしてやれば黙りますから、それにそういう物のスペシャリストがバクーンとサーベイヤーですからね。伊達に宇宙の始末屋なんて言われていませんし恐れられてもいませんよ]
「銀河じゃ~バクーンってそう云う立ち位置なの?」
[知らなかったんですか? マスター。結構、有名らしいですよ。良い海賊避けになってくれそうで良かったじゃないですか]
「へ~、あの生きたヌイグルミがね~……」
◆
冴島教授のアイディアがすんなり通り、バクーンを出汁にして、地球圏の一大防衛構想を実行してしまうことが決まってしまった。
実のところ、話が大きすぎてみんな脳みそが飽和状態になっていた様だ。
仕方がないよね、責任はみんなで取ろうよ。
そしてテレパシーによる地球人類への御挨拶は、今年のクリスマスに決定した。
12月に入った辺りからトラウマにならない程度に微弱な予告テレパシーを数回に分けて発信することになる。
全地球的にテレパシーを届かせるのは力技でも実行できるけれど、そのまま実行すると感受性の強い人間や動物は精神に異常をきたしたりする恐れが有るらしい。
慎重に慎重を重ね、数多の生物に優しい精神波を人工的に増幅するシステムを月に構築する運びとなった。
出来るの? そんなのホントに……。
[私にお任せください! 全人類を可愛い子猫ちゃんの様にしてみせます]
「アステローペ、それって洗脳じゃないよね? 駄目だからね! 洗脳は」
[チッ、駄目なんですか~? それは非常に残念です。実績は、有るんですよ、実績は……]
「どこでそんな実績を積んだのやら……」
[Gのように湧いてくる無礼な御客様を、タイゲタが行動不能にしたところで私のところに怪我の治療に回ってきます。暴れる場合が殆どなので催眠状態にして、何処からの御客様であるか詳しく調べてからブレインウォッシングしてお帰り頂いております。お帰りの際は、玄関からにこやかにお引取り頂いておりますよ。漏れなくノルンシリーズの会員に加入頂きまして、今では熱烈なファンになられている方もおります。恋人や奥方にプレゼントすると大変に株が上がるそうで喜ばれておりますよ。だいたいですね、一々外交特権持ち出して大騒ぎされるのも迷惑ですし、こっそり大使館に放り込んでくるのも憚られますし、外事三課とやらに連絡するのも飽きましたので……。今では、権堂さん達もスルースキルが鍛えられて、見かけは剣呑でもサバゲーのお友達ぐらいの感覚ですね。手を振って送り出していますよ。一度うちの洗礼を受けると絶対に敵対出来なくなりますのでそろそろ敵さんも、球数が底をついてきた模様ですね]
「うちの保健室って何時からそんなにブラックになってたの? 知らなかったよ」
[最初のうちはゾンビアタックのように手を変え品を変え同じメンツが攻めて来ていたので、タイゲタが面倒くさいと泣きついてきたんです。抹殺しちゃう訳にも行きませんからもう来ないように説得したまでですよ、オホホホホホッ]
……怖っ……
「それでも洗脳は、駄目だからね!」
[チッ……了解しました。お任せください]
……ニッコリ笑顔で舌打ちしましたよ、うちの医療担当……
……マッドだ! ここにマッドが居るよ……
……大丈夫なんだろうか? ほんとに……
◆
そして月は、外見はそのままに堅牢な要塞へと生まれ変わってゆくことになります。
随分と大掛かりなリフォームになったもんだよね。
全部が入れ替わるのには、2年ほどかかるらしいですし、本当にどうしてこうなったんだろう。
月の直径はおよそ平均3,474Km、スペースオペラ映画の超大作に出てくる要塞デス・ナンタラの一代目の直径は120Km、二代目は160Km、銀河ヒーロー伝説に出てくる液体金属の要塞は直径60Km、月が丸ごと要塞になったらどんな物語になるんだろう。
一方、その頃のバクーンはどうして居たかと言うと……。
「セントラルとは仲直りしたのさ~、その代わりと言ってはなんだけど専属メカニックとしてここで仕事をする事になったのね~」
[バクーンには、チャンと仕事をさせないとバクじゃなくで野ブタになっちゃいますもんね]
「サーベイヤーは、口が悪いの~。もう少しマスターを労るの~」
[バクーンは、私が納得するようなマスターらしいことをしてから発言しましょうね。セントラル、好きなように扱き使っていいですからね]
[まあっ、ありがとうございます。大丈夫ですよ、大家と下宿人の関係じゃないですか、大家といえば親も同じ、頑張ってバクーンは親孝行してくださいね!]
あっ、バクーンはサーベイヤーに売られたんだな。……バクーン…涙目だ…。
セントラルも生かさず殺さず骨までしゃぶる気だと言うのに気が付きました。
頑張れバクーン、負けるなバクーン、俺達はいつまでも君の友達だ。
 




