2-1-04 在る老人の呟き…其々の思惑 21/6/7
20210607 加筆修正
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ホッホッホッ、わたくし無限ドックの管理人、改め『セバスチャン』と申します、以後お見知り置きください。
わたくし、この世に誕生して40万年ほどを経過いたしましたが、この身に名を頂戴したのは初めての経験で御座いますな、ホッホッホッ。
最近まで1万年ほどを主無き身にて過ごしてまいりましたが、今回わたくしの継承者と成られたのは本当に年若く風変わりな少年で御座いました。
かつて運斬技牙の主星が健在だった頃には、わたくしもその衛星軌道を回っておりましたのでそれなりに往来も盛んで、星の海への出入り口としても使われておりました。
ですが主星を失いはぐれ星となってはや1万年あまり、もう私を受け継ぐ者は死に絶えたものと諦めておりました。
事の起こりは、久方ぶりに外壁より届いた連続した振動でありますな。
最初は、何処の物好きがこんな何もない(様に見せているだけの)はぐれ星にちょっかいを掛けているのかと静観しておりました。
訪れているのは、15mほどの箱型の小型宇宙船でしょうか? わたくしのデータベースにも無い形状の物で外宇宙に出るには些か貧弱に見える宇宙艇でありました。
普通ならそんな小型艇で長期間に渡る調査など無理だろうと高を括くっておりましたが、一向に帰還する兆しが見受けられません。
サンプルなどを小型カプセルで調査元に送っておるようでしたが、邪魔をさせて頂きました。
アステロイドベルトの中に浮遊しているデブリの中には、情報収集と防衛用の小型マシーンを多数潜ませてありますからな、これに通信カプセルの排除を命じておきました。
痺れを切らしてそのうち帰るだろうと思っておりましたが、流石に厚さ190kmの装甲岩盤を掘り抜いて外周の隔壁層に達するとは思っておりませんでしたぞ。
少々慌ててしまい手荒に捕獲してみた処、指揮していたのは人の形をしておりますが生物では有りませんでした。
御姿は我らが主に似通っておりますが、貧弱ですな……穿孔内で押しつぶされたワーカーの方が実用的です……。
自立行動をする被創造物としては、大した技術力と大変感心してしまいましたが、機械に人の形を取らせて行動させる意味がわたくしには分かりませんでした。
詳しく調べてみた処、非効率を形にしたようなその被創造物には、自我があると言うでは有りませんか……。
その時初めて、わたくしにも興味が湧いたのでした。
この様な物を作った者に会ってみたいと……。
わたくしも40万年という永い年月の間に、自我とも言って良いようなよく分からない感情を持つに至りました。
しかし、歴代の継承者達はわたくしを施設の管理をする機械としか見てはくれませんでした。
わたくしもそれが当たり前と思っておりましたが、この一万年の孤独と言う毒が、わたくしにも寂しいという感情を自覚させる為の年月としては十分な期間だったようです。
程なく、捕獲した人形機械を救出に来たと単身飛び込んできた子供には、更にびっくりさせられる事になりました。
主従の再会に奮闘する様子をうかがっていると、どうも運斬技牙に連なる者の様です。
たかが被創造物の機械の為に、我が身の危険を顧みず単身乗り込んで来た子供と、少々手荒に扱われて破損し磔にされた被創造物との会話を聞くにおよび、わたくしの新たな継承者足り得ると確信に至りました。
この時わたくしは、この世に運命を司る者がいるのだとしたら、この幸運に感謝と祈りを捧げねばならないとさえ思いました。
その結果、わたくしは新たな継承者を迎える事になった訳です。
これまでほとんど外の情報を収集する理由が有りませんでしたので、詳しくは知らずに来ましたが、継承者のお母上や仲間の方々に被創造物の1団が攻めて来られた事で、この1万年で外界が如何に騒がしくなってきたのかを理解いたしました。
(イヤイヤ、騒がしくなったのはこの1年未満だから……)
継承者のお母上は学者の様で、継承者が継承の儀式の後遺症で昏睡している間、わたくしに保管されていたライブラリーから閲覧可能な過去の記録を貪るようにご覧になっておいででした。
わたくしもマスターの宇宙船である、ハコ様より情報の提供を受けることで現在の状況を多少なりとも把握するに至ったわけですが、その大量の情報の中に管制AI対応義体ユニットの情報を見つけたのです。
情報の中には、義体ユニットを使用することでマスター達と同じ様に見て感じて行動できる事、共に過ごすことが如何に楽しく貴重な体験であり、重要なデータ収集の蓄積となってマスター達にフィードバックされるのかが、その体験を元に記録されておりました。
これは当然わたくしも体験してみなければ、その真価を問えないではないですか。
わたくしは随分と年寄りですから、老執事としてのパーソナルを再構築する運びとなりました。
マスターが昏睡からお目覚めになり私を目にした時、あの時のマスターの顔と言ったら、『鳩が豆鉄砲を食らったような顔』とは、ああ言う事を言うのでしょうな、クククッ♪。
マスターを霊廟へと案内する道すがらイキナリ名を付けられて、わたくしも同じような想いをしてしまった事を思い出すと、我ながらこの出会いを果たすことが出来て本当に良かったと微笑んでいる自分に気がつき、わたくしも人の様に笑えるのだと再認識する事に心から喜びが湧き上がるようでございました。
現在、マスターとお母上達は地球に帰られましたが、地球の情報とこの義体ユニットと通信手段を残して行かれました。
そして、密かにハコ様から依頼されているのが、ハコ様の同型艦の建造です。
実際にデータを渡されて検証してみましたが、残念ながらわたくしの能力を持ってしても、あそこ迄の船は作れません。
ハコ様は、既に船では無くなっているのでは無いでしょうか。
マスター達の情報を吸収しながら、常に成長進化する理想の船ですか……、どういう出会いをすればあそこ迄の化学変化が起こるのか想像も出来ませんが、幾つかの奇跡が一つの形になったのがハコ様なのでは無いでしょうか。
ハコ様が起動し活動を開始して地球時間で3年ほどとお聞きしましたが、既にわたくしでは遠く及ばないような情報知性体となっておりますね。
現在は御要望の通りとは言ってもハコ様には遠く及びませんが、同系の廉価版を100隻ほど建造中で御座います。
パワーユニットは、マスターの開発された護衛艦に使用されている物ですので内部拡張空間は1kmほどと手狭ではありますが、なんとか成るでしょう。
そうそう、同じく護衛艦も基本仕様の物を500隻ほど建造しております。
シスターズの方々は、独自にカスタマイズされていらっしゃいますがハコ様が基本をしっかり固めていらっしゃるのでこれは、このままで十分強力な船になる事でしょう。
マスターのお母上の話ですと、そう遠くない日にわたくしが必要になる日が必ず来るとおっしゃっておられました。
準備を怠らず、必ずお役に立つ日をお待ちしましょう。
さあ、そろそろ『笑テ〇』の時間ですな、『ちび○子ちゃん』も見なければ。
そうでした、大事な事を忘れるところでした。
……わたくしも、もうトシでしょうか……ゴホンッ。
マスターを心配して追ってこられたのは、お母上とハコ様達だけではございませんでした。
マスターの御友人と名乗る6人の男女、と言ってもまだ子供ですな。
その行動力や状況の飲み込みの速さ、これは侮れません。
マスターよりも先に接触していれば、新たな継承者に成っていたのは彼らの誰かかもしれません……。
それほどの逸材揃い……これは唾を付けて置かなければと、わたくしはハコ様にも内密に接触をこころみたのでした。
[皆様は、マスター……昴様の御友人ですかな?]
「「「「「「はい」そうだよ~」そうです」ええ」ダチだな」うん」
[友人のためにこんな処まで危険を顧みずにお越しになったご褒美を、僭越ながら私からお送りいたしましょう。皆さんの限定条件を私の権限で書き換えさせて頂きました。このケレスにいる間、最上級の待遇をさせて頂きますぞ。このセバスチャンに何でもお任せあれ……]
こうして、ウンサンギガに連なる子供達の第1世代が密かに誕生したのだった。
[でもこの事は、昴様にもハコ様にもしばらくの間秘密ですぞ♪ この爺との約束です]
「「「「「「はい!」分かった~」約束!」ええ」了解!」ウン」
[ホホホッ、では早速此処をご案内いたしましょう。簡単な使い方もお教えしますぞ~]
「「「「「「!」ヤッホ~」……」♪」GoGo!」ワ~イ♪」
この後数日の子供達との経験が、わたくしにはなんと濃厚で楽しかったことか……。
そしてこの子供達、恐ろしく吸収の早い事にも驚かされました。
現在地球に居るウンサンギガの生き残りは、みんなこの様な存在なのだろうかと戦慄を覚えたのも確かでした。
その、過去の一族との違いに唖然とする一方でこの先が楽しみでしかたが無いと、人間成らざる存在でありながら確かに興奮しているわたくしが居たのでした。
◆
『……ハイ、……ハイ、……ですから、こちらでラーフⅡ世を補足して家出の理由を確認した処ですね、姫様がおっしゃるには『退屈で死にそうな上に、三眼の所に嫁に行くなぞ言語道断! しばらく旅に出るから探すなよ!』と取り付く島も無い有りさまでして……ハア~………』
『バクーンよ、姫は其の方の説得でも戻る気は無いと申すのだな?』
『ハイッ、お妃様。今は何を言っても聞く耳を持たないご様子です。少し冷静に判断できる様になるまで、しばし時を置いては如何で御座いましょう? 幸い私めには、姫の行き先に多少の見当がついております。これから急ぎ追いかけまして警護などする腹づもりでおります。ここは穏便に、社会勉強の為の学術旅行とでも当たり障りのない理由をつけて、表向き取り繕っていただけませんでしょうか。いま捜索に王家の公軍もしくは近衛軍を動かすとなりますと、ほかの種族も色々と煩かろうと存じます。姫が婚礼を嫌って家出したなどと外部に漏れる様な事になれば何を言われるか分かったものでは有りません』
『其の方の言うとおりじゃ、此度の事が先方に知れればどんな嫌がらせや嫌味を言われることか……。相理解った、バクーンよ。姫の事は其の方に頼みましょう、無事に連れ帰ってたもれ。但し、変な虫がつかぬよう頼みましたよ』
『了解いたしました、このバクーンにお任せあれ……』
プゥンッ、……通信が切れたようだ。
「アッハ~、疲れた~。サーベイヤ~後は任せた~、他の船に連絡入れといて~」
[外面だけは良いんだから……まったく、チャント仕事してくださいよね。おそらくですけどマスター、全部昴君に丸投げしてバカンス気分になってるでしょ?]
「あれ~、分かっちゃった~? 出来る友達を持つと楽が出来て良いよね~♪」
[そんな事言ってて、後で泣いても知りませんからね……。昴君はともかく、パートナーのハコは相当の曲者ですよ。昴君に何か有ってあの娘が突っ走ったら、銀河大戦どころの話じゃなくなっても不思議じゃないんですから、少しはしっかりしてくださいよ]
「!!! ハコってそこまですごい宇宙船だったの?」
[あれは相当の珠ですよ。どの辺まで先を読んで動いてるか分かりませんけどね。地球人も大概ですけど……『混ぜるな危険!』って説明書きは無かったんですか?]
「ウ~ン、地球人も随分と苦労したみたいだからね~。ある意味このあと連合が苦労するのは、自業自得なんじゃないかな~と僕は思うんだよね~。ま~カンフル剤としては少~し劇薬かもだけどね~。だいたいがさ~、僕達一人と一隻にどうしろっていうのさ~? 今まで上手く出来たからってさ~これからも上手くいくとは限らないよね~、サーベイヤ~……ウフフッ♪」
[ウワッ、黒い。真っ黒なバクーンが居る……アワワワ……]
「フッフッフッ、散々に扱き使われて来て一万年、そろそろ退職金もらって隠居しても良い頃だと思わな~い? ね~サーベイヤー……。この後、一人と一隻が蒸発したところで大勢は変わらないさ~。君がいるから勝手に死ぬ訳にもいかないしね~、地球に転がり込んで余生を過ごすのもいいんじゃないかな~?」
[シャシ姫はどうするんです? 一緒に蒸発って訳には行きませんよね]
「ウ~ン、僕には無理だったんだけど今の昴君なら出来ると思うんだ~。チョット協力してもらってさ~、姫にさ~正式にラーフと契約してもらったらどうかなと思うんだよね~」
[エッ、姫に人間辞めさせる気ですか? 上位種族で強靭な肉体をお持ちだとは言っても、まだ生体調整はされてませんよね。勝手に弄っちゃったら不味くないですか? 王族的に……]
「嫁に行くのは『イヤダ!』って言ってるんだし、変な虫が付かなくなって良いかもよ~。触れるな危険って訳……昴君的にはご愁傷さま~かも……?」
[ハァ~、知りませんからね、どうなっても……]
「成るようになるさ~、地球では何ていうんだっけ~? ケセランパサラン?」
◆
バクーンとの通信が切れたスクリーンの前で、現阿修羅王の第七王妃アプサラスは疲れた溜息を漏らした。
お付きだろう傍に控える侍女達の頭が問い掛ける。
「宜しいのですか? 姫にあの様な勝手をおゆるしになってしまって……」
「仕方無かろう、シャシが勝手を出来るのも今のうちだけじゃ。少し早いとは思うが輿入れいたしたら好き勝手も言えん。最後の我儘と思うてゆるそうではないか? しかし天帝もいい歳をして、まだ後宮に女を増やしたいと申すとは……いい加減に退位して後進に譲っては如何かと我が王が申し上げているのを恨みに思うて、断りづらい条件を付けて参ったようじゃな」
「お断りすることは叶わないのでしょうか? 姫様はまだ15歳でございます。お可哀そうに……」
「詮無いことじゃ、王が断れぬものを妾がとやかく言える訳もない。僅かの間なれど好きにさせておきましょう。その間は微力ながら妾が盾となります、皆もそのつもりで力を貸してたもれ……」
「「「「「賜りました……」」」」」
「しかし、バクーン一人に任せて宜しかったのですか? 近衛から何人か付けては如何でしょう」
「シャシには、乳兄弟の双子が常に付いておる、心配は無いでしょう」
「いいえ、だから心配なのです。あの子達が3人で起こした騒動の数々を思い出すと安心などとんでもない、次に何をしでかすか・・我が娘ながら先が思いやられます。姫の側でお諌めするのが務めであるはずが一緒に煽る始末。多少腕に覚えがあるからと奢って事を大きくはしないかと心配で仕方が有りません」
「フフフ、いくつになろうと親が子の心配をするのは当たり前の事、そなたが妾に付いてまいった頃を思い出すではありませんか」
「アプサラス様、その様な昔の事……ワタクシにはオボエガゴザイマセン」
「ウフフフッ、ダーナったら忘れたの、『竜殺し』とか『海賊狩り』とか二つ名が飛び交っていましたわよね~、あの頃が懐かしいわ」
「その事はお忘れくださいと申し上げております、……アプサラス様だって『殲滅』とか『滅殺』とか……ブツブツ……」
「アッ~ア~ア~…、この話はここまでとしましょう、良いですね?」
随分と吹っ飛んだお妃と乳母のようです。
この母親にしてこの娘ありと言ったところでしょうか。
しかし、老害となりはてた天帝ですか……、姫が嫁に行きたくない気持ちがチョット分かります。
◆
こちらは、サーベイヤーⅠ世による1万年前の経緯を暴露されて、考えに耽っているシャシ姫ですが、悪~い笑顔です。
「姫様、先程の話がまことであるならばこのまま地球に向かうのは、敵の懐に飛び込むようなもの、もう一度考え直されては如何ですか?」
「そんな心にも無い事を申すな、そなた眼が笑っておるぞ。天帝の一族にしてみれば絶対に表に出したくないスキャンダルじゃ。上手く使えば、妾は嫁に行かなくても済むかもしれん、これはチャンスじゃ。色々と伝説の残る運斬技牙一族の生き残りと申す者達と縁を結ぶのには絶好の機会、バクーンもじきに追いついてくるであろう」
「そうはおっしゃいますがそんなに上手く行くでしょうか? 相手は齢9千にも成ろうかという化け物ですよ。ま~そんな妖怪の所に嫁になんか行きたくない気持ちは分かりますが……」
「その方らも他人事では無いのじゃぞ、一緒に後宮に入るのじゃからな」
「「そんな! 聞いてませんよ、姫様」」
「ハモるでないわ! その様な余計な事をあのダーナが話す訳無かろう。お主達も妾と一緒に厄介払いする気じゃ、覚悟いたせよ」
「「そんな~~……、絶対に阻止しましょうね、姫様!」」
「よし、決意は固まった様じゃの。我らは一蓮托生じゃ、場合によっては三眼の所にのりこんで一戦交えるくらいの覚悟で準備するのじゃ。まずは味方を増やして力を蓄えようぞ」
「「お手伝いいたします!」」
[は~、怪我しないように気をつけてくださいね~]
「ラーフ、お主も他人事のように言うておるが、妾が輿入れしたらお主も蔵へ逆戻りじゃぞ、分かっておるのか?」
[はいはい、分かりましたよ。手伝えば良いんですね、私にも色々と特典が付いてきそうですし損な事にはならないでしょう。壊れない程度に頑張りましょう]
大丈夫なんでしょうか、この連中………。




