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1-5-06 夏休みリゾート…暴露される真実 21/5/30

20210530 加筆修正

11897文字 → 12078文字




 世歴2003年7月25日

 今年も夏休みがやって来た。


 今日でもうハコと会って3年経つのか~。

 アッ、と言う間だったな~と俺は潮風に吹かれながらクルーザーの展望デッキでくつろいでいる。

 今年の夏は、父さん母さんをはじめ、(株)タウルスの従業員と村の子供や先生の他にも思いのほか沢山のゲストを引き連れて遊びに行こうと、メガフロートに向かっているところだ。

 出発前、留守番を誰にするかでシスターズがひと悶着起こしたが、結局タイゲタが組んだと言うガードプログラムに後を任せて全員で出かける事にした。

 何かあったらリモートでも逝けるとタイゲタは言うが、それは字が違うような……、誰が逝くのかとツッコミを入れてはいけない、何かあった時はそん時だと開き直ってやり過ごすのが寛容である。

 そう心に決めて全員で村を出てきた訳だ。

 それに今回は、今まで事情を知らされていなかった者や警護関係者も全員来ている。

 警護する丸タイが居ないんだから村に居ても意味が無いだろうという事で、待機組も全員巻き込むことにした。

 良い機会だし、最近の状況説明とどうせ巻き込まれるんだから、関係者を一同に介してセミナーでも開こうかと相なった次第である。

 10月初めからは、選抜された大学や研究機関もメガフロートに引っ越してくるし、邪魔が入らない今のうちに関係者全員の意思疎通を図っての夏休みリゾート企画、メガフロートで南の海を満喫しようという趣向だ。

 俺が通勤に使っているクルーザーに乗れると言ったら、学校の皆んなも大喜びで家族まで引き連れて来ている。

 初めてクルーザーに乗った連中の顔と言ったら、ククククッ、おっと思い出したら笑ってしまった。

 事情をよく分からずに付いてきた父兄は、船が係留されている横須賀までの移動中のマイクロバス改の中でうちの親と鷺ノ宮校長にヒヤリングを受けていた。

 うちのマイクロバス改もご多分に漏れず、空間拡張した部屋がついているので、事情を知っている者達は拡張部屋に直行し、事情を知らない親達は座席で移動講習という流れだ。

 事前講習の後、百聞は一見にしかずという事で、拡張部屋に移動してビックリ。

 その後、クルーザーに乗って2度ビックリとなった。

 この時は、合流したゲストや警護の居残り組の他、今まで関わってある程度事情を知るメンバーも目をむいて驚いていたのが笑える。

 クッククク、アーッハハハハー♪


 村を出る時まで、少し時間を戻そう。

 警護関係者は、自前の車両でマイクロバスの前後をはさみ、横須賀まで移動して来た。

 そして、米軍基地前で他の東京駐留組と荒垣さんに冴島先生、今回も付いてきました山口外務大臣、いい笑顔で手を振っている。

 そしてなんでいるのか、法務大臣と国土交通大臣と文部科学大臣、女性大臣揃い踏みである。

 山口外務大臣によると、巻き添えにする犠牲者(きょうりょくしゃ)を連れてきたらしく、『これからメガフロートでリゾート体験なのよ♪』と言ったら、私達も是非参加したいと付いて来ちゃったのよ~と悪い笑顔でニヤついていた。

 これ確信犯だ! やっぱり交渉事はプロだね、半ば詐欺みたいなもんだけどさ。


 そして、横須賀の米軍基地に係留されている豪華クルーザーを見た面々は、嬉しい悲鳴を上げて、この船旅に思いを馳せていた……ハズなんだけど、昴達の案内でどんどん船の奥に乗り込んでいくと、そこはお風呂のドアだよねっていう所に入っていくじゃ~ないですか。

 イヤイヤ、その奥は海ですよね、エッエッエッーーーナニコレーーーて感じで、意味の違った悲鳴をあげていた。

 それはそうだろう、この船には、有り余るエネルギーで拡張された空間に、各種情報処理センターに超豪華リゾートホテルやレクリエーション施設が併設された別世界が広がっていたからである。

 信じられない目の前の現実に、一同フリーズしてしまっていたので、質問地獄が始まる前にこれ幸いとホテルのラウンジに誘導して、チェックインから各部屋へ押し込んでしまった。

 落ち着いたところを見計らい、館内放送でコンベンションホールへ集合してもらい、再度セミナータイムである。


 ここは実際に閉ざされた空間だが、空や景観は船外の景色を投影しているので、動く島に乗っている様な印象を持つだろう。

 雨や風などの影響は全く受けないので見た目だけだし、船とつながってはいるが独立した空間なので揺れもなく船酔いにもならない。

 船が苦手で、酔い止めを飲んできたゲストは、この説明をうけて大喜びである。

 今、この動く豪華リゾートホテルから見えるのは、東京湾、横須賀の海だ。

 おっ、そろそろ準備が出来たようだ。

 

「アテンション、船長のキャプテンJだ、よろしく頼む。現在1050、本船は、10分後、1100にメガフロートへ向けて出港する。今回は、昴の意向により、伊豆七島から小笠原諸島をゆっくりと周遊して、明日1500にメガフロート到着の予定だ。各自、リラックスしてクルージングを楽しんでほしい。副船長、あとは任せる」


「アイサー。私は副船長のマーガレット・スミスです、宜しくお願いします。気軽にマギーさんとお呼び下さい。これから簡単に、皆さんの乗るこの船を説明いたします。この船の名は、プレアデス・アークⅡ世号、昴の方舟2世と言う名前ですね。Ⅱ世って事は、どっかにⅠ世が有るんでしょうか? 謎です。それはさておき、この船は、昴くんが造船しました。当たり前のようにブッ飛んだ船ですので、詳しいことは本人から直接聞いて下さい。マ~、この船は、地球上のどんな豪華客船より安全で快適ですので、心ゆく迄、楽しんで下さい」


 ウッハ~、マギーさん、説明を全部こっちにぶん投げやがったよ。


「通信士のジェニファー・アンダーソンです。ダーリンには、いつもお世話になっています。お義父さま、お義母さま、いい嫁に成れるよう精進しますので宜しくお願いします」


 ギン、ギン、ギン、ギン


「ウッギャーーーーーー、チョ、まって、ウギャーーー」


 痛い痛い痛い、なんで周りの皆んなから抓られるの、痛い痛い痛いってばー

 この後、緩やかに船は動き出した。

 実は今回、ハコやシスターズの教育実習も兼ねている。

 この船のホテル機能は、ほとんどがオートメーション化されていて、使用法を覚えれば一人でも生活出来る。

 しかし、雑多な人間が閉鎖空間に集まると、想定外の起きなくとも良いトラブルが必ず起こるものだ。

 ハコ達は、移民船であり、こういった人間やクルーの管理や接待をしなければならない。

 それが彼女達の存在意義でもあるからだ。

 今までは、大手を振って表舞台に出られなかった彼女たちも、やっと色々な存在と関われると張り切って今日は来ている。

 そして、これから始まるのは、船酔いや天候に左右されない、豪華クルージングであり、彼女達の初めての長期(2週間)に渡る船内活動の始まりである。

 やっぱり、チャント経験を積まなければ、AIだろうと素人と変わらないって事だよね。




 ◆




 この日、横須賀米軍基地の司令は、ここで今話題の中心になっている船に、ぞろぞろと人が入っていくのを遠目に見ていた。

 不思議なクルーザーだ。

 確かに大きめの船では有る。

 だが、あんなに乗り込んで大丈夫なのか?

 それも船のオーナーをはじめ現職の大臣4名、一目で護衛とわかる多数に加え一般人や子供までがゾロゾロゾロゾロ……、メイドまで8人も乗せて、まったく羨まケシカラン事だ。

 今年の5月中旬より、当基地に係留されはじめた40M級豪華クルーザー。

 NSAのマーガレット・スミス女史と護衛のジェニファー・アンダーソン軍曹が住み着いて管理人をしており、一週おきに今話題のメガフロートへと就航している船である。

 現在、この基地で一番ホットな注目を集めている。

 なんとか中を見たいと交渉するも、むさ苦しい男共は完全にシャットアウト、実は私も断られた。

 若干の女性士官が見せてもらったと言うので、それとなく話を聴いたところによると、船の中は想像以上に広々としており、豪華な動くペントハウスの様だと溜息ながらに言うじゃないか。

 どうしても見てみたい、駄目だと言われるとなおさら熱くなるのが海兵隊魂だ。

 何とかして乗ってみたい、この目で直に見てみたいと忍び込む野郎どもに対し、鉄壁の警備システムが行く手を阻み、死屍累々の犠牲者を大量増産中である。


 聞く所によると、Y日本メーカーにより同系の30M級が近々限定販売されるらしいという最新情報もある。

 買うとしたら、一体いくらになるのか想像も出来ないが、そのY日本メーカーに問い合わせてみたところ、日本製なので割とリーズナブルになる予定とかで、何人かで資金を出し合えば手が出せると分かり、資金集めを始める奴も出始めた。

 ちなみにメーカー担当者に件のクルーザーの話をしたところ、今度限定販売する船の船体提供したのがクルーザーのオーナーで、今までにない船なんだそうだ。

 件のクルーザーは、ワンオフの自家建造との事で、詳しくは分からないが、もしも売りに出されたら値段は天井知らずに成るだろうと言っていた。

 ウ~ン、どうにか乗せてもらえないだろうか……。

 先日のメガフロートでの実験飛行も、全世界の注目の的だし、うちは自衛隊の物資運搬定期便に強制的に協力の形でねじ込んだらしいから、メガフロート迄乗せてもらって帰りは、うちの定期便に便乗して帰ってくるなんて荒業も出来ないことはない、船に乗せて(・・・)貰えればだがな、ハッハッハッ。




 ◆




「キャプテン、間もなく本船は東京湾を出ます」


「よし、オートクルーズ・セット、完了。副長、下はどんな様子だい?」


「アイサー、航路確認良し、異常なし。下はお祭り騒ぎしてますよ、賑やかで良いじゃないですか。ジェミーの爆弾でリトルBOSSは、修羅場の様ですが」


「う~~む、あれはな~どうにか成らんのか? チョットBOSSが不憫に思うのは俺だけじゃないだろう」


「あれは持つ者の宿命と言う物です。BOSSがモテるのは良いことですよ。今から気の置けないパートナーや仲間を沢山作って、経験を積むのも上に立つ者の責任と言う物です。ジョージは、まだ早いと思ってるのかも知れませんが、13歳といえば興味も出てきてガールフレンドの1人や2人、居ないほうが変ですよ」


「それは分かるんだが、ジェニーがデレるのは話が違う様な……」


「アラッ、ジェニーだって立派なレディーなんですからね。相手がチョット年下ってだけじゃないですか。周りには強敵がワンサと控えているんです、あのくらい露骨にアピールしなくちゃ駄目ですよ」


「まさかジェニーを焚き付けているのは、お前なのか?」


「焚き付けてるなんて失礼しちゃいますね、ガンガン燃料投下して、炎上するぐらい燃え上がらないと楽しくないじゃありませんか。これで、これまで煮えきらなかったリトルガール達にも火がつくでしょ、お礼を言って欲しいくらいですよ。大体、ジェニーは根が引っ込み思案だから……、普段、おどけてますけどあれは距離感を測りかねて怖がってるだけですからね、もっと強気にいけばいいんです」


「ま~、お手柔らかにな……」


「だいたい、ジョージは人の心配より、自分の心配いえ将来の事は考えているんですか?クド、クド、クド、クド、クド………」


「ウォッ、これはやぶ蛇だったか……」




 ◆




 同日1420

「フィッシュオ~ン! シーラだね、今夜のおかずはあと何匹?」


[肯定。最低あと5匹は欲しいところです、マスター]


「ヨ~シ、ここで大物狙っちゃおう。ハコ、魚の探知よろしくね」


[肯定。現在水深35mにマグロの群れがいます。キャプテンに連絡、本船のコントロールを一時こちらに頂きます。群れの先頭に合わせ転進、取舵20度、速度15ノット(およそ27キロ)に変更、トローリング開始してください]


「了解! そ~れっとぉ~……」


「ハハハ、先に釣り上げるのは俺だぞ昴くん、伊達にクジラなんてあだ名で呼ばれてないところを見せないとな~」


「負けませんよ、権堂主任。次も俺が釣り上げてみせますよ」


「ヨ~シ、勝負だ! アッハハハァ~」


 海に出たら、権堂さんのタガがいい具合に外れた。

 普段ストレスの多い仕事だしね、たまにはハメを外して楽しまなくっちゃ。

 それでも俺の側を離れない辺りは、すごいプロ根性だよね。


『BOSS、魚を追いかけるのも良いが、そろそろ他の皆んなも本船に慣れた頃だろう。先に話しておかなくちゃイケない事があるんじゃないか。このあと楽しむためにも、早めに仕事は終わらせて置くのをお奨めするよ。それにジェニー、そろそろこっちに戻ってこい、BOSSの側に居たいのも分かるがお前の仕事も溜まっているぞ』


「そうだね、15:00にお茶しながら話そうか。そういう訳だから、ジェニーさん準備と皆んなに連絡をお願い」


「アイサー、勤務に戻ります。また後でね、ダーリン、チュッ!」


「イヤハヤお熱いですな~、昴くんはモテモテだ~♪」


「イヤイヤイヤ、勘弁してくださいよ~。ここで釣りしてるのも、下から逃げてきたからなんですからね……」


「どうせここが見つかるのも、時間の問題でしょうな。ここは潔く、腹をくくるしかありませんよ。それで、本命は誰なんです? 銀河ちゃん、聖ちゃん、若葉ちゃん、ダークホースは裕美ちゃんかな」


「そんな事、考えた事ありませんよ~」


「それはいけませんな~、そこはチャント考えてあげないと、あの子達が可哀想じゃありませんか。君も、もうお付き合いしてる娘がいても可笑しくない年頃でしょう。分かってるんでしょう? 少なからず好意を向けられているってことには……」


「う~ん、なんとなくは……」


「これは先が思いやられるな~、あの子達も苦労しそうだ」


[肯定。竿が引いておりますよ、2人とも……]


「「ウワワワッ!!」」




 ◆




 同日1500

 ここは多目的ホール、コンベンションセンターとしての使用目的を持つホールで、キャプテン達も含めて全員が集まり、和やかな午後のお茶会が開かれている。


「お集まりの皆さん、お茶をしながら聞いてください。今回、夏休みリゾート企画としてご参加いただきありがとうございます。リゾートと銘打っております通り、メガフロートと南鳥島でのリゾート、この船とメガフロートの施設を使ったエステやマリンスポーツ体験が中心となります」


 オオオオオーーーーパチパチパチーパチー


「そして今回の企画には、いくつかの目的があります。1つ目は、現在仲間となった皆んなの親交を深める事。2つ目は、10月に入ると各大学や研究機関からの第一陣がメガフロートに押し寄せて来ます。これに先駆けて、メガフロート施設の不特定多数による使用を踏まえた全力稼働を行いたいと思います。変な所や分からない所を見つけたら、気軽に最寄りの端末に声を掛けてください。実際にある程度の期間、多数の人間が住むことで、色々な事が浮き彫りになって分かってくると思います。この計画が進めば、増えてゆく人は日本人だけでなく、外国の研究者やその家族なども関わることになるでしょう。人が集まれば、人種間の軋轢や距離感など、色々な問題も出ると思います。今回は、とりあえずの環境を整えたので、問題の洗い出しを兼ねて全力で遊びたいと思いますので、ご協力をお願いします」


「昴くん、質問いいかね?」と長谷川所長、銀河ちゃんのお父さんが手を挙げた。


「はい、長谷川さん、どうぞ」


「君の話からすると、メガフロートには色々な目的があるようだね。その辺を聞かせてもらえるかな?」


「了解しました。まず、メガフロートの本当の存在意義と理由をお教えします」


「えっ、今までのは隠れ蓑って事かい?」


「冴島先生、本当の計画を隠していてごめんなさい。建前では、メガフロートで宇宙船の研究開発をする事になっています、技術の拡散と向上を目指すという意味では、これも理由の一つです。まず他との摩擦を減らすために、大学や研究機関に施設と環境を貸し出して公にすることで、出来るだけ軍事利用等を排除できる様に動く予定です。すでに先日の公開飛行実験を見た軍事関係者、武器開発メーカーからの接触が始まっていますし、近傍の海底に潜水艦も確認しています。漁船に偽装したスパイ船なんかも来ていますけど、大丈夫です安心してください。なぜメガフロートをあんな辺鄙で何も無いところに作ったのか、そして大ぴらに公開したのか、それにはチャントした訳があります。場所が自衛隊の飛行場と気象観測所しか無い南鳥島の隣で、他に障害物の一切ない海上である事。あんな所、飛行場が有る事じたい、俺たちが活動始めるまで知っている人は、ほとんど居なかったと思います。ロケットの打ち上げには、理想的な立地条件ですけど、でも南鳥島では狭すぎるんです。そこに俺たちが広い浮島を作った事で、宇宙船開発という理由を誰もが信じました。大陸棚の端っこで、すぐ下は水深1000m以上の断崖絶壁、潮流が早くて港が無いので船が停船する事も儘ならないような場所です。海中からのアプローチは、まず無理でしょうね、そういった環境ですよ。見えてても手が出しづらく、孤立した環境で100%人工物で出来た住環境、加えて夜間やシケの時は海中に潜航してしまいますので、広いとは言っても密閉されて外には出られなくなります。皆さんなら何を想像しますか?」


「昴くん、メガフロートには、何人ぐらいが居住する予定だい?」


「1万人が補給無しで過不足なく1ケ月の予定です」


「それはすごい、ロケットではないとすると宇宙ステーション、スペースコロニー辺りかな?」


「はい、もう正解に辿り着きましたね。メガフロートは、スペースコロニー及び大型の移民宇宙船の実験施設です」


「……そうか、君はもうずっと先の事を見据えて動き出しているんだね。分かった、協力しよう。皆さん、聞きましたね。これからの2週間、遊びつくそうではありませんか!」


「「「「「「「異議なし!」協力するわ♪」遊ぶぞ~!」オオオーー」」」」」


「ありがとうございます、皆さん宜しくお願いします」


「話は纏まったようだし良かった良かった、それで宇宙船の研究はしないのかい?」


「エッ、やだな~皆さんもう乗ってるじゃないですか、今も宇宙船に……。この間飛ばしてたのは、オモチャ! お遊びですよ」


「「「「「「「「「「エエエエエエーーー」なんだってーーー」」」」」」」」」


「あれ、これ言っちゃ不味かったんだっけ?」


[肯定。マスター、やらかしちゃいましたね。いざとなったら口封じすれば……]


「ハコ、物騒な事を言っちゃ駄目だよ。皆さ~ん、大丈夫ですからね。秘密さえ漏らさなければ、多分、メイビー……?」


[否定。マスターがおっしゃるような物騒な事は起こりませんよ。文字通り、我々と接触したあいだの記憶を曖昧にするだけです。命に別状はありませんし、逆に不具合の起きないようにフルメンテナンスさせて頂きますので、悪いところは全て治るとお考えください]


「そっ、そうなの? 本当に大丈夫?」


[肯定。その代わりと言っては何ですが、これまでの身体機能の強化や老化防止の処置も排除されますのでご了承ください。我々とお付き合いの長い方は、薄々自覚されていると思いますが、持病の悪化や季節の疾患に罹る事もなく、人間ドックを受けられている方も血圧や血糖値をはじめ体調不良の元となるデータは検出されていないと思います。皆さんが今付けられているブレスレットにより、詳細なメディカルチェックを日々行い、それを元に密かなナノマシン治療が施されています。ブレスレットのメニューから健康状態と治療履歴を御覧ください。現在の健康状態と治療が必要な場合の完治するまでのタイムスケジュールが確認できます。普通の人間で軽度の疾患や骨折等でしたら1週間もあれば完治しますし、その後余病の発生を排除するために段階的な身体強化が行われています。この時点で癌の排除や遺伝子疾患の改善などを行い、最終的にはテロメアの修復へ移行します。ここまで来ると見かけの年齢も影響を受けて、その個体の全盛期の年齢に近い外見となります。そしてこの段階までコーディネートが進みますと、不死ではありませんが、限りなく不老に近い健康状態にコントロールすることが出来るようになります]


 何か周りの人達、全員青い顔や赤い顔しながらブレスレットのホロモニターとにらめっこしてるんだけど、大丈夫かこれ?

 あっ、今日参加した大臣たち、目が血走ってるよ、病気じゃないよね?

 そこかしこで聞こえてくる声は……、

 「初期の癌がすでに完治してるぜ」とか

 「現在の生体年齢33歳ですって、私61よ」とか

 「隠れ脳梗塞が5つ、治療済みって出てるよ」とか

 「……まさか、そんな有り得ない……」とか

 「あっ、歯が生えて来てる」とか

 「最近よく見えると思ったら視力が戻ってる」とか

 「ナニコレ、重度の水虫治療中って……」とか

 「昔の靭帯損傷が綺麗に完治してる!」とか

 「ウオオオーーー」とか、収拾がつかなくなって来ていた


 そんな中、長谷川所長が叫びだした


「やっぱりそうか! どうもおかしいと思っていたんだ。どう考えてもこの大きさの船に、これだけの規模の施設を詰め込む理由が分からなかった。移動中のバスでも驚かされたが、あそこから既にこの流れが始まっていたんだね」


 いいタイミングで話が変わってくれた、ナイス銀河パパ。

 でも、チョット皆んなとずれてるぞ。


「長谷川さん、冴えてますね~。もちろん、あのバスも飛べますよ。宇宙船を飛ばすのなんて、初歩の初歩です。問題は、如何に安全で快適に人が使えるかなんですよ。宇宙船に限ったことじゃありませんが、事故や故障で人命が脅かされている様では、進歩や発展もそこで足踏みしてしまいます。だから隔絶した安全な場所が必要だと思ったんです。最初は小さな部屋くらい5m四方、125立方mぐらいでした。うちのハイエースがこれです。次が建物レベル、20m四方、8000立方mくらいですね。皆さんが移動に使ったマイクロバスがこれにあたります。そしてやっと、こうした環境を持ち込めるようになりました。現在は、300m四方、2700万立方mの空間を亜空間固定して使える迄になりました。視点を変えてみましょう、皆さんは宇宙船の定義ってなんだと思います?」


「そうだね、船だから移動できる事、そして移動する場所は宇宙ってことかな、あとは何だろう」


「そうですね、宇宙空間で生存している状態で移動できれば宇宙服も宇宙船と言えます。一時期、宇宙船地球号なんて言葉も流行りました。地球も立派な宇宙船と見ることができます。でも、自由に飛び回れるという訳では有りませんから母船と言ったほうが良いかもしれませんね。ただし、この母船から小舟を出すのは大変な苦労ですけれど。今の人類は、ここで長い時間足踏みをしている訳です」


「確かに安全な地球環境から、過酷な宇宙空間に飛び出すのは大変なエネルギーと危険が伴う。現在、組み立てが行われている国際宇宙ステーションは、地球及び宇宙の観測、宇宙環境を利用した様々な研究や実験を行うため施設だが、危険なロケットの打ち上げを減らす目的も有る」


「そう、ロケットの打ち上げは危ないんです。この間も、コロンビア号が落ちそうになってました」


「えっ、発表では大成功って言ってましたけど何かあったんですか?」


「実は打ち上げの時、外部燃料タンクの外壁が脱落して翼に穴開けちゃったんですよ。そのまま地球に下りたら燃え尽きちゃうっていうんで、キャプテンとメローペに翼の穴を塞ぎに行ってもらったんですよ」


 メローペが自慢気に修復時の記録映像を見せている、うん偉い偉い


「俺は知り合いが居たから話を付けに行っただけで、特に何もしてないぞ。修理中に船長のリックと茶飲み話してきただけだ。彼奴等、持ち込んだスイーツや食料に目の色変わってたがな、ワハハハ♪」


「兎に角、現在の有人ロケットは危険と隣り合わせなんです。それにNASAでは、年々予算を減らされて碌にシャトルのメンテナンスも出来ない有様ですし、国際宇宙ステーションの組み立ても予定より遅れてますよ」


「そんな調子で宇宙開発なんて出来てるのかい?」


「アメリカとロシアが冷戦時代に国の威信をかけて競争してたころは、湯水のようにお金も使えたので、人も資材も集まったんですしょうけど、今はどこも資本主義が主流ですから基本的に利益にならないことには誰もお金出しませんよね。商業利用の人工衛星や学術機関の調査機器打ち上げくらいですから、ロケット業界も大変らしいですよ。今一番鼻息が荒いのは、大陸の大国くらいですよ。年内に有人ロケット打ち上げるって息巻いてますし、ま~あそこは打ち上げに失敗してパイロットが亡くなっても、失敗した打ち上げそのものを無かった事にしちゃうぐらいですから呆れますよ」


「それはダメダメだろう、隠したいのは分かるが……」


「先日の飛行試験の後すぐに、共同開発の打診して来たみたいですけど、お断りしておきました。かなり御立腹だったようですけど、何か仕掛けてくるかもですね」


「あ~、今回メガフロートへ学術進出する大学や研究機関にも釘を指しておいたぞ。出入りする人間は、全員DNAの登録と本人確認がされるから、変な奴連れてくるなよ、下手すると関係者全員出入り禁止に成るから覚悟しとけ、ってね」


「ありがとう御座います、冴島先生」 


「昴くん、話を戻すけれど君は、メガフロートを舞台に色々と魅力的な餌で不特定多数の人間を集め、そこを実験室に見立ててデータを取ろうって腹なんだね?」


「そうです。普通に人が暮らしていける環境とシステム、小さな地球、箱庭、アクアリウムを作るためのラボラトリー、それがメガフロートの本当の存在意義なんです。そしてあわよくば、其処に集まった優秀な人材も巻き込もうって言うのが俺の計画です」


「だが、色んな所から圧力がかかるんじゃないか? 出ていかれちゃ困る国だって有るだろう」


「でもそれは本人が決めることでしょう。出ていかれないように国も努力しなくちゃ。法律で縛るんじゃなくて、こんな国に住みたいって思う国作らないと国民は出てって当たり前だと思うんですけどね。生まれた国が悪かったら出ていくか変えちゃうくらいしないと……。みんな自分が住みたい理想の国って有ると思うんですけど、どうですか?」


「ウ~ン、そんな事いえる昴くんはすごいと思うよ。思ってても出来ないのが今の大人だ、情けない限りだよ」


「荒垣さんは、頑張って国を支えてるじゃないですか。今の地位にいるのだって、この国を良くしたいと思って出世したんでしょ。たま~に勘違いしてるお役人も居ますけど、日本の国家理念て国民のために国家が有るってスタンスですよね。国家のために国民に犠牲を強いる国もありますけど、日本がそんな国じゃなくてよかったと俺は思ってますよ」


「昴くん、君、政治家にならない? 私が色々教えてあげるわよ。最近は日和見の政治家ばかり増えちゃって、政治の使い方間違えてる奴ばっかなのよね。民意を履き違えてると言うか、説明責任放棄してるとかね~……」


「昴くん、人が他人の事を真に理解し協力する事は、大変な努力と時間がかかるんだ。理解を得られずに挫折する例は、枚挙にいとまがない。昔、王や貴族が民を導いた時は、王が間違えさえしなければ政治は楽だった。民は、王や貴族の言うことだけ聞いていれば良かったんだ。でも教育が発達して民衆に知恵が付くことで、不満や反発が生まれた。不満や反発はなぜ生まれるのか、それは説明責任を果たしていなかったからだ。自分たちの収めた税が何に使われるのか。なぜ自分は罰せられるのか。なぜ戦争をするのか。ナゼナゼナゼ……。君が今日、皆んなをこの船に乗せて、これから何をするのかを話し始めた時、俺は思ったんだ。嗚呼、とうとう時期が来たんだとね。3年前、君のお父さんとお母さんが青い顔で職場を飛び出していった、君が倒れたとね。その後、直ぐに長期休暇を取って職場に復帰した時、彼等は別人のように若返っていた。銀河に聞いたら昴くんも痩せて別人みたいに格好良くなったとハシャいでいたよ。 (ちょ!チョッとお父さん……真っ赤)それから始まった村での騒動、隠しているつもりらしいが友人として見ないフリをするのに苦労したよ。村の皆んなもバカじゃない、薄々気がついていたさ。悪いことじゃないからと飲み込んでね、いつか話してくれるだろうと待っていたのさ。ま~、ここまで大きな話になるとは、私も思っていなかったんだけどね」


「あ~やっぱりバレてましたか~、所長」


「天河くん、あれでバレないと思っているのは、お人好しな君達一家ぐらいだよ。村の連中には、ほとんどバレてると思ったほうが良い。君は知っているかい? 村長が肺癌でステージ4だったことを、私は相談を受けていて知っていたんだが、それが手術前に綺麗に治ったと言うじゃないか。医者も頭を(ひね)っていたらしいよ。他所への転移もなく綺麗サッパリと無くなって、今は奇跡の健康体だ」


[肯定。村の指導者が健康に不安を抱えていては、マスターの生活が脅かされます。最優先で治療を行いましたが、イケなかったでしょうか?]


「あ~、ハコ君の差し金か。昴くんは、良いパートナーを持ったようだね。私が確信を持ったのは、村長の件からだったけれど、君たちを目で追っていれば、村でなにかある度に活躍しているのが分かるというものさ」


「所~長~! 一言いってくれればいいのに~、人が悪いな~。それじゃ丸っきりピエロじゃないですか、私達が」


「イヤイヤ、必死に隠そうとして隠しきれていない処が微笑ましくてね~、アハハハ。村人一同、生暖かく見守っていたのさ、村がどんどん良くなっていくのが楽しくてね~。これから村人も増えると思うよ、身内を呼んで巻き込む方針に動いてるようだからね、期待していい、君たちの秘密は漏らさないからさ」


「其処はお願いしますよ、参ったな~。帰ったら村民会議かなこれは……」





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