1-4-02 メガフロート…オラトリオ 21/5/18
20210518 加筆修正
8890文字 → 9551文字
世暦2003年3月10日
某工科大学より何の前触れもなく発表された内容に、全国の海洋工学をはじめ各資源開発企業や関係する研究機関、果ては研究者個人に至るまでに激震が走り抜けたのだった。
世暦2003年1月25日に、株式会社タウルスに企業内事業として発足した宇宙開発企画部は、宇宙開発に必要な技術の開発と実用試験及び技術転用を行う事を事業目標として、拠点を南鳥島近傍にメガフロートを建設することの許認可を確保していた事を同時に発表。
海上保安庁へ申請された日時、世暦2003年3月1日に建設に着工したメガフロートの一部を、某工科大学の協力のもとで国内の学術研究を目的とする団体及び個人に租借すると発表したのだ。
この発表に最初は皆が思った。
何をトチ狂ってそんなデマを発表したのかと……。
しかしどこのメディアも報道各社も、メガフロートの存在が明らかになるにつれて発表された内容が真実であることに驚嘆するのだった。
各研究機関が交渉に動き出すより先に、審査に通れば個人でも租借が許されるとの内容に、我こそはと名乗りを上げる者が多数にのぼったが、その尽くが継続性もない荒唐無稽な内容で門前払いの洗礼を受けることになった。
この中には、ムー大陸の実地調査やらルルイエの実態調査などオカルト偏重の宗教団体なども含まれていたらしい。
◆
世暦2003年4月1日
エイプリルフールに政府関係者、報道各社、研究機関の代表者や今日の参加許可を通った研究者などが海上自衛隊の計らいで南鳥島に集まっていた。
今回、荒垣事務次官の肝入もあり海上自衛隊の協力を取り付けてある。
自衛隊幹部とアメリカの高官も参加しているから、一面海で何もないことに一同不審がる者もチラホラいる中、おとなしく一般公開の時間を待っていた。
予定時間のおよそ10分前、ザザザーンと波を押しのけて島より北側の海が泡立った。
そして波を押しのけて島が姿を現すにつれて、その光景に人々がどよめいたのだった。
およそ1Kmの距離から見ても、今いる南鳥島より眼の前のメガフロートが大きい事がわかる。
しばらくして波が静まると、メガフロートから白い道がゆっくりと伸びて来る。
見れば小型のフロートが順に浮き出して連結され道になろうとしていた。
公開視察の時間ちょうどに出来上がった島とをつなぐ道に、声を発する者は一人として無く、ウミネコの鳴き声だけが響いていたのだった。
そこへどこからともなくマイクを通した、ボーイソプラノの声が響いた。
『アーアーアー、本日は遠い所、お集まり頂きましてありがとう御座います。株式会社タウルス、宇宙開発企画の代表を務めます天河昴と申します。以後、お見知り置き下さい。これから、わが宇宙開発企画が拠点といたしますメガフロートの第一回公開視察を行いたいと思います。視察の後に質疑応答の時間をお取りしていますので、ご案内中の突っ込んだ質問は控えて頂けると嬉しいです。すいませんが普段慣れない言葉を喋って舌を噛みそうですので、これ以降は普通にしゃべらせていただきますね。まず、これからご案内する場所は、私の私有地になりますのでマナーの悪い方は、海に放り出しますので覚悟して行動をお願いします。周りは太平洋で島は南鳥島のみです、落ちたら此処まで泳いで頂きますので覚悟してください。前もって警告だけはしておきますね~。では、事前にお渡しした招待状の番号順にお進み下さい』
見ると、海上の道に『順路』と矢印が表示されている。
みんな、ぞろぞろと1Kmを歩きメガフロートに足を踏み入れたのだった。
メガフロートは一面真っ平らで何も建物が無いように目える。
そこには演台が1つ用意されており、少年が1人立ち、後ろに日本人にしては体格の良い男(多分護衛だろう)が少年を見守る様に立っていた。
どこまでも平らな濃い灰色の平地が有るだけで……確認出来る物は何も無い。
演台の前に順路の表示が止まっている。
『皆さん、ようこそお出で下さいました。まず、演台の前にお集まり下さい』
およそ300名ほどが演台の前に集まった。
『こんにちは、あらためまして、俺が天川昴です。ここの実質的な持ち主になります!』
ザワザワザワザワザワザワザワザワ
『エ~お静かに願いま~す。説明を始めますよ~!』
シーーーン
『ありがとうございます。では、説明を始めたいと思います。まず、右方向中央を御覧ください。ポチッとな♪』
指さした所の地面から ズズズーと建物が生えて来た。
おおおおおお~~~
『皆さんは、このメガフロートを最初に見た時、何も無い事に戸惑われたと思います。ですが、ここは施設の屋上だと思って頂ければ結構です。基本的に全ての施設は、皆さんの足の下、海中にあります。ちなみにこの屋上部分は全面が太陽発電素子です。今も発電を行っていて2400MW、およそ大型火力発電所を超えるだけの発電量を持ってます』
オオオオオオ~~~
マイクを持って、昴が先導する様だ。
『では、俺についてきて来て下さ~い、歩きながら説明しましょう。さっき、せり上がって来たのが中央管理棟で縦横50mずつ、高さが50m、深さ300mで完全埋没時は、最深部が350mになります。まず、ここから入りま~す。普段は、この階が受付フロアになってます』
ゾロゾロと中央管理棟に入ってゆく。
『まず、エレベーターで最上階展望室へ行きましょう』
10階でエレベーターを降りると中央に柱が有るだけの広い部屋が有るだけだった。
『では皆さん、壁の方を見て下さい。水密隔壁を下ろしますね』
ズズズズーーーン、隔壁が下りると全面ガラス張りの展望室になり、360度メガフロートと海、そして少し離れて隣に三角の南鳥島が見渡せるようになった。
『これから、各施設の説明に入りますね~。まずは南を御覧下さい。こちらは、俺が代表を務める宇宙開発企画の研究施設となっております。分かりやすく屋根の色を変えておきま~す』
南側のフロートから複数の建物がニョキニョキと生えてきた。
屋根の色は青。
オオオオオオ~~~
『次に東を御覧下さ~い。こちらは工場区画及び水密ドックとなります』
同じ様に生えてきたが、建物が大きく間隔も離れている。
屋根の色は赤。
『次は北側です。こちらは各研究機関や大学の研究施設となる予定です』
綺麗にマス目状に区画整理された建物が生えてきた。
屋根の色は白。
『そして残った西側は、居住区画と飲食街や各種共有施設となります』
マンションやショッピングセンターにレストラン、中央にガラス張りの公園まで有る。
屋根の色は緑
ホア~~~~~
『各施設へは、基本この中央管理棟を通って移動します。地上に出ている時は直接の移動も可能ですが、安易に外から移動すると入れなくなります。さて、次に行きましょう、今度は一気に下におりますよ~』
エレベーターで皆は地下60階へ下りてゆく。
地下60階で下りた見学者たちは、先ほどと同じ様なフロアに下りたった。
『皆さん、ここは水深300mの海中です。これから隔壁を開きますが厚さ50cmの耐圧樹脂によって水は入って来ません。パニックを起こさないようにご注意くださいね。そして海中では急に強い光を出すと色々とぶつかってきて危険ですので明かりを落とします。目が慣れるまで足元に注意をお願いしま~す』
部屋の明かりが段々と落ちて行き、足元だけ薄っすら照らされている程度になった。
ズズズズーーーン、隔壁があがってゆく。
外は暗黒の世界だ。
『海中300mだともう地上の光は届きません。フロートを透過モードにします。可視光線を光ファイバーで導き、ライトの代わりにします』
上方から光が下りてくる。
斜め上を見上げるとビルが下に向かって乱立し、降り注ぐ光にきらめいている。
ホワ~~~~~~
すると東方面から何かが近づいて来る。
『フム、珍しいですね。お客様の様です。皆さん歓迎されていますよ♪』
近づいて来たのは、10頭ほどの大きなザトウクジラの群れだった。
ゆっくりと中央管理棟を中心に回遊している。
メガフロートから降り注ぐ光の中で、悠々と遊んでいるクジラたちを見て見学者たちはこの時に思った、時代が変わる確かな瞬間を……。
夢のような光景を透明で分厚い樹脂越しに眺め、見学者達はしばらくの間、それぞれ思考の底に沈んでいたのだった。
『では皆さん、そろそろ2階大会議室へ移動しますよ。一休みしたら30分後、質疑応答に入りたいと思います。念の為お知らせします、施設内は禁煙です。どうしても我慢出来ない方は1階で表に出て外でお願いします。では行きましよう』
見学者の三分の一は1階で下り、表に出ていったのだった。
興奮が冷めやらず、ヤニが欲しくなったのだろう……。
◆
今日のBOSSは、随分と飛ばしているなと感じながら後を付いていく。
直前まで代理を立てる手はずだったが、急きょ自分でやると言いだして今に至るのだ。
何か思うところがあったのだろう。
始まるまでアゴに指を当てて、何か悪い事を考えている様なニヤニヤ顔をしていた。
また、碌でもない事を始めなければいいんだが、などと思いながらBOSSのツムジを見る。
うん、時計回りの可愛いツムジだ。俺にもこんな息子が居たらな~。
BOSSは、この20日でほとんどの施設を完成させた。
後は内装と、実際に利用する人間だけだ。
まさかこんなに大規模な街が完成するとは、夢にも思っていなかった。
昨日は、公園の植木や花壇の花を泥だらけになって植えていた。
俺やSPも手伝わされたが、みんなでワイワイと物を作っていくのがこんなに楽しいと思ったのは本当に久しぶりだ。
思わずニヤけて居ると、真横から声がかかった。
「キャプテン、随分と楽しそうじゃないか」
「ああ、こんなに楽しいと思ったのは久しぶりだ。BOSSと居ると退屈しなくて本当にいいな……」
「ウ~ン、昴くんは、びっくり箱がのし歩いてる様なもんだからね。それを楽しめる君も大概だよ。どれ、今度は僕がフォローしないとね!」
「プロフェッサー! BOSSを頼む」
「ああっ頼まれた!」(俺はまだ教授じゃねーんだがな~)
既に教授への内定が降りている事をこの時、冴島はまだ知らなかったのだった。
◆
予告の時間となり、中央管理棟の2階大会議室には既に全員が席について待っていた。
『それでは時間となりましたので、質疑応答に入らせて頂きたいと思います。オブザーバーとして協力を頂いて居る某工科大学の冴島准教授に同席いただいております』
『今回のメガフロートに関する公式発表を受け持ちました冴島です。宜しくおねがいします』
『では、質問の有る方は、所属とお名前を告げた後に質問をどうぞ』
ザッザッザッと手が上がった
『では、左から順に行きましょう。其処の貴方からどうぞ』
「ハイ、○×新聞の佐藤と言います。この施設はどのくらいの期間を掛けて、ここまで出来上がったんでしょうか? 海上保安庁への申請は1月末ごろ、建設開始は3月1日と聞いて居ますがまだ1ケ月しか経っていません……」
『はい、申請通り3月1日に着工して1ケ月でここまで完成しました。昨日は花壇に植木を植えたんですよ』
ザワザワザワザワザワザワザワザワ
『次の方どうぞ~』
「あ~、▲□新聞の鈴木だ。君がここの持ち主と言っていたが、母体の株式会社タウルスにこれだけの物件を扱う資金力は無いと思うんだが……、どこがスポンサーに付いてるんだい? 見ればアメリカさんも来ているしその辺なのかな?」
『ここにある建物や施設は全部が俺の発明品です。建材に使用した材料もゴミや廃材を利用して作ったから実質一円も掛かってないです。だからスポンサーも居ないんですよ。これで答えになってますか?』
ザワザワザワザワザワザワザワザワ ……そんなバカな……
『はい、次の人』
「猪山大学の猪下です。冴島先生にお聞きしたい。ここまで見てきた物は全て本物だった。そしてこれを作った天川昴くんは、本当の天才と認識して良いんでしょうか?」
『猪下教授とおっしゃいましたね。逆にお聞きますが1ケ月でこれだけのモノを貴方は作れますか? いえ、他の誰にも作れないでしょう。もちろん私でも無理ですよ』
シーーーーン
『次の方どうぞ』
「海上自衛隊の瀬名といいます。施設の案内の時に水密ドックが有ると聞こえたのですが造船もなさるのですか? 修理や整備が出来るのであれば我々の艦船の整備等は出来ますでしょうか? 隣の南鳥島には滑走路維持のため海上自衛隊が駐屯していますが接岸できる港がありません。こちらのメガフロートを利用することは可能でしょうか? 以上3点をお願いいたします」
『まず水密ドック機能ですが、500m級の船まで完全整備が可能です。密閉ドックですので接岸したまま沈降も可能です。港としてですが、連絡を頂ければご利用いただけます。ただし燃料は補給出来ません。港の代わりや休憩、嵐の時は先程のドックに避難等の受け入れも行えます。日中は太陽発電のためにほとんど浮上しておりますので、お隣の南鳥島の方も施設利用を許可出来ると思います。通行証は出しますので無断での出入りはご遠慮願いますね』
オオオ~~~~~ ……使えるのか……
「アメリカマリナーのスティーブ准将だ。うちの船を見てもらうこともOKかい? 出来れば寄港地として利用したいぐらいなんだが……」
『マナーさえ守ってくれれば大丈夫ですよ。ただしシツケの出来てないのが居る時はとっ捕まえてペンタゴンに送りつけますけど、覚悟してくださいね』
「………ペンタゴンに知り合いが?」
『NSAのマイク中将とかお友達だし、『ヒュアデス』は身内だし~~~』
「しっ、失礼しましたー!」 ビシッと敬礼
『では次の人』
「宇宙開発事業団の羽田です。天川くんは、宇宙開発企画の代表ということですが具体的にどんな事をするのか説明をお願いします」
『はい、俺がこれからここで始めるのは、有人の新型宇宙船の試作実験です。うまく行ったら、ここを基地として宇宙開発事業を展開する予定です』
ザワザワザワザワザワザワザワザワ
「有人の宇宙船といいますと、スペースシャトルのような物と思えば良いのですか?」
『ウ~ン、ちょっと違いますね。打ち上げにロケットも使いませんし、クリーンで静かなの作りますから』
「???、ロケットを使わないって、どうやって宇宙へ飛ばすんですか?」
『飛ばすのは簡単ですよ、こうやって……』
昴がポケットから出した船の模型が、ス~と羽田の前まで飛んできて、頭の上を回りだした。
『これは、実験用のミニチュアですけど、飛ばそうと思えば月までだって飛ばせますよ』
ガタガタガタガタガタガタガタガタ
『皆さん、お座り下さい。昴くんも悪ふざけはその辺にしなさい。羽田さん、今、目の前を飛んでいる模型はチャントした技術の集積で昴くんが作り上げた物だ。種も仕掛けも有る手品では無いよ。昴くんなら間違いなく今までに無い宇宙船を作るだろう。あははは、メガフロートの説明会の方がふっとんだな、こりゃ』
「ハイハイハイ、鹿苑大学海洋研究室の海野です。海洋開発と宇宙開発、どういったつながりが有るのでしょうか?」
『良い質問です。皆さんご存じかもしれませんが、宇宙開発に付き物なのは極限環境下での生活維持をするための技術開発です。海の中に擬似宇宙ステーションを作り極限環境下での長期実験を行います。同時に宇宙船の開発と現在組み立て中の国際宇宙ステーションを支援して行きます。上に行く前に、まず下で訓練しましょうねってことです。ね、理にかなってるでしょ』
シーーーーン
『他に質問はありませんか? そろそろ良い時間なので終わりにしますよ~』
すーと手が上がった
「最後に君に聞きたい」
『はい、どちら様ですか?』
「文部科学省の三枝と言います。君は何者ですか? ただの13歳には到底見えない。13歳と一言で済ませられるレベルを超えていると私は思う」
『それは、難しい質問ですね。三枝さんは自分が何者かと聞かれて相手が納得する答えを出せますか。俺は出せませんよ、俺は俺だし他の何者でもない。天川昴はこういう奴だって認識してくれればそれで良いんじゃないですか』
「フフフフ、アハハハーー♪ その通り、その通りだよ昴くん」
『それじゃ、そういう事で』
『皆さん、以上でメガフロートほかの視察説明会を終了いたします。海上自衛隊の協力でこの後、南鳥島から輸送機の臨時便が出ますので乗り遅れないようにお願いします』
◆
南鳥島からは距離が有り過ぎて、携帯の電波は届かない。
海上自衛隊の輸送機の中では、先程まで行われた質疑応答に対するそれぞれの意見交換をする者、メモノートに何か書きなぐっている者、夢からまだ覚めずに空中を仰ぎ見ている者、青くなってガタガタ震えている者、腕を組み目を閉じ難しい顔で考え込んでいる者、興奮冷めやらず目を輝かして早く本土に着かないかと窓の外を覗く者、不敵に微笑いながらどう利用してやろうかと知恵を回す者、三者三様の様相を呈していた。
運命の女神は誰に微笑むのか……、それは決まっている、主人公は昴なのだから。
海上自衛隊の輸送機YS-11Mにより、厚木航空基地で下ろされた視察団は、用意されていたバスで東京へ向かった。
中には待ちきれないと、機中で仕上げた原稿を、厚木近郊の支社又は連絡所より急電で送り、自らはタクシーを飛ばすツワモノもいた。
厚木についたのが17時、東京まで車でおよそ1時間である。
まず、帰ってきた視察団からもたらされた情報に、報道各社はどう動いたら良いか頭を抱えた、時間が微妙だったのだ。
このまま報道しても、間違いなく日本発の情報で世界の情勢が変わるほどの特ダネである。
この経済が冷え込んでいる昨今、とんでもないカンフル剤に成る事は、間違いないだろう。
日本政府は、研究機関を指導する立場から、文部科学省が今日中に公式の記者会見を開く意向のようだ。
補足する意味で、詳しい情報を明日の朝刊に間に合わせるのがセオリーだが、一部の新聞社では、文部科学省の発表を待たずに号外を出しても良いのではないかと動き始めていた。
メガフロートに関する情報は、どれをとっても飛びっ切りの物ばかりである。
まず、組織のトップが今年13歳の中学1年生。
25平方キロメートルのメガフロートが建設開始から完成まで1ケ月、ほぼ自己資金でエコ建設。
太陽光による発電量は、大型火力発電所以上で実質的な燃料を必要としない。
そして、一民間企業が宇宙開発に乗り出す。
現在研究目的では有るが、租借地として借りることが可能で有る。
港のなかった南鳥島へ、船での寄港が可能となる。
ここから予想される事は。
・天才少年に依る宇宙開発技術の発展?
・新技術の民間転用、メガフロート技術の公開又は販売。
・進んでいなかった海洋資源の研究開発。
・豊富な電力による海上工場(500mの大型ドック有り)としての活用。
・海底鉱物資源(レアアース等)の調査及び活用。
・日本最南端でのマリンレジャー開発(ホエールウォッチングや海底遊覧等)
・長期滞在型海中都市の存在価値。
・メガフロート其の物の観光資源としての在り様。
・不動産としての価値。
・同じものを他所にも作れるだろう事、それも短期間で安価に……。
これらの事から導かれる経済効果は、天文学的金額と成るだろう事がハッキリしている。
そして驚嘆するのは、これらの事はあくまでも、冒頭の個人での宇宙開発のついででしか無いという事である。
エネルギーを太陽光発電とバッテリー、予備に水素発電ユニットという汚染要素の無い動力源とすることで、海洋汚染の心配なく研究開発と生活滞在が可能になるという夢のような環境。
そして宇宙滞在に必要なノウ・ハウを得る実験地として、閉鎖空間での長期滞在のテストや海中生活の実験施設としてのデータを取られるらしいが、それらは家賃のオマケのようなものだろう。
確かに、宇宙開発には必要な要素であり、それだけをデータ収集するのは効率が悪い。
実際に宇宙への移住シミュレートとしておよそ2億ドル(当時150億円)で建設された『バイオスフィア2』は100年の予定が2年半で破綻している。
ここまで極端な実験失敗も珍しいが、スケールが大きいのは、アメリカらしいと言えばアメリカらしい一例だろう。
これらの環境データを取ることは、実用面での還元が難しい学問であるが、必要不可欠な要素の1つには間違いない。
例外では有るが完全制御型の植物工場は、外部と切り離された閉鎖的空間において、完全に制御された環境を作り出し、外的要因、例えば冷害や干ばつ又は害虫や病害を排除することで計画的に決まった生産量を維持することが出来るだろう。
こういった実験も必要になってくるだろうが、設備投資と常時消費する電力は、膨大な負債金額として跳ね返る事が分かっているから本格的に可動しているプラントは少ない。
現在、一部過酷な自然環境の国などで実施されているのみである。
(………2003年当時です………)
◆
世暦2003年4月1日(火曜)
19時に始まる政府広報に先立って新聞各社より号外が発行された。
但し、キーマンが未成年という事でこの時には、代表者の氏名は公表されなかった。
帰宅途中のサラリーマンや学生をはじめ、夕食の買い物帰りの主婦などに配られた号外によりテレビの視聴率は大変な数字となった。
20時には政府広報より発表があり、その後21時に文部科学省と関係大学よりの記者会見が開かれた。
記者会見と言っても視察に参加できなかった所とテレビ各社による物で質問等は最小限であった。
しかしこの時に提供された映像と、実際に視察に参加した関係者のインタビューは、何度も繰り返し放送され、誰もが夢に見る未来都市の一つの形として定着する事と成る。
あんな所に住んでみたい。
あの技術で今の暮らしがどれだけ楽になるのか。
あんな所で仕事がしたい、就職したい、学びたい。
そして、あんな所に、行ってみたい。
放送直後に、株式会社タウルスの通信回線は不通となった。
旅行会社各社へも、問い合わせが殺到した。
南鳥島には、海上自衛隊の管理する飛行場しか無いので、一般の航空会社は下りられない。
飛行機が駄目ならばと、船をチャーターする者まで出てきた。
この後しばらく、昴たちを運んだあの船長さんは、仕事に追いまくられる事になる。
アメリカ軍は、自軍の飛行場が海上自衛隊の厚木航空基地の隣りにある事を最大限に利用し、物資と人員の輸送業務に協力を申し出た。
海上自衛隊の輸送機YS-11Mが現在2機しか配備されておらず、不定期便しか無いことから、定期便を飛ばす代わりに米軍も一口噛ませろとの圧力で有った。
この申し出に海上自衛隊も嫌とは言えず、協力体制を結ぶことに成る。
日本政府は、今年10月に、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団の3機関が統合して、独立行政法人を発足する運びとなっている矢先のこの発表に、関係各省庁や政治家からの陳情を見過ごすわけには行かなかった。
民間企業とはいえ、技術力はとびっきり。
新発電システムの普及実験中では有るが、将来性は抜群。
フットワークも軽く、設備も今回の件で整った。
何とか研究室の1つも置かせてもらって、パイプを作って置く必要が有る。
種子島での1件も、内密な情報として掴んでいる。
ある少年の通報がなければ、打ち上げが失敗するところだった。
その後、管制室で打ち上げを一緒に見学する少年は、間違いなく天川昴本人と家族だろう。記録映像にしっかりと残っていたのだ。
この後、経済産業省以外からの接触や圧力が増えていく事になる。
どこにでも自分の事しか考えていない、政治家や資産家は居るものである。
……めんどくせぇ~……




