1-3-06 船の状況…凄いね! 21/5/11
20210511 加筆修正
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世暦2002年10月10日
種子島から帰ってきてから、今日で一月が経つ。
最近、毎晩の様にドックに来てハコ達を眺めてるんだけど……、今のハコってどんな状況なのかな?
「ハコ、君達の今の詳しい状況は確認出来る?」
[肯定。やっと私に興味を持ってくれたようですね! 安心いたしました。このまま放って置かれたらどうしようかと思ってましたよ、ハァ~]
「エッ!そうだったの? それなりに話も聞いていたし、このままでも良いのかなと思ってたんだけど……」
[否定。私はかまってもらえないと死んじゃう生き物ですよ? 其処のところをお間違えの無い様にお願いいたします。それでは順をおって詳しくジックリと説明しますので、覚悟してくださいね]
「エッ、覚悟がいるくらい凄いの?」
[肯定。自慢じゃありませんが凄いですよ~! では今までの御浚いから始めましょう。先ず、私達はマスター登録と共にマスターの遺伝子パターンを元に最適化を開始しました。この時点で私は、1基の大型次元転換炉をメインジェネレーターとしたナノマシンプラントとそれらを制御する管制AI。そして、基本材料にジェネレータープラントのパッケージを基礎とするナノマシンの複合体でしかありませんでした]
「フムッフムッ」
[マスターのコーディネイトが完了するのと同時に、基本材料により私の基礎船殻が形成されました。現在、目の前にある船殻は言ってみればその時に作られた卵の殻です。この中で分裂拡張を続けて内部亜空間を折りたたみ、今ではかなりの独自亜空間容積を持っています。完成時の内部亜空間は、352億立方メートルほどになる予定ですから、その亜空間を固定する器として眼の前の基礎船殻が必要となる訳です。ここまで、宜しいですか?]
「うん、ハコはまだ細胞分裂してる状態の卵なんだね」
[肯定。その認識で間違いありません。内部亜空間の拡張が完成するのは、2004年7月22日の予定です。亜空間の用意ができたところで、そこに詰め込む質量……あ~地面や空気に水、生活環境に必要な元素資材を取り込むために、木星及び近傍のアステロイドベルトに向かいます。しかしこのままだと、私は裸のままで木星に向かわなければなりません]
「卵の船殻のままってことだよね」
[肯定。現在護衛艦の製作に入っておりますが、私はこのままです。マスターがかまってくれないと私は基礎船殻のまま宇宙に放り出される訳です]
「う~ん、そうだったのか~」
[肯定。少し補足しておきますが、マスターが全面的に悪い訳ではありません。この状況まで教えなかった私にも責任の一端があります。マスターは現在、二次性徴を迎えたばかりの成長過程です。すべての情報と能力の開放を行った場合、メンタリティーに大きな障害を及ぼす恐れがありました。したがいまして、リミッターを掛けさせて頂いております]
「エッ! それってどういう事?」
[天河家の皆様は、最高レベルのコーディネイトを受けておられます。その過程で既に一種の超人と成っています。マスターがキャプテンと走り回っても付いていけているのはそういう事です。希美さまと譲さまは、限定的にリミッターを外して生活する訓練を始められました。昴さまも体の成長が安定期に入りましたら同じ訓練を開始いたします。ですが、このままでは私が宇宙に出るまで間に合いません。そこで昴さまには、こちらにお部屋を用意しましたので、寝ている時以外は、私のメインの船体を作っていただきたいと思います。ここは、その為のナノマシン調整ドックです]
「うえっ、学校は?」
[肯定。必要最低限の出席で良いとのことです。現在、私立の学校法人設立に向けて希美様と鷺ノ宮校長が動いております。昴さまが義務教育を終えられるのと同時に、高校卒業資格試験を受けられ、スキップして私立の学校法人への入学の予定と成っております。16歳になられたのと同時に大学入学資格検定を受けて頂き、さらに必要と思われる各種国家資格等を取得いただきます。運転免許や船舶免許、出来れば飛行体の免許も取っておくと何かと誤魔化せるのですがその辺は状況を見ながら進めましょう]
「そんな受からないよ……落ちたら恥ずかしい……」
[否定。大丈夫です。既に知識と技術は睡眠学習にて刷り込んであります。地球上でマスターに扱えない乗り物も機械もありません。試験問題もご覧になれば自然と答えが分かります。後はそれを書けばいいだけの簡単な作業です]
「エッ、そんなの覚えてないよ?」
[否定。先程、リミッターがかかっているとお伝えしました。つまりはそういう事です。必要な場合は、段階的に解除されます。とにかく昴さまは、『俺の考えた最高の宇宙船』を作ってくれれば良いんですよ。分かりましたか?]
「うっ、うん。分かった!」
[さあ、楽しい工作の時間はこれからですよ、覚悟してくださいね♪]
恒星間万能移民船『ハコ』諸元
※ほんとに武装無いのか???
第7期(ハコ端末32面体)
孵化開始から810日経過
船体はナノマシン調整ドック
外観 六角柱状のクリスタル、船色 碧色
基礎船殻・NT1,000トン
内部拡張中 31,269,639立方km
(120,000平方km、半径195.44km)
全高60m 全幅35m
主機・大型次元転換炉 現在7基
船殻用ナノマテリアル 在庫 2,500,000トン
未処理の質量 16,000,000トンほど
昴の工作用 在庫 150,000トン
ナノマシン調整ドックの広さ
深さ150m 奥行550m 幅350m
ハコは、まだ卵のままでした……孵ったらナニになるやら……
◆
かまってと言われても、どんな風に接すれば良いのかな~?
犬や猫なら撫でくり回すとか、一緒に散歩するとかするんだけど、宇宙船の場合はどうすれば良いんだろう。
取り敢えず、ハコの外殻の構成素材と同じもので練習するとしよう。
このナノマシン調整ドックは、父さん達をコーディネートした時の調整ポッドと基本的には一緒みたいだ。
ハコや護衛艦の船体も、僕たちの体と同じ感覚で調整する事が出来るって認識は間違っていないんだな……。
そうすると極端な話、船の形はヒト型にも出来るって事なんだけどそれはなんかヤダな~。
何でもヒト型にすれば良い訳じゃないと思うし、そんな事をすれば絶対に構造に無理が発生するはずだ。
物理的に合理的なのは球体だけど、デス・スター見たいなのは、大きいから意味があるんだし、500mぐらいなら海にも浮かせられるだろうし、ヤッパリ船の形かな~、動く島って言うのも昔あったらしいけど(ひょっこりひょうたん島やレッド○ア)やっぱり一寸ピンとこない。
「ハコはどんな形になりたいの? 希望が有れば参考にするんだけど……」
[肯定。そうですね? 虫だけは止めて下さい! 生理的に受け付けません]
表面に毛を生やして、デッカイ猫とか……無いわ~……。
基本の移民船ってところは変わらないとしても、見かけはどんな形でも大丈夫みたいだし、護衛艦は割と小さめだから全部合体格納できるドック艦なんてどうかな……。
修理の他に改造も出来るような……ウンウン♪
巨大工作艦ってコンセプトはどうだろう?
なんでも改造しちゃうぞ的な……。
「ハコ、巨大工作艦ってコンセプトでどうかな? 俺の船って事は、大っきな工作所って思っても良いんだよね?」
[肯定。ふむっ、動く工場ですか。日本人らしい着想ですね、よろしいのではないでしょうか]
「良し! じゃあデッカクて格好いい工作艦にしようか。護衛艦も全部収容できるようにしちゃおうね」
[肯定、内部空間が定着して使えるようになるには、2005 年7月迄待つ必要がありますが、それまで悠長に待っている事が出来るとも思えません。……これは即戦力になりそうですね]
「なんか理由が有るの? 待ってられないって……」
[まだ全てを明かす訳には行きませんが、マスター達の種族には大きな秘密が隠されていました。現在、裏を取っている段階ですが、間違いなく地球を逃げ出す時が来ると思っていてください]
「それじゃ、色んな事を仮定して、『こんな事もあろうかと!』が出来るように色々仕込まないとね♪」
[肯定。期待しておりますよ、マスター]
◆
いつの間にか今年も終わりか~、などと現実逃避しながら目の前の光景を眺めている。
ハコ達、宇宙船本体の造成が行なわれているナノマシン調整ドックを目の前にして、俺を挟むように並んでいる両親から『やっちまったな~!』と言わんばかりの表情で俺は見つめられている。
どうしてこうなった?
……遊ぶ時間も無くされて頑張ったのに……
最初は、何事も基本が大事だよね~と、呟きながら始めたのがリバース・エンジニアリングだった。
現在の地球上に有って、手に入る物(主にスクラップなど)を取り敢えず分解して、ナノマシンで再現、修理、効率化、素材を変えたりして最適化をしていたら、段々と手作業でやるのが面倒くさくなってきた。
今までの各作業をルーチンワークとして自動化したら、出来上がって来る物が魔改造にも程がある代物になって居たんだ。
ここで何故か俺のレベルが2つほど上がったらしい……なんでだ?
それから、いくらナノマシンを使った調整槽と言っても、こんな大きいのを一人で一度に面倒見るのは無理だろうと覚りを開いた俺は、ナノマシンをグループ毎に統括するピラミッド構造を構築して行ったんだ。
最終的には、ある一定の情報と指示を出すと勝手に仕事をしてくれるチームリーダー的なナノマシンによるプラントリーダーを複数作って同時に仕事を割り振って進められる様に配置した。
そう、効率的な仕事配分と分業化をナノマシン自体に振り分けた訳である。
そうしたら、ま~早いこと早いこと♪。
見ているそばで細かいパーツが勝手に生成され、自動的に組み上がって行くようになった。
ここで更に2つレベルが上った……どうなってんだ?
どうも出来る事の精度と速さで2つ、自動化と効率化、更には大規模造成に依るスキルの獲得がフィードバックされ、さらに2つ上がったもようらしい。
最初はユックリだったんだよ、最初はね。
でもレベル8になった途端に……手を翳すだけで考えてた物が飛び出してくる様になったんだ。
ちなみに、練習からシステム稼働まで凡そ1ケ月掛かったけど、1年半は掛かるはずだった船の艤装が、大方終わってしまっている状況だ。
現在、最終チェックに入っている。
この結果を見て、ハコから一言……。
[お許しください! マスターをとんでもなく過小評価していました!]
父さんは、
「どうせこう云う事になると思っていたよ……」
母さんからは、
「フンッ、当然でしょ♪ 私の昴だし。此れで他にも色々な事をする時間が出来たわね!」
「えっ、他に何すんの? やっと遊ぶ時間作ったのに……」
「色々あんのよ。これから更に忙しくなるから覚悟しておきなさいよ」
「う~~~……」
なんとか、逃げ出してやる~!
遊びに行ける様に頑張ろう‥‥。
てな事が、除夜の鐘を聞きながら話されていたのだった。
この時すでに、俺は気が付かない内にハコ達のメインジェネレーターになっている次元転換炉を弄れる様になっていた。
ハコの構造を理解する上で、肝になってくるのが動力炉である次元転換炉だ。
所謂ジェネレーターにも色々な代物が有るので、ここで少し説明しよう。
縮退炉、反応炉、転換炉、大体はこの3つに分類できる。
まず縮退炉は、重力縮退を応用したジェネレーターで、マイクロブラックホールを制御する必要がある。
ハコからは、『危ないから絶対作っちゃ駄目です!』と言われた。
まず、マイクロブラックホールを発生させるためのエネルギー。
消滅させずに封じ込めるための重力制御とそのエネルギー。
結局は、安全に火を入れてから維持するためのエネルギーと更にそれを維持管理する事は不可能に近いのだそうだ。
無限に生まれるエネルギーの根拠は、質量を吸収した時のホーキン○放射による物で同時に消滅しようとするブラックホールと生成されるブラックホールとのエネルギーバランスによる。
ブラックホールが生成される時のエネルギー量が消滅時のエネルギーより小さく維持出来れば、廃棄物等の一切でない効率の良いジェネレーターとなる。
だけどこれって、何かしら放り込まないといけないんだよね?
結局、燃料になる質量物質が必要ってことだよね。
変換効率は非常に良いから、少量で良いみたいだけど……これは無理!
次に反応炉だけど、これは燃料を入れてエネルギーを取り出すジェネレーター全般の事だと理解している。
使用する燃料でそのエネルギー出力が大きく変わってくる代物だ。
反物質を使えば反物質反応炉、重水素とヘリウム3を使えば熱核反応炉、ウランやプルトニウムを使えば原子炉、薪を使えば御風呂って云うのは冗談だが、それぞれに解決しなければいけない問題がある。
反物質は、生成して保管するのにコストがかかるが非常にエネルギー効率はいい。
熱核反応炉は、発生する致死性の中性子をどう排除するかが肝である。
原子炉は、当然使用される放射性物質と放出される放射線の対策が問題となる。
薪は、水をかければ良い♪ ……なんちゃって。
天の川銀河連合で主に使用されているのは、反物質反応炉だという事である。
そして転換炉。
相転移エンジンや波動エンジン、ハコ達の次元転換炉はここに位置するジェネレーターだ。
エントロピーの偏差を利用した永久機関とも言える物で、よくエンジンと呼称されるがジェネレーターの一種である。
これらは共に、空間エネルギーのエントロピーの偏差を利用して無限にエネルギーを。
相転移エンジンは、真空中空間のエネルギー偏差を利用し、波動エンジンは、空間波動を捉えることでエネルギーに変換している。
そして次元転換炉だが、詳しい説明はこの後のハコの説明で一緒にしよう。
ハコには、ジェネレータープラントが最初からパッケージングされていた。
進化拡張をしながら、自身の動力炉を増やしていく事ができるらしい。
今彼女の最大制御数は15基、そこから生み出されるエネルギーは、準惑星規模の亜空間を船内に維持する事ができるという。
早い話が色々と弄ってる内に、俺にも作れるようになったってことだ。
でも、これの作り方を説明するのは、非常に難しい。
このジェネレーターは、空間識が飛び抜けていないと調整そのものが出来ない代物で、器が造れても火が入らないのだ。
ただし、一度でも稼働状態に持っていければ、その器に見合っただけの無尽蔵なエネルギーを別次元から汲み上げる井戸の役割を果たすことになる。
次元転換炉は、器に接続したエントロピーの高い次元から流れ込むエネルギーを調節する弁の役割をする訳だ。
器に接続出来る丁度いい高位次元を見つけて、破綻無く次元の接続をするのがマイスターの腕の見せどころとなる訳で、小さすぎても大きすぎても失敗して動かないという結果となる。
ハコの話だと、バクーンは稼働状態の物なら弄れるけど、炉に火を入れる事は出来ないらしい。
ハコに内蔵されたジェネレータープラントは、ハコのコアを作ったマイスターの最後の作品で他に同じ物は無いのだそうで、自己進化して理論上無限に成長する事のできる船は、彼女1隻だけだと云う。
◆
「それにしても随分と便利になったものね。調べ物をするには図書館にいくか本を買うしかなかったのに、貴方達が集めた情報のデータベースでどうにかなっちゃうなんてね」
[肯定。ですが私達のデータベースには、まだ欠けた部分が随所にあります。それを補足修正できる希美さまの能力は、我々に推し量ることは出来ません]
「少しばかりアカシックレコードが覗ける様になったくらいで、そんな持ち上げなくてもいいわよ。それで……、譲さんが頭を抱えた昴の作品っていうのがコレな訳ね」
[肯定。マスターはどうもかなりハイになっている状態だったらしく、どうしてこんな物が出来上がったのか、本人にもよく分かっていないようです]
「何か、フラフープに電卓が付いてるだけに見えるんだけど、どんなオモチャなの?」
[肯定。これは、2つ1組で使用します。先ず重ねた状態で同調登録を行い、1つを別の部屋に持っていきます。そして操作パネルで通行状態にしますと……]
「こんな風に通り抜けられるんだよ、希美!」
「譲さん、どっから出てくんのよ? 危なくないの? エッ、エエッ…」
「安全は確認してあるよ。これは、原理的には位相差空間を使ったワープゲートだね。繋ぐ距離に比例してゲートを維持するエネルギー量が増えるけれど、空間をおよそ千分の一まで圧縮できるんだ。このトンネルの中を1Km歩けば1000Km先に出られるって事さ、事前に行き先に出口をセットして置かなければ使えないんだけどね」
「ウ~ン……、私のテレポートとは違うのよね?」
「うんそうだね、これを通ることが出来ればどんな物でも遠くに移動が可能になる。特殊な能力なんか必要ないんだ。例えば東京・ロサンゼルス間(8805Km)に車が通れるだけの大きなゲートを維持することが出来れば、東京を出発した時速60キロの自動車は、15分ほどトンネルを走れば目的地のロサンゼルスに着くことが出来る。今のところ、空間圧縮率は1000分の1だけど研究が進めばもっと上げられるかもしれないよ」
「へ~、どうしてこんな物が出来ちゃったわけ?」
「どうも追い詰められた昴が何とか逃げ出して遊びに行こうと、ハコ達が使う位相差ステルスの応用で消えるマントの様な物を作ろうとしていたらしいんだ。ところがどうしてもその場で消えた状態を維持できなかったらしくて結果、少し離れた別の場所に放り出されたらしい。少し痛い目を見たらしいんだけど、それで火が付いたらしくてね、出来上がったのがコレってわけさ」
「それじゃ、実験に失敗して意図していない物が出来ちゃったと……、これも一種の才能かしら?」
[肯定。マスターは天才ですね。これを使えば、惑星間を絆ぐことも夢じゃなくなりますよ。もし火星にゲートを設置したとして移動に気密性が高くスピードの出るリニアカプセルでも使えば半日で移動が可能です。グッと移動コストが下がりますね]
「これは、まだ世の中には出せないわね。流通が崩壊するわ」
「それに、検疫なども考え直さないとね。病気や害虫、有害生物の移動とか、まだまだ沢山の課題が山積みね」
「でも、上手く使えば一々トンネル掘らなくても、ゲートからゲートに移動できるのよね。基地間の移動とか……」
「瞬間移動できるわけじゃないし、それなりに準備も必要だけど、移動が便利になるのは良いことだよ」
[肯定。ですがこういった物が発達しますと我々の存在意義が薄くなりそうでチョッと不安ですね]
「大丈夫よ、逆にタクシー代わりに使われる頻度が減って、ハコ達にしか出来ないことに集中できると思いなさい。貴方達にしか出来ない事は沢山あるんだから」
[肯定。そうですね、有難うございます]
 




