1-3-05 種子島だよ…くまさん事件です! 21/5/11
20210511 加筆修正
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世暦2002年9月9日の19時
俺達は、有る目的のために海上10mを西に向かって飛んでいた。
さあ、家族で種子島へ行こう!
明日は、H-ⅡAロケット3号機の打ち上げであ~る。
普通なら種子島までの旅程で、往きに2日、ロケット打ち上げに1日、帰りに2日。
海が荒れたら、そのまま足止めというハードモードだ。
特にロケット打ち上げの前後、それぞれ1週間は予約で埋まっているので普通なら泊まる宿も取れない。
しか~~しウチには、改造ハイエースが有る(ナンバー付きの初期改造車です)。
やろうと想えば日帰りだって出来るし、宿をとる必要もない。
連泊だってドンと来いだ。
俺達なら、前夜に島に渡って車中泊をし、翌日にはロケットの打ち上げを見て帰って来るなんて事も出来ちゃう。
全天候仕様なので、海が荒れようが台風が来ようがなんのその……。
天候が悪いと打ち上げ延期されちゃうけど、島に缶詰にされるよりはずっとましだよね。
父さんは、専任観測技師から技術主任に昇進したので観測業務を部下に任せ、今回は休みを取った。
母さんは、社長業も落ち着いて任せられる社員も入ったので、1日くらい休んでも問題ないそうだ。
久しぶりに家族水入らずで旅行に行くということで、俺も学校を1日休ませてもらうことにした。
権藤主任には悪いけど、今回の護衛にはリハビリも兼ねてキャプテンがついてきている。
うちのハイエースの秘密も、キャプテンには一部情報を開示した。
って言うか、月まで行けるって言ったら何故か膝をついてガックリと落ち込んでいた。
なんでだろう?
[あと5分ほどで種子島に到着いたします。到着と同時に位相差ステルス解除。お好み焼き安兵衛にて夕食をおとりになり、今夜は宇宙ケ丘公園にて車中泊となります。お土産は明日、トンミー市場にて購入予定です。明日のロケット打ち上げは17時ごろの予定ですので、1日ノンビリと島の観光を楽しみましょう]
「ハコ、ありがとう。引き続きナビゲートをよろしくね。父さん運転は任せた」
「おう、ハンドル持って座ってるダケ! だけどな……」
[肯定。全てお任せ下さい]
「それにしても、家から種子島まで一時間掛かんなかったね。キャプテン、まだ落ち込んでるの?」
「BOSS。この車はいったい何だね? そもそもこれは車なのかい?」
「ウ~ン、車だけど車の形した小型宇宙船かな。太陽系内ぐらいなら移動できるし~」
「これもBOSSが作ったのかい?」
「俺とハコ達、あと最後の方で壊れた父さんが一緒だったよ、アハハハッ」
「あれほど改造は常識の範囲内にして置けよと言ったのに、全く……。ま~、楽しかったのは確かなんだが……」
「フ~ンだ。最後は、父さんだってノリノリでイジってたじゃないか。ナノマザーマシンの試運転だって言って、俺でも引きそうなパーツ色々作って、組み込みしてたのは何処の誰だったかな~?」
[肯定。まさか譲さまが彼処まで優れた技術者だったとは、御見逸れいたしました。さすが日本人です]
「あんまり譲さんをおだてちゃ駄目よ。割りとノリが良くて、持ち上げられると直ぐ天狗になるんだから」
「了解した! BOSSが暴走するのは、親譲りという事だな」
「待ってくれキャプテン! その意見には一言云いたい。そもそも昴が暴走するのは……」
[到着です。お好み焼き安兵衛は直ぐですよ]
サ~、明日の打ち上げが楽しみだ♪
◆
昨夜は、宇宙ケ丘公園キャンプ場で天体観測を堪能した。
翌日、ロケット打ち上げと言うことで、この無料キャンプ場で宿代を浮かせる人達も多数いた。
思った以上に賑やかな夜で、持ち込んだドブソニアンには、人が集まった。
サプライズとして、ハイエースの側面に張ったタープをモニター代わりにして、趣味で溜め込んだ打ち上げの映像や天文台関係者が見られる記録映像などを映していたら、いつの間にかロケット打ち上げの関係者まで混じって、ガーデンパーティーに発展してしまったのは、良い思い出だ。
打ち上げ当日は快晴、まずは増田宇宙通信所へ行って打ち上げの予習だ。
今まで打ち上げられた人工衛星のサンプルや、記録を眺めていたら……。
「あの~、間違っていたらごめんなさい。天河先輩ですか?」
「あら、忍じゃない。こんなとこで何してんのよ?」
「やっぱり違いますよね~、こんな若い訳ないですし……って! 希美先輩ですか!? ほんとに?」
「な~に! 私の顔を見忘れたっていうの? 一人前のシステムエンジニアにしてもらった恩人の顔を忘れろったって忘れちゃ駄目でしょう。天河希美本人よ。久しぶりじゃない、忍は元気してた?」
「ええ、病気もせずこんな何の色気もない島の通信所で研究員してますが、っとそんな事はこっちに置いておいて……、希美先輩は観測所を辞めたって聞いては居たんですがその後どうしてたんですか? 私に全然連絡もくれないし……」
「アハハハ~、忘れてた~! ごめんごめん」
「もうっ、笑って誤魔化さないでくださいよ。もうっもうっ」
「そんな牛みたいにモウモウ言わないの。会社起ち上げたりしててバタバタしてたから本当に忘れてたのよ……」
「ム~~。それで先輩達は今日は打ち上げの見学ですか?」
「そうそう、うちの旦那と息子と友人とでね。家族旅行よ」
「うっ、羨ましい……。私も早く結婚したい……。先輩紹介してくださいよ~」
「まあまあ、取り敢えず旦那と息子を紹介するわね。こっちが旦那の天河譲、横のが息子の昴よ。そして後ろにいるのが友人のジョージ。みんな~、私の後輩の結城 忍29歳! よ。仲良くしてやってね~」
「先輩、歳まで言わなくてもいいじゃないですか。みなさん、私は結城忍です。希美先輩の元職場の後輩です。よろしくおねがいします」
「忍は何時こっちに移ったのよ? たしか、前は勝浦宇宙通信所に居たのよね」
「はい、沖縄と増田のどっちかに移動の内示が来まして、ロケット打ち上げを間近で見られる増田に来ました。そしたら碌な男が居なくて……また、婚期が遅れそうですよ~……」
「それは~自業自得ね。沖縄の方に行ってれば選り取り見取りだったのに、米軍の基地も有るし。でもほんと、忍もロケットが好っきよね~♪」
「当たり前ですよ! ロケットに関わりたくてこの仕事してるんですから、私は……」
「ふむふむ、それじゃ仕事をさせてあげましょう。さあ案内しなさい、ホレ! ホレ!」
「先輩、そんな背中押さないでください。危ないですから~、皆さん付いてきてくださいね~」
「ふ~ん、そうですか~。会社作ったんですか~……職に困ったらお願いしようかな~」
「忍なら何時でも大歓迎するわよ。そうね、今なら警察関係者だけど10人くらいは紹介できるわよ。丁度うちの近くに新しく寮が出来たから」
「えっ、それホントですか? 国家公務員の方ですよね? ホホ~、イケメンにムキムキが選り取り見取りと……ジュルリ♪」
「そうがっつかないの、あとで写真とプロフィール送ってあげるから、あんたのも送りなさいな。あんまり盛っちゃ駄目よ、すぐバレるんだからね」
なんか、すごい肉食の理系女子だな~、見かけはおしとやかに見えるのに……、そういえば観測所のお姉さんは今頃どうしてるかな~。
「昴、こういう見掛けに騙されちゃ駄目よ。女はみんな肉食獣だと思いなさい」
「先輩、酷い! こんな職場だと夢ばっかり語って現実見てない男ばっかなんですもん。しょうが無いじゃないですか~」
「そんな仕事についてるあんたの自業自得でしょうが、諦めなさい」
「そんな~、新しい出会いがほしい~!」
リリリーン……リリリーン……ガチャ……
「はい、結城です。ええ、分かりました、許可が下りたんですね。ありがとうございます」 ガチャン
「先輩、私の方から国立天文台の職員とその家族って事で、打ち上げ所の見学申請したら、今から一時間、お昼までなら入ってもいいって許可が下りましたよ。私も間近に見るのって滅多に無いから付いていきますね♪」
「あんた、自分が見たいから私達をダシに使ったわね? まあ良いわ、一緒に行きましょう」
「は~い、ゴ~! ゴ~! ゴ~♪」
「全く、この娘は……」
「アハハハ、母さん、すごい後輩さんだね」
「ほんといい子なのよ。あんなだけど、とってもね……」
「希美さんがタジタジのところなんて、初めて見たかもしれないな~、アハハハハ♪」
思いがけない出会いと結城さんの取り計らいで、打ち上げ間近のH-ⅡAロケットを見せて貰えることに成った、うれし~♪
遠目だけれど、今は液体燃料を注入している真っ最中だ。
発射台の周りを人が走り回っているのがよく分かる、何話してるのかな~。
そうしたら急に変な会話が耳に飛び込んできた……ここは200mは離れてるよね。
……俺の耳、おかしくなったかな~?
「……オイッ、この弁を開かなくすれば良いんだな……約束の金は忘れんなよ……」
なんだ、今の会話……。
「ね~ね~、忍お姉さん。ちょっと話を聞いてもらってもいい?」
「な~に、昴くん。私の分かる事なら何でも教えちゃうよ~。先ずスリーサイズは上から……」
パシンッ「あんたは、ひとの息子に何を教えようとしてんのよ。昴、どうしたの?」
「母さん、ちょっと耳貸して、……ボソボソ……カクカクシカジカ……」
「ふむふむ、ふーんそれ大問題じゃない! でもそれは忍に言っても無駄ね。どうしましょう?」
「どうしたんだ? お前達、さっきからコソコソとして」
「父さん、実は……ボソボソ……カクカクシカジカ……」
「ナニ~! 一大事じゃないか。下手したらせっかくのロケットが吹っ飛ぶぞ。昴、荒垣先輩に電話しろ! お前直通の番号教えてもらってただろう、その番号からなら直ぐに連絡がつくはずだ」
「あら、あなたが電話しちゃまずいの?」
「俺だと直通は無理だ。昴がもらった緊急用の番号に本人がかけるから意味がある。いいから急いで掛けてみろ」
「うん」
ピ・ポ・パ・ポ・プ・ピ・パ・ピ・ピ・ポ・ポ………プルルル…プルルル…ガチャ……
『はい、荒垣!』
「こんにちは、昴です」
『おう♪ 元気か昴くん。この番号に掛けてきたって事は、何か問題発生かな?』
「はい、今、僕たち家族で種子島に来てるんですけどね……」
『ナニ~? それは問題だ! って、昨日の夕方は村に居たよな? 君達……』
「あれから、こっちに飛んで来たんですけどね。一応キャプテンが付いてますから、心配ないですよ。それで実はいま種子島宇宙センターでロケット打ち上げを見学してるんですけど、見学してる時に変な話が聞こえてきて、調べてもらってもいいですか?」
『ふむふむ、その聞こえてきた話し声の内容は?』
「俺が聞いたのは、補助ロケットのジョイント部分の油圧弁を整備していた人の話し声なんですけど、『…オイ、この弁を開かなくすれば良いんだな……約束の金は忘れんなよ…』って声なんです」
『なんだって? 打ち上げは確か今日の17時だったな。分かった急いでこっちから指示を出す! ありがとうよ。全くどこのどいつだ、そんな余計な事するヤツは……』 プツン
「父さん、荒垣さん分かったって♪」
「そうか、そうすると直ぐに……、オッ、始まったかな……」
発射台で指揮を取っていた人が携帯電話でなにか喋っている。
どっか指さして怒鳴ってるみたいだ。
発射台の周りに居た人たちが、一人の男を追いかけ始めた……。
おっ、捕まった……五人ほどに押しつぶされたぞ。
一人こっちに走ってくる人がいるけど、さっき電話受けて指示してた人だ。
あんなペースで大丈夫か……アっ、コケた!
「はぁ~はぁ~はぁ~、ちょ、ちょっと待ってください……」 息を整えております
「お待たせして申し訳ありません。わたくし打ち上げ現場の指揮をとっております、藤といいます。今しがた不埒者を取り押さえる事に成功しました。ご通報をいただきまして本当にありがとうございます」
深々とお辞儀されちゃった。
「いえいえ、せっかく楽しみにしていたロケットの打ち上げを邪魔されたくなかっただけですから……、それで打ち上げの方は?」
「はい、おかげさまで予定通り打ち上げる事が出来そうです。どうですか、特別に管制センターの方にご案内しますが……」
「えっ、良いんですか?」
「ええ、特別ですよ♪」
「やった~♪」
「良かったな昴、それじゃお言葉に甘えようか」
「「「そうね」ラジャー」私もいいんですか? ラッキー♪」
「それにしても、昴くんて何者ですか? あんな離れてたら普通は声なんか聞こえませんよ」
「俺、目がすごく良いんだよ。メガネ掛けてるけど、これ伊達なんだよね。さっきは唇が読めたんだ~」
「読唇術ですか? すごいですね~、それで、さっき誰に電話掛けてたんです?」
「うーん、クマさん!」
「クマさんって……?」
「忍、聞かない方が良いわよ。クマさんっていうのは譲さんの先輩で昴の大きなお友達よ」
「ううう~、気になりますよ~」
打ち上げのカウントが始まった、
『100、99、98………5、4、3、2、1、イグニッション』
ゴゴゴゴゴーーーーーーーー
発煙を引いてロケットが空に消えていく、西に傾いて上がっていくロケットをみんなで見送った。
「予定軌道に乗った、打ち上げ成功だ! おつかれさま~」
ワーワーワーワーー♪ バンザーイ! バンザーイ! バンサーイ!
その日の夜は、打ち上げの後の打ち上げに付き合って、翌朝、ハコの操縦でみんな寝てる間に村に帰ってきた。
朝起きたら、ハイエースは庭の駐車場に止まっていた。
車の中で寝ていたのを銀河に起こされて、体操に集まってきた村の人達と一緒にオフロに入ってから、朝食を取って学校に行った。
なんか、ロケットの打ち上げの迫力がすごくて、後はもうどうでも良いやって感じの2日間だった。
アッお土産、買えなかったよ……ちくせう……。




