4-4-13 シン・コウリュウ
5446文字
前話より間が空いてしまいました。申し訳ありません。
次話は、日曜投稿の予定です。
冬休みも終わり、3学期が始まった。
すでに卒業が決定している銀河と聖、そしてオマケの健太を入れた3人は地下秘密ドックで巨大移民船の建造を手伝っていた。
双葉と裕美と愛の3人はアカデミーへ通う為メガフロートへ帰った。
全長2835m、全幅1820m、全高520m。
この船シン・コウリュウは、ハコの外殻艦と比べても大きな部類に属する宇宙船だ。
前回のコウリュウは、ハコの初期外殻艦を天河夫婦が改造した物だったが、今回は一から新造された宇宙船となる。
主機は、ハコ謹製の大型次元転換炉を3基、補機として小型次元転換炉12基で四組のトライシステムが組まれている。
大型の亜空間コンデンサーを投入する事で出力バランスの調整も上手く行った。
そして、主機と全艦の統一管理をセントラルγが、それぞれ独立した四組の補機を四聖獣AIのコピーが受け持ち艦内及び各パートを運用します。
青龍が各種情報処理と分析を、白虎が要人警護及び艦内警備とカウンターパート、朱雀が全ての火器管制と補給、玄武が艦体の防衛と補修などダメージコントロールをそれぞれに担当している。
前回、銀河連合呼び出しのおりには格納庫及び居住用亜空間として確保されていたのは直径20kmほどであった。
しかし、今回大幅な出力アップを果たしたことで直径500kmとその規模も大きく膨れ上がっている。
これは、最大容積時のキシャール本体をも丸々飲み込めるほどの亜空間を確保するに至った訳である。
前コウリュウは現在、天の川銀河連合の中央ステーションに接続されており、当初2隻内蔵していた予備艦艇の内1隻を使って天河夫婦は地球に帰還したのだった。
今回、この時の教訓も各所に生かされている様である。
俺に言わせると、この宇宙船一隻でも一国を名乗れるくらいの規模であるのは間違いない。
いざとなったらブレスレットの座標データを元にした転送機能を使用して、関係者を一気にこの宇宙船に吸い上げて地球を逃げ出すくらいのことは出来るだろう。
まあ、それは最後の手段とも言えるが『備え有れば憂い無し』『転ばぬ先の杖』って事だろうね。
ぶつぶつと独り言を言いながらナノマテリアルの増産と補給計画を立てているといつの間に来ていたのか父さんに後ろから声を掛けられた。
「やあ昴、折角の休暇をすまないな。私達の我儘に付き合ってもらって……」
「何いってんの、親が実家に帰ってきた倅を顎で使って何が悪いっていうのさ。気にしない気にしない。それに俺に取っちゃ、これも気晴らしみたいなもんだよ。何もしないでゴロゴロしてると退屈で死んじゃうよ」
「そう言ってくれると気が休まるんだが、そのエコノミック・アニマル的な所は直さないとな~。何でも自分一人でヤってしまう癖は直さないと後が大変だぞ。国の代表になる訳だし……」
「それを父さんが言う? もう手遅れさ、この性分は一生治らないと思うよ……話は変わって先に言っとくけどさ、宇宙船が出来上がってからの苦情も文句も受け付けないからね。まあ、改造や拡張は漏れなく受け付けるけど、今更の縮小やキャンセルは一切受け付けないので覚悟しておいてね」
「ああっうん……もう、その辺は諦めたよ。昴に頼んだ時点で別次元のものに仕上がるだろうことは予想出来ていたからな、今更心配するだけ無駄だ」
「そうそう、悟りを開いたお釈迦様の心境で待っててよ。この世の極楽浄土を作っちゃうからさ、楽しみにしてて……」
「あんまり羽目を外さないで欲しいと言ったところで無駄だろうな~」
「無駄、無駄、無駄~……と資材の増産と搬入計画の転送完了っと。これで随時、銀河達の整えたエッジワース・カイパーベルトのプラントから必要な資材が送られてくるからね。余った分は宇宙船の亜空間に放り込んどけば、四聖獣が勝手に使うからさ無駄にもなんないしOK」
『昴ちゃん、ちょっとこっち見てくれるかな? 亜空間ソナーの調整手伝ってほしいの~』
「了解、すぐ行くよ銀河。それじゃ父さん、また後で」
「ああ、またな」
◆
健太は頭を抱え、聖は淡々と状況を確認していた。
「そんで、この中を自由にしてもいいって? 直径500kmってどんだけ広いんだよ……」
「自由と言っても現在の日本の環境を再現するところからでしょうね。さっきからマテリアルの流入量が急速に増えだしたから昴さんがまた何彼したんだと思うんだけど、早いところこっちも動きださないと流入したマテリアルに押し流されて収拾が付かなくなるわよ」
「……俺は人工的な所、工場プラントと港湾施設なんかの基礎から組むから地面なんかのベースをよろしく」
聖に声をかけ、うんざりした顔で動き出そうとする健太。
「了解。私は海と空、山と疑似マントルからの循環環境の構築だね。昴さんがハコさんの内部に構築した大地を見せてもらったことがあるよ。規模がぜんぜん違うけどね、あっちは星を丸ごと作ってたし……」
残念ポーズで今更でしょと同意を示す聖、しかしその表情は明るい。
「オイオイ星を作るって、それはもう人間の域を超えてるだろうよ。ったく、兎に角く土建は俺の専門じゃねーんだけどな~」
「そうボヤかないで手足を動かす! 独立してから惑星開発とかする時に役立つはずよ、きっと?」
「なんでそこ疑問形なん。まあしゃーない働きますかね……」
片やブーブーと文句を言い、片やそれを宥めながら、二人はそれぞれに動き出すのだた。
そんな様子を遠目から眺めているジェントルメンがいた。
セバスチャンβは、一人頷きながら急激に増えだしたマテリアルの流入配分と地域配分をコントロールし、聖と健太が使いやすいように再配置するのだった。
『セバス、二人の様子はどうかな?』
[以前より感じておりましたが聖様は、内政(内製)に向いておられる様ですね、非常にバランス感覚に優れたお方です。健太様は、いざという時の瞬発力と機転が利くところでしょうか。周りを良く見ておられますし、多少口数が多いようですが何事もそつなく熟すところなどは流石、マスターのご友人といった所ですかな]
『聖は、自己評価がちょっと低すぎるからね、もう少し積極的に表に出てもいいと思うんだけどみんなの抑え役としては、そこが良いところでもあるんだよね。健太はあんまり褒めると付け上がるから程々に』
[ホッホホホホ、手厳しいですな]
『聖が堅実なのは、小さい頃から苦労した経験だろうね。健太は、色々と逆境に巻き込まれるのを楽しんでるところがあるから、ほっとけば勝手に『みんなのためだー』っていいながら動き回るさ』
[信用なさって御出でになる……]
『どっかの誰かがテコ入れするくらいにはね、アハハ……』
[また、ご冗談を…。これは、一本取られましたな。ホッホホホホ]
◆
「この亜空間ソナー、ちょっと可怪しくない? パワーゲージ見るとソナーと言うよりECMよりに見えるんだけど……」
「う~ん、間違ってはいないよ。これは周囲の亜空間に任意に局地的な特異点を作れるんだ。ハッキリ言うと嫌がらせなんだけどね」
「イヤイヤイヤ、沈むからそれだけで普通の宇宙船は……」
「でも、此のくらいの事しないと邪神に絡まれた時には逃げらんないよ」
「あ~う~、基準がそっちなのか~。まあそれじゃ~仕方がないのかな~」
「銀河も心配性だよね~。外宇宙に出ればこれが当たり前になるから大丈夫さ」
「何か色々と心配になってきた。色んな基準が天元突破してて……私、付いて行けてない感じがするよ……」
「直ぐに慣れるさ」
「そんなのには、慣れたくな~い」
[肯定。無理に慣れなくて宜しいのでは? 普通の感覚を忘れずにお持ちになるのは大切なことです。マスターがどれだけ偉大な存在なのか比較できませんし……]
「そっちか~い! それにしても今度は随分と大掛かりだよね。まるでアスガルドを性能そのままにスケールダウンしたような……」
「仕方がないさ、いざと成ったらこの船で逃げ出すんだから。近くにハコが居ればいいけど、離れてた場合は間に合わない可能性が強いしね。付け加えると性能出力と内包する規模はこっちの断然大きいからね、見かけで判断しないように」
[肯定。現在、地球を取り囲む様に配置した月とシールド衛星による絶対防衛圏は、いつなんどき突破されるかは分かりません。念には念を入れて備えて置かなければ……敵はそういう相手です。まず何が何でも生き延びて逃げ出して下さい。生きていれば巻き返す自力は我らなら有ると考えます]
「滅多なことじゃ~ここまでは到達させないけどね。早いところ射手座矮小銀河の掃除が出来れば良いんだけどもう少し時間がかかるかな。敵の本丸を叩くにはまだまだ準備が足りないよね」
[肯定。あれを殲滅するには、万年単位の準備が必要になるでしょう]
「でも、やるしかないよね。俺たちの将来が掛かってるんだから……」
[肯定。期待しております。マスターならきっと……]
「頑張ってね、旦那様」
◆
しばらくぶりにメガフロートに顔をだすと大変なことになっていた。
「ご無沙汰しています。こちらは変わり有りませんか?」
「かぁ~、ご無沙汰と来やがった。梨の礫で2年も放ったらかしにしやがって、兎に角こっち来いや!」
「ちょ、ちょっと……」
人の顔を見るなり有無を言わさずに引っ張ってゆかれたのは、その大半を各種リモートワーカーの製造プラントに改装された宇宙開発部の建物施設だった。
残された関係者の殆どが新型ワーカーの設計製造に携わっていた。
「すー坊が居ねーからよ、需要の在るワーカーばっかり作ってたらこうなっちまったのよ。どうするよ、これ?」
「……ここはこのまま、最低の人員で回しましょう。芝さん達のやった仕事ならどうせ無人でも動くんですよね、これ?」
「久しぶりに顔を出したと思ったら、また新規の話かい? す~坊も忙しいこったな~」
「オヤっさん、こっちを放ったらかしですいません。実は今、俺が抱えてる趣味の方に人を回して欲しいんですよ。極秘の面白い仕事……イヤッ、ここの本来の仕事と言った方が間違いはないんですけどね」
「……す~坊の趣味だ~……宇宙船か? 何処で作ってやがる?」
「話が速くて助かります。実は……」
この後の話は、光のように早かった。
最低限のプラント管理要員を交代制でここに残し、話を聞いたメンバーのほぼ全員が名乗りを上げたのだった。
ちなみに芝さんのところは、奥さんのメリッサさんも村に引っ張って来た。
「こりゃまたでけ~な、3km弱ってところか?」
「流石ですね。ひと目見てそこまで分かりますか。全長2835m、全幅1820m、全高520m。地球産としては、最大級の宇宙船になりますね。みなさんには人が使うにあたっての不具合や改良点など、兎に角ダメ出しをして欲しいんです。どんな事でもいいんです、好きなようにヤッてください」
「一つ聞きてえんだが、この船……何人乗れるんだい?」
「……無補給でざっと3億人、無理をすればその10倍は過不足なく長期間の生活が出来る規模に成るはずです。宇宙船を運用する必要人員は、船長一人で十分なんですけどね。色々な施設や設備を使う人間には制限はありませんが、常時1万人くらいが活動する事になるだろうと思いますよ」
「そうすると残りの人間は、す~坊得意の亜空間居住区ってところかい?」
「はい、直径500kmの安全な固定空間を用意しました。民間人と余分なものは取り敢えずそちらに詰め込んで地球を飛び出す予定です。生活基盤も当然そっちに成るでしょうね」
「……500kmかい、まるで動く国だな~……す~坊、何を考えてるんだ?」
「オヤッさんには、何もかも見透かされちゃいますね。……実は俺、ちょっと宇宙で有名に成り過ぎまして、このままだと銀河中から俺を目当てに色んなのが押し寄せるだろうって言うんですよ。だから星間国家として確固とした地位を確立しろと天の川銀河連合の王様達から厳命もらっちゃいまして……」
「独立か? 独立するんだな! 国を作るってんだよな? か~男の夢じゃね~か」
「芝は、チョット黙ってろ。それでコレなのかい?」
「……いや、これはイザという時の地球からの脱出船です。俺の国は他に用意しています」
昴の言葉と同時に頭上に立体映像が立ちあがり、現在アステロイドベルトで建造されている惑星規模宇宙船が映し出された。
これ迄の話を聞いていた者達は、全員空いた口が塞がらない様子で巨大な建造物の映像を見上げた。
「直径1万2千km、アステロイドベルトで現在建造中のシン・ニビルです。惑星規模の宇宙船になります。表向きここが俺の国ってことで今年の6月に建国と地球からの独立を宣言する予定です。眼の前の宇宙船は、保険といったところですね。でも、ここで洗い出されたノウハウは、全てシン・ニビルへフィードバックされます。みんなで一緒に作りましょう」
「了解だ。良いな、みんな?」
「「「「「「「「異議なし!」オウッ」やろうぜ!」腕がなるぜ」…」」」」
「芝メリッサさんには、俺から特にお願いしたいことがあります。居住区の自然環境の整備に力を貸してください。お仲間の招集も自由になさって結構です……ちなみにシン・ニビルの方は、リリアナが任せろと言って動いてくれているんですがそちらの様子も見て頂けると有難い次第です」
「オイッ昴、まさか俺は嫁さんのオマケか?」
「エッ、言ってませんでしたっけ。そんなの当たり前じゃないですか」
「このヤロウッ! 待ちやがれ、一発殴らせろ」
「アハハハハ♪」
俺は、芝さんから逃げ出した。




