4-4-12 魔の新年会
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2022年7月3日 祝・900万PV達成致しました。 ありがとうございました。
正直、俺は新年会などの酒の席に参加したことは殆ど無いと言っていい。
俺も今年の4月には18歳を迎える訳で、元服過ぎてるんだし良いじゃないかという田舎の意見と、まだ未成年の飲酒は駄目だと目くじらを立てている教育関係者と警察関係者。
そして、割りと大らかな意見なのは自衛隊関係者で、大人の見ている前で少しぐらいなら良いだろうという3者に分かれたのだった。
結局のところは、正月だし主役が居ないのでは味気ないので大目に見ると云う大人な事情で話が付き、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎが幕を開けたのだった。
兎に角最初に挨拶回りにかこつけて、結婚式の招待状を手渡しで配る。
こんな危険物、郵便で送ることも出来ない。
最悪、アポーツで直に送りつける事になりそうだったがそれは最後の手段だ。
MIKADO様には、もう既に手渡してきた。
ついでにその時の送迎も一任された。(俺、新郎なんだけど……)
まず、俺の結婚式の話題で盛り上がったのは、当然の結果だったが更に燃料を投下しやがった。
いつの間にか、ハコが嫁さん達のプロフィールを流し始めたから更に盛り上がった。
まさか8人も一度に娶る事になるとは、当事者以外には知らない情報だった為に宴会場が爆発したような騒ぎになった。
『オイッ、これって犯罪だろう!』
『逮捕だ、逮捕!』
『綺麗所を8人もだと?』
『私も貰って!』
『おめでとう~♪』
『誰か俺にも紹介してくれ!』
『結婚なんてのは、人生の墓場だぞ。まだ早かろう』(<ー冴島先生、少し黙ろうか!)
俺は、散々揉みくちゃにされ、おおいに飲まされるはめになったのだった。
さっきまで飲まさないと言ってた口から『目出度い、さあ飲め!』と言われては飲まない訳にも行かないだろう。
その場に居た銀河達も、村の女子連合に囲まれて玩具にされていた。
俺は、ムサイ男に群がられ……林先生、泣きながら酒のラッパ飲みはやめなさい。
それにしても、このチートボディーをしても酒臭いのだけは防げなかったようだ。
体内のアルコールは、適度に分解しているのでほろ酔い程度だが凄い匂いである。
「ああっ、酷い目に会った……ヒック!」
[肯定。みなさん、嬉しいんですよ。マスターが生涯の伴侶を決めたんですから……]
「少し落ち着いたら、次行ってみようか……ヒック!」
[了解しました。みなさんの酔が一気に覚めるようなのをぶちかましましょう]
「お手柔らかにね……ヒック!」
◆
さあ始まった暴露大会……講談師姿のメローペがステージの上でぶちまけ始めたから宴会場は大騒ぎ、ほんとに良いのか? こんなんで……。
演目の最初は、俺が雲隠れしていたこの2年ほどの間に太陽系の外で一体何が起こっていたのかの概略だった。
コズミックドラゴンの暴走に始まり、その後接触した時空神から天の川銀河防衛の依頼を受けて奔走していた経緯に、その場の客は今までの酔いもすっかり冷めて全員ドン引き状態だ。
現在は、防衛の体制や対策と組織運営など一通りの段取りに目処が立って来たので、小康状態のこの時期に俺個人の立場的な物の確立をしましょうよと地球に帰ってきた……とここまで話が進んだところで手が上がった。
「あの緑色のは外銀河からの邪神の尖兵だった……そして、既に戦いは始まっている! って認識で間違っていないのかな?」
「ええ、そうですね。その認識で間違いは有りません。たまたま、直接影響を受けた戦域がこの周辺に最も近かったという事です。天の川銀河への侵食が始まったのは割りと最近の様ですし、バクーンもこの5000年ほどは何も気が付かなかったと言っていますから……」
[肯定。あいつが5000年間仕事をサボっていたのはけっして褒められませんが、気がついたとしてもこの規模に成るともう宇宙的災害と言って良いでしょう。どれだけ強力な戦闘艦でも1隻では何が出来るのかって話です……私ならまず逃げだすでしょうね。そして、太陽系は邪神に飲み込まれてこの宇宙から消滅していたでしょう]
「ああ、うん。今度の相手は対抗策は有ってないようなもんだしね。最初は武力で抵抗できたとしても物量で押し切られるのが関の山でしょう。いて座矮小楕円銀河が良い例で、現状はこちらの殲滅スピードと効率が敵の侵攻スピードを上回ってるからなんとかなっている理由だけど……高位精神生命体の協力が取り付けられてホッとしたところかな……」
俺はそれとなく視線を向けると、気が付いたガブリエールが徳利を掲げて挨拶をした。
人の話そっちのけで酒をガブ飲みしていた天使姿のメイドに質問が飛んだ。
「ガブリエールさんにお尋ねしますが、あなた達の参戦でどの様にこの戦いが変わるのですか?」
『そうですね、まず敵のエネルギー元となっているアストラルの捕食を抑制することが可能です。もとより我々はそういった仕事を役割として担っている種族ですので』
「ではどうして今までは参戦されていなかったのですか? それらを監視するのが貴方方の仕事なんですよね?」
『ええ、仰る通りです。ですが我々は、限り無くアストラルに近い存在、不用意に邪神に近寄れば我々が捕食されエネルギー源にされてしまいます。ですがマスター昴のお陰で我々も敵に食われずにお手伝いすることが出来るようになりました。本当に有難い事です』
「まあ、そんなこんなでウンサンギガの体制を固めるために俺はここに戻って来たって訳。王様達からは必要以上に有名になった俺に変な虫がつく前に、速く身を固めて国を作れと言われてきたんだよ」
「国か~、確かにこれだけの戦力を持ってる個人って普通じゃね~よな。下手な星間国家なんて鼻にも引っ掛けない規模だし……それで昴は、何処に建国する気なんだ?」
「今、アステロイドベルトに惑星規模宇宙船を建造中です。1万年前に破壊された主星ニビルに肖って移動惑星シン・ニビルとなる予定です。そして、そこをウンサンギガの新しい国土として建国を宣言する予定です」
「惑星規模の宇宙船かよ。スケールがでけーな……でも、銀河規模の戦争から見たら針の先ぐらいのもんなのか? もう、感覚がおかしくなっちまうぜ……」
「半年後には完成します。その時、俺達の結婚式と同時に建国宣言をしたいと思います。みなさん、よろしくお願いします」
この後の大ビンゴ大会では、普通では考えられないような賞品が飛び交った。
賞品の筆頭には、キャンピングカーの形をした宇宙船をはじめワゴンや軽自動車などの形をした移動手段のレンタル専有権が配られ、参加賞はもれなく新国家への移住権だったのである。
半年後、早々に地球を見限って移住するというのも有りだろう。
この移住の権利は、ここに居る対象者の家族が揃って認められ、有効期限は昴が生きている間……例え地球での生涯が終わってからでも、その瞬間に新たなる人生を新国家で始められる……という事らしい。
実際には、ブレスレットを介してその全情報(遺伝子情報やアストラルデータ)が新国家に送られウンサンギガの国民として体が再構築されるという仕組みらしいが、それまでの記憶や経験を全て完全再現して新しく個人として再出発する事も可能であり、そこで人生を終わりにする事も本人が選択できる。
そう、人生をやり直すことが可能になった訳である。
これも、アストラルを回収する事が出来る様になった事で可能になった技術であった。
しかし、この事実は詳しくは情報開示されなかった。
何人か気が付いた者も居るようだが、あまりの重要な内容にここでの追求はされなかった。
知っているのは昴とハコの他、ガブリエール達アストラルの管理者のみである。
一応、生き返る時にはガブリエールに準じたアストラルの管理者が本人に確認することになっている。
生きたいか、将又、逝きたいか……。
よく『輪廻に帰る』という言葉が使われるが、アストラルとしての記憶とは余程の事が無ければ生まれ変わっても残らないらしい。
だからこの状態になったらその個人は『無に帰る』といった方が正しい。
一種のエネルギー体として宇宙に還元されてしまうからだ。
生前の記憶ごと回収し新しい体で再生することが出来るタイミングは一度だけ…。
君ならどうする?




