4-4-11 元旦から大変だ
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年も開けて世歴2008年、今年は飛躍の年となる予定だ。
雪の降る初詣を終えた村人は、自宅に戻らずに(株)タウルスの社屋に集まってきている。
これは、今日大事な挨拶が有るからと集まってもらっているのもあるが、大雪の中孤立するのを防ぐためでも有る。
当初、村内ネットワークを使っての挨拶を考えていたのだが、思いの外部外者の接触が激しく内輪での話は無理な事が発覚、急遽会社の方へ集合をお願いした次第である。
悪天候ということもあり、ワイワイと村の住民が集まってきている。
この村ではタウルスの社屋が公民館のように使われているのでいつものことでもあるのだ。
それに、何処から情報を聞きつけたのか、雲隠れしていた俺が村に帰ってきているという情報が世界中に知れ渡ってしまったらい。
現在、我が村に向かって報道陣や野次馬の群れが押し寄せてきている始末……。
俺は、芸能人じゃないぞ……俺なんか追いかけて何が楽しいんだ?
[否定。銀河一の有名人が何をほざきますか……呆れて物が言えません]
そんな訳で今俺の村を中心に日本…イヤッ世界は大変なことに成っている。
[肯定。当然の反応ですね]
「多分、政府関係者からのリークだな。元大臣や俺達が正月に何処に挨拶に行くのか漏らしやがった馬鹿が居るのさ……」
そんな話をしながらお雑煮を食べている荒垣さん夫婦や山口元外務大臣夫妻。
大きなお腹のマギーさんを甲斐甲斐しく面倒見ているキャプテンに、何故か混ざって酒盛りをしているガーディアンズの面々。
「ハッピーニューイヤー、ビッグ・ボス! こうやって直接に会って挨拶するのは初めてに成るな。マック・ライオットだ、よろしく頼む。コロンビアが故障したときには命を助けてもらい感謝している、ありがとう。後ろの面々はその他愉快な仲間たちってことで許してやってくれ」
「よくいらっしゃいました。楽しんでいってください」
今年のお正月は、関係者がここへ一堂に介して正月を祝っている。
この後の俺の挨拶をみんなで待っているのだが……。
[マスター、少々宜しいでしょうか? 昨夜から降り続いた雪により車両等の立ち往生が多数発生しております。今年は例年にない大雪で日本海側では80~100cmを超える降雪量になる見込みです。この近辺も昨夜からの降雪量は50cmを超えました。適時除雪しておりますのでこの村周辺には雪の影響は出ておりません。ですが、お祭り騒ぎでここに向かって集まって来ている車両の中には既に動けなくなっているものが多数見受けられます。如何いたしますか?]
荒垣さんがどっかに電話しているな……。
「駄目だ。お役所は正月休みでほとんど連絡が取れん。近隣の消防も既に出払っていて、手が回らない状況のようだな……これは、自衛隊出動も有るんじゃないか?」
「チョット失礼します。あけましておめでとうございます、ご無沙汰しております。昴君」
着物美人さんが挨拶に来た、誰だったかな……ああっ。
「おめでとうございます、東雲さん。お久しぶりです」
「覚えててくれましたか、7年ぶりですね」
「見違えました、キリッとした自衛官姿とはまた違って着物姿もバッチリですね」
「ありがとうございます、容姿には自信がある方なんですが誰も貰ってくれなくて……って、そんな話ではなくてですね。先程、自衛隊関係者に緊急出動の準備連絡が入りました。順次、隊に戻って出動に備える形になりますので、私はこれで失礼させて頂きます。同僚の酔っぱらいは、纏めて引き取りますのでご心配なく。では……」
彼女は、着物姿で綺麗な敬礼を決めて退席していきました。
途中、バシリバシリと肩や背中を叩きながら……。
校庭にヘリが停めてあったけどあれで帰るのかな。
この悪天候の中を飛べるのだろうか?
[東雲さんは、2等陸佐ですから今日ここに来ていた自衛官の中では最上位でしょう。だから代表してご挨拶に来たのだと思いますよ。ちなみに東雲さんの乗り回しているヘリは官給品ではなく私物です。(株)タウルス謹製ですので雪が降ろうと槍が降ろうと問題ありません。今日もあの着物のままでお越しになっていますよ]
「あんな女傑が居たんだな、気が付かなかったぜ。それにしてもあのヘリ、昴のとこのマイクロバスのお仲間だろ?」
「冴島、そんなんだからお前は、未だに嫁さんが居ないんだぞ。しかし、今の話はホントかい?」
[肯定。キャロルさんの『白鯨』に近い代物です。彼女は、堂々と飛べる乗り物が良いとおっしゃいまして個人所有できる中型のヘリコプターになりました。普段の足には、うちのトライクを使用されているようですよ]
「「うん、嫁の貰い手がないのが分かった気がする」理解した」
「あなた、絶対に本人の前で言っちゃ駄目よ、いいわね」
荒垣さんと冴島先生が相変わらずのやり取りをしているな。
美郷さんに釘を刺されているのも相変わらずだ。
変わらないな、この人達は……。
後でハコに確認したところ、プレアデスナイツに所属するうち数名の幹部には、自由に出来る住居兼足として白鯨に相当する乗り物が貸与されているらしい。
正式なレンタル契約を結び、格安でレンタルされているので大丈夫なのだそうだ。
「俺もワゴンタイプのを借りようかな。都心のマンションは家賃も馬鹿になんないんだ。ナビ付きなら下手なお手伝いさん頼むより有能だろ」
「お前はチョンガーだからそんな事が言えるんだ。所帯を持ってるとそうも行かないんだぞ」
「あら、私はキャンピングカー暮らしでもいいわよ。ここの女性陣は、キャロルさんの車で女子会を開く事があるからみんな知ってるわよ。フォウちゃんも可愛いじゃない」
「なんだと……」
「それじゃうちでも、災害出動ってことでガーディアンズの出番ですかね?」
「ウ~ン、ボランティアだし、この際仕方あるまい……って言ってもここに居る連中はどれもこれも酔っ払いばかりだぞ」
「大丈夫ですよ。10分で血中アルコールは除去できますから……あとはみんなのやる気だけですかね」
「オラッ、野郎ども出番だぞ! 新年明けての大仕事だ、気張れよ~!」
『『『『『『『『オオオオオォ~』』』』』』』』
掛け声とともに、手の開いている者達がガードスーツを着用し、小回りの利くトライクで続々と出ていった。
残った女性陣は、補給や連絡、受け入れ者の保護の準備だ。
慌ただしく元旦の午前中が過ぎていった。
この日、ガーディアンズの協力のもと、早期の救難活動が行われ雪による被害者は記録上0だった。
しかし、雪の中に取り残されたテロリスト達は、とても寒い思いをしたらしい。
テロリストや犯罪者と特定されていた人物及びその車両は、救難活動が一番最後に纏めて行われた。
周りの民間人は既に避難した後であり、態と逃げられないように車には細工を施して雪の中に放置するという手の込みようである。
ガタガタと震える犯罪者達は、このあと公安と警察にしょっ引かれていったのだった。
この時、過激な報道関係者も混ざっていたが、寒さに震える中それらの一部始終をお茶の間に伝えたところ、評価が上がったのは……どうなんだろうか……。
競争心が強いのにも限度というものが有るとは考えないのか、普段からまともな報道をしていれば評価なんて後からついてくるだろうという考えは甘いのだろうか……。
◆
新年早々、大変な一日となった訳だが、活動していたガーディアンズの撤収も終わり宴会と休息に入ったのは午後9時を少し回った頃だった。
(株)タウルス社屋地下の温泉施設へ併設された大宴会場では、今まさに『どんちゃん騒ぎ』が始まろうとしていた。
「では、あらためまして、新年明けましておめでとうございます。そして、お疲れ様でした」
『『『『『『『『おめでと~』あけおめ~』おつかれ~』おつ!』』』』』
「大変な年明けとなりましたが、みなさん怪我も無くこうして新年会に参加して頂きありがとうございます。今日は、おおいに飲んで食べて英気を養ってください。色々と趣向を凝らしたイベントやお年玉も用意しておりますので最後までお楽しみください……」
こうして、ウンサンギガの歴史に残る『魔の新年会』が始まったのだった。




