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4-4-09 シン・ニビル…その実態

5481文字




 俺が転移してきた場所は、自宅ではなく工事現場だった。

 ここは、現在建造中の移動惑星シン・ニビルだ。

 大小様々なオートワーカーが動き回っており、わずかに樹木なども配置され始めておりちゃんと呼吸できる空気がある。

 これらの植物は、月にある農場で大量に育てられた物で、宇宙船内などの人工的な大気組成に自然な環境を馴染ませるためのアイテムである。

 周りの工事状況を見ながら少しブラブラしていると、目の前に空間モニターが突然現れ、俺を確認するなり喋りだした。

 アルキオネである。


[御帰りなさいませ、マスター。もうお夕食は済まされたご様子ですので早速シン・ニビルの建造進捗会議を行いたいと思います。司令室の方へお越し頂けますか、よろしくお願いいたします]


 必要なことだけ言って空間モニターは消え去った。

 それと入れ替わるように、誰かが転移してきた。


「やっと来おったか、待っておったのじゃぞ、ご当主殿よ。ここの建造を任されたとは言え、何もかも儂の勝手にする訳にも行かんだろうからな。尤も人工惑星の専門家は儂ではなくキシャールの方じゃがな」


 転移してきたのは、ハイ・クアール(キシャール)の背に乗ったDr.アンだった。


[ナーゴ(専門と言われましても私の保有するデータは既に共有データとしてエクストラコアのデータプールに還元されています。代わりに成る者など他にいくらでも居るのではないでしょうか)]


「そんなことは無いさ。ここの陣頭指揮をドクターにお願いしたのに相棒のキシャールをその補佐から外す訳には行かないよ。それに聞くところによれば君は、数千年の間その船内に多種多様な種族を住まわせてきたという実績と実体験がある、それは(ただ)のデータなんかには替えられないと俺は思ってるんだ」


「ふむ、その認識は当然じゃな。儂のキシャールは優秀じゃからのぅ。もっと褒めても良いのじゃぞ」


「そこであなた達に相談なんですが、俺の両親が地球上で完全循環型の小型移民船を建造しています。技術的な部分は俺でも如何(どう)にかなりますがその他の部分で相談に乗ってやってはくれませんか。ただ、これに関してはそれほど急ぎの話ではないので地球に遊びにいったおりにでも時間のある時で結構ですので……」


「ほうほう、やはりお主の親族といったところかのぅ。落ちぶれていてもウンサンギガの一族の端くれといったところじゃな。独自に自分達で宇宙船を造るとは良い心掛けじゃ。あい分かったのじゃ、地上に降りたら相談に乗ろうではないか。地球では、そろそろ年越しの祭りがあるのじゃろう?」


[ナナーン(そんな軽口を叩いていてもよろしいのですか? 自慢ではありませんがマスターは宇宙船なんてまともに作った事は無かったと記憶していますが私の記憶違いだったでしょうか? これまでは全部私が用意した物を弄っているだけじゃありませんか。それに私自身も原型はとどめていましたが廃艦予定で放置されていたものを自分好みに手を入れて自立修復出来るようにして下さったのが始まりでしたし……まあ、私はそれで助かったような物なのですけれどね)]


「そんなネタバラシは()らんのじゃ。おまえは少し黙って居れ! だいたい儂が色々と注文を付けるから住みやすい環境に成っているとは考えんのか? すべてお前に任せると効率一辺倒で遊び心というものがじゃな~、ブツブツ……」


[ナ~ゴ(はいはい、黙りますよ)]


「それじゃさっさと仕事を終わらせて地球でお正月を楽しむ事にしましょう。明日は、村を上げての餅つき大会ですからね」


「それは楽しみだ。ご当主殿の田舎の物はみんな美味いからな、特に酒が旨い」


「あんまり羽目を外さないで下さいね。前回はその幼児体型(風体)でへべれけに酔っ払ってしまわれたのでみなさん心配していましたから……」


「ふんっ、あんなのは酔ったうちにも入らんよ。この体は、キシャール(こやつ)のせいで毒物(アルコール)の除去など瞬間で出来るからのぅ。普通では全然酔えなくて面白くもなんともないのじゃ」


「そういうもんですかね~、俺はまだ酒も飲んだことがないのでその辺は良く分かりませんが……」


「お主、人生をもっと楽しまねばそんじゃぞ。これから先、長い永い人生なんじゃ、楽しまねば何時(いつ)か生きることにも飽きる日がやって来る。だが、楽しい思い出は裏切らないものじゃ、そんな時生きる切っ掛けに成ってくれる。少しくらい羽目を外してドンチャン騒ぎするのも人生のスパイスというものじゃぞ」


[ン~ン(自分が遊びたいだけじゃないんですかね~、ああっ黙ってますよ……)]


「フンッ、兎に角じゃ仕事を先に終わらせてからゆっくりするとしよう」


「ハハハ、そうですね」




 ◆




 シン・ニビルの司令室とは、6つ有る大型次元転換炉を制御している異空間に存在する。

 通常は転換炉の制御機構は独立した亜空間に存在するが、6つの次元転換炉をシンクロさせるにあたってそれでは駄目なのだ。

 3つまではシンクロさせられた転換炉も倍の6つとなるとシンクロどころか並列稼働を下回る出力しか維持できない始末であった。

 現実空間で人が認識できるのは3次元+時間だとすると、位相空間は3次元+α、亜空間が6次元、次元転換炉はその大部分を6次元の亜空間内に内包することで巨大な質量と出力を制御している訳だが、それを同時に6つもシンクロさせようとした場合には別の次元認識からのアプローチが必要に成ったという訳である。

 そこで時空神様に相談したところ教えてもらった事なのだけれど、この宇宙は11次元(無限)まで存在する(らしい)事、11次元は宇宙を作った創造神の領域で10次元(有限であり、3次元+亜空間の6次元+時間で10次元となり)を堺にソトちゃんでも自由に出来るのは9次元までで限定的に時間を操作するらしい。

 通常6次元まで自由に使用できれば全宇宙にアクセスが可能になるらしいのだが、俺達の今の使い方では児戯に等しいらしい、聞かされて正直落ち込むばかりである。

 10次元とは、全ての空間を制覇して同時に時間の概念を自由に出来てはじめて認識できる世界であり、それを達成し意思を持って存在する存在が時空神であるという事らしい……。

 おれも亜空間(6次元)は認識できるし操作も出来る。

 元々、3次元と時間の概念は理解しているが、俺には全部を同時に制御するなんて無理!

 さすが、ソトちゃん時空神! スゲ~と持ち上げて置いた。

 実は、俺がハコ達とフルシンクロして存在進化を果たした時、短い間では有るが時空神の力に触れていたらしい……やっちまったね。

 後で聞いた話だが、それでソトちゃんに手下として目をつけられたのではないかとのことである。


 話を戻そう。


 亜空間(6次元)にその大部分が存在する次元転換炉だが、現実空間(3次元)で使用する為の蛇口が必要で有る訳で、最初は蛇口の出力を大きく変えるには転換炉を大きくするなりしていた。

 亜空間コンデンサーで一時的に蓄えたエネルギーをコントロールすることでその汎用性を大きく引き上げた現在の次元転換炉は単体で使用するのに適したジェネレーターと言えた。

 更に、亜空間アレイを追加し複数並列にシンクロさせたのがトライアルシステムとなる。

 これは3つの転換炉を事実上シンクロさせることに成功してはいるが、亜空間アレイの強度上の問題で数と時間制限が存在する。

 通常は、シンクロさせずに並列した次元転換炉の出力を交互に調整し永続的に高出力を維持するのが目的だが、緊急時は短時間オーバーブーストすることで数十倍の出力を絞り出す。

 ただし、これを使用すると現実世界(3次元)の設備にも甚大な影響が残るのでリミッターを掛け出来れば使ってほしくはない機能である。

 しかし、これらの問題を解決するのにネックと成っているのはやはり時間のファクターで有る事は、誰にでも気がつく訳だがこれに手を出して(まか)り間違うと大爆発では済まない大惨事と成る。

 次元転換炉のメルトダウンとも言える出力崩壊は、時空間に甚大な影響を与え、局所的な空間の断裂とも言える現象を引き起こす。

 過去にDr.アンが天の川銀河連合を道連れに企んだコアシップの暴走は、成功していれば天の川銀河中で同時多発的な空間断裂を引き起こす結果になって今ごろ銀河は崩壊していた事だろう。

 その辺をDr.に聞いてみたが『若気の至りじゃ、忘れてくれ。ハッハッハッ』と黒歴史の記録からの抹消を希望していたようだ。

 ……どうしよう?

 その後、悔しそうに『バクーンにしてやられるとは、儂もまだまだ甘かった!』などとつぶやいていたのはどんなんだろう?

 アンドロメダ星雲方面に逃げ出していたキシャールに乗っていたDr.は、天の川銀河が崩壊しても直接の被害を回避していた訳で、ほんと確信犯だったんだよね。


 また話が脱線してしまった、もとに戻そう。




 ◆




 俺達は、司令室でシン・ニビルの立体映像を眺めながらアルキオネの説明を聞いていた。

 そこに浮かぶのは、直径1万2千kmの銀色の球体である。

 惑星の核に6つの大型次元転換をまとめたコアシステムが存在し、そこからの膨大なエネルギーで自動工場群が勝手に自分を組み上げてゆく。

 その工場群の中心になっているのはケレスだが、最終的にケレスはニビルから分離され衛星として月の定位置に収まる予定である。

 早い話が格納可能な月を持つ移動惑星だと言うことだ。

 長期にわたりひとつところに停泊する場合は、ケレスを衛星として外に置く訳である。

 惑星の中層には3界層に分かれた自然豊かな大気層が存在し、ここがこの惑星の居住区画と言える。

 更に分厚い外郭が階層を作り、惑星表面は流体金属層に依って分厚く覆われていた。

 各階層の間には、港や造船ドックなど必要な物がすべて揃っている様である。

 透視図には、ケレスが収まる区画以外にも巨大な空間が3箇所ほど存在していた。

 そのうちの一番小さい場所でも直径120kmほどもあり、そこには現在キシャールが収まっていた。

 太陽系に帰っていた時は直径300kmを超えていたその船体は、昴の亜空間技術に依って物理的な直径は92kmにまで小さくなっていた。

 内部亜空間維持用の次元転換炉を追加で内蔵した結果、必要十分な複数の内部亜空間を内包するに至ったキシャールは、建造当時の大きさにまでダイエットすることに成功したのである。

 実質的には、これまで以上の出力と機動性を維持しながら、内部に安全で広大な居住空間の拡張に成功したわけである。

 それが、ここは私の部屋と言わんばかりにシン・ニビルの内部に収まっていた。



[現在、シン・ニビル建造のタイムスケジュールに遅れは確認されていません。予想よりも完成は早いのではないかと思われます。すべて、Dr.アンとキシャールのおかげです。お礼を申し上げます]


「ふん、白々しい事を言うでないわ。儂が自由に出来るところ以外は勝手に出来上がってゆくではないか。正直、ただの現場監督が欲しかったダケなんじゃろ?」


「ぶっちゃけた話『その通り!』なんですけどね、やっぱり近くに見ていてくれる責任者がいないと後で(俺が)何を言われるか分かった物じゃないので……」


「これは、大きな貸しじゃぞ。正直なところ、ここは思いの(ほか)楽しかったのと思った以上に拘束された時間が短かったのには驚かされたがのぅ」


[ナウーン(この規模の人工惑星を建造するのに3年掛からないなんて事は、誰も予想できない事でしょうね。私でもビックリです)]


「まあ、材料は有ったし周りから必要なものは順次補給できる体制でしたからね。ニビルの素になるアステロイドベルトと星のコアを組み上げたケレス、月のルナベースや木星の反物質生成ステーション、銀河達が今も構築しているエッジワースカイパーベルトの工場ステーション郡などなど……どれ一つ欠けてもこの結果には結びつかなかったでしょう」


[そうなるように計画し実施されたのはマスターです。計画に齟齬の無いように結果を出すのが我々の使命で有るならばこの結果へと至るのは当然の事。あと残すところは艤装のみです、もう動かそうと思えば動かせますよ]


「しばらくは唯の人工惑星ってことでよろしくね。これが銀河を渡れる宇宙船だって分かったらまた騒ぎ出すのが湧いてくるから……『俺も乗せろ~!』ってさ♪」


[……それは笑えない冗談ですね。人工惑星の段階でアウトだと進言させていただきます]


「ああ、無駄無駄。此奴(こやつ)に何を言っても無駄じゃよ。昔はこんな奴がぎょうさんニビルに()ったんじゃが懐かしいのぅ」


[ナーン(マスターも50歩100歩でしたからね~……変人な所は特に……)]


「……では、完成している部分の説明を一通りしておこうかのぅ。まずは着いて参れ案内するとしよう……」


[ナナーン(都合が悪いので流しましたね……)]




 それから俺達は、シン・ニビルを一通り見てまわり不備がないのを確認したあと、二人を連れて地球の自宅に戻ったのだった。


「長距離転移が出来るのは便利じゃのぅ。どの辺まで跳べるんじゃ?」


「自力では2光年ぐらいですね。太陽系内なら楽勝ですよ」


内火艇(シャトル)がいらんな……」


「でもこの体になっても疲れるのであまり使わないようにしています」


「それが良さそうじゃな(権能が進化しておるのぅ、既に人の範疇からは飛び出しておるか……儂も他人の事はとやかく言えんが……)」


「今日は祭りの前に銀河達を迎えに行って、今年も終わりですね」


「お主もゆっくりすることじゃな……では、暫く厄介になるかのぅ。まずは温泉じゃ♪」


 朝日を浴びながらタウルス社屋に向かうDr.アンとキシャールを 俺は手を上げて見送った。

 俺も一眠りしようかな……。






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