4-4-07 村長宅…双葉 23/9/14
20230914 微妙に修正
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俺は、散歩がてら2年ぶりの村を一回りしている。
ここも随分と様変わりしたもんだよ。
道はもとよりまばらに立ち並ぶ家々や田畑や樹木に至るまでが綺麗に整備されており『此処は、一体何処の高級別荘地?』ってな感じなんだよな~。
直に歩いてみると分かるんだけど、道も田畑も昔のままの面影がそこそこ残ってはいるんだけど余計な人工物は無くなってるし、雑草や荒れた樹木も一切目につかない。
村に一つの野菜の無人販売所は相変わらずその存在感をあらわにしている。
でも、此処ってこんなにデカかったか?
ちょっとしたスーパーマーケットくらい有るんだが……。
目につくところは綺麗に整備され、乱れは一つとして見あたらない。
よく見ると小型のワーカーが野菜を並べているじゃないか。
ほんとにご苦労さんである。
各農家の野菜類の品出しは、リヤカーを引いたワーカー常時各農家を回ってやってくれるから、悪天候の日でも安心だ。
この村、お年寄りばかりで若手はほとんど居ないのだが、その年寄りが元気すぎて年寄り扱いすると怒鳴られる。
それじゃあと逆にこき使おうとすると年寄り風を吹かして煙に巻かれるのだが、これまた除け者にするとへそを曲げられる……とっても面倒くさいぞ!
空き家や荒屋などは一軒も無くなり、代わりに建つ立派な家々も自然に溶け込むように配慮されている。
ほんと、いい仕事してるじゃないか。
7年前の荒れた限界集落の面影などは、もうどこにもなくなっている。
俺が色々とやり始めた頃よりも随分と垢抜けた感じだけど、だからといって都会かというとそう云う訳でもない。
散歩しているだけで『ホッ』と肩の力が抜ける様なそんな田舎の集落になっているのだった。
俺は、小春日和の綺麗な田舎道を手土産片手に村長宅に向かっている。
今日は、双葉の事でのお願いに伺うところだ。
銀河のところは良いのかって?
昨夜、長谷川の小父さんに電話したら『何を当たり前のことを…今更だから態々来なくてもいいよ。君は息子みたいなもんだし忙しいだろう?』って言われてしまった。
銀河が帰ってきたらお祝いするからその時でいいそうだ。
村長宅が見えてきた……道路に出てるのは双葉……じゃないな、一だ。
しばらく見ない間に生徒会長をしていた優等生が、爽やかなスポーツマンって感じに日に焼けた好青年に化けていた。
これこれ、人のことを指差すんじゃありません。
「ようっ、久しぶりだな。随分と忙しそうじゃないか。元気にしてっか?」
「ええ、方々飛び回ってますよ。一さんも久しぶりですよね。今は、役場ですか?」
「ああ、俺も高校卒業して直ぐ役場の職員一年生だ。今じゃ通信教育で何でも勉強できるし態々大学行く金も暇も勿体ね~しな、親父達に顎でこき使われてるよ。ここもこの数年で寂れた限界集落だった村から一転、日本の…いや世界の注目度No1になっちまったからな~……誰かさんのせいで毎日忙しくて参っちまうよ」
チラッチラッと此方を伺いながら愚痴りだしたから参ったね。
「うっ、ご迷惑をおかけしてるようですいません。俺に出来ることなら何でも言って下い、直ぐに対処しますので……」
「よせよせ、これも修行だよ。やっと覚えた俺の仕事を取らないでくれよな。昴のことだ気軽に頼んだが最後、仕事が便利に成り過ぎて俺たちの仕事が無くなるのが目に見えてるからな、ほんとに冗談でなく……。双葉~! 昴が来たぞ~」
ドタドタドタ、ガラッ。
「いらっしゃい♪ 先輩。どうぞ、遠慮せずに上がってください」
「ああ、双葉。この間ぶり、それじゃおじゃましまーす」
俺は、手土産を双葉に渡し、広い玄関の三和土を上がったのだった。
◆
村長宅は、平屋の日本家屋だ、門も広くて昔の武家屋敷っぽい。
村の中じゃ俺んちを別にすればここが一番大きい屋敷である。
双葉が左腕にぶら下がりながら奥の座敷まで引っ張っていかれると、そこには憮然とした様子の村長の元治さんと憔悴しきった様な双葉の父・治さんが並んで座っていた。
「こんにちは、師走の忙しい時期に押しかけてしまい申し訳ありません」
「なに、構わんよ。昴くんには足を向けて寝られん立場だ……。儂からはお祝いの言葉くらいしか送れんが、どうか双葉をよろしく頼む」
村長はいきなり俺に頭を下げた。
「俺はまだ何も、切り出せてないんですが……頭を下げるのはこっちの方ですよ」
「いや、詳しいことは双葉から聴いている。君が本当に忙しい処を態々時間を作って挨拶に来てくれて居ることには頭が下がる思いだ、ありがとう。まぁ~実際には、双葉から聴いた話の半分も理解出来ていないんだが、君が今大変な立場に居ることは想像だけはできる。そして双葉達が君のために何か手伝いたいと言っていることも理解できる。それに、俺の癌を直してくれたのは君だと長谷川さんからも聞かされている。改めて頭を下げさせてもらいたい、ほんとうにありがとう」
深々と頭を下げる村長、長谷川さんが治療の経緯を話したんだな……。
すると治さんが絞り出すように話しだした。
「だが、娘には危ないことをして欲しくないと言うのも親心だと君には理解して欲しいんだ。双葉の話はまだ良く理解できないことが多すぎて昨夜は一睡もできなかったよ、アハッハハハハ……」
「そうですね、今まで俺達が隠していた事をここで包み隠さずお話しましょう。何でも聴いてください」
それからは、7年前の夏休みに起きた事から始まったこれまでのことを、出来るだけ詳しく話して聞かせた。
いつの間にか座敷には料理が並べられ、一と双葉の母・しのぶさんも一緒に話を聴いている。
そういえば、ここに来たのが10時すぎ、もうとっくにお昼は過ぎている。
俺の話を聞きながら、一同今まで知らなかった脅威に青くなったり、その顛末に興奮して赤くなったりと結局4時間ほど話し込んでしまったのだった。
「来年の4月には、俺も18歳になります。皆さんのご賛同が頂けるのであれば双葉さんとの結婚をと考えています。実は、他の星の王族からも輿入れの話が来ていまして事実上これを断ることは出来ません。それならいっそ全員一緒に結婚式を上げてしまおうというわけです」
「……全員と言うがいったい何人に成るのかね?」
「……エー……と、9人ほどかと……」
一が座敷の隅で『リア充、爆発しろ!』と叫んでいる。
あれは、随分と酔ってるな、程々にしろよ。
ここで今まで上の空で話を聴いていた治さんが、俺の今の話にうろたえだした。
「それは日本の法律に、……重婚罪に問われないのかい? 9人とはまた……うらyam……」
ジロリッ、しのぶさんが治さんを刺すように睨みつけ、途端に治さんが震えだした。
「それには一つ考えがあります。他星からの干渉を跳ね除ける意味でも今後俺は日本人、いえ地球人としての立場を維持してゆくのは難しいだろうとの意見がでています。そこで俺の一族を一つの星間国家として独立させることにしました。一惑星の王様ならお妃を何人貰っても地球の政府から文句を言われる筋合いは無いっていう……まぁ、力技なんですけどね」
「ふむっ、簡単に独立するというがいったい何処に国を興すんだね?」
「はい、今突貫工事でアステロイドベルトの軌道上に惑星規模の宇宙船を組み立てています。そこを国土として独立する予定です、結婚式までには間に合わせますよ」
リアルタイムのホロ映像を見せて説明したら、双葉以外は空いた口がふさがらないといった様子で、ポカ~ンとしてしまった。
「フフフ、そういう訳で私は来年の今頃は、先輩のお妃様の一人って訳。みんな分かった?」
「皆さん、式にはご招待しますのでよろしくお願いします。同時に戴冠式も執り行う予定なので……欠席は無しでお願いします」
俺と双葉が並んで頭を下げたが 何かグダグダだな。
◆
村長宅を後にした俺達は……、そう俺達。
双葉が付いてきたのだ。
これから鷺ノ宮校長のところに伺う予定なのだが、ニヨニヨしながら双葉が俺の左腕にぶら下がっている。
「ムフフフ、この機会に先輩成分を補給しなければ……ムフフフ♪」
そんな栄養分はありません!
ちょっと離れなさい、鬱陶しいから……。
村のみんなが見てるでしょ、って会う人会う人みんな『おめでとう』って言うんだけど……双葉も当然のようにありがとうございますって……。
「ああっ、昨日のうちに村中に知れ渡ってますよ。先輩が早速身を固めるって……まだ相手までは言ってませんけど……ここは、先に唾を付けておかないと……」
「犯人はお前か? 校長のところに行くんだからあんまり波風立てるような振る舞いは止してほしいんだけど……」
「大丈夫ですよ、裕美も共犯ですから♪」
「オイッ!」




