4-3-12 銀河の覇者と成らん…イヤイヤ冗談は止せ!
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うううっ、10分遅れた。
[さて、マスターが嫁取りに専念しているうちに、我々はさっさと話を進めてしまいましょうか。アルキオネ、皆さんに報告を……]
[はい、お母様。では、現在の戦場と戦況の分析からご報告いたします]
昴がその場を後にした会議室では、今回のプロジェクトに参加する幹部及び高位精神生命体の主要な何人かが集う場で情報の共有が行われた。
ちなみにハコにつながる管制AI達には瞬時に同じ情報が共有することが可能だが、他の生命体にはやはり報告する場が必要になるのが必然だった。
不特定多数のファクターが参加するという事がどれほど計画の進行を阻害するのか……どれだけハコ達が出鱈目な存在なのかが良く分かる構図である。
しかし、無闇矢鱈と情報を垂れ流せば良いという訳では無い。
必要最低限の司令官クラスは知っていなければスムーズなプロジェクトの進行など不可能なのだ。
それに、こちらの戦力を敵陣に正確に把握された場合、それがどんな弊害となって跳ね返ってくるのか予測すら出来ないからでもある。
最悪、我々の対抗策を取られる時間が予定より早まる危険も伴うだろう。
今回のプロジェクトの胆となるのは、スピードと時間であるのだから……。
[まず、天の川銀河内の侵食状況からご報告いたします。先の強襲情報伝達ユニットの散布に伴い全銀河内のサーチが完了いたしました。思った以上に邪神の胞子が広範囲に拡散していることが確認できます。力ある知的生命体の幾つかの中には、既にこれと接触・敵対し殲滅した痕跡が伺えます。しかし、これの正体にまで辿り着いた者は皆無です。さらに侵食が進み既に文明が侵略されて苗床となっている所も数例確認できました。こちらには、バクーン&サーベイヤーに1分艦隊を預け派遣しております]
「状況は分かっているつもりでおりましたが、思っていたよりも現実は深刻な様ですね」
天の川銀河の実際の深刻度にガブリエールが驚いています。
[肯定。既にオリオン腕のソル星系、所謂銀河の辺境では水面下で攻防戦が始まっていたという事ですね]
[現在、確認出来ている辺境域の邪神(胞子)個体の殲滅は、バクーン達のおかげでほぼ完了しております。問題は、宇宙進出を果たした惑星国家や星間国家の領域です。邪神にとっては一番美味しい餌場と成り得るところですが、我々が現地民の了解も取らずにいきなりズカズカと殴り込んで行って勝手に掃除をする訳にも行きません。そこで今回の強襲情報伝達ユニットの出番となった訳です]
[肯定。天の川銀河に確認出来る全知的生命体と言っても割と少ないことが分かっています。ハピタブルゾーンの存在する恒星系がおよそ400億、知的生命体がそこに発生する確率は思った以上に少ないですからね。まずこれらへの警告と今後の対処に関しての最低限の情報の共有。武力侵攻が必要な場合の大義名分がこれで成り立ちます]
「フムッ、そういう事であったのか……よく分かった。確かにこれだけの情報と理由を提示されて乗り込んで来られては嫌とは言えんな。自分達で邪神に対処できないとなれば尚更だな」
阿修羅王が頷きながら独り言ちて、そう呟いた。
[現在、強襲情報伝達ユニットの機能を最大限に利用して一般市民にも情報を公開しており、更に今回構築された全外交ルートを通して各種族や惑星に警告と圧力を掛けた後、一気に戦力を投入する予定です。この段階で天の川銀河系内の全ての邪神に連なる脅威を排除します]
[次に『射手座矮小楕円銀河』での戦況を御報告いたします。先の高位精神生命体の参戦により、これまで膠着していました戦況は、目に見えてその支配領域を広げております。以前は撤退後に再占領されて鼬ごっこをしておりましたがその兆候も見られなく成りました。張り切った彼らの働きにより参戦前に6対4だった戦況は、8対2まで改善しております。完全なる『射手座矮小楕円銀河』の開放が秒読み段階に入ったとご理解ください。但し、張り切りすぎた高位精神生命体の息切れが激しく、現在先陣の休養と増援が急務となっております。もう少しペース配分というものを考えて行動して頂けると有り難いと言っておきましょう。決して責めている訳では無いんですよ……責めている訳では……]
責めていないと言いながら2度言ったアルキオネ、内心かなり御冠のようである。
「それは大変申し訳無いことです。先遣隊隊長のヤルダバォトにはよく言って聞かせましょう。あの者は後先考えず、勢いで突っ走る傾向にあるのです。どうもご迷惑をお掛けしているようで大変申し訳ありません」
[……まあ、これまで指を咥えて手を拱いていた相手に攻勢を掛けている状況ですからね……。お気持ちは分かりますが、途中で息切れを起こすほど入れ込むのも程々にして頂かないと、現状ではまだ大きな影響は出ていませんが、肝心な時に働けないようでは問題ですよ]
「ええ、重々承知しております。新しい義体に慣れてくればその辺の加減の出来る様になるでしょう。些か調子は良すぎて羽目を外してしまっているようです」
[肯定。義体との相性が良すぎたのかもしれません。ヤルダバォト殿もそうですが総じてやり過ぎる傾向にあるようですね。一時的な躁状態に陥るように見受けられます]
「ええ、ハコさんの仰る通り。この体になってから…こうムズムズするというか思い切り発散してみたいというか……イヤイヤ、お恥ずかしい……」
[否定。システムの見直しが必要かもしれませんね。適切なリミッターの取り付けを検討致しましょう……飽く迄もリミッターですので外そうと思えば外せる程度のものですが……]
[次に『おおいぬ座矮小銀河』との接触宙域についてですが、今しばらく時空神ソト様に頑張っていただき、他の浄化の終了と同時に一気に全戦力で逆侵攻を掛ける事と致します。今は飽く迄も前座、前哨戦です。気がついたこと等が有れば漏れなく拾い上げて下さい。決戦時の為にも情報は沢山有るに越したことはありません]
「「「「「相分かった」・・・」そうですわね」はい」うむっ」
[次に、我々の現有戦力について説明致しましょう。まず、大きなところから……]
・迷宮の星 (内部亜空間の拡張無し)
現在の大きさ 直径3万Km
その名の通り広大な空間を自由に操作できる力を持つ
ワームホールを内包し、周囲数千光年の範囲から汎ゆる星間物質を移送する
ダークマターを始め、資源化可能な星等を片っ端からマテリアル化している
直属の資源回収船は、全長3Kmで50隻存在し何もかも破砕する
周囲を回る12個の月は、直径2千Kmの工房衛星である
汎用性は無限工場ケレスに劣るが単一生産力はそれを上回る
ワームホールから吐き出されたマテリアルを様々な物に創り変えている
直掩艦隊として10万の艦隊が存在する
現在は、日産1000隻以上の各種艦船の他に装備や補給物資を製造中
・中央情報集積惑星 (内部亜空間の拡張無し)
その大きさは 直径5万Km
周囲をリング状に数十万の艦隊を整備補給できる浮きドックが存在する
日々収集された汎ゆる情報を蓄積し応用するための大掛かりなデータベース
銀河全域にバラ撒かれた強襲情報伝達ユニットより汎ゆる情報が収集される
そして、逆に発信することも可能である
艦隊の情報処理と艦隊運行の中心となっている
現在の『射手座矮小楕円銀河』への10万の派遣艦隊の他
直掩艦隊として28万の艦隊が存在する
・主星シン・ニビル (内部亜空間の拡張有り)
直径1万5千Kmの惑星サイズの宇宙船
内包された亜空間容積は太陽系のおよそ半分にも匹敵する
いざとなったら『地球や太陽を飲み込んで逃げ出す』くらいの事は想定済み
直掩には10万の艦隊を持つ
無限工場ケレスはその衛星としてかつての軌道を回ることになっている
・太陽系地球の月・ルナベース (内部亜空間の拡張無し)
バクーンの別荘と言う名のゴミ捨て場
セントラルと四聖獣の手で拡張工事が進み要塞化された
5つのガードステーションの中心となって地球を守る要となる
セントラルは直掩に1万の艦隊を持つ
・天の川銀河連合のセントラル・ステーション (内部亜空間の拡張無し)
人工太陽ニルヴァーナを核に持つダイソン球型人工天体である
人工太陽ニルヴァーナは、天帝位を返上したエアの契約するエクストラコア
現在はセントラルの同位存在であるセントラルベータが管制AI
セントラル・ベータも1万の艦隊を直掩に持つ
[次に現在の艦隊構成をご説明いたします]
最小艦隊単位 50隻
巨大人型戦闘艦 1隻 全長 170m 小隊長
資源回収補給艦 1隻 全長3000m
攻撃空母 3隻 全長 700m (フェザー母艦)
機動巡洋艦 45隻 全長 200m
1分艦隊 1,000隻 =20艦隊単位×50隻
1個艦隊 10,000隻 =10分艦隊
全戦力数 50個艦隊 =50万隻
高位精神生命体用増強用外部骨格 平均全長150m =1万2830隻
[最小艦隊単位に1機の割合で増強用外部骨格を含める事で完成とします。現在、増強用外部骨格の増産体制に入っていますが高位精神生命体3万4181体分の増強用外部骨格が揃うまでにはもう少し御時間を頂きます]
「ウ~ムッ、天の川銀河の完全支配も夢では無い戦力だな。昴は何処を目指しているのだ? やがては銀河の覇者か何かというところか……」
[否定。多分ですが……マスターが求めるのは誰にも邪魔されずに好きな発明と寝て暮らす暮らしではないでしょうか。今はそれらが脅かされる現実をどうにかしようとして藻掻いているというところでは無いかと予測できます]
「馬鹿か?」
「これだけの技術と力を持っていて、極めて欲の無い方なのですね」
[否定。欲が無いなんて飛んでもない、極めて自分の欲望には正直な方ですよ。多少その方向が人とはズレているだけです。とっても可愛いでは有りませんか♪]
「・・・」 (コイツラ……主従揃って変態だ!)




