4-2-17 何事も無駄にしないのが日本人クオリティー
1311文字 短い! 加筆決定。
2047文字に加筆しました 20211109:1200
ソトちゃんがメイズスターに居着いてから早くも半年が過ぎた。
俺は日に一度は、ご機嫌伺いにお茶をしに行っている。
いや、冗談抜きでここのお茶は美味いのだ。
所謂常連客というところである。
理由は、喫茶店なのに客が一人も居ないのも寂しいだろうというのが一つ。
愚痴を聞いてやる約束をしたのが一つ。
出される物が絶品だというのが一つ。
それに、変な被害者が出ないように店を監視するのが一つ。
そしてその店の監視のために、ここにはハコの同位体が一人ウエイトレスとして常駐しているので、何かと我儘も通るのだ。
まあ、客は少しずつ増えているようでは有るが、ソトちゃんの存在感に耐えられる剛の者に限られている。
それでも、幾度かはお茶する前に気を失って、下手をするとそのまま昇天してしまうなんて事も有るので気をつけなければ行けない。
寝ていると思ったら生命活動が停止していました、なんて笑い話にもならない。
ハコが連れ出してメディカルカプセルに詰め込み、ホテルや居住区または宇宙船に送り返している。
実はこれが一種の通過儀礼となって居るようで、この店のお客は一度は経験している者がほとんどである。
どうも耐性が付くらしい……修行場かよ!
この店で提供されている物は、ほんとうにすばらしい。
そこに半端な妥協は存在せず、ソトちゃんとハコにより銀河系内でも最高級の物が提供されている。
情報を出すのはソトちゃんで現物を集めているのはハコ、そしてそれらを元に最初に作らされるのは俺という構図では有るのだけれど。
一度作った後は、ハコがどうにかするので丸投げである。
だからこそ変な物は作り出せないとも言える。
しかしこの店、喫茶店のマスターがだだ漏れにしたプレッシャーと同じ空間にいるだけで生命力というかSAN値がどんどんと削られてゆくのである……うん、これは一種の修行の場と言っても間違いではないな。
実際、俺もこの半年で生半可なプレシャーでは微動だにしなくなったし……位階が上がっているのは間違いないんじゃないかな。
マスターは、毎日決まった時間にこの店を訪れ、カウンター越しに平気な顔でソトちゃんとアハハオホホと世間話を交わしている。
ここで話される会話は最初の頃は、ソトちゃんの愚痴や文句、誰に対してとは言わないが現在の境遇に対する改善案などなど……本当にどうしようも出来ない愚痴がほとんどだった。
ところがどんな科学変化が可能にしたのか、最初訳の分からなかった会話が何時の間にか対等に成立しだしたからアラ不思議。
理解できるということは、再現できるんじゃネ?
再現できたら、改善できるんじゃネ?
それじゃ系統立てて纏めてみようか?
マスターは、日々ソトちゃんと人外の情報交換を行い、私は逐一記録整理してデータベースにまとめ上げるという作業が日常ルーチン化したのでした。
多分、出来上がるのはこの世に類を見ない異端のデータベースだろう事は私にも想像がつくところです。
これが、どんな物でも「勿体ない」とリサイクルしてしまう日本人の性なのでしょうか?
マスターは、そう考えるとやはり日本人なのだと考察できますね。
この時に出来上がったデータベースは、それを閲覧した者達を発狂させるに至り、後に厳重に封印されたらしい。
◆
昴くんは、僕との約束通り毎日店に通って来ている。
まさか律儀に毎日通ってくるとは、僕も思ってはいなかったんだけどね。
だってそうだろう、普通は強制された嫌な話を聞きに来るのにだよ、約束とは言え毎日来るなんて……なんて……可愛い生き物なんだろうと、表情に出さずに内心狂喜乱舞していたのは内緒の話だ。
従者の宇宙船達が、彼を溺愛している事にも納得出来るというものだよね。
そんなに毎日良くも話が尽きないものだとみんなは思う事だろうけれど、こちとら伊達に銀河系で時空間の管理者を名乗っている訳じゃないさ。
話題だけなら万年語り通しても尽きないほどには弾数が充実しているよ。
まずは、理解できるだろう触りのレベルから始まって、段々とディープな話題に突き進もうではありませんか、ウフフフフ♪ な~んて最初は僕も考えてました。
僕が瞬きする間に、昴くん達の時間で半年が経っていたんだ。
いや~楽しいな~♪
時間ってこんなに早かったっけ?
まさかこんなに楽しいとは思っていなかったよ。
本当に予想外だね。
だって、半年で僕の話題に付いて来るように成るなんて予想もして居なかったからね~、これが嬉しい誤算ってやつなのかな。
僕は、こぼした愚痴を誰かが聞いてくれるだけで満足だったんだ。
それなのに、チャンとそれを理解しようと努力して律儀に対策まで考えてくれようと試行錯誤してくれるなんて……これが可愛くない筈無いじゃないか、可愛くないなんて言う奴が居たら塵も残さずその存在を因果律の彼方に吹き飛ばすね、保証しよう。
何か僕たちの会話を纏めてるこのメイドの話だと、すでに一廉の学問として成立するぐらいには研究が進んでるらしいよ。
君たちも半端じゃなかったんだね。
僕、ちょっと君たちのことを舐めてたかも……。




