4-2-11 迷走する者達2
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昴が太陽系を離れて早2ヶ月あまり、儂に星の修繕など押し付けおって……。
最初に儂に白羽の矢を立てたあたり、昴の彗眼には恐れ入る。
(実は最初に、エンリルに頼んだらしいが蹴られた……Dr.はその事を知らない!)
儂も最初の頃は、浮かれておった。
ニビルにキシャールをそっくり収容できる様にしようなどと考えたり、色々進んだ技術でこれ迄の問題を解決したりして楽しかったのじゃ……が……。
しかし、セバスチャンにニビルの設計概要を見せられた時点で、その殆どを諦める事となった。
儂の考えたスペシャルなニビルの設計計画が、もう既に基本設計に組み込まれていた物ばかりだったのである。
唖然とした!
そしてヤル気が一気に消し飛んだ。
これでは、儂はまるで唯の雇われ現場監督ではないか……イヤッ、そうなのじゃろうよ。
昴は、セバスチャンでは判断できない時の最後の管理者としての仕事を儂に押してけていったという訳じゃ!
まあ儂も二つ返事で了承した建前上、今更嫌だなどとは口が裂けても言えないのじゃが……奴は未来予知でも出来ると言うのじゃろうか……。
儂が出すアイディアの尽くをセバスチャンに駄目だしされる苦痛……、やっと通ったと思ったら更に進んだ設計思想で粉々にされる儂……儂はMじゃないのじゃ!
そんな2ヶ月が経った頃、無限工場衛星ケレスに警報が響き渡った。
[予定外の重力異常を検知しました。ニビル建造宙域に近いです。みなさん重力震にご注意下さい!]
セバスチャンがニビル再建に関わっているこの宙域の者達全てに、緊急アナウンスを行った。
その30秒後、空間が歪みそして陥没した……様に見えた。
『通ったかしら? セバス! 返事しなさい……』
[!? ハコ様ですか? これは一体……]
『肯定。どうやら成功したようですね。今は少し不安定だけどこっちから空間固定用のパーツを送りましたから、そちらで急ぎ組み立てて頂戴ね』
[空間固定用のパーツですかな?]
『肯定。これは1万光年を飛び越えるためのジャンプゲートよ。大規模な空間圧縮トンネルだと理解して頂戴。1万光年をおよそ10光年にまで縮めてくれるわ。そうね……私達が航行して到達に3日掛かるところを5分ほどに縮めてくれると思えばいいわ……』
聞こえてきた情報に我が耳を疑った……1万光年を5分じゃと?
空間圧縮トンネルという言葉から予想できるのは、普通の宇宙船も通れるということじゃ。
途中で乗車下車が出来る様に成れば革命じゃ、このままでも驚異的な話じゃがな。
凡そ15分後、観測されている歪曲空間からドンドンとバラバラのパーツが飛び出してきたのだった。
あれが空間固定用のパーツらしい。
しかしあやつら、10光年に圧縮されたとはいえ、まともな推進機関のないパーツを飛ばしているのじゃろう……後で教えてもらわねば……。
[ほほう、座標を誘導すれば勝手に組み上がるようですな……それぞれがオートワーカーで有りパーツとして機能するのですか……昴様らしいと言えますな……]
セバスチャンが歪曲空間の詳しい座標を指定すると、パーツ達は歪曲空間を囲むように8方向に集まりだし、巨大な8角型を形作り始めたのだった。
それは、内径の最大径がおよそ100km、構造物の外周は180kmに及んだ。
見る間に組み上がってゆく巨大な構造物に皆が固唾を呑んでいると……。
『では、空間固定リングの完成しました。1時間の調整を行いその後、継続してジャンプゲートの運用試験を開始いたします。我こそはという命知らずは、どうぞお試し下さい♪』
歪曲空間から吹き出すように溢れていたパーツの放出が終了し、巨大な8角型の各所が明滅を繰り返していましたが、規則的に足並みが揃いだすと中心に見えていた歪曲空間が幾重にも波紋を重ね綺麗に波打ち、最後には鏡面のように安定したのでした。
まるで宇宙空間に浮かぶ、8角型の姿見のようです。
[コレはコレは……下手に飛び込むと亜空間の迷子になりそうですな……]
「アヤツの事じゃ、この空間固定装置は灯台の役目もするのではないのかのぅ? キシャールのセンサーが、その8角型の中に未確認の人工惑星を確認しておるんじゃが……」
[ええ、おそらく間違いないでしょう。その人工惑星が今建造されているという新しい拠点では無いでしょうか……フムッ、大きいですな……1万km程はありそうです……もの凄いエネルギー量で周りの空間が不規則に蠕動しております]
「ほほう、楽しいではないか……遊びに来いと言うておるのじゃ、行かねばなるまいよ♪ キシャール、準備開始じゃ、みんなでバカンスに行くぞ」
[ウナ~ン(またDr.の悪い虫が鳴き出しましたね。ハイハイ、準備しますよ、しばらくお待ち下さい)]
[こちらでも、有志を……もう集まってきた様ですな……ほほほ♪]
その後、ラーフに便乗して来た面々がケレスに飛び込んで来たと思ったら、休眠状態のオヒューカスに乗り込んで準備を始めるのだった。
殆どは地球組だが陣頭指揮を先頭に立ってしているのはエンリルだった。
◆
その数十分前、地球でも騒ぎが起きていた。
アステロイドベルト近傍での重力異常は、その規模の大きさから注目の的となった。
そして、セバスチャンやDr.はすっかり忘れていたのだ、地球からの目があるという事を……。
あのドサクサで地球からの観測に対するジャミングが疎かになってしまったのには、誰も責められないだろう。
今回の事を起こした昴とハコは、「そろそろバレても仕方がないだろう」ぐらいにしか思わないのじゃないだろうか。
地球では、アステロイドベルト内の公転軌道にケレス以外の巨大な物体、それこそ地球よりも巨大な惑星が姿を表した事で大騒ぎになっていた。
重力異常は望遠鏡では見えないが、惑星は見える!
それも、その新たな惑星は地球よりも大きいらしい。
火星と木星の間にはアステロイドベルトが存在するが、その総量が減少している事が分かった。
アステロイドベルトに存在する小惑星が全て、その新惑星の方向に動いている。
ここに研究者らによって建てられた仮設が、アステロイドベルトが砕ける前の元の惑星に戻ろうとしているのではないか? と、言うものだった。
強ち間違っても居ないが、「戻ろうとしている」のではなく「戻そうとしている」というのが正しいだろう。
しかし、それに気がついた所で今の地球人類に何が出切るわけでもない。
唯、右往左往しながら見ていることしか出来ないのだった。
何故なら、地球ではこれ迄の国家体制が崩壊し、テラ同盟を中心に新国家体制に移行している途上にあったからだ。
ロケットや、ましてやまともな観測機を打ち上げる事など出来るはずもなかった。
過去に打ち上げられ今も稼働している人工衛星の主導権を何処が握るかでいがみ合い、掴み合いの取っ組み合いを始めるような始末である。
この時点で廃棄された人工衛星や管理のあやふやな軍事衛星をはじめ、スペースデブリと言われていた物は全て回収撤去されていた。
これらは全て昴達に依るものだが、費用は何処からも貰っては居ない。
しかし、回収した後にその費用も出さずに、盗んだだの返して寄越せだのと騒ぎ立てる輩というのは湧いて出るもので、仕方がないのでイチャモンを付けて来たところに投下してあげた……ピンポイントにピッタリ10cmの誤差で衛星軌道から落とすと大惨事になるので、高度1000mくらいから落として返して回った。
ちゃんと衛星は壊れて使い物にならない高さを割り出し、汚染物質は無害な物に分解して再利用は出来ない状態で落としている、……バクーンの納品書を付けて。
テラ同盟に軌道エレベーターを譲渡した事で、他の国家体制から非合法な接触が増えたことは説明の必要もないだろう。
昴は、これらのゴタゴタに巻き込まれるのが嫌なので地球から宇宙に逃げたのである。
まだ、地球が一つになるまでには至っていないのだ。




