4-2-10 迷走する者達1
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儂は何処へ向かっているのじゃろう……今では何も思い出せん。
直感じゃった様な気がする……最初は、猛烈な食欲に似た欲求が沸いたのだ。
我が身が傷付くのも構わず、仲間たちの制止を振り切った。
住処を飛び出してからは、それはやがて焦がれるような執着に変わっていた。
何匹かが付いてくる……お前たち、辛かろう……魔素の薄い領域は我らが暮らすのには過酷な環境だ。
しかし、通常の生物は惑星上に発生し生活する……!?……儂が向かっているのは惑星なのか?
イイヤ、違う……これは生物だ。
小さな小さな……しかしとてもとても大きな存在を示す生物だ……自分でもよく分からんな……。
最初の内感じたのは、恐ろしく遠く離れている……儂等でも一息には跳べぬ距離だ……しかしその存在は、その距離を恐ろしい速さで跳び回って居た。
儂は何へ向かっているのじゃろう……そうか、お前たちも付いてくるのじゃな。
では、共に向かおう……。
儂の望む物がこの先に存在する筈だ……そう、その様に啓示を受けたのだから……儂には分かるのだから。
◆
竜達の中で、今一番力の強い個体が急に暴れだしたと聞いたのは、私の仕える竜からの暇乞いの思念波に依るものでした。
その暴れる竜に引かれるように、200頭あまりの竜達が銀河バルジ領域から溢れ出したのです。
そして、竜達の動向を察知した神殿では、上へ下への大騒ぎとなりました。
他の群れは、銀河バルジの奥へと移動してしまい、ほとんどの竜とはこれ迄のようには交信も出来なくなる始末……。
辛うじて私の懇意にする竜は、溢れた群れの方に居たために追跡の任に当たることになったのです。
どうしてこんな事になったのでしょう……その時、聞き取れた思念波の内容は……。
『……急に我らの長が暴れだした……我々は、長の後をついてゆく……』
「そんな……私達も共に行きましょう……」
『……何処まで翔ぶのかもしれぬ旅ぞ……』
「いいえ、何処までも付いてまいります……」
『……しかたのない者達だ……勝手にせよ……』
短く交わした思念波を言葉に直すとこんな内容でしょうか……。
一部に聞き取れない部分や、食欲や愛子、希望などの意味も入っていたようですがよく聞き取れませんでした。
翔び去った竜達の群れを追うために急遽宇宙船が集められ、追跡艦隊が組織され体裁が整ったのはそれから10日も後の事でした。
最初に飛び出していった者達は、その尽くが途中で航行を断念することになりました。
竜たちは最初の3日間、行き先の定まらない亜空間転移を繰り返すばかりでした。
幸いなことにそれほど遠くに翔ぶことはありませんでしたので、追いつくまでに時間は掛かりませんでした。
ですがその様子から見ても、さも行き先が不規則に移動しているかのように、竜たちは行き先を激しく変更し右往左往していたのです。
追いかける方は、堪ったものではありません。
この時に無理な航行を行い追いすがった者達はそれが祟り、宇宙船が尽く使い物にならなくなってしまいました。
恥を忍んで友好国の王族を頼ったまでは良かったのですが、寄りにも寄って追いかける艦隊の司令官がアノ馬鹿兄貴になるとは想いもよりませんでしたけれど……。
ここらで実績を積んでおかないと不味いとでも思ったのでしょうけれど、もう手遅れだと認識しているのは私ばかりではないと思います。
今回の差配を取り仕切った拳聖ブラドンは、お目付け役として兄に付けられた導師ですが、アノ馬鹿の取り巻きも大変でしょうね。
拳聖ブラドンの伝手で追跡艦隊に名乗りを上げたのは、阿修羅王族とデーヴァ王族、天の川銀河連合の2大王族でした。
阿修羅族の秘宝とされる宇宙艦ピオニーⅠ世と、デーヴァ王族第三王女ラクシュ様の座乗艦ロータスⅠ世がドラゴニアに支援に来た時には何の間違いかと思いました。
そしてこの時、軍部が最初にやらかしました。
その見た目に騙されたのです……『この様な軟弱な宇宙艦に過酷な追跡など出来るはずが無いだろう』と、鼻でせせら笑ったと言います。
天の川銀河連合の中でも武闘派で知られる2大種族に喧嘩を売るような、そんな恐ろしい事を面と向かって言い放ったと聞いて、空いた口が塞がりませんでした。
この時も、拳聖ブラドンが間に入り穏便に事を治めたようですが、その後自分達が馬鹿にした宇宙艦がとんでもない代物だと知って青くなっていたそうです。
この二隻、その可憐な出で立ちとはうって変わっての艦隊をそっくり抱えるほどの積載能力と機動力、堅固な攻勢防壁は、何を考えて造られた宇宙艦かが一目瞭然です。
まず、武力を展開した時点で戦わずして勝つことが出来る事でしょう……あんなのと戦争なんかしていられる筈もありません。
それを見て馬鹿な兄貴は、キラキラと目を輝かせていましたが……ほんとに馬鹿ですか?
敵に回したらどうなるか、この兄貴には想像力というものが皆無のようです。
何を勘違いしたのかこの馬鹿兄貴は、ロータスⅠ世に司令部を置くとラクシュ様の宇宙艦だと言うのに我が物顔で使い始めたから手の施しようがありません。
カーリー船長が上手いこと捌いてはいましたが、ラクシュ様は腹ワタが煮えくり返っていたのでは無いでしょうか……オオ、怖い怖い……。
挙句の果てに、竜の向かう先が一人の人物を指すことが分かると生贄にしてしまえなどと言い始めたから呆れてものが言えません。
その人物がどんな人物なのかを禄に聞きもしないで……。
渦中の人物がラクシュ様の婚約者であり、このロータスⅠ世やピオニーⅠ世を造った一族の当代だと聞いても、ピンと来ていない大馬鹿者!
その瞬間、嗚呼これは兄貴も死んだなと思った時には、ラクシュ様が撲殺する寸前に母上のヴィシュヌ女王が間に滑り込み、辛くも壁に蹴り飛ばされて生き残りました……チェッ、惜しい……。
流石に切れたラクシュ様は、バカ兄貴共々司令部を放り出して婚約者の下に帰るとおっしゃいました。
お情けでピオニーⅠ世に司令部を移し、追跡艦隊は航行を続ける事となりましたが、肩身が狭くなったのは自業自得でしょう。
私は一足早くラクシュ様と一緒に目的地にてお待ち致しております……アバヨ、バカ兄貴♪
それからは、邪魔な司令部のお歴々も居らず私の側付きと外交担当数人を乗せたロータスⅠ世は一路、ラクシュ様の婚約者が居られるという太陽系に向けて旅立ったのでした……3日後……エッ、もう着くんですか?
いくらなんでも早すぎるでしょう……と思ったら一万光年ほど手前に拠点をお造りになっていると言うのでそこにお邪魔することになりました。
それでも、1万光年手前というと追跡艦隊とのほぼ中間地点、艦隊の今のペースだとまだ10ヶ月ほど掛かる距離です。
それを事もなく3日で移動するこの船は、一体何なのでしょう?
着いた先にもビックリしました!
仮初の拠点と聞いていたのですが……何ですかコレ!?
星系規模のトラップですか……ナンテものを造ってるんですか?
中は小さいんですね……嘘つきましたね、コレの何処が小さいんですか。
エッ、造り始めて2ヶ月ちょっと?
……どう見ても星ですよね?
……直径1万キロですか……そうですか……。
何となく竜が会いに来たくなったのも、分かるような気がしてきました。
……お近づきに成ってないと後が怖くて寝れなくなりそうです。




