4-2-08 拠点宙域…迷宮の星2
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そこは、気持ちの良い場所だった。
輝く水面を渡る風、緑の木々と丈の短い芝生、遠くに見える山々……。
湖畔のロッジの前には、薄いタープが適度な日陰を作り、その下には椅子とテーブルを広げ、手ずから昼食の準備をしている青年が一人。
ラフな開襟シャツにジーンズ姿、ひよこのアップリケのエプロンをしているのはお愛嬌だ。
「まあ~、貴方は相変わらずなのですわね……」 とラクシュ王女が側によりキスをした。
「お帰り、ラクシュ」と応えた青年はここの主、天河昴である。
[マスター。お客様をお連れしました。……続きは私が……]
「ああ、頼む……。ようこそおいで下さいました、天河昴です」
ラクシュ王女が抱きついてキスする辺りから、ビシッっと固まっていたレイナ皇女が再起動した。
「……お初にお目に掛かります。帝政ドラゴニア・第8皇女レイナと申します。今回は親善大使として罷り越しました。あなたがウンサンギガ皇帝の天河昴さまでしょうか?」
「うん、そう……俺が第1代ウンサンギガ皇帝で間違いないよ」
「うちの旦那様は、何時もこんな感じなのよ……元は一般人だから気にしないでいいわ」
サッサとテーブルの椅子を動かし、昴の隣の席に陣取るラクシュ王女。
自分も腰掛けながら、向かいの席を勧める昴。
「どうぞ、おかけに成って下さい」
レイナ皇女が椅子の横に立つと、いつの間に現れたのかメイドが椅子を引いてくれた。
ハコは、昴が準備していたバーベキューの串をくるくると焼いている。
「今回は、大変なことに成っているようですね。後から話を聞いて準備に大わらわでしたよ、アハハハ……」
「……」 ……じと~…… 探るように凝視するレイナ皇女……。
「ハァ~、ね! 私が言っていた通り、ズレているでしょ。こういう人なのよ……」
「貴方がどうして御神体に選ばれたのか、分かるような気が致します。こんな自然体の人物とお会いしたのは始めてです。まるで風の様な……」
「そう、捕まえていないとどっかに跳んでいって仕舞いそうなきがするでしょう♪」
[肯定。マスターは瞬時に何処へでも跳んで行くことが可能です。やがては時間をも超越することでしょう。お肉が焼けましたよ]
「それじゃ、まず食事と行きましょう。沢山食べてくださいね、仕込みは沢山してありますから……」
「頂くわ、貴方の料理は下手なコックの物より美味しいもの……悔しいけれど……。レイナも遠慮しないで……」
目の前に出された肉の塊を切り分け、恐る恐る口にするレイナ皇女。
「あっ、美味しい!」
しばらく無言で食事が続いたあと、ラクシュ王女がじろりと横を見ながら問いかけた。
「それで旦那様は、こんな所にこんな物を作って、態々バーベキューをしに来たわけじゃないんでしょう? マ~、別荘としては悪くないけれど……」
「ウ~ン、当初の予定だとドラゴン捕獲用の罠を仕掛けてサッサとニビルに帰ろうと思ってたんだけど、ここを作ってるうちに興が乗っちゃってね~……今は、ゲートシステムを製作中……かな?」
「何で疑問形ですの? 全くいつのも事とはいっても、今回の此れは洒落になりませんわよ。それで、ゲートシステムって?」
「ああうん、ここ迷宮の星の主な機能は空間のコントロールなんだけど、迷路にだけ使って遊ぶのは勿体ないと思ってね、知り合いの居る各恒星系にジャンプゲートを設置しちゃおうと思ったんだ。でね、第一陣はそろそろ来るんじゃないかな?」
湖の方向に空間スクリーンが投影されると、迷宮の星の全景が映され、さほど離れていない空間にリング状のゲートが構築されており、鏡面の様に光ったリング内が波打ち空間が開こうとしていた。
波打つ鏡面から飛び出してきたのは、ラーフⅡ世と改装されたオヒューカスだった。
『遊びに来たのじゃ~! 旦那様は、どこじゃ?』
『『『『『『『昴ちゃんだからね』昴くんだし』昴だからな』だね…』右に同じ…』唖然…』言葉もない…』
『1万光年が30分ですか~、びっくりですね~。私の所のコロニーとも繋いで頂きましょう。これは決定事項です♪』
「みんな来たみたいだね。賑やかになるな~」
[……巨大質量を確認、キシャールだと思われます……]
ゲートの幅一杯に鏡面が膨らみ突き破って現れたのは、直径100kmほどに縮んだキシャールだった。
あまり小さくするとハッタリが効かなくなるからと、この大きさに落ち着いた様だ。
但し、昴の改修を受けて内部亜空間を大きめにとり、今後はそちらに拡張を進める方針のようである。
『49代目、息抜きにきたぞ~! ってええ~…何じゃこれは……随分と楽しそうじゃないか? 遊びに行くと言ったら、皆んな来たいと言うのでキシャールごと来たんじゃが……これは、正解だった様じゃな!!』
「……これは、ゲートの開口部を、もう少し大きめにしないとダメだね…うーん……」
「そういう問題なんですの? 仕方のない方ね~……」
この時、レイナは思っていた。
この方達は、絶対に敵に回しては行けない方達なんだ…と。
そして、流れる冷や汗を拭うのも忘れて、巨大スクリーンに映し出されるゲートと移動してくる銀色の月を見るのだった。




