4-2-07 拠点宙域…迷宮の星1
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更新が遅れてしまい申し訳ありません。
決して他に浮気しているわけでは……少し有りますが……ご勘弁を。
ロータスⅠ世は、ハコⅢによるナビゲーションで迷宮の星の入港用ガイド・ビーコンに乗りゆっくりと港湾区画へと導かれていくのだった。
周囲には此れでもかと煩く跳び回る各種オートワーカー達が犇めき、これだけの物が勝手に跳び回っていて良くぶつからないものだと感心するのであった。
それに、周囲に無駄に浮かんでいる様に見える無数のデブリ群も、細部を良く見てみると時間とともに各々が勝手にパズルのピースがハマってゆくように寄せ集まり、何に使われるのか分からないパーツを形作るとそれまで欠けていた迷宮の星の内部に消えてゆき、見る間に空いていた区画が形となって消えてゆくのだった。
傍から見ていると魔法のように勝手に物が組み上がり、どんどん勝手にこの構造物は出来上がってゆくのだった。
「まるで魔法の様ですね。全ての物に意思があるみたい……」
『肯定。その通り、自我とまでは行かないまでも、最低限の自立行動が許された簡易AIが各パーツには割り振られています。各管理区域ごとに自分が何処に必要なパーツとなる為に形作られたのか其の情報と行動が個別に与えられることで、この星は形成されています。一つ一つのパーツがそれぞれ強固に結びついて情報を共有しているのです。まるで生物の細胞、いいえそれ以上の生命体のように……。あそこに見えるワームホールから供給される資材やエネルギーが途絶えない限り、この星は無限に増殖し自己修復を繰り返す事が可能となっております』
[また、飛んでもない代物を作りあげましたわね。これを相手にする者が可哀想になってきましたよ。多分、どんなに破壊されたところで直ぐに治ってしまうのでしょう?]
『肯定。ロータスのおっしゃるとおり、この星を一瞬で消滅させる事が出来ない限りは逆に物量で磨り潰される覚悟が必要です。それに、周囲の空間その物が悪意ある全てのエネルギーや破壊の力から星を守り、その侵入を阻み近寄らせません。無策でこの空間内に侵入した者は、永遠に迷宮化した夢幻の空間を彷徨い続けるか、歪んだ空間そのものに押しつぶされるでしょう。この空間内は圧縮位相差空間の逆転現象により膨張及び伸長された空間そのものが永遠に引延されているクライン空間になります』
「あの便利な短縮トンネルが永遠に終わりのない迷宮の入り口になるのですか? 想像が出来ません……」
『量子と空間を自在に操ることの可能なマスターだからこそ、これだけの仕掛けを短期間で構築することが出来るのです。大量に発生する各種構築ルーチンを分散統治させることは、マスターが10歳当時にすでに行っていたことの焼き直しでしかありません。当時と比べれば更に洗練され大規模にはなっていますけれど……』
「10歳ですでに……」
『肯定。ナノマシン錬成習熟の片手間に宇宙船を8隻同時建造されていましたので……そのころから非凡な才能を発揮されていましたね。当時は他に比較対象がありませんでしたので、ご本人もそれが当たり前なのだと思われていたようですが……』
「えっ、ハコさんはお教えしなかったのですか?」
『肯定。……構築技術を覚えたてのマスターが何処まで出来るのか見てみたいという好奇心と欲求のほうが勝った…と言いますか、今にして思えば皆んなでワイワイやるのがとても楽しくてドンドン燃料を投下した結果の様な気がいたします』
「うわ~……」
[それは、チョッとドン引きよね。誰が考えても異常でしょうに、良く性格が歪まなかったこと……]
「どんなお方なのでしょうか? お会いするのが不安になるのですが……」
「嗚呼~大丈夫。本人は至って無害でお人好しな性格だから心配はいらないわよ」
『肯定。私が育てたのです、問題ありません』
[ええ、だから余計に信じられないと言っているのですけれどもね……]
『・・・』
◆
ロータスⅠ世は、船舶用の回廊を進み迷宮の星の最深部に最も近くに係留された。
ドッキングしていた”ハコⅢ”は、ロータスⅠ世の接舷と同時に離れてゆきこの場にはもう居ない。
そして、入れ替わる様に船舶メンテナンス用のワーカー達がロータスⅠ世に取り付き、サーチとメンテナンスを始めていた。
その区画は当然与圧されており、生身での行動が可能となっている。
外には出迎えのメイド達が立ち並び、ラクシュ姫達をまっていた。
『『『お帰りなさいませ、姫様!』』』
「出迎えご苦労さまです。旦那様に変わりはありませんか?」
[肯定。相変わらずでございます。今回は、お目付け役が居りませんので少しハメを外されておいでですが……]
「……そうよね、ハコさんはどっちかと言うと煽る方だし……」 ……ジトッ~……
[肯定。マスターもしばらくぶりに伸び伸びとモノ作りに勤しんでおられました。また新たな境地を開発なされたのではないでしょうか。本当に素晴らしいことです……]
「ハァ~、あなたがいつも甘やかすから、旦那様が突飛な行動に走るのです。少しは抑えようとか、忠告をするとかは出来ないのですか?」
[否定。私には無理です。マスターは煽れば出来る子なので押さえつけるなんてとんでもない、ベッドに押さえつけるのなら進んでしますが……出来れば組み敷かれたい……]
「……あなたに期待した私が馬鹿でしたわ……」
「あっあの~、失礼ですがこちらのメイドさんは?」
「ああ、ご紹介が遅れましたね。こちらは、旦那さまの宇宙船兼筆頭メイドのハコさんです。先程、我々をエスコートしてくれたタグボートの本体さんです。メイドの格好をしていますが実質ここでのナンバー2と言っても良い方です」
「!? はっ、はじめまして。ドラゴニア帝国から親善大使として参りましたレイナと申します」
[肯定。天河昴の宇宙船のハコです。お見知りおきを……、こんな所で立ち話も失礼ですね。マスターのところへご案内いたしますが、まずはブレスレットの情報を更新致しましょう。ロータスにご乗船頂いていたということは、すでに登録は済んでいると認識しますがよろしいですね?]
「「それは大丈夫!」…ハイ…?」
ハコの前に簡易的な空間ディスプレイが浮かび上がると、高速で何やら操作を開始した。
同時にロータスⅠ世でここに着いた者達全員のブレスレットが光り出し、それぞれの持ち主にメッセージを発信したのだった。
『現在、アップデート中! しばらくお待ち下さい』
10秒ほどすると……次の様に表示されるのだった……。
『最新バージョンに更新されました。UG-OS Ver.10.161……完了。ようこそ、迷宮の星へ、皆様を歓迎いたします!』
そこかしこで歓声が上がった事は、触れないで置こう。
早速、マップを開いてラクシュ王女達を横目に、迷宮の星の探索に出てゆくロータスⅠ世のクルー達……。
[アチラは放って置きましょう。勝手知ったる何とやらです。では、マスターの所へご案内いたします]
言うが早いか、3人はその場から掻き消えて居なくなったのだった。
それを見ていたレイナ姫の従者数名が狼狽しているところ、控えていたロータスⅠ世のクルー達が取りなして一緒に迷宮の星の探索に出てゆくのだった。
本当に、出来たクルー達である。
端から見ると自由過ぎるとも言うが、ウンサンギガではこれが当たり前なのだ。
公の場で弁えた振る舞いで主人を立てれば、普段は普通に振る舞えば良い。
肩肘張ってばかりいると疲れるだろう? とは昴の普段からの言葉であり、汚れたツナギの格好で平気で町中を闊歩しているので、もう誰も気にしていない。
これが、普段のウンサンギガのやり方であり、既に染まり切っているロータスⅠ世クルー達であった。
ちなみに、アプサラス様やカーリー艦長達も、地球圏の昴の所に来ている時は似たりよったりだったりする。
普段ならどんな時でも護衛の付く身だが、ウンサンギガの施設内では過剰な護衛など邪魔以外の何物でも無い。
宇宙船から降りた時点で、護衛達も全員休暇が始まると言って良いのだった。




