4-2-05 拠点宙域…要塞艦展開
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さて、此処に砦を築き始めて1月ほどが経つ……。
太陽系から凡そ1万光年ほど離れた場所、近場には目立った恒星も星屑さえも無い宇宙空間だ。
いっそのこと何も無くて気持ちが良いくらいである。
こんな何もない宇宙空間に何の目的もなく拠点を築く者など普通は居ないだろう。
エネルギー事情然り、物資や資材になる星の一つも周りには無いただの宇宙空間である。
ところがドッコイ此処には現在、下手な星間文明では築きようもないほどの一大拠点が展開しようとしていたのだった。
「周りに何にも無いから誰の迷惑にもならずに好きな事が出来る……って、それがここまでストレスフリーで気持ちが良いとは思わなかったよ」
『肯定。マスターのやらかすアレコレは、どんな言い訳をしても周りに影響が出ますからね~仕方がありません。でも、今回は良い機会だったのではありませんか? 思いっ切り羽根を伸ばしてハメを外す事が出来て……今まで出来なかった危ないことにも手が出せましたし、フフフ……』
「其処は”云わぬが花”って言うじゃない。此処でのことはみんなには黙ってようね! どうせもうそろそろ皆んな此処に集まってくるんだろうし、ゆっくり出来るのも終わりでしょ」
[肯定。3日後にはラクシュ王女とカーリー艦長がドラゴニアの親善使節を数名連れて合流するそうです。『もう付き合いきれない! ピオニーだけで良いよね?』と他のお偉方はヴィシュヌ女王とアプサラス王妃に押し付けてこちらに来るそうですよ、労ってあげてくださいね]
「ふーん、ラクシュが音を上げるって相当だね。何かあったのかね~」
[肯定。それなら多分”マスターを生贄に捧げろ”とか抜かした指揮官の皇子ととことん馬が合わなかったのでしょう。切れて殴り殺す所を助ける振りしてヴィシュヌ女王が蹴り飛ばして誤魔化したらしいですから……私が其の場に居たら塵も残さず消滅させていたところですが……]
「それが先方の主張なら俺も生贄になるのは嫌だからさ、ハコの好きにしてもいいけど、どうなのさ? 其の辺のドラゴニア帝国の意見は……」
[肯定。非常に残念ですがヴィシュヌ女王とアプサラス王妃の計らいによりドラゴニア帝国の主な意見としてはコズミックドラゴンを出来るだけ傷つけずに元の星系に戻してほしいそうです。本当に残念だったのは指揮官のオツムだけだったようですね。今の所、それ以外でしたら何をしても干渉はしないとの言質は取ったようですが、実際はどんな行動に出るかは予想が出来ません]
「一応、妨害があるかもしれないから対策は十分にね」
[肯定。其の辺に抜かりはありません、ご心配には及びませんよ。では続きを続けましょうか、……あん…ダメ…はぁ…んんあ …アァ~…]
「ふ~む、感度は正常…少し敏感すぎるくらいかな……」
おまいら、いったいナニをしてるんだ?
まったく……、誰も居ないのを良いことに……イイコトしやがって……。
◆
まず、此処に移動してきたハコの拠点用大型移動要塞艦が今どんな状態か説明しよう。
全長100kmの威容を誇っていた要塞艦の三分の一が切り離され近場とは言えないけれど、周辺およそ10光年ほど離れた無人の恒星系にて散開して資源を調達しているのだった。
それは凡そ3kmほどの資源回収専用の物質破砕船100隻に分裂して、24時間凄い勢いで飛び回り片っ端から資源を砕き吸い込んでいたのだ。
吸い込まれた資源は何処へ消えてしまうのだろう、船内がどんな構造なのか吸い込まれた物質は虚空に消えて無くなっているようである。
普通なら資源を回収したら母船に戻ろうとするものだが、そんな気配は一切見受けられない。
それらは、休む事なくあらゆる物質を噛み砕き貪欲に飲みこみ続けるのだった。
この凡そ3kmの資源回収船は、星間物質や星間ガスは言うに及ばず小惑星や惑星さえも粉砕分解し飲み込む事ができる。
飲み込まれた物質は尽く分解されマテリアル化され、時を置かずに其の身に内蔵されたワームホールを通り虚空に消えてゆくのだった。
拠点用大型移動要塞艦の70km残された母船の部分も幾つかに分裂して活動を開始していた。
分裂した船体の一番大きなセンター部分は40kmほどだが、何重にもに重なり合っていた階層がその間隔を広げることで元の大きさの100倍ほどに空間容積を広げていた。
切り離された残り30kmの部分もそれぞれ10kmずつ3つに分裂した後、その容積が数倍に膨れ上がってゆき、中心となるセンター部分の周りを回り始めるのだった。
中央に収まったセンターステーションの下部に開口部が開き、何かを吐き出し始めたのは拠点用大型移動要塞艦が展開を終えてわずか15分後だった。
吐き出される物質は、センターステーション下方に設けられた斥力場の檻に溜まってゆき、周囲を回る3つのパーツからのトラクタービームに引かれてそれぞれのプラントに吸い込まれてゆくのだった。
もうお分かりだろう。
分離された資源回収船にて破砕分解され飲み込まれた各種資源は、ワームホールを通って拠点用大型移動要塞艦のセンターステーションに送られてくるのだ。
この拠点用大型移動要塞艦は、どんな状況でも短時間で拠点を築くための動く前線基地なのである。
戦うためと言うよりは、逃げ出した先で素早くテリトリーを構築する為に特化した船と言えるのだった。
[回収船からのワームホール、正常に稼働中です。まだ生き物は通れませんが物資の輸送には問題なく使用できていますね。多少品質に変性等が発生してもこちらで再マテリアル化処理を施せば問題ないでしょう。序でなので余剰分は私の本体固有空間の構築に使わせて頂きます。太陽系近傍ではあまり派手に資源回収も出来ませんからね、渡りに船とはこの事でしょう]
「そうか~渡りに船か~、周りの星達にはお悔やみを言っとこう、南無~!」
[否定。そんな心にもない事をほざいてないで早い所、罠の構築設計に入ってください。サッサとやることやったら、邪魔が入る前にヤるんですからネ♪]
「嗚呼~ハイハイ……」
昴は罠の設計に10日を掛け、後はハコが割り振った管制AI達が休むこと無く拠点を築いてゆくのだった。
そして1月が経った時、何も無かった宇宙空間は想像も出来ないような有様に成っていたのだった。




