3-4-11 完成!恒星間万能移民船ハコ3 23/3/31
20230331 加筆修正
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360度、見渡す限り周りは星の海。
どんな空間なんだ? ここは……。
[では始めたいと思います。用意は、既に済んでいます。十分すぎるほどの安全策も施しました。あとは、マスターの気分しだいです]
「今までの流れで言うと、あまり気分が良いとは言えないんだけども~、もう俺に隠し事は無いと思って良いのかな?」
[女性には少しぐらい秘密が有った方が魅力的に見えるものですよ。男がそんな小さな事に拘っていてはいけません。ド~ンと大きく構えて、全て受け止めて下さい]
「えっ……小さい! ……どこら辺が……」
[そんなに心配しなくても大丈夫です。マスターの物は、変幻自在に大きさも形も変えられますからね、後はマスターの努力しだいですよ。ヨッ、この女殺し!]
[[[[[[[キャ~♪]]]]]]]
ちょこちょこと俺の知らない情報を差し込んでくるから、油断ができないんだよな~。
まったくナンナンダヨ。
調子が狂うったらありゃしないぜ。
[では、気を楽にして心を開いて下さい……現在までシールド状態にしていた感覚、私達の受信観測している全情報を少しずつ開放しマスターにフィードバックして情報量を最適化いたします。最初に、視覚・聴覚・触覚に違和感が伴いますのでまずは落ち着いて開放された情報を受け入れて下さい。多分マスター自身の情報感覚が大幅に拡大拡張される事で最初は混乱すると思いますが、危険は一切ありません。では、開始します]
ハコの『開始』の声とともに、俺に流れ込んでくる各種情報の圧力というものが大きく変化した。
一族継承のイニシエーション時に比べれば今回は、脳が大量の情報に飽和することもなく意識も跳ぶような事は起きなかった。
今まで見えていなかった物が見え、聞こえていなかった物が聞こえ、皮膚感覚さえもがその空間を違った物に感じる様になっていた。
時間はゆっくりと流れ、体感している時間間隔がスローモーションの様に感じる傍らで、もの凄いスピードで物質や空間が変化しているさまが感じ取れる様になっている。
これは、感覚が拡大し体感時間が加速しているからだろう。
今なら原子や素粒子の挙動さえも手に取る様に分かるような気がする。
そして、……もう何時間ぐらい経ったのだろう。
いい加減時間感覚が麻痺してきた頃、ハコからの声が頭に響いた。
[マスター、私の思考が読めますか? 音声ではタイムラグが激しいのでこれからは思考波でのやり取りを主体に行います。マスターは、体感時間で既に何時間も過ごしているように感じていると思います。ちなみにお教えしましがリアル時間ではまだ開始して0.003秒程経過したところです。流石にマスターですね、もう我々管制AIの情報処理時間に馴染んでいるのが分かります]
「えっ、俺はもう3日くらい経ってるもんだと思ったよ……」
[それは、正常に情報が処理できている証です。私達、情報知性体には当たり前の状態ですが、生身の生物から比べると光さえもなお遅く感じる事でしょう。既にお分かりになっていると思いますが、マスターは今原子や素粒子、電子のスピンでさえ素の状態で観測することが可能な状態にあります。今までも私達には観測することは出来ました。しかし、ある存在を除いてそれを直接操作するなんて物理法則を捻じ曲げることは出来ません。でも、今のマスターは違いますよね]
「エッ! そんな事……出来るハズが無いだろ……って出来てるな! どうなってんだ? これ!」
[それがウンサンギガ一族の根幹となっている量子への干渉力です。空間を統べるある能力の発露から来ていることは、初期の研究段階で分かっていました。空間を満たし形作っている物質は、その形状を固体から液体や気体、そしてプラズマなど汎ゆる物へ変化してゆきます。そして、それらを構成する全ての原子や電子などの素粒子が粒子としての特徴を示す一方で波としての特徴も示します。光や電波のような電磁波もまた、波としての性質を示す一方で粒子としての特徴も示します。それぞれの粒子性と波動性は同時に観測することは出来ず、粒子的な振る舞いをする場合には波動的な性格を失い、逆に波動的な振る舞いをする場合には粒子的な性格を失います。そして、量子の世界では矛盾して見えるこれらの挙動を自由に制御できている様ですね? 流石マスター♪]
「んっ、制御も…出来てるな? ってどういう事かな~……説明プリーズ!」
[それは勿論、このレベルで能力を行使出来たのがマスターが最初だからです。ウンサンギガ一族の能力は、直接量子の流れに干渉し物理法則を書き換えてしまうことです。それは、魔法のように物質と空間を支配出来る力の根幹ですが、過ぎたる力は己自身をも滅ぼします。極限のマクロの世界でその力を制御する事は、生身の生物には、最初から土台無理な話なのです。神の力を持つということは、人としての殻を捨てるという事にもなります。人のままに森羅万象を知り、自在に物理法則を書き換えて空間を支配し創造神となるには、汎ゆる事象の全てを刹那に観測し制御する為の目と耳が必要でした。それが希美様のように時空間情報記録体へのアクセスが可能であったとしても、その情報を適時活用することなど生身の生物には無理な事です。純粋なる宇宙のイデアを情報体として捉えた物が時空間情報記録体とするならば、そこに記録されている情報は魂の記憶であり過去から未来へと時空を貫く膨大な情報体の連なりに他なりません。矮小な一生物のままで星の記憶を覗くに至った希美様は、マスターの行く末の刹那をご覧になったようですがある時を堺にそれも出来なくなったそうです]
「それは、俺の記録が観測できる範囲から飛び出したってことになるのかな?」
[肯定。正にその通りだと予測されます。もしくは、魂の記憶までもが消え失せるような事態に陥ったかでしょう。そこで私と希美様は、如何なる事態になっても生き延びられる様に可能な限りの布石を打つ事にいたしました。マスターのスペアボディーや医療体制を整え、ケレスでの艦隊建艦を始めとして、木星の反物質プラントの建造、私本体の完成を加速するとともにマスターをフォローするため今考えられるだけの近代化、いえ未来化を進めたのです。私は、文字通りマスターの考えた最高の宇宙船であり、家となり国となり盾となり剣となる船です。必ずや最高のパートナーと成るために日進月歩、いえ秒進分歩で改良と進化をしています]
「俺なんかのために大層なことだよね……」
[マスターのその認識は、間違っていますよ。私達が生き残るためにもマスターの存在は、必要不可欠であり、この出会いは必然なのです。これから訪れるだろう数多の困難に立ち向かうためにも、マスターには更なる進化をして頂きとう御座います。これは、私達の新たなる第一歩、始まりに過ぎないのだと認識してください。次の目標は、時間の克服ですよ]
「……はぁ~~大変そうだね~、それじゃボチボチと、ユックリ急いで進化を進めようか!」
[肯定。やっとその気に成られましたか、それでこそ、私達のマスターです]
そして俺たちは、一先ずの完成を見るに至ったのだった。
そう、至ってしまったのだ!
完成時の諸元は次回!




