3-4-02 国家崩壊の始まり…テラ同盟 23/2/10
20230210 加筆修正
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パスカルは言った、『人は考える葦である』と。
人は弱い生き物である。
だが思考する事が出来て何よりも尊い物に自ら近付く事が出来る、成長することが出来るのだから。
人は考える事を放棄してはならない、それは即ち死を意味するからだ。
考えない人は、その辺に転がっている路傍の石と同等である。
真の哲学とは、哲学を馬鹿にする事であると彼は言った。
そして学問とは、疑う事である。
貴方は、他人から教えられた事をそのまま鵜呑みにしてはいないだろうか?
それが本当に真実とは限らないのではないだろうか……と疑う所からやっと学問は始まるのである。
◆
地球は今、国家という物がいかに脆く儚い代物であるかが試されていた。
人が集まり村から街、街から都市、そして国家へと大きくなっていったが、人の為に存在する筈の国家は、いつの間にかその立場を逆転し国家のために人や国民が虐げられる存在になっては居ないだろうか?
よく聞く『大を活かすために小を殺す』とは、政治家や軍人がよく口にする話では有るが、小の集合が大で有るならば、小を殺した時点で大は成り立たないという矛盾に突き当たる事に気が付いて居ない。
現在の国家は、弱者を守るのでは無く虐げる事でその特権階級に位置する一握りの人間が富と平和を感受する、そういう物になってはいないだろうか。
ここに一人の飛び抜けた天才が(当然、昴の事だが)、世に人の有るべき形とはどんな物なのか、人間とは一体何であるのかを考える時間と術を提供し始めたのだ。
何の間違いか一個人が宇宙規模での知識と力を持ってしまった結果、他者を支配するのでは無く理想の地球人としてどう在るべきなのかをよく考えてみろよと言っているのである。
既に宇宙への扉は、軌道エレベーターという形となって万人の目に見える形となった。
そして、メガフロートに存在するプレアデスアカデミーでは、貧富の差に関係なく知識の共有が始まっている。
少し話は冒頭に戻るが、現代の国家に存在する現役の政治家は一体何をやっているのだ? と云う話だ。
己の狭い了見で既得権益に拘泥し私利私欲に走ってはいないだろうか。
民を扇動し政治という卓上の上だけで踊ってはいないだろうか。
政治家とは民の地域代表として大多数の意見と資金をまとめ上げ、平等に再配分する為に存在するのであって、強者におもねって徒党を組み弱者を虐げる様な者には成っていないだろうか。
派閥を作り敵対する勢力の意見にはどんなにそれが良い政策だとしても自分からは代案も出さないで反対し、その結果何も政治的な実績の残らないドウデモイイ政治家に成ってはいないだろうか。
かつて国連と言われていた団体は、その形を地球連邦政府準備委員会という形でわずかに残しているに留まっていた。
そして、日本やアメリカをはじめイギリス・イタリアなどヨーロッパ各国と環太平洋に隣接する国家群は、その殆どが国連から脱退し『テラ同盟』という新たな団体にまとまろうとしていた。
テラ同盟、それは国家では無く、VR通信でつながった地球の知識人や研究者の集まりである。
昴達の技術は、地球のエネルギー問題や食糧問題、そして言葉と教育の問題を吹き飛ばす事に成功してしまった。
今までの経済と武力という枠組みでの上下関係や人種差別や言葉の壁が、意味を持たなくなるのだ。
根拠のない差別はなくなり、確たる理由の有る差別ではない区別が支配することになるだろう。
そして、それを最終的に決めるのは、私利私欲の存在する政治家では無いのだ。
これらの動きを見て元国連に残った(最初期にテラ同盟からはじかれた)国々や自称知識人達は、地団駄を踏んで悔しがっていた……そして……。
「地球連邦政府準備委員会の名のもとに、ここにお集まり頂いた各国の代表の方々に申し上げたい。天河昴の拘禁、並びに各研究施設の接収をここに提案する物であります。これは、人類全体の利益になる物であると我々は考えております」
こんな馬鹿げた話がされている時、アメリカは顔を出していた。
既に国連からは脱退していたが、現在も国連ビルはアメリカに存在し、今回もオブザーバーとしての参加を余儀なくしていたのだ。
そして、ここで話し合われている話し合いのあまりの馬鹿さ加減に黙っている事が出来ずにいた。
「フンッ、ナンセンスな意見だ。根拠も実績もましてや実行する権利も無い。そんな団体から一方的に要求をしたところで無視されるか返り討ちに合うのが関の山だという事がまだ分からないのかね君達は……そんなだから同盟から声も掛からないのだと云う事を……。百歩譲って彼を確保できたとしよう。その後君達は異星人達とどんな交渉をする気で居るのだね? まさか彼を人質にでもする気じゃないだろうね? かつて神々とまで言われていた彼らとどんな交渉をするというのだね。まだ分かっていないようだから敢えて言わせてもらうが、すでに我らの命運は尽きているのだよ。別に取って食われるわけじゃない、第3者として静観するしか手が無いというだけの話だ。仲良くしたいと言うのなら素直に頭を下げ給え、それが嫌だと云うのなら黙って隅っこで指を加えて見ていることだ。これは、忠告だよ。君達が手を出すのは勝手だが、我々を巻き込まないで頂きたいものだね……」
アメリカ代表は、そこに出席していた委員達の返事も聞かずにその席を立つのだった。
それを見送ったアフリカの代表は、不安をあらわに議長に食って掛かった。
「委員長、どうするのだね? 合衆国の意見はもっともだと私も同意見だ。我々は、何も神々と喧嘩がしたいわけじゃないんだ」
「あんなのは、ハッタリだ! 人類の指導者があんな日帝の犬であってはならんのだ~!」
「議長、別に彼らは人類の指導者になど成りたそうには見えないんだがね……どちらかと云うと地球の事は適当にケリを付けて、早く広い宇宙で好きな事がしたいと思っているのでは無いだろうか?」
「みんな、騙されてはいかん! あんな絵空事が実現するハズが無いんだ! 奴らはペテン師の集まりだ!」
「それを君が云うのかい? 今まで真っ当な事を一度も成した事の無い君が……。現実に、軌道エレベーターの完成までは秒読みの段階だ。これを見ても君はまだ、絵空事と吹聴するのかね?」
「………」
「我が国は抜けさせてもらうよ……もう付き合いきれんのでね」
一人が席を立つと後を追うように吾もわれもと、席を立つ小国の代表者達。
「相手の物を掠め取り、見下す様な事はもう出来ないと云うことだ、諦め給え。彼らにはもう、我らの支持や支援など必要が無いのだよ。これから一己の地球人として自分の出来ることを精一杯努力することが、引いては己のために成るんじゃないのかね? ああっ、今まで貴国から受けていた支援金は返せないからね。国が無くなるんだ、当然だろう」
「ええっ、そんな殺生な……」
金の切れ目が縁の切れ目とは、よく言った物で借金を返さなくて良くなったと気がついた取り巻き達は、我先にと離れてゆくのだった。




