3-3-04 エクストラコアNo2 23/1/18
20230118 加筆修正
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正式名称、ウンサンギガ・エクストラコアNo2、固有名称『キシャール』は、エクストラコアの中でも特に数奇な運命をたどったコアであり、『セントラル』と並んで最初期の管制AIである。
まず、キシャールの名の由来から説明するとしよう。
キシャールのキは女性を表し、シャールは大地を指す言葉である。
その名が示す通り、キシャールは大地の女神を表すのだ。
一族最初の大型コアシップのテストベッドという、有る意味何でも有りの条件で試作されたコアであり宇宙船だった。
その名が示す通り、全てのコアシップの母体、母と成る存在だったのだ。
後の最適化されたコアシップには無い汎用性と、全てを受け入れられるだけの増長性を持たされ、それを管理するために管制AIにはそれら全てを運用するだけの包容力が付与された。
反面、何でも片っ端からつっこんだ事で大型で取り回しの難しい代物が出来上がったのは自然の摂理で仕方のない事である。
ものづくりで言えることだが、何でも最初のモックは大型化するのが当たり前の話である。
そして、当然の如く、継続して運用される事は少なくなっていった。
但し、ただ一人この船をこよなく愛した人物が居たのだ。
Dr.アンである。
Dr.アンは、変わり者の一族の中においても特に一族らしい変わり者で、自分の興味のある物、面白そうな物を探求し何処にでも跳んで行く、そんなウンサンギガの一人だった。
図らずもこの1人と1隻、利害と仕様とがピッタリと一致したのだ。
かたや銀河の何処にでも1人で飛び出して行き、実験と観測を飽きるまで繰り返す変人。
その何にでも使えるが、普段遣いには大掛かり過ぎて文句ばかり云うので使われなくなった穀潰しの1隻。
キシャールの次元転換炉は、ウンサンギガがこれまで製造した次元転換炉の中でも一番巨大である。
そして、実験用であったために亜空間固定されていない次元転換炉でも有るのだ。
亜空間を生成固定する機能がない分、その出力は他に類を見ないほど高かった。
そして大型天体にも匹敵する重力傾斜を巧みにコントロールすることで、現在の直径300kmほどの小惑星サイズでさえも、現役の小型フリゲート艦に並ぶレベルの機動性を発揮出来るのだ。
元が試験運用艦なので、武装や装備も試験段階のトンデモ仕様の物が多数搭載されている。
80%は、まともに使えない発明ばかりだが、型にはまった時には想定外の威力と効力を発揮するだろうと思う……するんじゃないかな?
地球人、特に日本人の科学者やメカニックなら涎を垂らして弄り回すこと必定のアイテムがわんさか搭載されているのだ。
球形船の形状の核と成っているキシャール本体は、中心の3kmの更に中心500mが次元転換炉であり、外郭をなす2.5kmにはその制御とDr.アンの寝室という名の管制室が存在する。
そこに詰め込まれた膨大な情報量と中心に存在する500mの巨大次元転換炉。
通常、大型でも100mほどの物が標準サイズでハコの製造できる最大クラスの次元転換炉も100mサイズが主流だ。
この100mサイズが、基本的に出力でも安全性でも一番効率が良く安定するからとも云える。
キシャールの次元転換炉は、当時の技術で何処まで高出力で安定したものが作れるのかという、挑戦の賜物とも云える物なのだ。
そして、そんなキワモノ次元転換炉の管制にも多大なリソースが投入され、その成果物が管制AIのキシャールと云えなくもない。
開発当初から固有の自我が発現し、使われるはずの1宇宙船であるはずの存在なのに、そこに発生したのは唯我独尊を地で行くような性格の自我だった。
当時の性格は『実験には協力してやるが、終わったら直ぐに出ていけよ!』と、俺様な性格だった様である。
その結果、必要に迫られた実験以外では、頻繁には使われなくなっていった。
今の様に丸い性格になったのは、Dr.アンとコンビを組んで色々と酸いも甘いも経験した結果のようで、お互いに依存しているとも云える。
現在のキシャールの船体構造だが、核の部分10kmは聖域とされ選ばれた者しか入る事を許されない領域である。
最初の階層は5km、次からは各階層10kmごとの空間で階層構造で1kmの球殻と9kmの空間が15層重なって階層構造を形成している。
単純に計算すると直径300kmの内部面積の総面積は、最低でもおよそ127万5800平方kmに及ぶことから、現在確認されている日本の陸地面積37万7835平方kmと比べても、3.37倍の面積があることが伺える。
そして、Dr.アンの話によると、現在の総人口はおよそ2億。
十分余裕を持って生活するだけの空間は、確保されていると予想できる広さだが、各種設備や装備などがその殆どを埋め尽くしており、閉塞感が無いとは言えないそうだ。
各種設備とは、人口蛋白を製造するバイオプラントをはじめ果実や野菜も工場で製造されており、ペットと標本サンプル以外の家畜は飼育されていない。
遺伝子サンプルと精子と卵子のストックから何時でも、キシャール内にデータ化されている生物の再生が可能である。
そして、人口2億と言ってはいるが現在起きて活動しているのは、その10%ほどの長命種がほとんどを締めている。
残り90%は休眠カプセル内に有り、脳の覚醒時でもモニター画面でのやり取りのみに限定されている。
その理由は、存在する全ての住民が宇宙旅行に適応した長命種では無いからである。
キシャール内での体のクローニングは可能だが現状死んだらそれまで、消滅したアストラルは復活させることは不可能だ。
生まれ変わり?
ナニソレオイシイノ?
Dr.アン曰く『技術的に再現できないものは、それまでの事だ諦めろ!』と簡単に諦められる訳もなく、休眠カプセルの中で惰眠を貪ることになった。
しかし基本的に住民と言っては居るが、キシャール内に存在する生命は全てDr.アンの可愛いモルモットであり隣人である訳で、皆それを納得してついてきている。
そろそろキシャールの改修作業に話を戻すとしよう。
キシャールは、これ迄に昴の扱った事の無い最初期型の巨大次元転換炉であり、それも亜空間固定されておらず炉は剥き出しのままだった。
そこで昴が考えたのは、事もあろうに炉の移植。
まず、複数の小型次元転換炉を用意してキシャールの現状を維持しつつ作業を進める事とした。
直径3kmにも及ぶコア部分を本体から抜き出すと、普通では触れることも出来ない絶対領域をバラし始めたのだ。
まず、キシャールの頭脳部分を最初に退避させると亜空間固定済みの最新型大型次元転換炉トライスターを中心にキシャールを再構築したのだ。
外観は、ハコを一回り大きくした73mのルナクリスタル製。
この部分がメインコアを形成する。
大型次元転換炉が3つ装備されたトライスター型次元転換炉は、1ヶ月の短期間で直径1200kmの亜空間を形成するに至った。
その空間容積は、904,778,684立方kmである。
これは、現在のハコの亜空間形成タイムに迫る記録だ。
ハコは、直径5000kmの亜空間を形成するのに48ヶ月余りを費やしたのだから。
因みにハコの空間容積は、65,449,846,949立方kmだ。
これを単純に48ヶ月で割ると1,363,538,478立方kmとなり、トライスター型の1.5倍となるが、ハコの内蔵する次元転換炉は15基、トライスター型は3基である。
如何に昴の開発した新型次元転換炉が、高効率であるのかが伺い知れる結果である。
キシャール内に固定された亜空間の安定が確認された時点で、この内部亜空間に直径300kmで存在したキシャールの船体は、広大な空間に余裕を持って再構築される事になり自然環境や循環系も新たに構築されていった。
これらには、およそ半年を要した。
設備等も刷新され生命維持体制も大きく進歩した。
これまで寝て過ごしていた者達もVR空間での活動が実現したことで、ある程度自由に意思の疎通も可能になった。
やがては、VR操作を使うことで体をこれまで通り保護したまま義体に精神を移しての活動が出来る日が来るだろう。
昴達にも大きな恩恵があった。
過去数万年の間キシャールに蓄積されてきたライブラリーデータが解析され、ハコ達にフィードバックされたのだ。
Dr.アンのフルナノマシンボディーなど、完全ナノマシン化による研究成果やその後の維持管理における経過観察データなどなど、ハコ達でも涎を流すような情報が湯水のように溢れていたのだ。
開発を仕切るアルキオネや医療に携わるアステローペ、更にはオヒューカスもこの情報には喜んでいた。
そして、その情報の中にオモチャを見つけて一人狂喜乱舞していた人物が居た。
オモチャとは、巨大人型兵器の製造運用の情報であり、その人物とはDr.アンの盟友エンリル、その人だった。
こうなるのも当然の帰結と言えるだろう。
もちろん、ハコ達地球側の省エネ……いわゆる高効率なエネルギー運用技術もキシャール側にフィードバックされたのだった。
船体が再構築されるまでキシャールの外郭300kmの維持に使用されていた小型次元転換炉は、その後キシャール直掩の護衛艦のコアとして再利用される事になり、現在プレアデスシスターズ艦隊を参考にDr.アンが趣味の艦隊を構築中である。
傍目にもハッチャケて遊んでいるのが丸分かりで、そこにエンリルが加わり、何やら組み立てて居る……あれは巨大合体ロ・・…うん、これには触れないでおこう。
その後のキシャールの改修には、およそ1年を要したのだった。




