1-2-02 官僚も‥頑張るの? 23/5/22
加筆修正 20210429 20230522
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「おはようございます。大臣、少しお時間よろしいでしょうか?」
「ああっおはよう、荒垣くん。今日は随分と早いんじゃないか? 次までは、アァ…まだ30分は有るな。君の事だその辺は把握済み、知ってて来ているんだろう? ワァハハハ」
「恐縮です。折り入って大臣のお耳に入れて置きたい情報が御座いまして、失礼を承知で大至急で声を掛けさせていただきました。この情報は速いに越したことは無いと判断した次第です。早速ですがまずは、これをご覧頂けますか?」
……コトリ……
「ふむ、これは小さなレンズが複数ついているね小型のカメラかね? コンピューターの部品のようにも見えるが……これまで見たことのない形だね~…」
「はい、最近株式会社タウルスという新興企業が開発に成功した新型の高解像度デジタルスチルセンサーの試作サンプルです。パソコンに接続するUSB端子から電源を供給されますのでこのまま単体で使用できます。今までより簡単に低消費電力で高解像度の映像が処理できるとの事です。そして……」
……コトリ……
「こちらが本命の水素発電装置のコアユニットです。このサイズで、水から電気を直接発電します、およそ100V50Aで一軒家の消費でしたら水200リットルで1年まかなえるそうです。これも同じく株式会社タウルスの技術者が開発しました……。私の友人で工科大学の准教授がいるのですが、今日の午後、そちらで詳しい実証データを取る予定でおります」
「……ゴクリッ、今の話は本当なのかね? こんな小さな物1つで……」
「ええっ、開発者の受け売りですが『逆にこれ以上大きくすると出力が大きくなりすぎて爆発するおそれが有るそうで大型機は無理』との事です。『小さいからこそバランスした成功例!』なんだそうです」
「すごい大発明品じゃないか、これは冗談抜きでノーベル賞だって狙えるんじゃないのかね?」
「ええ、ですが1つ問題があります……」
「何だね其の問題というのは……、これだけの発明だ、いくら吹っかけられたのかね? 言ってみなさい」
「いえ、お金の問題はこれからなのですが、実はこれらの開発をした人間に問題があります」
「ふむ、外国人なのかね? 日本人じゃないのなら帰化させるとか……ウ~ン、国際問題が出てくるな~」
「いえ、レッキとした日本人なのですがその~歳がですね……」
「歳がどうしたんだね、高齢で先が心配なのかい、医者を探し給え!」
「大臣、落ち着いて聞いてください。実は、12歳の小学生なんですよ、これの開発者は……」
「なっ! 何だって……小学生? 本当なのかね、それは」
「はい、天才……いや、最早鬼才といってもいいでしょう。先日発表されて一部で絶大な反響を呼んでいる、美容クリーム『ノルン』も彼の発明だそうです」
「何、『ノルン』の開発者はその子供だったのかね? うちの娘が何とか手に入らないかとうるさかったんだが儂にも伝手が無くてな~……」
「ええ、うちの女房も紹介しろ紹介しろと煩いですよ」
「これは、慎重にそして早急に、極秘で事を進める必要が有るようだね。それで、君はどうやってこの情報を……」
「はい、彼の開発者の父親が私の大学時代の後輩でして、何とか息子を守りたいから手を貸してくれないかと相談されたのです」
「そうか、君の後輩の息子……、其れじゃこの件の責任者は君に全て任せよう。好きにやってみなさい。あとの事は、私が全て受け合おう」
「ありがとうございます。大臣にそう云って頂ければ鬼に金棒です。直ぐに具体的なデータを資料にしてお見せ出来るように致しますので、今後共よろしくお願いいたします」
「ああっ、頑張ってくれ給え。それにしても小学生か……、先が楽しみじゃないか、ワハハハハ♪」
「では、わたしは早速次官会議を召集して各省庁の根回しに入ります。確か資源エネルギー庁の長官は、大臣のご学友でしたね。後ほどお口添えいただければ嬉しいのですが……」
「うむっ、分かった。話を付けておくとしよう、彼は経済学部だが話のわかる男だよ。儲かるとなれば、イヤとは言うまい」
「よろしくお願いいたします」
◆
さあ、この模型にしか見えない代物が、天河の言葉通りの代物なら本当に日本のエネルギー事情が激変しちまう事になるぜ。
最終的に世界に発表するにしても、肝になる所は日本が押さえておかね~とな。
西や北の大国もそうだが特に半島辺りは、日本人が何か新しい技術を開発する度に、うちが開発した技術を盗んだだのといちゃもんつけて来るのは毎度の事だ。
アメリカさんだって例外じゃない、間違いなく優先的に情報を開示しろと迫ってくるに違いない。
そんな事にでもなったら、俺は日本国民としても先輩としても天河の奴に合わせる顔がなくなっちまう。
だが、事が上手く運びさえすれば、化石燃料の殆どを海外から輸入している日本は、これから先のエネルギー問題で困る事は無くなるだろう。
日本は水の国と言われるくらいだし、四方は海に囲まれている。
化石燃料が原因の大気汚染の改善や、CO2排出基準などでも優位に立てるはずだ。
兎に角、専門家に検証を依頼するとしても、下手な所に持っていったら持ち逃げされる可能性が大きい。
恥ずかしい話だが国を売るような奴は何処にでもいるし、今までの日本は技術の先進性を認めずに金を出ししぶるから、優秀な開発者に国外に逃げられるケースは跡を絶たず、数え上げればキリがない。
何とか新しい発見や技術が、日本に還元されるような金の流れを作ってやらないと、これから先も流出は止まらずに続く事になるだろう。
いくら補助金や給付金などで技術開発の下地を作っても、チョットした手違いでそれらの資金を返還請求されたり借金に化けたりするから質が悪い……。
確かに玉石混交、中には端にも棒にも掛からない様な申請も有るだろうが、その時は基礎研究データだけでも対価として査定するくらいの懐の深さを見せるぐらいのシステムが無いと駄目だろうに……どうして直ぐに資金回収に走るんだ。
下手すると違約金まで上乗せされて、まるでサラ金と一緒じゃないか……。
ま~製品開発に成功して商業ベースに乗ったら乗ったで、給付金のはずなのに利益から返金しろって言うのも、どうなんだろうな?
元は税金だから仕方がないとしても、其れなら返金ではなく課税するのが正しい金の流れだと思うんだが、課税して税金になると国税庁が騒ぎだすからな~。
まあ税金使ってるから最終的には金で返せと言うことなんだろうが、そうすると借金と変わんね~んだよな。
水やって育てて果実が実るまで待てずに、期限になったら切り倒すっておかしくね~か?
官僚の俺がこんなこと言っちゃイケね~のかもしれね~が、税金使って建てた無駄な施設やその管理組織は、税金を返さずに消費する一方で国の借金は膨らんで行くんだ。
国営企業でも、企業と名の付くからには営利組織のハズなんだからもう少ししっかりと経営しろって話だ。
しかし、ろくに利益も出さずに垂れ流してる国家組織が世の中にどれだけ有ることか……。
そして、その尻拭に又候国民の血税が使われているかと思うと泣けてくるよな。
……実際に、そこまで国が腐ってないと思いたいです……多分……
◆
時刻は昼時。
「よう荒垣、今日は遠慮なくご馳走になるからな! 焼肉で良いよな? 叙々苑でもいいんだよな。准教授の安月給じゃ〜度々焼き肉ってわけにも行かなくてな。たまにはいい肉をしこたま取んないと脳みそも萎んじまってまともに働いちゃくれね~からよ~」
「おう、遠慮しないで好きな所で食ってもいいぞ! 今日は、好きなだけ食え食え。俺はこのあと運転も有るから酒は簡便な。だがお前にだけ食わせるのは癪だし、俺も食うぞ! 今回は、大臣のお墨付きが付いたからな、必要経費ってことで経費で落とすから心配すんな」
……いや、それは駄目だろう……
俺の目の前で上カルビに丼飯を掻っ込んでいるこいつは、俺の幼馴染で冴島 浩司 41歳、某工科大学の准教授をしている。
根っからの技術バカで、本当なら教授の椅子も狙えるのに、論文も書かずに准教授のまま研究ばかりしている変わり者だ。
俺がチョイチョイと持ち込む情報に、教育者と技術者の立場から意見をもらっている存在だ。
「ところで今回は随分と気前がいいじゃネ〜か。さっき大臣のお墨付きって言ってたが詳しい話は聞けるんだろうな?」
「おう、ここじゃ現物を見せる訳にはいかね〜が、後でたっぷりと手にとって見てもらう予定だ。その前に一言言っておくぞ。今回の件は、間違いなく国家機密に準ずる話になるはずだ。外国人はもっての外、外国の紐付きも排除してくれ。どんなに優秀でも留学生なんか使って情報が漏れたら、関係者全員で裁判沙汰の恐れもあるからな」
「ホ〜そこまでの代物かよ。どんな物見せられるのか楽しみで益々食欲が湧くじゃないか」
「普通の人間は、ここまで言うと胃が縮み上がって食欲無くす筈なんだが、相変わらずだね~お前は……」
「ハンッ、いったい何年の付き合いだと思ってるんだ。お前とは幼稚園からの腐れ縁だぞ。胃なんか悪くしてたら今頃生きてね〜よ。だいたいお前が持ち込む話は、いっつも……」
「愚痴は、その辺にしてさっさと飯をかたして次に行こうや。今日は俺も、朝一番で登庁して大臣に話をつけに行ったから、まともな食事してね〜んだよ」
……食事中……
「ふっふっふっ♪ 久しぶりの良い肉で、余は満足じゃ、苦しゅうない近う寄れ……」
俺は食後のお茶だが奴は、ビールをジョッキでがぶ飲みしてやがる。
酔った勢いで抱きついてきた。
「んっ、気持ちわり〜な〜、どうした!?」
……むさい男が二人抱き合っても気持ち悪いだけだが……
「(黙って聞け……変なのが付いてきてる。研究室に逃げ込むまで何もしゃべるなよ!)」
「(フム、何処の犬だ、随分と鼻が利くようだな。了解だ! 急いで大学に戻るぞ。ところで、お前んとこの研究室は大丈夫なんだろうな)」
「(ああ、荒垣が色々と胡散臭いのを持ち込むから、この間セキュリティーレベルを上げたばかりさ。専任の警備員も付いたし、専用のパスキーがなければ中には一歩も入れん。校門やゲート各所にも監視カメラも付けたし、何なら後で確認するか?)」
「(了解だ)オイ、昼間っから酔っ払うんじゃないよ、シャンとしろシャント……」
俺達は、会計を済ませ車に急いだのだった。
◆
確かにさっきから、窓にスモークの入った車が後を付いてきてるな〜。
今の段階で、手は出してこないとは思うが、……どっから情報が漏れた。
俺は今朝、大臣にしか報告してない……とすると、盗聴されてたか……大臣からのリークか……資源エネルギー庁の長官の線か? 兎に角ボヤボヤしてたら掻っ攫われるな。
俺たちは職員用の車止めに車を収めた後、3度ゲートをくぐり研究棟に入った。
冴島は首から下げていたキーカードを、研究室の入り口のスリットに差し込み、入り口横の壁に現れたタブレット状のセンサーに右手の平をかざした。
センサーの上から下に光が走り、暗かったセンサー全体が緑色に光り入口のロックが解除された。
「兎に角入ってくれ、送り狼の確認は後だ。サッサと話を進めよう」
「随分と厳重なんだな、カードだけじゃないのかよ」
「カードは偽装できるし、盗まれる場合もあるからな。だが、手の平の静脈は1人として同じものは無いし、血流もチェックしてるから偽装できない。ましてや死人の手の平では認識しない仕組みになってる」
「そっ、そうか……それなら安心だな……」
「それじゃ現物を見せてもらおうか。ずっと手ブラで着いてきたから、そのポケットの膨らみが気になって仕方がなかったんだ、それがそうなんだろう?」
「ああ、コイツだ。先に本命から行っとくか……」
……コトリッ……
「何だコレ? ここに水銀電池が1つ見えるな、これが起動用の電源として……リミットスイッチは、電源ボタン……何かを注入するパイプに排気用の管……そして、赤青の2本のケーブル?……こりゃ〜発電機の一種か?」
「流石だな、一眼でそこまで分かるか。其れは水素発電装置のコアユニットだ。発電機で間違いない。水を燃料にして発電するらしい」
俺の言葉から大型のビーカーに蒸留水を満たして発電の用意をする冴島……
「ム~、電池やスイッチは防水してあるようだからスイッチ入れて水に放り込めばいいのか? 排気用の管は水から出して赤青のケーブルも外に出してテスターに接続っと。うん、間違いなく発電を開始したな。装置全体で排熱しているが、水の中なら焼けつく心配もないな。……この大きさで100ボルトの出力があるのか……アンペアは50。おい荒垣……、コレの燃費は聞いてるか?」
「およそ200リットルで1年は動くそうだぞ。後は起電用電池の寿命だな」
「まったく、飛んでもないモノ持って来たな〜お前。コレが量産されたら発電所と電柱・電線がいらなくなるぞ。燃料さえ絶やさなければ停電もなくなるし、肝はこのサイズだ! 災害時の電源調達が要らなくなる。もっと有るぞ、数え上げたらキリがないくらいだ。今は蒸留水だが、水道水でどこまで動くか検証して改良できれば……ブツブツブツ……」
「其れは間違いなく動くんだんな? おい、冴島……」
「動く! お前も見ろよ、このテスターの針が振れてるだろ。チャントさっき読み上げた定格電力の発電がされている。スイッチ入れて水に放り込んだだけだぞ、ありえね~よ。こんな物、誰が作ったんだ? 間違いなく天才だぞソイツは……」
「こっちも見てもらって良いか? 作者は一緒で、作った奴の父親の話だと高解像度デジタルスチルセンサーのプロトタイプ・試作機らしいんだが、色々と詰め込んであるらしい。このUSBメモリに、UNIX用のドライバーとアプリが入っていて、大学のワークステーションなら普通に動くはずだと言っていた」
「おい、このUSBメモリーちょっと可怪しくね~か? ……容量128GBって……どこもまだ開発に成功してない代物だぞ。こんな大容量のメモリーまともに動くはず……動いてるな。まったく、この間ハードディスクの137GBのアドレッシングスペースの制限が取り払われたばっかりだし、主流のハードディスクだってまだ100GBだって云うのに……。どこもまだUSBメモリの最大容量は256MBの筈だぞ……」
「そっ、そうなのか? 俺にはその辺はチンプンカンプンだからな〜……」
「取り敢えず動かしてみるか……。ウッ、速いなこのアプリ……オオオオオオオ……」
「どうした冴島。なんか不味いのか? オイッ」
「荒垣! このモニターを見てみろ。まだセンサー繋いでないしドライバーとアプリをインストールしただけなのに、ワークステーションのスピードが上がったぞ。ありえね~よ、このドライバー、OSをバイパスして直接アプリをマシン語で走らせてるぞ、早すぎるだろうコレ」
「んっ? どういう事なんだ、詳しく説明しろ!」
「ああっ、一般的にコンピューターてのはだな、集積装置《CPU》がソフトウェアを動かすためのオペレーティング・システム、通称OSって言うんだがそいつが管理して動かしてる訳だ。そんでもってプログラムソフトウェアってのは、そのOS管理の上で動くようになっている。だからコンピューターの動くスピードってのは、集積装置《CPU》のクロックスピードと更にOSの効率がコンピューターのスピードに反映される。人が実際に操作して体感するのは、ここになるんだが、さっきのドライバーはそのOSの部分を取っ払って直接最短の命令でソフトウェアを動かしている。普段使われているOSの不必要な部分や効率の悪い部分、バグ・不良箇所なんかも排除した集積装置《CPU》本来の性能を引き出して動いてるんだ。このドライバーを世に出したら、OSを売り出してる会社は倒産するぞ。ま~それとは逆に、現場でコンピューターが使われてる所は、処理と効率が格段に上がるだろうな」
「そのUSBメモリの中の物だけでも、世の中が変わるのか……まいったなぁ~こりゃ~」
「よし、気を取り直してセンサーを接続っと……ムムムムッ……何だこれ? レンズが3つ付いてるからどんな映像になるのか気になってはいたんだが、これ赤外線・紫外線・可視光線全部が見えてんのか……。オイッ荒垣、此れについては他に何んか言ってなかったか?」
「それ作った親子は、重度のスカイウォッチャーでな、なんでもハッブル宇宙天文台のメインセンサーをターゲットにして開発したって言ってた様な……」
「ハッ、それでか♪ 理由がわかったぜ。コイツは、超高感度の宇宙観測用CCDセンサーだ。コレ1つで今のハッブル宇宙天文台の代わりができる。オイ、これ衛星に積むだけで、今のハッブルよりも高精度の観測データが手に入るぞ」
「一応それの廉価版は、受注生産だがもう販売してるらしいぞ……」
「ナニ~~~~~~。教えろ! 何処だ? 誰が作ったのか教えろ、冗談抜きで常識がひっくり返るぞ」
「だろ〜! だから言ったじゃないか。お前でも目をむく代物だって……それにソレ作ったの12歳の小学生だからな……」
「ハァ~……お前……荒垣ヨ~。法螺吹くのは顔だけにしとけよ〜。お前の場合はクマの雄叫びかもしれんがな」
「放っとけ! 至って真面目な話なんだよこれが……冴島にも前に話した事が有ると思うが、天河 譲って大学時代の後輩の一人息子なんだ」
「ああ~いたな〜そんなのが。大学時代にお前が顎で扱き使ってたっていう後輩か?」
「顎でってのは人聞きが悪いが随分と仲良くしてた奴だ。その息子がこれらを作ったと天河本人は言ってる。そして、奴さんの奥方がこれらを世に出そうと最近起業したらしい。お前も耳にした事くらいあるだろう株式会社タウルスって会社だ。今はどこの調査機関も産業スパイもシャットアウトして化粧品売ってるって会社だな。ちなみに、その化粧品もその息子の作品の1つらしいぞ」
「もう起業するだけの下地があんのかよ。早くしないと他に持っていかれかねないぞ、そうしたらお前としても国としても大損失間違いなしだな」
「そうなんだ。絶対に守らなくちゃならね〜。……それで……お前の印象としてはどうなんだ?」
「すまん興奮しちまって……そうだな〜、かなりビックリするところばかりだし、現在実現できてない技術も見て取れる。だが、子供の工作レベルの所が端々に見てとれるのも事実だ。その父親は、これを出した時に何か言ってなかったか?」
「そう言えば、夏休みの工作で色々と作った中の一部だと言っていたな。その中で光学センサーだけは、今の市場のレベルまでダウングレードして商品化したらしいが、目立ちたくないので宣伝等は特にしていないらしい。ああっその天河の仕事は、国立天文台の##天文観測所で光学機器の技師をやってる。ある意味、此の手の専門家で今の水準を一番詳しく知ってる人間だ」
「ほう、その子に一度会ってみたいな。機会を作ってくれないか? 多分、色々と出来ちまう子なんだろうと思うんだが、世の中の事なんかは良く分かって無くて、ヤラカシちゃう天才の典型だと思うんだ」
「うん、そうだな。俺も直接あって話をしてみたいとは思ってる。今回の件に関しては、俺が全権を預かってる実質トップだ。その子を保護するにしても一度会っておかないとな。天河夫妻もその辺の判断が出来なくて俺のところまで相談に来たんじゃないかと思うんだ」
「……このレベルで夏休みの工作か~。アックルコンピューターがガレージで産声を上げたレベルなんだろうな〜これでも。流石にこのままじゃ市場はだせないが、商用レベルに持っていければ、莫大な金が動くのは間違いないよな~。しかし大人は、汚いから金に群がるし既得権益を侵すとなったらどんな先進技術だろうと潰しにかかるぞ。まぁ~そんな事は二の次で、これは世の中の暮らし其の物が変わっちまうレベルだ。このアイテムは多分、『僕は、凄い事が出来るんだ』っていう1つの示威行為だろ。『僕の考えた凄い発明!』って感じの……父親もその辺はある程度わかってて、お前にコレを渡したんだろうさ。実質、個人で生活インフラの商用化なんて絶対に無理だからな。色んな利権が絡んで来て間違いなく潰されるのが落ちだ」
「フム、俺もこのアイテムの方にばかり頭が行っていたが、言われてみれば此れは子供の工作なんだよな……。そっちを守らないと駄目だって事か〜」
「ああ、駄目だね。教育者として、いや1人の大人として、子供は守ってやるもんだろう。それがどんな天才であっても、やっぱり子供は子供なんだ。守られる権利がある」
「これは、子供を守るために国を動かす為にベットされた見せ札ってところか。見返りとして国はどう動けばいいのか……、俺たち大人は試されてるって訳だな?」
「ああ、今後の対応でデッカイ魚を逃がす事にならない様に、お役人は頑張らないとな。俺も技術者の端くれとして言わせてもらうが、俺たちがフォローすることで生み出されるだろう新技術や未来を思うと震えてこないか? 俺はワクワクしながら知識や新技術を試して、一喜一憂してた学生の頃を今更ながらに思い出したぞ」
「そうか……、それじゃ最後に、早速集って来たハエの正体を確認して帰るとするか。防犯ビデオのコピーをくれ、犯人のあたりを付けておかないとな」
「了解した。それでこの玩具は預かってもいいんだよな? まだ、色々と試したい事も有るし、調べたデータはいつもの秘匿アドレスに送っておく。解凍用のパスワードはコレだ。これからは都度、パスワードを変えるぞ、いいな」
「了解だ。この後の解析もよろしく頼む」
「ああ、任せろ」




