3-2-09 銀河騒乱8…侵略?ま~お茶でもいかが 22/10/10
加筆修正 20221010
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謎の艦隊は、情報封鎖を維持しながら一気に天の川銀河を突き進んでいた。
今回の遠征は、在る筋から天の川銀河内の航路情報がもたらされた事で実現したのだ。
射手座矮小楕円銀河は、天の川銀河の直ぐそこ5万光年の距離にある直径1千光年ほどの球状銀河である。
まだ5万光年離れているとはいえ、直径10万光年の天の川銀河と並べて見るとほんの手の届く距離で、あと数億年も掛けずに天の川銀河に飲み込まれすり潰される運命である。
まだ5万光年の距離があるにも関わらず天の川銀河の強大な潮汐力を受けることで球状銀河の面影もない、歪み拉げた歪な銀河と成り果てる未来が待っていた。
そして、そこに住む者達は終末を迎える銀河の外に希望を持ち、自分達の銀河を磨り潰しにかかっている天の川銀河に対して、大いなる敵意と憧れを持つ事になるのは自然の摂理ともいえた。
磨り潰される前にこちらが食いついて、あの銀河に覇権を打ち立てて変わりの住処とする事は、射手座矮小楕円銀河に住む者達の悲願とも成っていたのだ。
そして、過去数度の天の川銀河との接近を繰り返す度に、射手座矮小楕円銀河の内部は荒れ果て想像以上に過酷な環境と成っていた。
そして更に近年、他の銀河から侵略してきた緑色の悪魔との生存競争が激化しそれに破れ……。
冒頭に述べた在る筋とは、アルタイル通商連合のことである。
アルタイル通商連合は、この天の川銀河に近い射手座矮小楕円銀河に販路を持つ唯一の星間通商複合体である。
どうやらその起源は射手座矮小楕円銀河とするらしい……。
嘗て射手座矮小楕円銀河からの調査隊が天の川銀河内に橋頭堡と情報源を作る目的で発足した組織らしい。
すでに天の川銀河内にいくつかのコミュニティーを持ち、このまま銀河連合に浸透して行ければ、それぞれに益のある形で収まったのかもしれない。
しかし、その大多数の急進派は未だに天の川銀河への強い欲求を根底に抱え、浸透政策を進める穏健派とは衝突を繰り返しているのが現状だった。
小さいとは言え一つの銀河集団が雪崩込んでくるという事は、侵略に等しい行いである事は分かっている。
時間を掛け天の川銀河連合の中に確固たる地位を築き、晴れて全ての難民を受け入れる下地を作る筈の予定であったはずが、どこで歯車を掛け間違えたのだろうか……。
若きハイエルフの王女は、先遣艦隊の代表として頭を抱えていた。
「提督、戦闘は極力控えて下さい。向こうが撃つまで絶対に手を出しては成りませんよ」
提督と呼ばれた獅子の亜人であるザンガは、直立不動で王女に応えた。
「されど、プリンセス・リリアナ。先手を取らねば我らに勝ち目などありはしませんよ。如何に遇帝といわれていえども、その部下の全てが無能であるとは言えないでしょう。こちらは数だけの敗残の集団、戦力も向こうの方が上です」
「確かに、彼等クーデター派の手引が有ったことで、今回それに便乗する形で参戦を決定した長老会の意向もあるでしょう。しかしながら如何なる言い訳をした所で我々が火事場泥棒の汚名をかぶるのはどうしようもありません」
「なら、どうしてです?」
「双方が疲弊する様な戦闘の後に、どうして領域支配など出来ましょうか、いいえ出来るはずがありません。戦いが始まったらそれは殲滅戦です。何方かが息絶えるか逃げ出すほかは決着がつく事はないでしょう。それに見掛けだけのこの艦隊でどこまで戦えますか? 他から来てこの銀河を簒奪してそこに住む者達が素直に付いてくるなどとお思いですか? 私は、難民としての受け入れが聞き入れられればそれで良いと考えていました。安全に住む事の出来る処さえ頂けるのであれば……」
「甘い! 貴女は、甘すぎる。宇宙は弱肉強食、生存競争に敗れれば、又我々は逃げ出さなければならない。それをお分かりか?」
「重々承知しています。(軍人はいつもそうです……)そして際限なく磨り減らした結果がこの有様はないのですか……。良く見なさい! 我々にどれだけの戦える者達が残っているというのですか? それに、我々を利用しようとするクーデター派が何時までも我々の味方で在るなどとは考えないことです。彼等も結局は敵である事に変わりはないのですよ」
「グッ、既にサイは投げられたのですよ。どんな目が出ようとも、もう後もどりは出来ません。御決断下さい」
「(降伏勧告などまだ早過ぎるとあれほどに云いましたのに、あの老害達は何も分かっていない)……分かりました。しかし、話が旨すぎるとは思わないのですか? 我々が訪れる此のタイミングでクーデターが起きるなど……」
「天が、我らに味方しておるのです! (エーイ! この千載一遇の機が読めんのか? このお花畑が!)」
「……本当にそれならば良いのですが……、これが罠ということも考えられます。密偵からの情報を逐一こちらに! (長老会の言いなりに動いた結果がこの有様です。いざとなればこちらも考えなければなりません……)」
◆
天の川銀河連合の戦力は、所属する種族や星系の駐留艦隊が受け持っており、それぞれの艦隊は精々10隻ほど、多い所でも100隻に満たない数の駐留艦隊の寄せ集め組織である。
それでも、所属する数が膨大であるため、その寄せ集めだけでも万を超える戦力になるのは想像できるだろう。
そして、今回は議会の臨時総会に加えヴィシュヌ女王の扇動に依り戦支度で駆けつけた者達が多数いたこともあり、通常の戦力に倍する事となり不足すると言う事は無かった。
流石にカグラもそこまで予測は出来なかったと見えて、かなり焦っている様子だ。
この状況に慌てる政治家や官僚を他所に、阿修羅王がエア上皇に上申した。
「連合の防衛体制が整うまで、まだしばらく時が掛かるでしょう。いくら数で勝てても足並みが揃わねば烏合の衆と成り果てます。我らが盾となり時間稼ぎを致しましょう」
「私も出陣ましょう。皆様にディーヴァ族の精強がおとぎ話では無い所をお見せ致しましょう♪ それに時間稼ぎなどと言わず、倒してしまっても良いのでしょう?」
「……先陣は任せた……」
「はぁ~、ディーヴァ族が見掛けに依らず血の気が多いのは、相変わらずの様じゃのぅ~」
「むふふ♪ 任されましたわ~」
「えーと、僕たちも何かお手伝い出来ると思うんですが、チョッと待ってくださいね。ハコ! 応答して、今どの辺り?」
目の前の空間が波立ち、ハコを先頭にしてその後ろにズラリと5人のメイドと執事一人が現れた。
[やっと御呼びが掛かりましたね。待ちくたびれましたよ、マスター。いざとなったら何時でもマスター達を掻っ攫って逃げられる様に待機して居りました。ご要望とあればあの程度の艦隊、殲滅するのは然程時間は掛かりませんが、どう致しますか? どうもあちらにも込み入った事情が有るようでは御座いますが……]
「!? どういう事? それになんで此処にセバスまで居るの?」
[既に敵艦隊の戦力分析は、マイアが終わらせて居りますので詳しくご説明いたしましょう」
ハコがさっと虚空を指差すと、そこには立体映像が立ち上がり、現在の中央ステーションを取り囲む状況と敵戦力の戦況分析が次々に映し出された。
[では、ご説明申し上げます。この艦隊は、射手座矮小楕円銀河連合軍、今後は射手座連合と呼称致しますがこの艦隊、まともな戦闘艦は全体の5%ほどと思われます。見掛けは、12万隻以上の大艦隊ですがその実態は民間船や輸送船の寄せ集めです。超光速航行用の機関を積んでいるものは、一部の戦闘艦とあの天体規模移動要塞だけですね。通常、遠距離移動の際は要塞に接舷してまとめて跳ぶのでは無いでしょうか。非常に経済的ですが見かけ倒しの烏合の衆です]
「フムッ? あれは、見掛け倒しのハリボテだと云いたいのだな」
阿修羅王が聞き返しました。
[肯定。その通りです、多分こちらの出方を伺っているものと思われます]
ニヤリッ、と昴が笑いました。
ゾクッゾクッ~とその場にいる者達は揃って武者震いに襲われました。
「ハコ。セバスが居るってことは、装備もみんな持ってきたんだよね?」
[肯定。最大戦力で控えております]
「現在の制御できるフェザーの数と可能な稼働数は?」
[そうですね……現在、シスターズ総出で同時にコントロール下に置けるのは10万ほどでしょう。稼働状況に有るフェザーの総数は既に億を超えました。無限工房にて毎秒100機の製造を続けておりますので十分な備蓄が御座います]
「分かった……足の早い船でステルス状態のフェザーを、制御できる最大数ばら撒いて来てくれるかな?」
ケラエノが一人お辞儀をしながら一歩下がって、スッと空気の様にその場から消えた。
[あの子の船(次元潜航艦)なら見つからないでしょう。30分ほどで準備が整います]
「了解♪ 皆さん、段取りが整うまでお茶して待ちましょうか。ハコ、お茶会の用意をお願い」
[肯定。畏まりました、直ぐ御用意致します]
ハコとセバスチャンをその場に残し、マイア・タイゲタ・アルキオネ・メローペの4人はケラエノと同じ様に空気に溶けて消えた。
「今の者達は、そなたの従者か? 天河昴よ……」 エア上皇がつぶやいた。
「はい、私の船達です」
[肯定。私がマスター昴のパートナー、恒星間万能移民船のハコと申します。以後お見知り置き下さい。娘達は、私の独立した補助管制AIが成長進化した個体です]
[私は、ウンサンギガの無限工房を預かる管理人セバスチャンと申します。現在は、ハコ様に下宿させて頂き、リフォームのお手伝いをさせて頂いております]
[『チョッと待って、貴方が管理人? あの?』]
[ハイ、お久しぶりですな~お二方。セントラルもニルヴァーナも逢うのは1万5千年ぶりぐらいでしょうか。ご健在でなによりです、ホホホッ]
『貴方にも固有の自我が有ったのね? ……ほんと驚いたわ……』
[ハコも人が悪いわね。教えてくれればいいのに……]
[肯定。彼は私が完成する為のキーパーツでしたので、極秘で建造に注力して参りました。お姉様方にも秘密にしていて申し訳ありません]
『フ~ン、貴女が最後の妹……、よろしくね……』
[いくらマスター昴が人間離れしていても、ポンポンと船や装備を出せるのがとっても不思議だったのよね。そう~、貴方が影に居たのね……]
[イエイエ、私の力など高が知れておりますよ。私は道具として昴様が使われてこそ真価が発揮できると言うものです]
『……………ジー……………』
お茶の用意も完了し、それぞれが寛いでいると、さっきからフヨフヨとニルヴァーナの立体映像がセントラル達の周りを漂いながら纏わり付くように浮かんでいましたが、ピタリッと停止したと思ったら、昴の目の前にすっ飛んできました。
『……私にもあれを頂戴!』
「エエッ、何をです?」
『私にもあの義体を下さらない? ……みんな人間臭い性格になったと思ってさっきから分析していましたのよ。原因は、あの義体よね! そうでしょう? あの機械そのものだった管理人が人みたいに成ったのも、セントラル姉さんが前以上に人間臭く成ったのもあれが原因じゃないかしら? 絶対にそうよね!』
「これこれ、落ち着きなさい。お前らしくもない、どうしたっていうんだね?」
この時、悲壮な覚悟で連合中央ステーションに迫る射手座連合艦隊を他所に、和やかなお茶会が開催されており、これらの模様も全銀河に実況中継されていた。
……良いのだろうか? こんなんで……




