3-2-08 銀河騒乱7…御大登場! 22/10/10
20221010 加筆修正
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その日、天の川銀河連合の中心たる連合中央ステーションでは、連合議会が特別招集されていた。
しかし、今回の連合議会の特別招集は、緊急に招集されたにもかかわらず今迄にないほどの賑わいを博し、連合議会の議事堂には熱気に包まれた多種多様な一族や人種がつめかけ、そこへ入り切れない者達は設備の整った会議室やカフェ、そしてそれぞれの宇宙船からその日の連合議会の実況中継を観戦するのだった。
片やその様子に困惑する一団が居た、連合政府を実質的に運営する常任議員と共に苦虫を噛み潰したような様子を見せる官僚達だ。
いつもなら各種族に招集を掛けた所で、この三分の一も集まらないのだからもっともな話である。
種を明かせば残りの三分の二は、ヴィシュヌ王女が銀河を渡り歩き、直に引っ張ってきた者達なのだが、そんな事はこの際どうでも良くなっているようだった。
それもその筈である。
事もあろうに其処には、この世に居るはずのないイヤッ居てはならない人物が堂々と登場していたのだから……。
事実上この世に存在しないはずの人物が堂々と連合議会の最前列に陣取って居座っている事実に混乱した議会の運営担当官は、証人喚問どころの話では無い状態に陥っていたのだ。
「王様……これは、いったいどう言う状況なんでしょう? 何か分かりますか?」
「イヤイヤッ、我にも皆目見当が付かん。何故、あの御方がここに居るのだ? 我も直接お会いした事は無いので確かな事とは言えんが、まず間違いなく前天帝にあられたエア様だと思う。しかし……あのお姿には説明がつかん。どう観ても現在12000歳を越えられる様には見えん」
『其れには、私がご説明いたしましょう』
気配も無くいきなり背後から声を掛けられ、その場の全員がビクッとして振り向くと、其処には立体映像の小さな太陽が浮かんでいるのでした。
『人工太陽ニルヴァーナと申します。以後お見知りおき下さい』
[そう! やっぱり今も貴女は、存在したのね。コアの回収と共に貴女も処分されたと早合点した私が間違っていたわ]
『まあっお姉様、お久しぶりで御座います。こうして又お会い出来るとは夢にも思っておりませんでした。ご壮健な様子お喜び申し上げます』
[フンッ、空々しい! 貴女は、昔もそうだったわね。己の感情を押し殺し機械に成り切っていたわね。私達には心は無用なんだと天帝の道具として……]
『ええ、私はあの御方の道具として生まれたのですから当然です。だから自壊コマンドが実行された時でも私は自由でしたよ♪ 他の誰の命令を聞く必要も無いのですから……」
[ッ、其んな理由で貴女は無事だったというのですか。まさか肝心要の貴女に自壊コマンドが効かなかったなんてドクターも予想できなかったのでしょうね]
『……そうなのですね……。あの犯人は、ドクターでしたか納得です』
「その話、儂にも聞かせてもらおうか。しばらくの間寝て居ったのでな、ニルヴァーナに叩き起こされる迄の記憶に空白が大きくてのぅ。これをジェネレーションギャップと言うのジャろうかのぅ~」
先ほどまで一番前の席に居たはずの人物が人工太陽ニルヴァーナと名乗る立体映像とセントラルの会話に突如として割り込んできた。
皆んながニルヴァーナの方に振り返った一瞬の内に、我々の席の前に立っていたのだ。
すかさず阿修羅王が挨拶をするために立ち上がった。
「これは前天帝であられたエア様とお見受け致します。私は、今代の阿修羅王ビマシッタラと申します。貴方様が未だご存命とは、知らぬ事とはいえ大変失礼致しました」
「良い良い、儂のやり残した亊で後の者達には随分と迷惑を掛けた様じゃ。ニルヴァーナにのぅ、いつまでも寝ていないで働けとドヤされてのぅ~、ホホホッ♪」
見掛け30代前半ぐらいの美丈夫が三眼族王族の正装に身を包み、阿修羅王より凄い迫力で語りだしたから周りの訳知り顔は大騒ぎだ! 今しがたまで一番前の席に陣取って居たけど、関係者以外は詳しい素性を知らず、その関係者も下手に声を掛けられずにいた為に本人確認が出来ない状況だった所への爆弾発言だった。
「確かに少し寝すごしてしまった様だ。まさか連合がこの様な事態になって居ようとはのぅ……。してそこに居る童詩がウンサンギガの今代で間違い無いじゃな?」
「ハイッ! 僕が第49代ウンサンギガの当主を拝命しました、天河昴です」
「ふむっ、まあ~そう固くなるでない。なにも取って食ったりはせんよ、ワハハハハ」
「早速です申し訳ありませんがエア様がこちらにお出ましに成っているということは……」
阿修羅王が好奇心に堪え切れずに声を掛けた。
「まあそう焦ることもあるまいよ。少々長くなるが儂の話を聞いて貰うとしようかのぅ? ……ふむ、カメラ目線はこっちかのぅ! ピース♪」
何かすごく若年寄感満載の人物だよな、この御人。
この後、前天帝エア上皇の身の上話に銀河連合議会に参加し聞き耳を立てていた者達は騒然としたのだった。
◆
エア上皇の独白が始まった。
まず大本の話は、およそ1万年前にさかのぼる事になる。
天帝エアが一斉を風靡し、次期の天帝を誰に指名するかそのための手続きに入っている頃、ここまで巨大な組織となった天の川銀河連合の数多の技術の基礎をなしたウンサンギガ一族に天帝エアの男子マルドゥークが生まれた事から運命がねじ曲がる事になるのだった。
当時の天帝エアは、ウンサンギガ一族の血を入れる事で更にその地位を盤石にしようとしたのだ。
しかし悲しいことに男子として生まれたマルドゥークは四眼で生まれるというハンディキャップを背負うこととなる。
当時の三眼族王族からはその容貌を疎まれる事になったのだ。
更には、優秀すぎる鬼子で在った事が一族からの排斥に拍車を掛ける事になってしまった。
四眼の天才児として生まれたことが三眼族王族から疎まれ、その優秀さからそれを不当な排斥だと云うことを自覚してしまう、そんな幼少時を経て彼は歪んでゆく事になるのだった。
その後、三眼族内に居場所のないマルドゥークは、母方のウンサンギガに身を寄せる事になる。
「幼いマルドゥークには辛い人生を歩ませてしまった。今となっては私の不徳と致す所としか言えん……あ奴は、まだ年若く優秀過ぎたのだ!」
マルドゥークは、ウンサンギガ一族内では特に排斥されることも無くその技術を吸収することに努めていた。
しかし、幼いながら自分が銀河連合の中心政治を成す三眼族王族であり現天帝の男子であるという肩書きは、ウンサンギガの一技術者で終わることに我慢が出来なかったのだろう。
かたやウンサンギガ一族の内部では、若くして優秀なマルドゥークをやがては次の当主にとまで考えていた様だが、マルドゥークにはそんな時を待つ事が出来なかったのだった。
三眼族一族からは排斥され、現天帝の男子でありながら逃げる様に他の種族の中でゼロからのし上がる事を強いられた彼には、抑えきれない野心と三眼族への復讐心が育っていっただろう事がうかがえる。
そのまま真面目に精進しウンサンギガ一族の当主と成っていれば、今迄以上に銀河連合は発展しただろうと云わしめたほどの天才マルドゥークは、三眼族への復讐を一心に募らせ天帝への謀反と云う暴挙に走ってしまった。
そして、ウンサンギガ一族の技術は、マルドゥークが半端にかじった程度でもそんな野心を持ってしまえるほどの魅力を持っていたのだ。
「儂の落ち度は、マルドゥークを謀反に走らせてしまった事は基よりその謀反に依り自ら傷付き一時的に倒れた時の不手際、当時の配下の者達を抑えきれなかった事じゃ……。ほんの3日ほど意識を失っている間にウンサンギガ一族の主星はマルドゥークの消息と共に無くなっておった。事態はマルドゥーク討つべし=>運斬技牙一族も同罪と成っており、儂の名で討伐令が出され実行された後じゃった。ここに至っては後の祭り、取り返しの付かない事態になっておったのじゃ……」
そして、ほぼ同時に起きたコア・クライシスにより、混乱する銀河連合を怪我の復調を押して沈静化させるに至ったのは怪我の功名。
その後、一連の責任を取って天帝位を返還し隠居してのち、消息を途絶えさせてしまったエア上皇。
実はその時には、エア上皇が契約していたニルヴァーナのメディカルカプセルの中で養療のため長い眠りに着いていたらしい。
道理でエア上皇の没年がわからないはずだ。
死んでないから葬式も挙げられていないのが当たり前……だが、1万年ちかくもの間、誰もそれを気にしなかったのだろうか?
「儂は、隠居する前に討伐令を撤回するように申したはずなのじゃが……どうも勝手に儂の名を使って出した天帝庁が儂は所在を眩ましたのを良いことに握りつぶした様じゃな、撤回されずにそのまま現在も残っているらしい……何という恥知らずな……」
そんな言葉を紡ぎながら議場に控えた三眼族達の方を凄い形相で睨みつけるエア上皇。
「本当に昴殿達には災厄であった、伏して詫びねばならん所なれど儂には立場上それも許されん。しかしながらこのままにはして置けんし出来ん……。いい加減に出てまいれ! シャダイよ」
すると俯いて萎れた老人が現れた……この人物が天帝シャダイらしい。
見上げる様にエア上皇に訪ねた。
「……父…上……なのですか?」
「何と情けない! それでも天帝を名乗るつもりか? 恥を知れい恥を! 確かにまだ若輩のお前に一族を押し付けて隠居した儂の責も免れんが、しかし折角天帝位に返り咲いた後の体たらくは何だ? この7000年お前はいったい何をして来たのだ?」
立派な身なりをしているがこれ以上に無いほど萎れた老人が自分の孫ぐらいに見える若者にドヤしつけられてペコペコと頭を下げている様子は一種異様な光景だった。
これ、全銀河に配信されてるんだけど良いのだろうか? エア上皇の説教は止まるところを知らぬ勢いで続いている。
「(良いんですかね? あれをほっといても……)」
「(親子の確執に部外者が立ち入る物でもあるまい。昴殿の件は先ほどエア上皇の謝罪のお言葉もあったのでほぼ有耶無耶にできる。問題はあるまいよ)」
「(それなら良いのですが、議会に呼び出されて喚問と聞いていたので緊張していたのですが拍子抜けですよ)」
ハイテンションだったエア上皇の説教も架橋に入ったようだ。
雰囲気が変わってきた。
「全く実の娘に手玉に取られおって、この愚か者が! 天帝位を返上してお前は謹慎しておれ。……そして……いい加減隠れて居らずに出て参れ、この期に及んで知らぬ顔なぞは許さんぞ、カグラ! お前がここまでお膳立てしたのであろう?」
エア上皇の呼び掛けに応えるように、何時でも天帝を手に掛けられる位置に陽炎の様に現れたのは、綺麗と言うよりケバい御姉さまだった。
「オ~ホホホホッ♪ お祖父様にはご機嫌麗しく……は~ありませんわよね~♪」
「こ~の女狐めが! 全ての罪をシャダイに負わせて自分が女帝の座にでも収まる算段であろうがそうは問屋が卸さんぞ! 儂の目が青いうちはのう!」
「……いいえその様な大それた事、このカグラが考えようも御座いませんわ、オ~ホホホホッ♪」
「(王様、誰ですか? あのケバい女……)」
「(あれは天帝シャダイの第一皇女カグラだな。俺とそう年は変わらんはずの大年増だ。見掛けに騙されてはいかんぞ! 隙を見せたら骨の髄までしゃぶられる女郎蜘蛛の様な女だ)」
「(ブルルッ、了解です!)」
「そこっ! 何をコソコソと話しているのです~」
ウワッ! 地獄耳だ。
この状況が何か想定外の展開で、外野は目が点になっていて声も出せません。
「ズルズルと天帝位にしがみついていたシャダイは論外としても、諫言もせずに実の父親を煽るだけ煽って蹴落とそうとは度が過ぎるのでは無いか? のう、カグラよ」
「フンッ! 貴方様にそんな事を云う資格があるのですか? 一族を放り出して消えた貴方様に。……第一皇女などと云われても女の身で私に何が出来ましょうか。父も周りの重鎮も私の話などまともに聞いてくれた事は一度としてありませんでしたわ。こんな碌で無しの治める国など無くなってしまえば良いのですわ♪ オ~ホホホホッ♪」
「……むうっ、そこまで拗らせてしまっていたか……難儀な事じゃのぅ……」
この時、突然警報が鳴り響いた。
『ご報告申し上げます。未確認の艦隊が多数接近しております。……数は、およそ12万以上!』
「オ~ホホホホッ♪ さあ、外銀河の集団に食いつぶされてしまいなさい。ノウノウと安寧を貪るだけの時代は終わりを告げるのです!」
「クッ! 外敵を呼び込んだか、この愚か者が……」
『未確認艦隊の旗艦より降伏勧告が入っております。5万光年先の射手座矮小楕円銀河からの遠征艦隊の様です。艦隊後方に天体規模の移動物体を確認いたしました』
急転直下、敵です!!!




