3-2-06 銀河騒乱5…買うのが定め! 22/9/21
20220921 加筆修正
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ここは、ピオニーⅠ世の謁見の間。
阿修羅王の玉座を前にして、皆さんお集まりになっている。
阿修羅王ほか数人のお妃様にヴィシュヌ女王やカーリーさん、見たことのない種族もチラホラ、後ろの方には高官なのだろうお役人ぽい方々がズラリと並んで立っていた。
それぞれに一通りの挨拶が終わった所で、阿修羅王が代表して会話が始まった。
「まずは最初に礼を云っておこう。我らにピオニーⅠ世・ロータスⅠ世を十全に使用できるようにしてくれた事に礼を云う。ありがとう、ウンサンギガの昴殿」
「勿体無きお言葉痛み入ります。俺は壊れていたものを直した、ただそれだけですよ」
「だが今回はそれが決め手に成ったと言ってよいだろう。今まで闇の中だった銀河連合議会の裏の事実が明るみに出る切っ掛けになったのだから!」
「そうですよ、昴殿。謙遜することはありません、貴方の功績ですよ、胸を張ってください」
いったいどう言う経緯なのか、俺に対する評価が鰻上りなんですよね。
これはどういう事なのかと説明を求めたところ、出るわ出るわ今まで闇に葬られていた後ろ暗い事実がボロボロと……、どうして今まで気が付かなかったのかというと、みんな常識を狂わされてそれが当たり前の事だと思わされていたらしい。
この、銀河中央ステーション其の物が巨大な洗脳装置に成っているらしいことが分かってきたんだそうだ。
自分の宇宙船から一歩でも降りたら最後、帰る時には忠実な天帝府の犬に成り下がる仕掛けだ。
サイコシールド等の貧弱な宇宙船の場合、宇宙港に入港した途端にその影響下に入ってしまうほどの大がかりな物であるらしい。
それでも、精神力の強い種族にはかかりにくいらしく、阿修羅王達は然程影響を受けなかったらしいが違和感はいつも持っていたらしい。
長く外交官なんかを経験した者達が、これらの影響で漏れなく天帝府の言いなりの奴隷に成って国に返される事になっていた訳だ。
そう、阿修羅族の宰相シャンカラは、外務大臣として長い間銀河中央ステーションに駐在していた時期があり、如何に精神耐性の高い種族でもその影響下から逃れることは出来なかったのだろうと推測された。
それで、ここからが本題なんだけど、ピオニーやロータスの乗員や艦隊勤務の者達は、全員がパーソナルデータの管理用ブレスレットをしているので、病原菌や放射線は基よりこういった悪意ある洗脳電波の類いの影響を受けなかったのである。
普通なら銀河中央ステーションに招き入れて、社交界やパーティーに会議なんかをダラダラとやっている内に、連合議会に陳情に来たはずの使節団が天帝府の方針通りの命令や法令を有り難く国元に持って帰る事になるらしい。
しかし、今回押しかけてきた連中は何時まで経っても天帝府の云うことを聞かない連中だったと言う訳だ。
ズルズルと引き延ばされる連合議会の臨時総会、やっと始まったと思ったらどう考えても話が噛み合わなくなっている提出法案、周りの様子がおかしい事に気がついた阿修羅王一行は、ピオニーとロータスを一部開放して2隻の艦内で社交パーティーなどを続けて開催したのだそうだ。
当然招き入れる時に来賓用ブレスレットを着けさせる事で、それまで洗脳状態だった各種族の外交官や大臣をはじめ王族達にも治療を施す事で、銀河中央ステーションの影響で洗脳状態になっていた者達を解除していったのだそうだ。
パーティーや晩餐会を開くたびに、段々とマトモになってゆく各国の外交官や王族。
今まで天帝庁の犬のようだった者達が、自分達の云うことを聞かなくなってゆく事に慌てだす天帝府の官僚達。
端で見ていてその慌てようが愉快痛快だったと笑い出すお歴々、皆さんとても良い性格をしていらっしゃる。
たぶん天帝府の連中は、昴を直接議会に呼び出す事で外交官達のように洗脳を図る気だったのではないかと語っていた。
それで、ついでだからこの洗脳装置を無効化して使えなく出来ないかとの相談だった。
「王様達の提案ですが、可能か否かと言わせれば可能ですね。セントラル! 銀河中央ステーションの解析は、どこまで進んでるかな?」
[はい、すでに完了しておりますよ。件の洗脳装置ですが私がここの管制AIをしている当時から存在する物です。基本的には暴徒鎮圧用に使用していた催眠機構を悪用しているものと思われます。このシステムは、不特定多数の精神に働きかけ破壊衝動や暴力的な思考を抑える効力があります。事故や災害時、民衆が集団ヒステリーやパニックに陥った時など冷静に対処する為の物ですが、今回はこれを悪用し深層催眠及び後催眠に依る洗脳に使用されたものと思われます]
「それで?」
[何時でも無効化は可能です。無効化するタイミングですが何時が宜しいでしょうか? 実は、昔の最上位コードがそのまま残っていましたので、有る意味ここ銀河中央ステーション内でなら私は神にも悪魔にもなれますよ♪]
「ハハァ~、君を連れてきて正解だったって事だね」
[はい、マスター昴]
今の俺たちの話を聞いていた面々は、それぞれに驚嘆していた。
絶句して空いた口が塞がらない者。
然もありなんと納得して、頷いている者。
当然だと俺達のことを自分のことのように自慢する者。
頻りにうなずいて、ホッと胸をなで下ろしている者などなど。
「では、昴殿の議会への登場と同時に洗脳システムの無効化を行う事としよう。直前まで気取られない様にするのが肝要だ。しかし、私には納得出来ない事もあるのだ」
「王様、納得出来ない事とは何ですか?」
「如何に三眼族が狡猾で悪賢い種族で在ったとしても其の全てが悪事に加担しているとは思えないと言うことだ。嘗ては、互いに手を取って天の川銀河の平定に尽力した者達、その昔は賢者とも云われた種族がそこ迄愚かに増長してしまったとは信じられん」
「王様は、三眼族達にもマトモな者も居るだろうと仰言る訳ですね?」
「そうだ! 何かもっとこう……根深い訳が在るのやも知れん……」
王様のこの一言で、その場の面々がもう一度現状を洗い直す事に同意したのだった。
何時から三眼族は、こんな支配体制を敷いてきたのだろうか?
「セントラル。全力をあげて銀河中央ステーションに残ってる記録やログを洗ってくれるかな? 何時から誰の指図でこんな事になったのか……、それが本当の黒幕の正体だと思うんだ」
[了解いたしました。マスター昴]
こんなとこまで態々来たんだ、ちゃぶ台ひっくり返すくらいで済むと思うなよ。
◆
昴達が旅立って直ぐ、太陽系のアステロイドベルトではハコが殴り込みの準備を進めていた。。
直径1000kmの無限工場衛星ケレスの直前に浮くのは、とても小さな全長60mの光り輝く蒼い結晶体だった。
初期は単一の蒼い結晶構造の塊だった物が、各種特殊金属と色取り取りの宝石や結晶に縁取られた巨大な蒼い宝石となってユックリとケレスの周りを周回していた。
[セバスチャン。システムの同調は完了しましたか? 同調に失敗すると貴方をマテリアルに分解してしまいますからね……]
『問題有りません。ハコ様の固有空間との同調完了いたしました。何時でも行けます』
[では空間融合を開始します。ケレスとのドッキング・スタート!]
ハコの宣言と共にケレスが霧か霞の様にその存在が朧げになり、やがて消滅したのだった。
『ドッキング成功いたしました。無事にハコ様の内部固有空間への接続を確認いたしました』
[これで、貴方は私の中に蓄積されたマテリアルを思う存分好きなだけ使えるようになりました。そして私は、ケレスの外郭を成した特殊流体金属を無制限に使用する事が出来るようになった訳です]
『ハコ様の内部亜空間は、既に直径5000kmに達しています。木星からの各種元素とアステロイドベルトの小惑星を元に現在はその殆どの空間を満たされた状態ですね』
『そう、セバスチャンには私の内部環境を整えてほしいの。ケレスはそっくりそのまま私の中に存在する訳ですし、貴方が抱えている艦隊やワーカーも全て自由に使ってかまいません。手始めに3割位の空間で日本2つ分位の陸地と島々、そして広大な海を作って頂戴。地球の環境データを自由に使ってもらって結構よ』
『了解致しました。昴様たちが快適にお暮らしいただける大地をお作りすれば宜しいのですね』
[そう、マスターが永遠に暮らせる場所。そして私達が更に進化するための方舟と成るのです。現在、貴方が抱えている稼働可能な戦力はどれくらいになっているかしら?]
『ハコ様の外殻艦の同型艦が90隻、各種護衛艦艇が4371隻、人型変形機構導入艦が790隻、先行試作型はルナベースに10隻、これはシャシ様が乗り回しておられます。ハコ様の外殻艦の同型艦5隻を空母に改修、2隻を大型病院船に改修致しました。こちらの病院船は、2隻とも封印されたオヒューカスにシンクロを完了しております。普段は1隻に合体して1000mの病院船といたしました。月で改修され教育の完了した各コアの管制AI達は、各々得意な分野の艦船や施設にシンクロを完了しており何時でも飛び出せる状態になっております。直掩のサンダーバード型戦闘機は1万1500機、各種オートワーカーは総数28万3480機が稼働を待っております』
[……把握したわ。これから私達は、木星反物質生成ステーションでリニューアルした私の外殻艦にドッキングして銀河中央ステーションへ向かいます。今頃は、シスターズが弄っていた私の外殻艦に、乗せられるだけの物資と食料、後続のメンバーと戦力を詰め込んでいるはずだわ]
『……敢えて言わせて頂きますが、これだけの戦力がそろえば銀河を取れるのではありませんか?』
[ええ可能でしょう。でも、地球に残っている者を決戦に置いていったら、後で盛大に拗ねるでしょうね。ヒュアデス辺りは、特に臍を曲げそうですね……ウフフフフフ]
『と、仰言るということは、今回は戦闘には成らないとお考えですか?』
[ええ、多分私達が着いた頃には、全ての事に決着が着いているでしょう。予言しても良いくらいです]
『それはそれは……』
そう、マスターはとっても優秀ですからね。
『ねえねえ、私も居るのを忘れないでくれるかしら~? ケレスの霊廟が固有空間に入っちゃったから、月に居た私の義体が卒倒しちゃったんだけど~向こうに連絡しといてね~。たぶん今頃は、騒ぎになってる筈だから~♪』
『これはこれは、失礼を致しました。エンリル様』
[あらっ、すっかり貴女の存在を忘れていたわ。ごめんなさいね]
『もうっ、私に対する対応が軽すぎないかしら~? それで、これから中央に向かうのね~?』
[肯定。殴り込みです!]
『当~然、私も一緒よね♪ 離れられないし~……』
……この御仁、いつか何か問題起こしそうで不安なのよね~……
[セバスチャン、対応は任せましたよ! 後はよろしく……]
『エッ、……賜りました。さあエンリル様、新しい義体を組み上げるといたしましょう。今度はどんな物が宜しいですか?』
『そうね~、昴くんを悩殺出来るようなグラマーで色っぽいのにしようかしら、あんまり若作りだと嫌われちゃうし……悩んじゃうワァ~♪』




