3-2-04 銀河騒乱3…連合議会 22/9/19
20220919 加筆修正
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ここは、天の川銀河連合の政治の中心である銀河中央ステーションを眼前に望む通常空間である。
銀河中央ステーションは、中心の人工太陽を包み込む様に ネット状に人工物が覆っている巨大な人工物で在る。
遠目には外壁に見えているが、段々と近寄るにつれて網の目状に見えてくる。
更に近づくと繋がる網の目の糸の部分でさえその太さが数km~数十kmは有るだろう事がうかがえた。
蜂の巣状の網の目の間隔は、およそ1000kmほどは有るだろう。
兎に角それは巨大な存在であり、その大きさは太陽系で比べると水星の公転軌道の内側くらいの、およそ直径1億kmを超えるダイソン球型建造物であるのだった。
ここでは仮にこれをレボリューションオービタルネット(公転軌道にあるネットの直訳)と呼称しようと思う。
このレボリューションオービタルネットの内側、人工太陽に面した側には太陽エネルギーの収集パネルが並び、レボリューションオービタルネット其の物も今尚建造が進められているのだった。
それを遠方から観察すると、巨大な球型の淡く光る籠の表面や周辺を、小さな光る宇宙船が炎に群がる羽虫のように無数に飛び回っている様子がうかがえるのだった。
ここに、通常空間を碌な護衛も連れずに少数で航行する宇宙船団が居た。
阿修羅王の御座船ヴリトラが先頭を征き、その後を戦闘艦には見えない花を象った宇宙船が優雅に2隻並んで航行していた、ピオニーⅠ世とロータスⅠ世の2隻である。
他に護衛の船は、わずかに5隻、全部合わせても8隻という普通では考えられない様な小船団だ。
王族の乗る船団としては、本当に最低の数である。
一般的に星系外苑で実体化した後、5日~10日掛けて入港手続きを行う事が通例と成っている為、8隻は普段より時間を掛けユックリ粛々と銀河中央ステーションへ向かっている。
安全の事を考えると、銀河中央ステーションの近傍で通常空間に実体化したほうが良いのだが、ヤラれた方はビックリする訳で、仕方なくルール通りに近づいていた。
型紙破りをするにしても、時と場所を選ばないと王族としての品格を問われかねない事もあり、奔放なシャシの事を羨ましく思う阿修羅王であった。
ヴリトラの艦長は、王様が乗っていないことが少々残念では有ったが、久々の外遊に鼻息を荒くしていた。
途中までヴリトラごと乗ってきたピオニーⅠ世を肌で感じていなかったら、王様に直談判してでもヴリトラに乗艦頂くところだが、残念ながら乗り心地も安全性もピオニーⅠ世には2歩も3歩も遅れを取るところだ。
いざ戦闘となれば、面目躍如の活躍をしてみせようと現在は先陣を切っている次第である。
「こちらは、阿修羅族近衛艦隊旗艦ヴリトラ他6隻、随行艦はデーヴァ族第三王女親衛艦隊旗艦ロータスⅠ世だ。入港を許可されたし……」
『こちら銀河中央ステーション第一宇宙港管制センターです。第一宇宙港・7番から14番までをお使い下さい』
「了解した」
管制センターの指示に従い、指定の桟橋に船体を預ける旗艦ヴリトラ以下の7隻であった。
そして、その様子を影からモニターしている天帝府内務局の面々がいた。
「なんと足の早い船だ。シャンカラから密告の連絡が有ってからこの星系の外苑に出現するまでわずか1日しか掛からないとわ……。その後は、焦らすように向かってきて居たが、もしも中央ステーション近傍に直接飛び込まれていたならば防ぎようもないぞ……」
「しかし、そこは流石に王族。そこ迄の常識は、弁えていると見える。……あの随行するデーヴァ族の船が気になる所だが……」
「確かに! 最近デーヴァ族のヴィシュヌ王女が派手に飛び回っていると聞く……。神出鬼没で掴みどころのないお方だがどうやって捕まえたものか……」
「阿修羅王は、十中八九銀河連合議会を臨時招集する事だろう。まあ、どう足掻いた所で議席の過半数は我らが握っているのだ。そう簡単に世の中は変わらんよ……。それよりも反意を示されて黙っている訳にも行くまい? どう詰腹を切らせるか考えておかんとな……」
「……俺は、あの船を何処かで見たことが有るような気がするんだが……阿修羅族の主星に外交官として赴いた折……王宮の庭園にあった花のオブジェにそっくりの様な……」
「そう言えば先程、艦名をピオニーⅠ世と云っていたな。お前の云っているのは阿修羅王城の庭園にあるピオニータワーの事だろう? 俺も見た事は有るが、まさかあれと同じ物の筈も無かろう」
「いや、それにデーヴァ族のロータスⅠ世も随分と様変わりしたんじゃないか? あんなに小さくなかっただろう?」
「確かに見るからに半分以下に縮んでいるな、もともと第三王女の座乗艦という事で鈍足で名を馳せていたはずなんだが……あんな物が何かの役に立つのか? ワハハハ……」
「まあ、阿修羅族とデーヴァ族は普段から仲が良いからな、あまり甘くは見ない事だな……」
相手を甘く見ているのは、どちらさまだろうか……。
やがてその顔が苦虫を噛み潰す事になるとも知らずに、かげで悪知恵を巡らせる天帝庁内務局のお歴々である。
このあと直ぐ、後続のヴィシュヌ王女の呼びかけにより続々と現れる連合加盟種族達に驚く事になる。
阿修羅族とデーヴァ族による天帝包囲網は、着々とその網を広げ、そして絡め取ってゆくのだった。
◆
3大種族の内、阿修羅族とデーヴァ族の連名により招集された銀河連合議会の臨時総会は、大揉めに揉めて100日が経とうとしていた。
開会当初、楽観視していた天帝府を牛耳る三眼族も、続々と議会に参集してくる連合加盟種族達に、その三眼を回す事になった。
普段、議会には参加もせずに日和見を決め込んでいた種族さえもが、阿修羅王の決議票に賛成票を投じたのだ。
その中には寝返る種族も続出し、今までの三眼族による支配体制の足元が如何に脆い物であったのかを露呈することに成る。
あまりにも長かった一種族による独裁に、初めて楔が打ち込まれた一幕となったのだった。
『それではこれで阿修羅王より提起されました法案、前天帝勅命によるウンサンギガ一族討伐令の廃止法案は可決されました。ただし、その施行には、三眼族の意見も鑑み、ウンサンギガ一族現当主の当議会への出頭と意見陳述を条件とする事といたします。早急にウンサンギガ一族現当主は、銀河連合議会へ出頭し、先の通り意見陳述を求める事といたします。皆様、よろしいですね!』
盛大な拍手と共に今回の臨時総会は終了した。
天の川銀河連合の議会内派閥割合が大きく様変わりした事で、三眼族も今後は今までのような大きな顔は出来なくなるだろう。
これは、成功? と云って良いのだろうか。
だが昴くんがここ銀河連合議会まで直接出頭して、意見陳述に立つ事が勅命廃棄法案を施行する条件とされた事は、昴くんの出頭を妨害する事で廃止法案を阻止される恐れがあり、元の木阿弥となる事を意味する。
三眼族め、最後に嫌らしい課題を残しやがった。
「王様、ご苦労さまでした」
「うむ、現状ではここまでが最善だろう。あまり天帝の顔を潰すと三眼族共が煩い。暴発されても後が面倒だ……」
「そうねよ~、早く昴殿に連絡して、一度中央に来てもらいましょう♪」
「念の為に連れてきた軍が杞憂に終わったのは、幸いな事だ。ただし、この後三眼族の妨害が何処まで波及するか読む事ができん。当然三眼族等も今回ばかりはシャカリキになって妨害してくるだろう。上手くすればまた議会内の派閥が大きく動くことに成るだろう」
「そこは昴殿達の才覚を期待するよりも、彼等に下手に手を出すと手痛いしっぺ返しがあると教育してあげるしか無いでしょう」
「ふむ、そこは実際に身を持って経験してみなければ駄目だろう。自分達が敵に回したのがいったいどんな相手であるのかは痛い思いをしなければ分からないだろうからな。これは、お手並み拝見といこうか♪」
「王様……ワザと昴くんに課題をお残しになりましたね……」
「フンッ! 輿入れの件はとっくに破談となったのにシャシは一向に私の下に帰ってこないではないか。アプサラスよ、私はまだシャシを嫁にやる事を許してはおらんからな! それに其奴がどんな男か私が見聞してやろうでは無いか……まあ、直に見てみたいのだよ」
「アララ~、これは諦めなさいアプサラス殿。こうなったら男親は、梃子でも動かないわよ。昴殿が認めさせるしか方法は無いでしょうね(これは、うちのラクシュの一人勝ちには出来そうにもないわね~)」
そして地球にこの第一報が届くのは、まさに軌道エレベータのセンターケーブルが連結したその時だった。
◆
「ハコ、それで一大事って云うのは何なのさ?」
[肯定。先程、ピオニーⅠ世、ロータスⅠ世、ハヌマーンⅠ世から相次いで私に通信が入りました。もう少ししたらヴィシュヌ女王様からも連絡があると思いますが、昴様にと云うよりもウンサンギガ一族の現当主に対し天の川銀河連合の連合議会から正式な出頭の要請が出されたようです。阿修羅王とヴィシュヌ女王のご尽力により、ウンサンギガ一族討伐令を廃案にまで追い込んだらしいのですが、その条件として現当主の意見陳述が実行される事とされたそうです。この辺には、三眼族共から横槍が入った形でしょうね]
「エッ! 俺が行くの?」
[肯定。当然マスターが行く事に成るでしょう。それも可及的速やかに!]
「連合議会で意見陳述って……国会の口頭弁論みたいなやつ? 裁判の被告みたいに晒し者になるのは嫌なんだけど……」
[肯定。被告と言われれば間違ってはいませんが出頭して直接身の潔白を証明せよって所でしょうね。冤罪を被せた方も当事者がすでに鬼籍に入ってる以上残されている情報にも穴が有るみたいですし、今の天帝はその辺をしらばっくれて責任は取らないでしょう。『ワシャ知らん!』で終わりだと思いますが、問題は天帝の権威を汚したとか騒ぎ出す閣僚や三眼族共ですね。全部とは云いませんが変にプライドばかりが肥大化した者達がどんな行動を取るかなんて想像するのは難しいことではありませんよね]
「そうじゃの~、少なからず妨害が有るじゃろうのぅ~……」
「ハコ様の話を纏めますと、昴様が連合議会に出頭しなければ、この法案は廃案、施行されないという理解でよろしいのでしょうか?」
[肯定]
「「そうだよね?」じゃの~」
「ま~古い物とは言え、天帝の名で出された勅令を廃止に追い込まれたのじゃ、三眼族共は面白いはずは無かろうよ♪ じゃから、廃止して欲しかったらここまで来て答弁してみせろって事なんじゃろうが……そこに父上のニヤケ顔が浮かんで来るのはなんでじゃろうな?」
「……ん~~俺っ、何か阿修羅王様のご機嫌を損ねるような事したかな~?」
[否定「「……」」出来ませんね……]
「エッ?」
「私が思うに、シャシ様がここに居ることがお気に召さないのではないでしょうか?」
[肯定。父親のヤキモチという物でしょうね……多分……]
「私のところは、割とアッサリしていますけれど……逆に早く手を出してもらえと催促されるくらいで……キャッ♪」
[肯定。そこは、母親と父親の違いでしょうか……。昴様、阿修羅王に後ろから刺されない様に用心なさったほうが宜しいかも知れません?]
「エエッ、味方じゃ無かったの?」
こんな会話をグダグダとしていたら、母さんからも連絡が……。
『昴、私もセントラルと天の川銀河連合に付いていくからね。最近、変なのが彷徨いてて可怪しいな~とは思っていたのよ。ネッ! セントラル』
《はい、海賊の斥候の類だろうと思っていたのですが、三眼族共の手下だったみたいですね。ザッと100人ほど眠らせてありますよ》
「……ふ~ん、それで? テロや誘拐なんかは起こってないんだよね……」
《未然に防いだものが3件ほどございます。後は、警戒網に掛かった側から捕縛しております》
「ッ! そうなんだ……俺に喧嘩売ってきたって事だよね……それっ。買ってやろうじゃないか、熨斗つけてさ。誰に喧嘩売ったのか教育しなくちゃね~フフフフッ♪」
《「「[『……』]」」》 ……ゾクッゾクッ~~……




