第二十一話 使命
俺がフーライラのいる場所を、目で確認することが出来る距離に近づいた時、ザルーガさんは倒れ、ジーラさんだけがフーライラと戦っていた。
戦っているとは言っても、ジーラさんの持つ長剣は折れていて、ジーラさん自身もボロボロだった。
フーライラが、地上から空中に飛び、ジーラさんに襲いかかろうとしている。
(まずい!)
俺は、聖剣アルダートに再び魔力を込める。
先程よりも輝きが強くなり、俺は加速した。
フーライラが、雷を帯びた爪を、ジーラさんに向けて振り下ろす。
ジーラさんは、折れた長剣で受け止めようとしているが、腕を負傷しているのか、全然腕が上がっていない。
(間に合えっ!!)
「そっソラ君? 」
俺は聖剣アルダートで、フーライラの攻撃を受け止めた。
「大丈夫ですか? ジーラさん」
「私は、大丈夫だけれど……兄さんが……私をかばって…… 」
どうやらザルーガさんは、ジーラさんをかばい、フーライラの攻撃をもろに受けてしまったようだ。
しかも、先程からザルーガさんは、ピクリとも動ていない。
普通に見れば、ザルーガさんは死んでいると思うだろうが……
「ザルーガさんは生きていますよ。危ない状態ですが……」
何故、俺が見ただけで、ザルーガさんが生きているのかを分かったのか……
それは、この状態に成ると、目で魔力を見ることができるようになる事がわかったからだ。
ザルーガさんを見ると、少しだが魔力が流れているのが分かる。
生きている者には、身体の中で魔力が巡回している。
だけど、死んでいる者には魔力は流れずに身体の中で止まるのだ。
魔物は、魔と付いているが、普通は魔力を持っていない。
しかし例外もいる。目の前にいるフーライラもそうだ。
フーライラが纏っている雷は、実は魔力でできているものなのだ。
フーライラが、俺を見てたあと、聖剣アルダートを見た。
するとフーライラが、今までで一番凄い鳴き声を上げたと思ったら、俺から離れて距離をとった。
「ジーラさん。後は俺がなんとかします」
「無理よ! フーライラには、私の上級魔法も効かなかったのよ」
ジーラさんの放った上級魔法は、フーライラの纏っている、雷によって防がれたそうだ。
「俺にはこれが有るから大丈夫ですよ」
俺はジーラさんに聖剣アルダートを見せた。
「ソラ君! それって……」
ジーラさんは、俺が握っている長剣が、聖剣アルダートだと気付いたようだ。
やはりこれを見れば、聖剣アルダートだと分かるらしい。
フーライラは未だに俺たちから距離をとっている。俺の予想だが、700年前に現れたフーライラと、現在俺の前にいるフーライラは同一魔物だ。
フーライラは700年前に、勇者ツバサたちによって倒されたので、警戒しているのだろう。
(まずは……ジーラさん達から離れないと)
フーライラの攻撃がジーラさん達に当たったら危険だ。
俺は猛スピードで移動をして、フーライラに斬りかかった。
しかし、フーライラは空中に飛び、俺の攻撃を回避する。
フーライラが、鳴き声を上げると、球体の電気の塊が、俺の周りに展開された。
「囲まれた……」
そして、その電気の塊が一斉に俺に向かってきた。
ドッドッドッドーン!! と激しい音が鳴り響く。
「ソラ君!!」
ジーラさんが俺の名前を叫んだ。
俺がフーライラの攻撃を受けたと思ったのだろう。 だが……俺はフーライラの攻撃を避けて空中にいた。少しかすったが……
俺は、電気の塊が一斉に向かってきた瞬間に、真上にある、電気の塊だけを斬って、脱出したのだ。
俺は、空中から落ちる勢いを生かして、フーライラに聖剣アルダートを刺した。
フーライラが叫び声をあげる。
すると……フーライラの纏っていた雷が消えた。
「これなら!」
俺はフーライラから、聖剣アルダートを抜き、距離を取り魔法を放つ。
「【スパイラル・フレイム】」
フーライラが、炎の渦に囲まれて焼かれる。
すると、フーライラが苦しそうな鳴き声を上げた。
(やったか……)
と、思ったら炎の渦からフーライラが抜け出した。
しかも 黒い雷を纏ったのだ。
今までとは違い、物凄くバチバチと音が鳴っている。フーライラが物凄く高く飛び、黒い雷をいくつも街に落とした。
先程の雷より黒い雷の方が威力が桁違いに上がっていた。
建物はボロボロに、地面は抉れている。ジーラさん達は運が良く当たら無かった。
「このままだと、危ないよな」
俺は聖剣アルダートに、ありったけの魔力を注いだ。
ここが正念場だ。
俺は今、エートス戦の時よりも輝いている。
魔力の量が増えたからだろうか……前回よりも力が湧く。
俺は地面を思いっきり蹴り、フーライラが飛んでいる所まで向かった。
一瞬にしてフーライラの元にたどり着く。
そして……
「終わりだっ!! 」
眩い光が暗闇とぶつかった。
フーライラが纏っていた黒い雷が消えた。
俺はフーライラを倒したのだ。
俺とフーライラが地面へと落下していく。
その途中で、フーライラが光となり聖剣アルダートに吸い込まれた。
フーライラが聖剣アルダートに吸い込まれた事に、俺は気付かなかった。
全身の輝きがだんだんと薄くなっていく。
そして全身の輝きが消えた。
魔力切れを起こしたのだ。
意識が遠のく中、俺は地面に落下していった。
「ここは……宿か?」
今回、目を覚ましたのは宿のベットのようだ。あの高さから落ちて、生きていることだけでも奇跡だと思うが……
看病をしてくれた途中で寝てしまったのか、リラが俺の横で寝ている。
俺がリラの頭を撫でると……
「んっ……ソラ? 」
リラが顔を上げて俺を見た。
「ごめんリラ、起こしちゃって」
「大丈夫だよ。ソラ、お疲れ様」
俺たちは宿の外に出た。街の至る所が破壊されていたので、街の人が修復作業を行っている。フーライラによる、街の被害は凄かったが、死傷者は一人もいなかったそうだ。
ザルーガさんは、ペルスさんの回復魔法により一命を取り留めた。
俺たちはギルドに向かった。ジーラさんに呼ばれているのだ。
何故酒場ではなくギルドに行くのか……
それは、ザルーガさんが入院中なので、代行として、ジーラさんがギルドマスターをやっているからだ。
「ソラ君ありがとう。あなたのお陰で、この街は助かったわ」
ルーブビレを救ったと言われても、俺には実感が湧かなかった。
「俺は使命を果たしただけですよ」
「それでも、ありがとう」
ジーラさんが俺に深く頭を下げた。
「頭をあげてくださいジーラさん」
人に感謝されるのはこそばゆい。
だから俺は話題を変えることにした。
「一つ聞きたい事があるんですけど……俺って落下中から、どうやって助かったんですか?」
ジーラさんはリラの顔を見た。
「リラちゃんが、エア・フールを使って受け止めたのよ」
リラは安全な所まで逃げ遅れた人を運んだ後、ルーブビレに戻ってきたそうだ。
その時に丁度、俺が落ちていたので【エア・フール】で俺を受け止め、そのまま俺は宿に運ばれた。
「私もソラ君とは、いろいろと話したい事があるんだけど、あの人がソラ君たちに話があるそうなの。だから、先にあの人の話を聞いて頂戴。悪い話じゃないと思うわ」
ジーラさんがあの人と呼んだ人は、俺が最初に助けた、足を怪我した男性だった。




