第十二話 女神の指輪
ジーラさんの他にペルスさん、ザルーガさんが訓練場にいた。
「きたわね。 あなたたちにお客様が来ているわよ」
「お客様? ペルスさんのことですか?」
「そうよ」
名前を呼ばれたことに気付いたペルスさんが、早足で俺の所まで歩いてきた。
(ペルスさん……痩せた?)
ペルスさんには、目の下にはクマがあり、何だか疲れ切った顔をしている様な気がする。
そんなことを思っていると、ペルスさんがいきなり、両膝を地面につけた。
そして俺を見る。
「きっ昨日は、しっ失礼な態度を取ってしまって、本当に申し訳ありませんでした!」
そう言って、ペルスさんは頭までも地面につけた。
ペルスさんが土下座をしたのだ。
「まさか!? あなた様が、勇者様で王族様だとは、知らなかったとは言え、何とお詫びをしたらいいか」
土下座をしたまま謝り続けるペルスさん。
すると、ザルーガさんとジーラさんが…
「ソラ、お前! 王族だったのか?」
「ソラくん本当なの?」
と、ほぼ同時に俺が王族なのかを聞いてきた。
なんとなく、俺はジーラさんとザルーガさんの顔を見て比べる。
(やっぱりこの二人は似てないよな)
昨日の昼に、その事をジーラさんに言って見たら、当然の様に『正真正銘、血の繋がった兄妹よ』と言われた。
(じゃなくて)
今は俺が王族なのかってはなしだ。
ばぁちゃんが王族だからと言って、俺が王族だと言うわけではない。
「えっと……」
ここで『実は俺の祖母が、リフホーネの元王女だった人なんです』と言っても、信じてもらえないだろう。
この世界でばぁちゃんが生きていたのは700年前の話なのだ。
その孫が700年後の今に生きているはずがない。
そもそも、ばぁちゃんがじいちゃんと一緒に日本に帰って行ったことも、ペルスさんたちが知っているかわからない。
俺はばぁちゃんのことを隠すことにした。
「とりあえず、ペルスさんは頭を上げてください。大体俺自身が、王族の血だなんて何のことか分かってないんです。だから、俺は王族ではありませんそれに、俺が勇者でも昨日の事は別に気にしていませんから」
ペルスさんは立ち上がり俺の手を取り握った。
「ソラ様、寛大な心感謝いたします」
ペルスさんはいつの間にか俺の名前を知っていた。 多分、リラが教会で俺の名前を何度も呼んでいたから、そこで知ったのだろう。
「俺のことを様付けするのはやめてくれませんか? そらと呼び捨てで呼んでください」
様付けされるとなんか恥ずかしい気持ちになる。
「そっそんなことはできません。ソラ様と呼ばせていただきます」
それから何度か同じ様なやりとりをしたが、ペルスさんは俺を様付けすることを譲らない。
結局、俺はペルスさんに様付けされることを承諾した。
ペルスさんの顔が一世一代の決心をしたような顔になった。
「ソラ様」
ペルスさんが俺の名前を呼び、ポケットから綺麗な小さな箱を取り出した。
「女神レーアス様に愛されている、ソラ様にならこれを渡してもいいでしょう。どうか、お受け取りください」
そう言って、ペルスさんが箱を開けると、その中には綺麗な金の指輪が入っていた。
ペルスさんは、指輪を取り出して、俺に渡そうとしてくる。
(ちょっと待て!?俺って今……ペルスさんにプロポーズされてるのか?)
一世一代の決心をしたように見えたペルスさん。それにたかそうな指輪。
それにペルスさんが先程言った言葉。
俺の中でいろんな可能性が思い浮かぶ。
俺とペルスさんとの幸せな家庭……どんなことも2人で乗り越えられる。
「なわけあるか!!」
俺が急に大声を出したことにみんなが驚く。
「すいませんペルスさん。それは受け取れません。俺は結婚するなら、女性の方がいいです」
俺がそう言った瞬間、この場が凍りついたような気がした。
「「「「…………はぁっ? 」」」」
何言ってんのこいつ。という目でみんなから見られている気がする。
気がするではなく、これは確実にそう見られているだろう。
すると、リラが口を開いた。
「ソラって、馬鹿だったんだね」
リラの言葉に周りの人も頷く。
「えっ! どこが? 」
「俺のどこがバカなんだ?」
「それはね。ペルスさんはただ単に、ソラに指輪を渡そうとしていただけなんだよ」
どうやらプロポーズではないらしい。
「そうなの? てっきり俺は……『レーアス様に愛されているなら、男でも関係ない。俺と結婚してくれ!』言って、高そうなその指輪 を結婚指輪として、俺に渡そうとしているのかと思っていだんだけど?」
言葉に出してみると、俺はバカだったと実感が湧く。
妄想のしすぎだ。
「めっ! 滅相もありません。それに私には妻と可愛い娘がいるので。ですからこれを受け取ってくれませんか?」
俺は金の指輪をペルスさんから受け取った。
「これは、【女神の指輪】と言ってですね。先祖代々受け継がれているものなんですが、その名の通り女神の力を宿しているらしいのですが……」
【女神の指輪】は、女神の力を宿している魔法具らしいのだが、ペルスさんや他の人が魔力を流しても何も起きなかったそうだ。
寛大な心と【女神レーアスに愛されし者】などの称号を持つ俺なら、この指輪を使うことができるかもしれないと言うことで俺に渡す事を決めたらしい。
「ソラくん。女神の指輪に魔力を流してみてくれない?」
ジーラさんが俺に言った。
「わかりました」
俺は【女神の指輪】魔力を込める。
すると、指輪が小さく光り始めた。
「ソラ様はやはり、凄いお方です! 」
ペルスさんは俺を絶賛する。
本当に昨日の態度と大違いだ。
「だから言ったじゃん! ソラは凄いんだって!!」
リラは昨日の事をまだ根に持っている様だった。
「ソラくん。その指輪の力について何かわかった? 何かの力を身につけたとか、女神レーアス様と連絡をとれそうとか」
「光っているだけでまだ何も……ただ」
この指輪が、リフホーネがある方向にある何かに、
惹かれている様な感じがした。
が、確かなものではなかったので口には出さない。
「それじゃぁ、そろそろ訓練を始めましょうか。ペルスさんもこれで安心して寝れるでしょう」
ペルスさんに疲れ切っていた様に見えたりクマがあった理由は、俺に失礼な態度を取ってしまった後悔で食事も進まず、昨日は全く眠れなかったからだそうだ。
(かわいそうに)




