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異世界作家生活<なろう連載版>  作者: 森田季節


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巨乳と真剣に向き合ってみた(前編)

 その日、授業の終わり頃にシーナさんが入ってきた。


 なぜか、ナース姿で。


 この人、コスプレ好きだよな。


「はーい! 本日は授業終了後に、二階で身体測定をしますからね!」

 生徒たちがきょとんとする。

 教師の俺もきょとんとした。


「あの、なんで小説教える学校で身体測定やるんですか?」

「やりたいからです」

 シーナさんの背後に「きっぱり」という文字列が見えた。


「わかりました……。悪いことではないし、やりましょう……」

「ついでにチカラ先生も測りましょうね!」

 まあ、生徒が帰る前では学校にいるべきだし、ちょうどいいか。

「男子はここで下着姿になって二階に並んでくださいね。女子の方は二階の空いている部屋を更衣室兼測定室にします!」


 ――というわけで、体重や身長を見てもらうことになった。

 男子のほうが服を脱ぐのが早いので、服を脱いだ男子から階段で列を作る。俺もそこに混じる。


 なんか小学生とか中学生に戻ったみたいで、ちょっとわくわくする。

「あっ、次はチカラ先生ですね。はい、ここに座ってくださいね!」

 シーナさんに測定されるの、ちょっと恥ずかしいようなうれしいような変な気持ちだな……。


 予想に反して、デジタル式のやつだった。

「もっと古典的な、目方によって針が左右に動くやつだと思ってました」

「それだとサイクロプスのイタミル君なんかが乗った時に壊れるかもしれませんから」

 異種族の社会だとそういう配慮がいるんだな……。


「これ、相手のステータスを認識する魔法がかかってるんですよ。なので、乗ると、基本ステータスがわかるんです」

「ステータスって言われると急にゲームっぽいですけど、まあ、体重や身長もステータスといえばステータスか」

「実は『運のよさ』とか『異性好感度』とかもわかります」


「ハイテク通り越してプライバシー侵害だ!」

「だからといって、今日のラッキーアイテムなんかはさすがにわかりませんけどね。日本だとどうやってそんなもの、測定してたんですか? ニュースでよく流れてましたけど」

「まやかしとわかってても気にしちゃうものなんです。そういうものなんです」


 そんなこと言ってるうちに、すぐ結果は出た。

 六十一キロ。

 百七十三センチ。

 去年とほぼ何も変わってないな。太ってもやせてもないのでよかった。


「はい、終わった男子の方から帰ってくださいねー。女子が測定してる間は二階にいるのは禁止ですからねー」

 当然のルールと言えばルールだ。そもそも二階の廊下に残らないといけない事情なんてないし。


 小説書き方教室には「よーし、のぞこうぜ!」みたいなノリの奴はいないので、すごすご帰っていった。


 イタミルが小声で「やった、五百キロ切った」とつぶやいているのが聞こえた。俺の価値観だと誤差である。


 一方で、コボルトのスルーグァは「三十二キロですな~」と言ってたが、これ、種族違うから「お前、何キロだったんだよ~? 隠さずに教えろよ~」ってノリのやつができんな。


「あっ、シーナさん、俺はどうしたらいいですか? 控え室、二階なんですけど……」


 翌日の授業準備などをするので、問題ないなら部屋で仕事がしたい。

 何時間もやるわけじゃないだろうし、まずいなら一階に降りて待つが。


「ああ、控え室にいてくれたらいいですよ。終わったら呼びに来ますから、それまではあんまり無闇に出歩かないでくださいね」

「俺も変態教師だと思われたくないから、じっとしてますよ」


 とくにミクニあたりから何を言われるかわからんしな。

「あと、あんまり女子生徒に変なことしないでくださいね」

「やだな~、先生、女の子同士だから何したって無罪じゃないですか~」


「ほんとに変なことしないでくださいね!」

 効き目があるかわからんが、釘を刺しておいた。


 俺にすら何の連絡もなしにシーナさんはやってくるのでびっくりはするが、どうしてもデスクワーク中心で、盛り上がりに欠けがちな小説の学校を楽しいものにしてくれるのでありがたくはある。


「さて、次の授業は改稿の方法についてだったな」

 改稿というのは誰かに言われるまで意外と気づかない概念なのだ。

 とくに応募原稿の中には書いたら書きっぱなしというのが多い。


 プロの作家ですら数回の修正や加筆、微調整などを重ねたうえで出版しているのだ。ビギナーが書いてすぐに送っても、普通に考えてクオリティが受賞レベルに届かずに落ちる。

 ただ、小説家の場合は編集者が問題点を指摘してくるが、ビギナーの場合は誰も何も言ってこないからどこをどう直していいかわかりづらいというのも事実だ。

 そのあたりのことを説明していければと思っている。


 ん?


 なんか騒がしい気が。

「わ~、かわいい下着!」


「え~、そっちのほうがかわいいよ!」

 変な声が出そうになった。


 あっ、これ……。すぐ隣が更衣室兼測定会場なんだ……。

 どうしよう、聞こえてるから声を出すなと言うか?

 ダメだ。それじゃ聞いていたと言ってるのと変わらない。

 しかもどうやって測定中に言いにいくんだよ。

 この世界だとスマホで呼び出すこともできんしなあ……。


 しかし、このままでは黙って盗み聞きしてることになるぞ。それもまずい。

 ならば独り言を言って、声が耳に入らないように――絶対にナシ。

 こっちに声が聞こえるということは俺の独り言が隣に聞こえもするということだ。

 男が壁をへだてて存在していると認識させたら、いい気持ちはしないだろう。


 決めた。


 無心でいよう。


 別に俺の話題が出るわけでもないんだし、耐えればいい。


「ねえ、ミクニちゃんって、先生のこと、好きなの?」


 俺の話題出た!


 そりゃ、どうしたって聞こえるわ!


 人間の脳は自分の名前が出たら強く反応するようにできてるんだよ!

 くそ、俺の話題を下着姿でしないでくれ!


「な、何を言うてやがるですう! あんな才能もデリカシーもすべてがない奴を好きになる理由なんて、どこにも存在しないのですう!」


 また徹底して否定してきたな……。

 いや、ある意味、ゆがみがない分、すがすがしいけどな。ここで無茶苦茶リスペクトしてるなんて言われても次の授業で目を合わしづらいわ。

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