教え子が受賞した
その日、やけにシヴァは機嫌がよかった。
というか、授業中ずっとにやけていた。
なんだ、親が誕生日プレゼントでも買ってくれたのかなと思ったけど、百三十七歳だから親が買ってくれる年齢じゃなかったし、親が生きてるかも謎だった。
いまだに見た目に引っ張られて、七歳の幼女で考えてしまう。
人は見た目がすべてである。性格ブスという言葉があるが、逆に言えば容姿はブスじゃないということであり、両方ブスな人間の存在価値を結果的に全否定してるので問題があると思う。
放課後、シヴァが小躍りしながら俺のところにまで来た(ただしローブはやっぱり長すぎて引きずっていた)ので理由がわかった。
「ふふふ、わらわは受賞したのじゃ!」
「え、受賞!? マジで?」
「マジなのじゃ! ちなみに魔道士は一種のMAGIなのじゃ!」
おお、帽子に現れる目まで今日は笑ってるじゃないか。
具体的に何の賞かわからんが、とにかくめでたい。
俺もついに「○○を育てたのは俺ですよ」とかドヤ顔で言えるのか。感無量だ。
なお、実績のない奴に限って、下読み作業で読まされた中に大物がいただけでそういうことを言ったりするものらしいので、よほど自分が実績ない限り、育てたのは俺だなんて言わないほうが身のためである。
外から見ると痛々しい。赤の他人にそう思われるならいいけど、仕事をくれる立場の相手にそう思われたら、無意識のうちに仕事をつぶしてることと同じになる。
それは置いておくとして――
「いったいどこの賞なんだ? 源撃か、藤美か、メディア工場か? 字叡、ガガガガ?」
「魔法使い呪文大賞じゃ!」
明らかに初耳。
ていうか、それ、小説の賞じゃないよな。呪文って銘打ってるもんな。
「正確には第七百五十四回魔法使い呪文大賞じゃ!」
「とてつもない伝統と実績!」
確実にあらゆる日本の賞より古い。
「魔法使い呪文大賞は、自分の考えたこれまでにない呪文を送るコンテストじゃ。なお、威力だけでなく詠唱の美しさやかっこよさが評価対象になるのう」
シヴァがすぐに説明を加えてくれた。
「ああ、ということは一種の詩とか短歌の賞みたいなものか」
だとしたら、やっぱりすごいことではないだろうか。
まあ、韻文(いわゆる詩のこと。一方で小説はこの逆で散文)についての指導なんてしてないので俺の功績じゃなくて、シヴァの魔道士本来の実力によるものだが。
「今回、この魔法使い呪文大賞の『象牙の杖』賞を受賞したのじゃ! 『ヤドリギの蘇生』賞に次ぐいい賞じゃぞ!」
「賞の格、わかりづらい」
最優秀賞とか金賞とかそういう名前にしてほしい。
「ちなみに、これが受賞の証拠じゃ!」
小さなブロンズの像だが、乳房が八つあって、顔も三つあった。その顔も明らかに怖い。
けっこう気持ち悪い。
「立派な邪神像じゃろう?」
「あ、やっぱり『邪』系なんだ」
「かわいいの~、かわいいの~」
シヴァはその像に頬ずりしだした。
口説き文句的なアレではなくて、実際の意味でお前のほうがかわいいよ。
「あ~、いつかわらわもこんな邪神を召喚して国一つぐらい滅ぼしてみたいものじゃ」
相当悪質なテロリスト宣言だが、魔道士的にはアリなのだろう。多分。
「ああ、そうじゃ、そうじゃ。これだけでは師に自慢した意味がないの」
シヴァは今度は動物の皮をなめして作ったシートを出してきた。
これに詩が書いてあるんだろう。さすがに本格的だ。
「当然、詩としてもわらわなりのベストを尽くしたからのう。師に披露せんと持ってまいった」
「俺、詩の専門家じゃないけど、ありがたく拝見させてもらうぞ」
「さあ、ぜひとも生徒の活躍を知ってほしいのじゃ!」
おそらく原文はアルクス王国語なんだろうがそこはお約束で、ちゃんと日本語として認識できた。日本とつながってる空間移動のトンネルのおかげである。
「呪文なのでぜひとも声に出して読んでみてほしいのじゃ」
「どれどれ――羊歯は音もなく忍び寄りて、亜麻色の髪した聖女の房を目指す。夜露に身を晒して色を濃くする葉は、冴えた刃のように黒と白の光を宿す」
どことなく、官能小説の雰囲気があるな。
微妙にエロ系じゃないだろうな。まだ授業が終わって間もないので、生徒が教室に多少残ってるし、少しばかり恥ずかしい。
「聖女がまどろんでいるうちに羊歯は髪に絡まり、その命の力の在り処かを探す。そして、そこに火を焚きつけんとする」
うん、格調高い気はするけど、このままだと多分エロい方向に進むぞ。
そうならなかったとしても、聖女を絞殺するとか、グロにいくな。楽しく羊歯と聖女が添い寝しましたってことは魔道士の呪文だし、ないだろう。
「あ、そこまででよいのじゃ」
シヴァもそれはわかっていたのか止めてきた。
「最後まで読むと都合の悪いことになるのじゃ。あとはまた時間を空けてから読んでほしいのじゃ」
「そうだな。大人な内容だし、残りは講師控え室で読むか」
「いや、とくに卑猥な内容はないのじゃ。ただ、魔法が発動するからのう」
「魔法? 俺、魔法の素養ないけどそれでも発動するのか」
「最後まで読むと詠唱者が爆発するトラップ系の魔法じゃ」
「読ませんなや!」
うかつに全部読んだら死ぬじゃねえか!
「読ませた相手を殺すという斬新な方法が攻撃魔法として面白いと評価されたのも、受賞の理由じゃ。魔法の威力や効果なども審査部分であるからの」
悪びれることなく、この魔道士は胸を張っている。
ていうか、これ、知らずに読んだ奴、どうなるんだよ。
「なにげなく、朗読用の詩に紛れこませれば、そやつは知らないうちに自爆の詠唱を終えて死ぬ。自己を犠牲にする魔法は発動条件がゆるやかであるからの。各人が持つ微弱な魔力でも起動するというしかけじゃ」
「絶対にこれ、俺の世界に持ちこむなよ……」
「下読み段階で三人爆発したのじゃ」
「下読みの人のことも考えてやれ!」
そんな高いリスクを冒してまでやる仕事ではない。
「選考会議では『まさに地雷だよね』という意見が出て、笑いをとったらしいの」
「いやいやいや! 負傷者出てる時点で笑えねえよ!」
「なお、死者が出てたら、受賞には至らなかったそうじゃ」
「ああ、下読みの人も死んでなかったんだ、よかった――って安堵してる場合じゃねえよ! 死者出るかもしれないものを送るな!」
「いや、魔法使い呪文大賞は毎度そんなもんじゃぞ。応募された呪文がどんな力を持っているかわからないというところも含めて、選考委員の魔法使いと応募者のガチの戦いの場なのじゃ。もちろん選考委員ともなれば本格的な対魔防御をしておるから、そうそう死ぬことはないがの」
異世界の風習って難しい! 異世界、怖い!
「これだけ間を空ければ大丈夫じゃろう。後半も読んでほしいのじゃ」
「本当に爆発しないんだろうな……? やっぱり発動しましたってことになったら取り返しがつかんぞ……。本当に大丈夫なんだな?」
「後半は韻を踏むように心がけたのじゃ」
「俺の質問に答えて! そこは絶対にスルーしちゃいけないとこだから!」
結局、爆発はしなかったものの、恐怖心のせいで、ほとんど内容は頭に入りませんでした。




