64:あなたは良い兄です。
065
「ありがとうね、お嬢さん……」
「はい……どういたしまして……」
成田国際医療福祉大学病院にて
シャーロットは点滴の交換を、ある高齢の患者に手際よく行っていた……その様子を、若い医師二人がそばで見学していた……
彼女は自然な笑顔をおじいさんに向けていた。まるでそれが本当の自分の姿であるかのように……
パチパチ……若い医師や看護学生たちが彼女に拍手を送った……
「本当によくできてる……さすが元宮島会長のお嬢さんだね……」
若い医師の一人がそう言った……彼女は素直に頭を下げてその褒め言葉を受け取った……
「では……皆さん、今日はここまでです……」
「お疲れさまでした……」
学生たちはそれぞれ食事に行ったり寮に戻ったりしていった……シャーロットも同じように……
メールが届いていた……ユウタからだった
[アメリアさんにモデル見せたよ……すごく気に入ってくれた……]
「……はは、お母さんらしいね……」
彼女はそう返信した……
「お疲れさまでした……」
さっき彼女を褒めてくれた若い医師が声をかけてきた
「あ……お疲れさまです……あの……」
「慶治です……慶治シンタです……」
「慶治先生……ありがとうございます……」
え……待って……この苗字……
一緒に住んでいるあの少年の顔が、ふと頭に浮かんだ……
「先生……ユウタとは、どういうご関係なんですか?」
シンタ医師はそれを聞いて目を大きく見開いた……明らかに動揺した表情だった……さっきまでの落ち着いた雰囲気とはまるで違っていた……
「彼女、あいつに会ったんですか!?……」
彼は廊下に響き渡るほどの声で叫んでしまった……危うく口を塞ぐのが間に合わないところだった……
「……場所を変えましょうか……」
二人は喫煙エリアのバルコニーへ移動して話すことにした……
「彼とは知り合いというだけです……」
「そうなんですか?……それで、彼が今どこにいるかは聞いてないんですか?」
シャーロットは軽く首を振った
「いえ……聞いても、彼は絶対教えてくれないと思いますから……」
昨日、母から電話があってよかった……
昨夜……
[もしもし……シャルちゃん、元気にしてる?……]
「すごく疲れてます……早く家に帰りたいです……」
[はは……まあ、あと三週間だけ我慢してね……そしたら帰ってこれるから……]
「うぅ……お母さんに会いたい……」
[子供みたいに甘えるんだから……あ、そうそう……ちょっと伝えておきたいことがあるんだけど……]
「何ですか?」
[もしユウくんのお兄さんに会うことがあっても、彼が私たちと一緒に住んでるってことは絶対言わないでね……]
「え?……なんでですか……」
横になって話していたシャーロットは、思わず勢いよく起き上がった
[今日、ユウくんのお母さんに会ったのよ……ちょっと話してみたんだけど……正直言って……あの人、本当にひどい母親だったわ……]
「それで、ユウタのこと何か話したんですか?」
[彼が何をしてきたか、ちゃんと話してあげたわよ……でもあの人、自分の息子のことなんて全然気にかけてなかった……]
気にかけていない……それって、おかしいんじゃないだろうか?
物心ついた時から、シャーロットは両親からきちんとした愛情と教育を受けて育ってきた……そんな状況は一度も経験したことがなかった……
「はい……分かりました……」
アメリアはユウタの母親と出会った経緯を、シャーロットに詳しく話した……
現在
「そうなんですね……無事だと分かっただけでも安心です……」
彼はとても優しいお兄さんという印象だった……でも母親に約束してしまった以上、それは守らなければならなかった
「今のところ、彼は帰るつもりはなさそうです……」
「……そうですか……」
「……あなたの弟さん、本当にすごい人ですよ……」
「あいつは元々すごいやつなんですよ……」
彼は今、夕陽に染まって金色に輝く空を見つめていた……
「昔はね……父が浮気してるって発覚する前は、あいつよくいろんなものを作って遊んでくれてたんです。おもちゃの銃を作ったり、小さなラジオを作ったり……もう少し大きくなってからは、自分でパソコンを組み立ててくれたこともありました……」
ユウタの話をする時、シンタの瞳はぱっと輝いた……
「そうなんですね……」
彼が今何をしているか、話してもいいのだろうか……
まあいいか……言うなら言う。隠しておく理由なんてないでしょう?
「あの……先生」
「はい?」
「これ……あなたの弟さんの作品です」
シャーロットはホリカワ・ホリキタの配信映像をシンタに見せた
「このモデル、彼が作ったんです……それに……この子がもう一度話せるようになるのを、彼が助けたんですよ……」
「……………」
彼は自分の涙を拭った……
「ありがとう……これを見せてくれて……」
「あなたはいいお兄さんですよ……自分を責めないでくださいね……」
「うん……」
「よお……エモくん、もう授業終わった?」
[うん……今日はモデル作り休むことにしたよ……毎日やってたら体がもたないからね……]
シャーロットは最近、彼に電話をかける回数が増えていた……
「無理しないでね……」
[しないよ……君もね、無理しないでよ……]
「うんうん……」
「ねえ……」
[何?]
「あなた、いいお兄さんがいるんだね……」
ユウタは黙り込んだ……
[会ったの?]
「心配しないで……あなたのことは何も話してないから……」
[ありがとう……それで、彼は何か言ってた?]
「特に何も……ただ、すごく泣いてたよ……」
[……………そっか……じゃあ、電話切るね]
「うん……お母さんによろしく言っといてね……」
通話終了……
「……何か食べに行こうかな……」
彼女はカレンダーに目をやった……
「あと三週間しかないんだ……」
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