53:ここにいてくれる?お願い、行かないで……
054
「ただいま帰りました……」
「あら?……早いお帰りね……今日は仕事お休みなの?」
9月25日の夕方……相変わらず雨が降っていた……
今日、シャーロット・宮島は予定より三時間早く家に帰ってきた……
「今日はお休みをもらったんです……なんていうか、来週から大学も新学期だし……もうすぐ病院での実習も始まりますし」
彼女は二階へ上がりながら服を着替えた……
「そう?……今日は楽しかった?……」
「はい、良かったです……お母さんに新しい服も買ってきたんですよ。あとお母さんの好きなミルクチョコレートとチーズケーキも」
「あらまあ……新しい服なんて買わなくても良かったのに、もうたくさん持ってるんだから……でもありがとうね。晩ご飯食べたら、買ってきたお菓子を食べながら映画でも見ましょうか?」
「いいですね……たまにはムービーファミリータイムもいいですね……エモくんは?」
「まだ帰ってないわよ……多分仕事が忙しいのね……」
「そうなんですか?……」
アメリアはしばらく黙った後、ユウタのことを話し出した……
「明日、ユウくんは出て行っちゃうのね?」
「あ……うん……」
着替えを済ませると、彼女はリビングに降りて座った……
「お母さんはね……娘がまた男の子とこんなに仲良く話せるようになって、本当に嬉しいのよ……」
シャーロットは男性恐怖症というわけではなかった……けれど、誰かと親しくなることには今も恐怖を感じていた
アメリアはこの娘のことを何もかもよく知っていた
中学時代、娘が親友に彼氏を奪われたことも知っていた……だからこそ、どんなに辛いことがあっても、いつもこの子のそばにいるようにしてきた
「……………」
「お母さんはずっと怖かったのよ、知ってる?……あなたが……寂しい思いをするんじゃないかって」
「寂しい、ですか?……でも私にはお母さんがいるし、友達もいるし……全然寂しくなんてないですよ……」
「本当に?」
たった一言の問いかけに、シャーロットは言葉に詰まってしまった……
「お母さんはね、あなたに彼氏の一人くらいいてもいいと思うのよ……そばにいてくれる人がね……」
「何言ってるんですか……私は寂しくなんてないですから……お母さんがいますし……それに彼はただの友達なんですから……」
「……シンジくんの顔をグラスで叩いた時も、同じことを言ってたわよね……」
「……………」
「これが強制みたいに聞こえるのは分かってるわ……でもあなた、考えたことない?そろそろあの日のことから前に進んでもいい頃なんじゃないかって……」
「私……なんていうか……」
「あ、あ……いいのいいの、こんな話をしてごめんなさいね……」
「いいえ……お母さんの言う通りです……私、過去に縛られちゃいけませんよね……」
人は前に進み続けなければならない……アキトが昔、彼女にそう言っていた……
「お母さん?」
「ん?……」
「お母さんは……VTuberって知ってますか?」
「VTuber……ああ、あの動くアニメのキャラクターみたいなやつでしょ?」
「はい……それです……私、その……やってみたいな……って思ってるんです……」
アメリアは煮込んでいたビーフスープのガス火を弱めた……エプロンを外して、娘の隣にソファに座った
「VTuberになりたいの……」
「はい……」
「あなたがなりたいって言ってた看護師のお仕事はどうするの?」
「それは……諦めることになると思います……」
アメリアは、今少し戸惑っている娘の目を見つめた……そして微笑みながら、たった一人の娘の頭を撫でた
「それで……本気でやるつもりはあるの?」
「分からないです……ただ、やってみたいって思っただけなので……」
「やってみたいと思うなら……本気でやらなくちゃね……分かってる?」
「……………お母さん」
「もしVTuberが無理だと思ったら、他のことをすればいいのよ……」
「反対しないんですか?」
「反対する理由なんてないでしょう?……あなたが選んだことだもの……失敗するかどうかはあなた次第……無理だと思ったらまた最初からやり直せばいい……上手くいってもいかなくても、お母さんはいつだって応援するわ……あなたが良いと思うことをすればそれでいいの……」
「お母さん……」
「あなたの人生はあなたが選ぶものよ、間違えたらまたやり直せばいい。何かを始めるのは決して悪いことじゃないんだから。それに、今自分がやろうとしていることは他の人がやっていることより劣っているんじゃないかなんて、気にする必要はないのよ」
「あなたが優秀だってお母さんは知ってる……それにこれからだっていろんなことに挑戦できるのよ。今挑戦するのも、五十年後に挑戦するのも、遅すぎるなんてことはないんだから……」
「やってみたいという気持ちがあるだけで、それだけで十分よ……」
「……ありがとうございます……本当にありがとう、お母さん……」
少女は母親に寄りかかり……強く抱きしめた
「大丈夫よ……さあ……もうすぐユウくんが帰ってくるわよ、涙を拭いておきましょうか?」
「はは……はい……」
「ただいま帰りました……」
「おかえりなさいユウくん……ちょうど晩ご飯ができたところよ……」
ユウタはソファに鞄を置きながら食堂へ歩いていった……テーブルに座っているシャーロットが見えた……
彼女の目は少し腫れていた……けれどユウタはそのことには触れなかった
「おかえりなさい、エモくん」
「うん……ただいま……」
三人はいつも通り晩ご飯を食べた……
「あの……アメリアさん……今までお世話になりました……」
「明日にはもう出て行っちゃうの?部屋はもう見つかったの?……」
「あ……その……まだです……」
アメリアはシャーロットの顔を見ながら目配せをした……それを見たユウタは少し首を傾げた……
シャーロットは一度咳払いをしてから、恥ずかしそうな様子でユウタの顔を見た
アメリアはその様子を見て、思わず笑みをこぼした……
「ねえ……エモくん……」
声を聞く限り、彼女は本当に緊張しているようだった……
「何?」
「その……あの……なんていうか……」
彼女の顔はさらに赤くなった……
「私……その……したいの……」
アメリアは瞬きもせず二人を見つめていた……それを見たシャーロットは動揺して言葉が出なくなった……
そして、うっかりその言葉を口にしてしまった……無意識のうちに
けれど、母親にはしっかりと聞こえてしまった
「私、あなたに……ずっと私のそばにいてほしいの!?」
「え……」
「あ……あぁ……」
シャーロットは自分が何を言ったか気づいて、恥ずかしさのあまり何もできなくなった……
「あらまあ……お婿さんが欲しいなら早く言ってちょうだいな……」
シャーロットは拳を握りしめた
「お母さん!!!」
「さあ……お母さんはもう食べ終わったから……ちゃんと洗っておいてね……お母さんは映画を見てくるわ……」
アメリアはそう言い終えると急いで食べて、そそくさと食堂を出て行った……
二人はしばらく何も話さずに食事を続けた……
「「あの!」」
同時に口を開いてしまった……
「なんていうか……ち……違うの!ただ言い間違えただけなの!!ただ、もう少しここにいてほしいって言いたかっただけで!」
「そ……そうだよね!!人間、言い間違えることもあるよね……はは」
「……エモくんは、もう少しここにいてくれる?」
「まあ……君がそう言うなら……もう少しいてもいいよ……」
彼女は少しだけ微笑んだが、すぐにいつもの表情に戻した
「……よかった……」
食事を終えると、ユウタはお風呂に入る準備のため部屋に上がった……
「今日は夜遅くに映画を見ましょうねユウくん」
「はい……」
シャーロットは彼の後をついて上がっていった……そして彼の服の裾を掴んだ……
「どうしたの?……」
「どこにも行かないで……」
「え……」
「もう……どこにも行かないで、いい?」
「あ……うん……君が出て行けって言うまで、どこにも移らないよ……」
「約束だよ……」
彼女は小指を差し出した……
「うん……約束」
何かを始めようとするとき、様々な障害に直面することもあるでしょう。しかし、私たちには十分な時間があると私は思います。20歳で挑戦しようと、50歳で挑戦しようと、変わりはありません。たとえうまくいかなくても、それはそれで構わないのです。もし物事がうまくいかなければ、単にやり直したり、別のことに取り組んだりすればよいだけのことですから。




