104 :青山アキト 第5話
105
「美味しい!」
「たくさん食べてね」
前回双葉が僕の家に来た時、病気が再発して倒れてしまった....だから今日は代わりに彼女の家に遊びに来た
正直言って...「家」と呼ぶより...「邸宅」と呼ぶ方がふさわしいだろう
ヨーロッパ貴族の邸宅様式で建てられたその屋敷には、立派な門があり、黒いスーツにイヤホンをつけた警備員が巡回していた。双子の兄妹が共同で手入れした花壇が、通路の両側に広がっていた。
大理石でできた花壇への小道は本当に上品な雰囲気を醸し出していた....そして通路の真ん中には車道があり、大きな邸宅の中心には中くらいの大きさの噴水が目立つように堂々と立っていた
ある日の夕方...双葉が学校に普通に戻ってきた後、彼女は僕を家に招いてくれた...そしてそれは僕にとって人生で初めて有名高級ブランドの車に乗る経験となった
特注の艶やかな黒いシートは柔らかくて一生座っていたいほど快適だった、リクライニング機能とマッサージ機能がついていてシートに溶けてしまいそうだった、心臓まで響くほどの音響システムがあって、好きなアニメや映画を見られるLEDスクリーンもあって、そして何より...食べられるお菓子がたくさん用意されていた
「うちに来てくれて嬉しいよ」
着くと...僕はこの家の花壇に案内された、左側の庭には美しい東屋が堂々と立っていて....そこには美しく飾られたお茶を楽しむテーブルがあった
椅子に腰を下ろした瞬間....まずテーブルに置かれていたのは数十個のマカロンと僕の好きな飲み物第三位の牛乳入りアイスココアだった
「いえいえミスさん、正直言って...こんなにワクワクしたのは初めてです、特にあの花壇は.....本当に美しいです」
双子の姉妹は満面の笑みを浮かべた....だってこの花壇は彼女たちが力を合わせて丹精込めて育て上げたものだったから
「ふふ ありがとうアキトくん」
双葉はお礼を言いながら照れ隠しにココアを飲んだ....正直言って彼女と友達になれて少し良かったなと感じていた
だって、僕に今まで経験したことのないものを体験させてくれたから
「私たち二人で育てたんだよ....子供の頃からずっと頑張ってきたの」
ミスさんは誰かを懐かしむような眼差しでそう言った....もしかしたら家族の誰かのことかもしれない
「お二人とも、本当によく頑張りましたね.....」
僕ら三人はマカロンを食べてココアを飲みながら楽しく話した、それに僕はアオイちゃんも輪に誘った
「えっと...そうだ 今週末、僕のとこの家族で海に遊びに行くんです 三人とも一緒に行きませんか?」
僕は三人の女の子を誘った......それを聞いた双葉は目を輝かせて行きたがった、ミスさんとアオイも興味を示した
「面白そうですね! 私とアオイは海に行ったことないんです.....」
本当に?
「あ...私は一回だけ海に行ったことあります、子供の頃」
「え~~~ずるい.....」
彼女は駄々をこねてすごく可愛かった
「ごめんね、今回は無理そうだ」
でも....その嬉しい気持ちは双葉のお父さん、タダシさんの到着によってすぐに消えてしまった
「タダシ様、こんばんは!」
アオイちゃんが急いで頭を下げてお辞儀をした、本人は手を上げて止めた
「どうしてですか?お父様」
そう聞いたのは双葉ではなくミスさんだった、僕が見た限り、彼女はいつも双子の妹の代わりに前に出る傾向があった
「あの日は用事があって、父さんはお前たちを連れていかないといけないから....」
タダシさんは僕の方をちらっと見た......説明しがたい眼差しで
「申し訳ない....青山くん」
皿屋敷家が青山家を何か嫌っているのかは分からなかったけど、なぜかタダシさんは僕のことをものすごく嫌っているように見えた
「..........大丈夫です...分かります」
そしてタダシさんは去っていった
「.............ごめんなさい」
ああ...またあの表情だ.....あの悲しそうな表情......
「心配しなくていいよ...」
僕は彼女の頭を軽く撫でた..彼女は照れながら急いで手を払いのけた
「今度海の写真をたくさん撮ってくるね」
僕は彼女に微笑んだ....彼女もすぐに頷いて答えた
「あらあら」
ミスさんとアオイちゃんは口を手で覆いながら、僕ら二人に意味深な眼差しを送ってきた
「そんなんじゃないから」
僕は...いつも幸せだった いじめられようが見下されようが、それでも幸せでいられた
「わあ!海すごく綺麗!」
でも今回は....違った
「でしょ、アッくん そういえば僕ら二人、久しぶりに海に来たよね池田さん」
伯父さんは弁護士だから...運転手付きでも不思議はなかった
「そうだよ.....彼女は海に来るたびに水着を着るんだけど、いつも変質者どもが僕の可愛い奥さんを見てくるから、毎回気分が悪いんだよな」
伯母さんは生け花の先生だった....だから誰よりも美味しそうな和食を作れても不思議はなかった
「あらあら.....池田さんったら..最高に可愛いんだから...大好きよ!」
僕にとって....何が起きても伯父さんと伯母さんがいつも気持ちを支えてくれていた
「うわあ...バカップル」
車は交差点で停車した..そこから曲がればたった五分で海辺の駐車場に着く......
「着いたらすぐ海に走っていこう」
十数年前に買った高級車がゆっくりと前に進んでいった
「おい! 伯父さんの荷物運ぶの手伝ってくれよ!!」
幸せな雰囲気が溢れ出していた
「やだよ...めんどくさい」
大人になった今の僕でさえ....これ以上幸せな時間はもう二度とないと感じる
「ふふ....この二人、いつも言い合ってるんだから...」
振り返ると不思議なものだ....ただ海に行くだけの旅行だったのに
「別にそんなことないって」
でも僕はいつもそれを思い出す
「でも伯母さんはね、アッくんのことずっと大好きよ」
伯母さんの言葉が終わるのと同時に.....サーモンの弁当を食べていた僕は、右側から強い衝撃を感じた
その一瞬....後部座席から見えた二人の笑顔が歪んでいった
ガラスの破片がゆっくりと...細かく砕けて.....ゆっくり左側に飛び散っていった
僕にはそう感じられた
僕は前方を見た....それは大きなトラックのフロントガラスで、速度を全く落とす気配もなくこちらへ突っ込んできていた
そしてそれと同時に...二人の腕が僕を守るように抱きしめた
その光景はゆっくりと見えた.....でも体は動かなかった
意識が薄れていった
周りの音がはっきり聞こえた.....金属がぶつかる音、タイヤが擦れる音、少しずつ響くガラスの音
でも僕が一番はっきり聞いた音は......二人の悲鳴だった
はっきり聞こえた.....両耳いっぱいに
夢を見るたびに、時々その音が聞こえる 忘れようとしても忘れられない
その後僕は回転した....何十回転も
横の景色がトラックの衝撃の勢いで回転していった
そして............................................
目を覚ますと...自分があの古い車の残骸から引きずり出されているところだった、伯父さんがいつも「こいつはフェラーリよりかっこいい」と言っていた車の
それは裏返しになったカメのような姿で転がっていた.....
僕は見た...二人がシートとエアバッグに押し潰されているのを
ああ...
ああ....ああ...
違う...違う違う....違う違う違う違う違う
僕は走った...
意識が朦朧としていても...走った.....
なぜ走ったのか分からない...でもそうした....炎の塊に向かって、正気を失った人のように走った
僕は叫んだ....きっと伯父さんと伯母さんが上げた悲鳴よりも大きな声で
自分が何を言っていたのか...覚えていない
でも何度も何度も同じことを繰り返し言っていたことは覚えている.....何度も何度も...
そして次に見た光景は.....押し潰された体が焼け焦げていくところだった.......
別れの言葉もなく...何の言葉もなく
両目が痛んだ....アスファルトに触れた手は信じられないほど熱かった
ほんの一瞬.....たった一瞬
僕が持っていたすべてが.....瞬きする間に消えてしまった.....
そしてこれが..僕の本当の始まりだった
青山アキト
{次のニュースです......海岸でトラックが乗用車に衝突する事故がありました 調べによると加害者は風川健太、40歳、ある運送会社の社員であることが判明しました}
高速道路を走行中の高級車にニュースキャスターの声が響き渡った
皿屋敷家は話していた通り用事を済ませに来ていた
双葉は親友とだけ一緒に出かけられなかったことを思い、ぼんやりと窓の外を見つめていた
でも....自分が一緒に行かなかったことがどれほど幸運だったか、彼女はまだ知らなかった
{警察は加害者を取り調べ、居眠り運転によって信号を無視し、被害者の車に正面から衝突したことが判明しました}
「.........」
彼女はリモコンを手に取ってチャンネルを変えようとした、でも手が止まった
{なお被害者は夫婦で、青山池田さんと青山姫子さん でも一人生存者がいます、甥っ子であるA少年です 救助隊はA少年の救助を行い、二人の遺体を収容し、今後葬儀が執り行われる予定です}
双葉は震えた.....ニュースキャスターの言葉を聞いて
ミスはただ黙っていた....そしてこれが悪い冗談であってほしいと祈った
「お前にとっては幸運だったな」
二人の父親はそう言った........締めくくりとして
双葉はもう涙を止められなかった 彼女は泣いた...泣いた...そして泣き続けた
彼は何かを失った、彼女も同じように感じていた
そういうことだった
アキトには欲しいものがすべてあった。友達も、幸福も、そして家に帰るたびに「おかえり」と言って、ずっと練習してきたお菓子を食べさせてくれる人も。アキトが嫌がってもいろいろなことを教えてくれる人のおかげで、彼はいつも幸せだった……。
だが、ほんの一瞬の事故……それが彼を、今の彼という存在へと変えたのだ。




