第一話 アスポート村
ロッテのあとをついて砂浜を歩いていくと、打ち上げられた海草を拾っている女の子がいた。その子は、俺に気がつくと「ヒッ!」と声を上げ、カゴを置いたまま逃げ出してしまった。
「俺のせいで逃げ出した? 余所者が来ちゃまずかったんじゃ……?」
「大丈夫でしょ、アイツは照れ屋さんだからね~」
ロッテは気楽そうに言うが、そんな反応ではなかったような?
「あの子とは知り合いなのかい?」
「うん、リーザはあたしの友達だよ! あとで紹介してあげるから、仲良くしてあげてね」
「怖がらせてゴメンって、ちゃんと伝えておいて欲しいな」
「まっかせなさ~い」
「このカゴは置いたままで大丈夫かな?」
「すぐに戻ってくるとおもうよ、誰もぬすんだりしないし大丈夫」
「わかった」
浜から離れ、森の中に入っていくと建物が見えてくる。拓きすぎないように作られた村は、森によく馴染んでいた。
「とうちゃ~く! ここがアタシたちの村、アスポートだよ」
そう言って振り返ったロッテは、にっこりと笑った。
木と石で作られた平屋が、10軒ほど並んでいる。その奥にも道はつづいており、同じように並んでいる建物が見えた。
村の中央辺りに、ひときわ大きな建物があった。そこには村長が住んでいて、集会などが行われるらしい。
「アタシの家はこっち」
とてとて歩くロッテの後を追いながら辺りに目をやると、家の窓から、こちらを伺う顔がちらほら見えた。
ものすごく警戒されている? さっきの女の子の反応といい、ロッテだけが殊更ノンキなんじゃないかと不安になってくる。
「ただいま~」
元気よく扉を開けて入っていくロッテ、俺は恐る恐るその後に続く。
「お邪魔します……」そう言いつつ入りはしたが、玄関で立ち止まってしまう。
「お母さん! 海ですごい拾い物しちゃった! あのね……」
奥のほうで、ロッテが母親に大声で話している。
「あらあら、それは凄いわねぇ」
それに答えるのんびりとした声が聞こえた。
そうして奥から現れたのは、大人の女性。背は170cmくらいか、スレンダーな身体にスラリと伸びた手脚。金髪が腰まで伸びている。
瞳はロッテと同じ金色だが、やわらかい印象を受ける。耳も同じく尖っているが、この女性の方がロッテより長かった。
「ロッテの母親でシャールテといいます。浜辺で倒れていたとか、身体の具合は大丈夫ですか?」
「ありがとうございます。体調は問題ないようです。私はツアール。記憶がなく娘さんに名付けてもらいました」
シャールテさんは俺の目を見ると、優しい笑顔を浮かべた。
「ツアール、ですね」
「わ! わ! おかーさん! なかで座って話そうよ!」
「ええ、そうね」
クスクスとシャールテさんは笑う。やはり名前には何かあるのだろうか?
居間には丸い食卓と、背もたれのない丸椅子が4つ。
目立つ装飾などはない簡素な部屋だったが、清潔感があった。
テーブルにつくと、シャールテさんが温かな飲み物を出してくれた。良い香りがして、なぜか懐かしさを覚えた。
「この飲み物は……」
「これはお茶です。キリカという国の特産品なんですよ」
「お茶、キリカ……」
その言葉にピンとくるものは無い。だが、香りだけが何かひっかかる。
「あの子がツアールさんを拾ってきたなんて、失礼な言い方でごめんなさいね」
「いえ、実際に拾われたようなものですし、あのまま浜で一人きりではどうしようもなかったので、連れて来て貰えて助かりました」
「そーだよー、アタシは良いことしたんだもん。それに浜で拾ったものは、拾った人のだってジイちゃん言ってたし」
「ロッテ、それは海草や流木の場合であって、人は違うのよ? 人は誰かの持ち物にしてはいけないの」
「……でもそれじゃあ、ツアールどこかへ行っちゃうの?」
今までの元気が嘘のように、しゅんとした様子になったロッテを励まそうと話かけた。
「すぐに記憶が戻るとは限らないし、記憶が戻っても村に残るかもしれない。それに、村に居る間は、ロッテの言う事をなんでも聞くよ!」
「ほんと?!」
「約束するよ」
「約束!」
ロッテは笑顔を取り戻すと、自分のお茶を飲みほした。
「あまりツアールさんを、困らせてはいけませんよ?」
俺たちのやり取りを見ていた、シャールテさんはそう言うと目を細めた。
「滞在するにあたって、ツアールさんに、この村を知ってもらう必要がありますね」
「むずかしい話はお母さんに任せるね! あたしはリーザと約束があるから、出かけてくる。ツアール、また後でね!」
「わかった、また後で」
「リーザちゃんを、どろんこ遊びに誘っちゃだめよ」
「もう! そんなことしないし!」
ロッテは顔を赤くすると、足早に出ていく。ロッテを見送ったシャールテさんが、俺に話しかけてきた。
「これからも、ロッテと仲良くして上げてくださいね」
「もちろん、ロッテは俺の恩人ですから」
その言葉を聞いたシャールテさんは、柔らかく微笑んだ。




