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プロローグ 流れ着いたもの

 ロッテは(しお)の香りと砂の感触(かんしょく)を楽しみつつ、鼻歌まじりで歩いていく。

 もうすぐお気に入りの場所につく。そこで日の出をながめるのが習慣(しゅうかん)なのだ。


 年頃は10歳の少女。背は135cmとやや小柄ながら、活力を感じさせる足取り。金髪(きんぱつ)のショートヘアと、白いワンピースが浜風を受けたなびいている。好奇心(こうきしん)の光を宿した大きな金色の瞳。短くとがった耳が、彼女がハーフエルフであることを示していた。


 いつもの砂浜に、小精霊(しょうせいれい)(むら)がっていた。その下には何かが倒れている。

 ロッテが近づいてみると、それは知らない男だった。髪は白いが顔はまだ若く見えた。耳が丸い、これは人間だ。

 服はボロボロになっているが、目立った怪我(けが)はない。ただ眠っているだけのように見える。


「おーい」


 ロッテは呼びかけつつ、男の頭を指先でつついてみる。


「う……うん」


 目を覚ました男はゆっくりと上半身を起こした。

 

「君は? いや、それより……」


 ぶつぶつと独り言(ひとりごと)をつぶやく男。

 

「無視するなー」

「あ、ああ、すまない」

「アタシはロッテ、あなた名前は? どこから来たの?」

「……わからないんだ」

「何いってるの?」

「自分の名前や、何故たおれていたのか……そもそも、此処(ここ)はどこなんだ?」


 男は困惑した様子で、辺りを見渡(みわた)した。


「なるほど、なるほど」

 

 ロッテは男の周囲をぐるっと回る。

 海の男たちにも負けていないしっかりとした体つきだが、胸と背中に大きな古い傷跡(きずあと)がある。

 朝日を反射した男の白髪(はくはつ)(あわ)く光り、その周囲を小精霊が飛び回っている。それを見たロッテは確信した。


 このひとは、海の大精霊さまからの(おく)りものに違いない。

 

大精霊(だいせいれい)さま、感謝いたします」


 ロッテは海に向かって感謝の言葉を捧げた。

 

「大精霊さま?」

「それもわからないんだ?」


 不思議なものだ、こんなに精霊に好かれている人は珍しいのに。ロッテは益々(ますます)男に興味(きょうみ)()いてきた。


「それじゃあ村にいくよ! そこで色々と教えてあげる」

「自分でいうのも何だが、俺みたいなのを連れて行って大丈夫なのか?」

「いいんだよ、アタシはあなたの持ち主になるんだからね!」


 ロッテはとびきりな笑顔を向けてきた。


「……なぜそうなる?」

「砂浜に打ち上げられたものは、拾った人のものになる。それがルールだってジイちゃんがいってた」


 だからアタシが持ち主、とロッテは自慢げに腕を組む。


「それは生きている人間もなのか?」

「当たり前でしょ~、アタシに死体を集める趣味(しゅみ)はないし」

「いや、そういう意味では……まあ、いいか」


 男は小さく頭を振る。立ち上がるとその背は高く、ロッテの頭は胸にも届かない。

 

「今のところは了解した」

「あ、そうそう、あなたの名前はツアールで決定ね」

「ツアール? それは何か意味があるのかな?」


 ツアールとは、ロッテの大好きな昔話、『精霊のおくりもの』に出てくる主人公からとった名前だった。

 ロッテは、なぜだか恥ずかしくなってしまって、誤魔化すのだった。

 

「別に意味なんてないよ! 思いついたの! それとも……いやだった?」

「嫌じゃないよ。ただ意味があるのかなって思っただけ。名前をつけてくれて、ありがとう」

「うん!」

 

 鼻歌交じりで歩き出すロッテの後を、ツアールはゆったりとした足取りでついて行った。

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