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0059. 胃袋でテイム完了! 水辺の小さな強敵

「……ここね。間違いないわ、この奥に『究極のモフ』が潜んでいる……!」


なんだか引っ掛かりの多い、妙に通りにくい壁の隙間(※バグった物理演算の壁)を力技で通り抜け、隠し部屋の宝箱すら見捨てて突き進んだ先。

そこは、ダンジョン上層の喧騒が嘘のように静まり返った、美しく澄んだ地底湖だった。

私は岩陰に腰を下ろすと、カバンから大切に抱えていたお重箱を恭(うやうや)しく取り出した。


(BGM:『誘惑の晩餐 〜忍び寄るコントラバス〜』開始)

※静寂の中で「ズン……ズン……」と忍び寄るようなコントラバスの低音が響く。警戒心の強い未知のモフモフが、抗い難い極上の匂いに釣られて徐々に近づいてくるサスペンスフルでコミカルな駆け引きを演出するBGM。


「さぁ、狐火ちゃん。作戦開始よ」


ぱか、と重箱の蓋を開ける。

その瞬間、生産ギルドの絶対防魔壁すら貫いた『宇宙の誕生レベルの黄金の光』が薄暗い地底湖の空気を塗り替え、濃厚な『北の海の磯の香りと究極の旨味』が霧となって湖面全体に広がっていく。


【System Analyze:Bait Appeal - Measurement Impossible(撒き餌の魅力:計測不能)】

【Effect:Forced Attraction / Flavor Horizon(強制誘引:対象範囲内の全生物に対し、抗いがたい空腹状態と飯テロを付与しました)】


静寂が数秒。

――その時、鏡のような湖面を「青白い閃光」が滑った。


「……来たわ!」


水面を跳ね、光より速く移動するその影は、私の目の前の岩場に音もなくフワリと着地した。

大きさは30センチほど。……けれど、その姿は私の予想の遥か斜め上を行っていた。


(BGM:『超弩級のモフモフ小武人 〜凛とした弦楽器〜』開始)

※ターゲットがその全貌を現すシーン。小さいながらも武人のような構えと、圧倒的な素早さを感じさせる凛とした弦楽器(バイオリンやビオラ)の旋律。見た目は最高に愛らしい「モフモフ」でありながら、その実力は最前線の冒険者をも凌駕する「強敵」であることを示す、誇り高くかっこいい和風戦闘曲。


「…………モフッ」


私の口から、思わず魂の叫びが漏れた。

そこに立っていたのは、なんと『イッカク(海のユニコーン)』の姿を模した、ダボダボのフード付き着ぐるみを纏(まと)った小さな少年だった。

しかも、その着ぐるみはただの布ではない。触れずとも一目で分かる、最高級のぬいぐるみのような極厚のスーパーモフモフ素材で作られており、フードの額からは、螺旋(らせん)状に輝く小さな角が一本、ぴょこんと生えている。


フードの顔周りや袖口、裾(すそ)には、さらに柔らかそうな白いフェイクファーがふんだんにあしらわれ、全身が「究極の触り心地(モフモフの暴力)」と化していた。


「……ほう。この香気を放つ供物、主(ぬし)が用意したのか」


短い腕を組み、キリッとした眉を寄せて私を見上げるその姿は、まるで小さなモフモフの侍。

見た目は犯罪的なまでに可愛らしいのに、声は意外にも低く、落ち着いた武人口調だ。けれど、その鼻先が私の作った「なめろう(※究極愛着なめろう)」の暴力的な香りに当てられて、ぴくぴくと小刻みに震えているのを私は見逃さなかった。


「……あ、あの、よかったら食べてみませんか? 極北サーモンと氷晶海藻で作った自信作です! すっごく美味しいですよ!」


名前も分からないけれど、私はとりあえずスプーンに黄金に輝くなめろうをすくい、そっと差し出した。


「……ふむ。見慣れぬ者のようだが、よかろう。そこまで言うならば、この我が直々に毒見してやろうではないか」


イッカクくん(仮)はあくまでクールに、けれど着ぐるみの尻尾をパタパタと嬉しそうに揺らしながら、足取りは速く重箱へと近づく。

そして、差し出したスプーンから一口、ぱくりと。


「…………!!」


彼の凛々しい瞳が、これ以上ないほど見開かれた。

次の瞬間、クールな武人はどこへやら。彼は私の手から奪い取る勢いでスプーンを握りしめた。


「う、旨い……! なんという塩気の深み。極北の海そのものを凝縮したようなこの味わいと、温かい愛情……主、これは卑怯だぞ。……止まらん、手が止まらんのだ! おかわり!」


「ふふ、お口に合ったみたいで良かったです。いっぱい食べてね」


小さなモフモフの塊が、顔を輝かせて一生懸命に頬張るその姿。……あぁ、もう、可愛すぎて存在が罪だわ。


「……さて、食後はお手入れの時間ですよ」


彼がなめろうを平らげた隙を突き、私は愛用の『翡翠のブラッシング・ブラシ』をカバンからスッと抜き放った。


「なっ、何をする気だ! 我は気高き幻獣! そのようなもので馴れ合うつもりなど断じて――」


一瞬、警戒して飛び退こうとした彼。

だが、私の極上の第一振りが、そのイッカク・フードの背中を優しく滑った瞬間――。


「…………ふにゃぁぁぁ……」


(BGM:『蕩ける魂 〜甘いバイオリン〜』開始)

※先ほどまでの凛とした弦楽器が、急に骨抜きにされたような「甘く蕩けるバイオリン」のメロディへと変貌。強敵が「ただの食いしん坊なモフモフ」へと陥落し、完全に胃袋でテイムされたことを祝う至福のギャグBGM。


彼はまるで液体のように、岩場の上でドロリと溶け落ちた。

私のブラッシングにより、極厚モフモフ素材の奥に溜まっていた汚れや疲れが一気に解消され、武人としての気高いプライドが宇宙の彼方へ吹き飛んでしまったようだ。


「いい子ねぇ。綺麗になりましょうねー」


「……あ、ありえん……我の誇り高き魂が……蕩(とろ)けてゆく……きゅうぅん……もっと……右のほうを……」


【Taming Process:100% Complete(テイムプロセス完了)】

【System Notice:幻獣『流爽人(りゅうそうじん)』のテイムに成功しました。個体名:水蓮(すいれん)が仲間に加わります】


「……あら。私が勝手に呼んでた『水蓮』って名前、そのままシステムに登録されたのね。ふふ、これからよろしくね、水蓮くん!」


私は完全に野生とプライドを忘れ、無防備にお腹を見せている水蓮くんを、そっと抱き上げた。

すると、ハッと正気を取り戻した水蓮くんが、私の腕の中から、隣でお座りしていた狐火ちゃんをじーっと見つめて言った。


「……ふむ。我は水蓮。……主、この九尾の狐……なかなか、愛らしいではないか。……いや、別に撫でたいわけではないぞ。武人として、その……『可愛さ』という武威を、至近距離で確認しておるだけだ」


「あら、水蓮くんも可愛いものが好きなの?」


「……し、知らぬ! 我はただ……! ……くっ、ブラッシングの続きを所望する! 早く!!」


真っ赤になってイッカクフードを深く被り直す水蓮くん。

こうして、ダンジョンの最奥で出会った「究極のモフモフ小武人」は、お弁当(なめろう)とブラッシングの暴力的なコンボにより、無事に私の『モフモフ・ハーレム』の二匹目となったのである。

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