0030. 次のクエストはソロで何にしよう
「……はぁ。当分、チームクエストはやめておこう」
宿のベッドに倒れ込み、私は狐火ちゃんのモフモフな尻尾に顔を埋めながら深くため息をついた。
あの『光る大根(オーバードーズ大根)』をギルドに持ち込んだ直後、事態はとんでもないことになった。
大根の神々しい光に引き寄せられたのか、鑑定官の特急伝令を聞きつけたのか、ギルドの外に真っ白な鎧を着た『神殿騎士団』がワラワラと集結し、周辺一帯が完全封鎖される大パニックに発展したのだ。
結局、あの大根は「国家最高機密」ならびに「聖遺物」として神殿へ回収された。
発見者である私には、若菜さんから「あなたはこの件に一切関わっていない。いいわね?」と凄みのある笑顔で口止めされ、迷惑料および発見報酬として、Gランク初心者にはおよそあり得ない『大金貨3枚』が手渡されたのである。
さらに、大根の本来の持ち主である『穂波の村』には、神殿から莫大な買い取り金(村が丸ごと十個は買える額)が直接送金されたらしい。
後日カーターさんから聞いた話によると、狂喜乱舞し、腰痛も治った村人たちによって、村の広場には「私と狐火ちゃんを祀る祠」が爆速で建てられ、私は完全に『豊穣の女神』として信仰対象になってしまったそうだ。
(……恥ずかしすぎる。もう絶対にあの村には行けないわ……!)
生活費は一生遊んで暮らせるほど手に入った。だが、最大の問題は私の「プレイスタイル」だ。
「……私の薙刀、やっぱり完全に封印しておけばよかった」
実は私、現実世界では実家の古武術道場でしごかれ、高校時代には薙刀で全国優勝なんていう実績を持っている。
でも、それは私にとって絶対に開けたくない『黒歴史』だ。勝利のために可憐さも心の余裕もかなぐり捨て、血と汗に塗れて「鬼神の里見」と呼ばれた殺伐とした青春。
この『八百幻』では、そんな過去を忘れて、おしとやかで優雅なスローライフを送るつもりだったのだ。
(……それなのに、あんな……。体が勝手に動いて、リトルボアープを畑ごと『処刑』しちゃうなんて。あんなの、私の理想の乙女像じゃないわ!)
一度引き出されてしまった「技」が、またいつ暴走して私のスローライフを破壊するかと思うと、怖くて仕方ない。
次は絶対に、武器を振るわないで済む、平和で「女子力の高い」クエストにしよう。
「よし、若菜さんに相談だ。あの方なら、私の事情(般若化=武人時代の暴走)も分かってくれているしね」
私は狐火ちゃんを抱き上げ、再びギルドへと向かった。
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(BGM:『 琴音のメインテーマ 〜今日もモフモフ日和〜』開始)
※アコースティックギターとリコーダーを使った、のほほんとした気の抜けるようなスローライフ曲。お茶を飲んだり、鼻歌まじりに歩いたりする時の琴音の日常を象徴するメインテーマ。
ギルドに着くと、中は驚くほど混み合っていた。依頼掲示板の前は「旨味」のある限定クエストを狙う冒険者たちでごった返している。常設依頼の掲示板が閑古鳥なのは、どのVRMMOでも同じらしい。
受付を見渡すが、お目当ての若菜さんはいない。代わりに、同僚のクラッガさんとユミルさんが忙しそうに受理作業をこなしていた。
「ユミルさんの列に並ぶか……」
そう思って並びかけた時、隣の窓口のクラッガさんとバッチリ目が合った。
(……うわ、めっちゃ睨まれてる)
以前、若菜さんにこってり絞られたのをまだ根に持っているらしい。相変わらず器が小さいわね……。私はため息をつきつつ、無視してユミルさんの列に進んだ。
しばらく待って、ようやく私の番が来た。
「ユミルさん、お疲れ様です。……ちょっとクエストの相談があるんですけど、いいですか?」
「いらっしゃい、琴音さん! 先日はお疲れ様。いやぁ、『勇なる者』の面々も琴音さんも相当疲れてたみたいだね。後片付けとかで結局『無償対応』になっちゃったし、大変だったでしょ!」
(※表向き、大根と神殿の件は一般職員にも完全に伏せられている)
(……うっ。orz)
忘れたい黒歴史を、悪意ゼロの笑顔でぶち込んでくるユミルさん。天然か、それともわざとなのか。
「……ええ、まあ。ちょっとお財布が厳しい(というフリ)ので、早く次のクエストを受けたいんです」
私は少しだけジト目を向けて、話を本題に戻した。
「あっ、あはは、ごめんね。相談ならあっち、左手奥のVIP用個別ブースに行ってくれるかな。若菜さんがいると思うから」
「えっ、いつも若菜さんに相談しながらこの窓口で受けてた気がするけど?」
「ああ、あれは若菜さんの特別対応だよ。クラッガの件があったから、若菜さんが琴音さんに気を遣って融通をきかせてたんだと思うよ。……おっと、言い過ぎた。クラッガ、わりぃ!」
ユミルさんのいじりで、隣のクラッガさんの顔がさらに苦虫を噛み潰したようになる。
……なるほど、若菜さんの「気遣い」だったのか。
教えられた通り個別ブースへ向かうと、そこには防音の効いた静かな空間で書類をめくる若菜さんの姿があった。
「若菜さん、お疲れ様です。クエストの相談、いいですか?」
「あら、琴音さん! いらっしゃい。ええ、もちろんよ。どんなのが希望? この間みたいなチームクエスト……は、今は絶対に嫌よね?」
若菜さんは私の疲労困憊な心情(と祠の件)をお見通しのようで、苦笑いしながら聞いてくれる。
「はい。……この間はその、抑えていた『昔の野蛮なクセ』が出ちゃったというか。次はもっと、こう、おしとやかな感じの静かなお仕事がいいんです」
「なるほどね、おしとやかさ、ねぇ。……ふふ、でも琴音さん。それならこういうのも大事じゃない?」
そう言って若菜さんが見せてくれたのは、手首に光る、意匠の凝らされた素敵なシルバーブレスレットだった。
「あれっ、若菜さん。そのブレスレット、素敵ですね……もしかして、彼からのプレゼントですか?」
私の恋バナセンサーがビンビンに反応してしまった!
「えっ、ええっ!? な、なんでもないわよ〜〜っ!」
若菜さんの語尾がいつもより倍くらい伸びている。全然「なんでもなくない」証拠だ。氷の受付嬢の意外な一面である。
「今まで仕事中はしてなかったんだけど、ちょうどもらってね。ほら、琴音さんがこの間の南街のゴミ処理で、古いアクセサリーを見つけて持って帰ってきたじゃない? あれを見ていたら、私も久しぶりにお洒落をしたいなぁって思ったのよ」
若菜さんの目が泳ぎつつもキラキラしている。惚気たくてウズウズしているのが丸わかりだ。
そこで私は、ハッと思い出した。
あの日、ゴミ処理場の受付のおじさんから「不要物」として押し付けられた6つのアイテム。
指輪、ネックレス、ブレスレット、ピアス、ブラッシング用の銀の櫛、そして謎の『勾玉』だ。
鑑定官さんからは「ゴミ山の遺物だ」と言われたけれど、図書室で調べた『魔導具製作』のスキルを使えば、あのアクセサリーたちに魔力を込めることができるはずだ。
(もしあのアイテムを『生活魔導具』にできれば、武力(薙刀)に頼らずに、もっと安全で優雅なソロ生活を送れる便利アイテムになるんじゃないかしら?)
「若菜さん、クエストの前に……ちょっと聞きたいことがあるんです。図書室で読んだ『魔導具製作』についてなんですけど、私でもあんな風なアクセサリー型の魔導具って作れるようになりますか?」
私の目が、優雅なスローライフを確立するための「魔導具自作」への野心で、キラリと輝き始めた。




